さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年12月13日裁決で、取得費として5%推計を活用した評価を公示価格に基づくもので覆すことができるか否かが問題となった事例です。
具体的には、相続により土地を取得した請求人が当該土地を譲渡した事により発生した譲渡所得の計算において、収入金額の5%を取得費とする譲渡所得の計算を行って申告をなし、かかる取得費は、地価公示価格に拠る推計よりも高く、取得費は当該推計価格に拠るべきとして更正の請求をなしたところ、その適用を否定されたことからその取消を求めたものである。5%取得費に関しては、現行の実務においては、土地等の価格が不明である場合において、中心的な作業となっているものであろうが(実際には実務的にどのように行っているものであるのかは聞いてみたいところ)、この価格を活用することは事実上95%をその所得とすることになり、計算上の便宜さは当然において享受されるものであるが、一方で、その負担の計算上実質的な所得とからは超過となるような状況も多いものでないだろうか(取得費が不明である以上、一定の不利益は甘受すべきものとも言えるのであろうが)。この5%評価は非常に簡便な計算方法であり、あまり課税上問題となることは少ないものと考えられるが、本件は、その推計を覆すことが争われた珍しい事例であり、結果的に公示地価に基づく推計に拠る価格の適用を否定しているものであるが、否定された理由は実際の取引日ではないものという認定が基礎となっている。本件の5%評価は、実際の金額が不明な場合において、用いられるものであり、近年のように、土地等の価格が低下傾向が続く現況に鑑みれば、いかなるものを取得費として認めるべきものであるのかという点(制度論)を検討する上では、一定の参考となるものではないだろうか。特に昭和28年以後の取得資産に関しては、通達によってその適用が拡張されているに過ぎないものであり、実際の取得費やそれに類似した金額を以下に捉えるべきであるのか、事実上制度的な割り切りが適用されているような状況であるが、適正な所得負担を考える上でどのような取得費が適正と認定されるのかという点を検討すべきであろう。
本件としては、審判所の権限を持って取引相手の金額をさかのぼって調査し、昭和40年代の取引であるであることを認定しており、当事者の一方の金額を入手することで実際の金額を認定しているものであって、納税者において、活用できる方法ではないが、納税者段階においていかなる条件を充足するものを金額とすれば、取得費として実際の金額として捉えられるのかという点は今後の課題であろう。不明なケースにおいて適用されるものである以上、何かしらの線引は必要であろうが、公示地価に拠る推計は適用可能であるのかという点は、面白い論点ではないだろうか。そもそも土地取引価格自身が不明瞭、幅の大きいものであり、一定の推計は成立しうるところではあろうが、当事者以外には知り得ない情報も含まれるものであり、かかる点を考慮すれば、不明な場合においていかなる推計評価が合理的であるのかという部分は租税法規の安定的な適用、予測可能性という点においてはかなり制約が大きいものと考えざるを得ないものと考えられる。本件自身は、上記のように実際の金額や取引の認定を行っている事実認定のみの事例であり、個別的な問題であるが、取引価格が不明な場合と取得費というものがどのように捉えられるべきかという点を問題として提起する上では本件は有益な事例であろう。
(長期譲渡所得の概算取得費控除)
第三十一条の四 個人が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第三十八条及び第六十一条の規定にかかわらず、当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第三十八条第二項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額
(昭和28年以後に取得した資産についての適用)
31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。
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