2019年8月9日金曜日

判例裁決紹介(平成29年7月5日裁決、特定支出控除の対象、帰宅旅費と自家用車の利用)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年7月5日裁決で、特定支出控除における帰宅旅費の範囲が課題となった事例です。

具体的には本件は大学教員たる請求人がその、給与所得に関する支出として支払った金員(帰宅旅費として高速代やガソリン代、オーダースーツ等)が所得税法の特定支出に該当するとして申告をなしたことにつき、当該支出は特定支出には該当しないとして(書類不備、添付不備、対象外)として、更正処分を行ったことを不服として提起された事例である。所得税法における特定支出控除制度は、大嶋訴訟以来の立法的な解決、提案として給与所得者が実際に支出した金額を事実上、給与所得に関する必要経費として控除対象としうる制度であり、制度当初はその適用事例は非常に限定されていたものである。しかしながら近年では、制度改正もあり、その適用が増加傾向にある(実際に実務ではどのように捉えられているのかという点は興味深いところ)。本件はこのような制度における具体的な支出が対象となりうるのか否かという点が課題となった珍しい事例であり、今後の特定支出控除の対象を検討する上では有益な事例であるように考えられる。残念ながらスーツ代などの必要性に関しては、(本件では大学教員という些か特殊な職業であるが)、古典的な課題であるものの特に判断がなされていない、正確には制度適用の手続き要件である書類添付に不備があることで実際の適用を排除(請求人の主張としてはこの添付に関するHPの説明が不十分であるとして無効を訴えているが、申告納税制度を前提とする中で考慮されうるものであるのかという点は厳しいだろう)しているが、最大の支出項目である帰宅旅費に関しては一定の判断を行っており、実務上も参考となるのではないだろうか。



(給与所得者の特定支出の控除の特例)
第五十七条の二 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 前項に規定する特定支出とは、居住者の次に掲げる支出(その支出につきその者に係る第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合における当該補塡される部分及びその支出につき雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第十条第五項(失業等給付)に規定する教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第三十一条第一号(母子家庭自立支援給付金)に規定する母子家庭自立支援教育訓練給付金又は同法第三十一条の十(父子家庭自立支援給付金)において準用する同号に規定する父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分を除く。)をいう。
一 その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出
二 転任に伴うものであることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた転居のために通常必要であると認められる支出として政令で定めるもの
三 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののための支出
四 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
五 転任に伴い生計を一にする配偶者との別居を常況とすることとなつた場合その他これに類する場合として政令で定める場合に該当することにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた場合におけるその者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるもの
六 次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
イ 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものとして政令で定めるもの及び制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服で政令で定めるものを購入するための支出
ロ 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
3 第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書(次項において「申告書等」という。)に第一項の規定の適用を受ける旨及び同項に規定する特定支出の額の合計額の記載があり、かつ、前項各号に掲げるそれぞれの特定支出に関する明細書及びこれらの各号に規定する証明の書類の添付がある場合に限り、適用する。
4 第一項の規定の適用を受ける旨の記載がある申告書等を提出する場合には、同項に規定する特定支出の支出の事実及び支出した金額を証する書類として政令で定める書類を当該申告書等に添付し、又は当該申告書等の提出の際提示しなければならない。
5 前三項に定めるもののほか、第二項に規定する特定支出の範囲の細目その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

以下のように、本件では、特定支出控除における対象としていわゆる帰宅旅費に関して最終的に自家用車を利用した高速代やガソリン代が含まれるものであるのか否かという点が課題となり、判断としては文理解釈上(施行令の文言により)その対象から除外している。

「所得税法第57条の2、所得税法施行令第167条の3及び第167条の5並びに所得税法施行規則第36条の6のいずれの観点からしても、条文のつくりを子細に検討すると、文理上、交通用具の使用のための支出が特例対象帰宅旅費に該当しないことは明らかである。」

上記のように、本件判断では、通勤費との対比において自家用車の利用に関する費用の控除を排除しているものと解して、本件支出の控除を否定している。施行令における文言からは、このように自家用車のような交通用具の使用(そもそも交通用具という概念が明確な概念であるとは言い難いものとも言えようが、例えば近年流行りのシェアなどはどのようになるのだろう)、を帰宅旅費は対象としていないものとして捉えている。すなわち本法規定は帰宅旅費に関しては明確に記載せず、施行令に委ねているが、施行令(特に下記手続としての書類添付対象)において限定的に記載している(この点は法の委任の範囲にあるのかという点は争いになるだろうが)ものとしている事になり自家用車を対象から除外していることになろう。通勤費との対比からしても、なぜ自家用車を利用することを排除しているのかという点は定かではないが、現行法の解釈としてかかるような判断が出ていることは留意されるべきであろう。立法の範囲に属するものであるのかしれないが、いかなる理由をもって自家用車を排除するのかという点は課題となるのではないだろうか。また、本件では判断されていないが、このような帰宅旅費においても通常性が要求されているが、かかる点はどのように判断されるものであるのかという点も解釈上の課題となりうるのではないだろうか。




(給与所得者の特定支出の範囲)
第百六十七条の三 法第五十七条の二第二項第一号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める支出は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する支出(航空機の利用に係るものを除く。)とする。
一 交通機関を利用する場合(第三号に掲げる場合に該当する場合を除く。) その年中の運賃及び料金(特別車両料金その他の客室の特別の設備の利用についての料金として財務省令で定めるもの(以下この号において「特別車両料金等」という。)を除く。)の額の合計額(当該合計額が法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法による一月当たりの定期乗車券又は定期乗船券の価額(特別車両料金等に係る部分を除く。)の合計額を超えるときは、当該合計額)
二 自動車その他の交通用具を使用する場合(次号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法により交通用具を使用するために支出する燃料費及び有料の道路の料金の額並びに当該交通用具の修理のための支出(第百八十一条各号(資本的支出)に掲げる金額に相当する部分及びその者の故意又は重大な過失により生じた事故に係るものを除く。)でその者の通勤に係る部分の額のその年中の合計額
三 交通機関を利用するほか、併せて自動車その他の交通用具を使用する場合 前二号の規定に準じて計算した金額

(特定支出の支出等を証する書類)
第百六十七条の五 法第五十七条の二第四項(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める書類は、次の各号に掲げる支出の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法第五十七条の二第二項第一号から第四号まで及び第六号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類
二 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類並びに次に掲げる場合の区分に応じ次に定める書類
イ 航空機を利用する場合 その航空機に搭乗をした年月日及び搭乗区間につき、財務省令で定めるところにより、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十八項(定義)に規定する航空運送事業を営む者が証する書類
ロ 鉄道、船舶又は自動車(以下この条において「鉄道等」という。)を利用する場合(その利用に係る運賃及び料金の額が財務省令で定める金額以上である場合に限る。) その鉄道等を利用した年月日及び乗車又は乗船の区間につき、財務省令で定めるところにより、鉄道事業法第七条第一項(事業基本計画の変更等)に規定する鉄道事業者、海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二条第二項(定義)に規定する船舶運航事業を営む者又は道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第二項(定義)に規定する自動車運送事業を営む者が証する書類

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


0 件のコメント:

コメントを投稿