2019年11月23日土曜日

判例裁決紹介(平成30年6月19日裁決、医師のゴルフプレー費用と必要経費の該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年6月
19日裁決で、医師が行った事業に関する必要経費として、医師がプレーしたゴ
ルフ代、ゴルフコンペ費用、セミナーへの参加費用としての旅費等が該当するの
か否かという点が問題となっているものです。

具体的には、本件は医師である請求人が当該事業所得の計算上必要経費に算入し
たゴルフプレー代等が、処分行政庁によってかかる費用は、家事費、家事関連費
であり、必要経費該当性を否認しもって更正処分等を行ったことを不服として、
かかる費用は必要経費性を有すると主張して、処分の取り消しを求めたものであ
る。
典型的な個人の趣味的な費用、費消的費用に関する必要経費としての該当性を争
う事例であり、特段特徴的な事例ではないとも考えられる。そもそも最初の印象
はなぜこれを顧問税理士が、認めていたのか正直疑問に覚えた事例であるところ
であるが、近年でもこの種の費用を必要経費として、もって所得を減少させる措
置を図る個人事業主は実務上は当然のものであるのかもしれない(名声を高める
や情報交換などの観点からの必要性が主に主張されるが)。事実関係からは、税
理士の配偶者や子供(小学生が)が、医師が参加を促したセミナーへの旅費が計
上されているなど、請求人と税理士の関係が偲ばれる事例でもあろう。いずれに
しても本件はこの種の趣味的な費用支出に対して必要経費としての該当性が認め
られるのかという点を起点として、事業所得への必要経費の判断に対して、近年
の事例として、ティーチングケースとしても参考となるものと考えられる。ただ
し、本件では、必要経費としての該当性を判断する上で、必要経費としての要件
という点を中心においているものではなく、すなわち、必要性や直接性(そもそ
もこの種の必要経費における直接性とはいかなるものであるのかあまり明瞭では
ないが)、の問題として、議論されるケースが必要経費の該当性の判断において
は通常ではあろうが、本件はこの種の判断を用いることなく、家事費、家事関連
費、特に関連費としての明確な区分を要求するいわば手続的な規定の充足が図ら
れているか否かという点を中心的なアプローチとして判断を行っている。この必
要な部分を区分することが非常に困難であり、従前家事関連費の判断においては、
この区分を要求する事例は少なかったものであろうが、このアプローチを用いて
必要経費を否認する事例が増加傾向にあり、この要件の充足を納税者に求めるこ
とで、事実上、必要経費としての必要性の具体的な説明を納税者に求めている、
立証すべき責任の起点を納税者に転嫁している。さらに判断でも立証責任に関し
て、下記のように、原則的にその立証責任を課税庁に求めながらも、一定の納税
者による反証などにおいて合理的な説明がなされない場合は、その算入を否定す
るように判断している。このような立証責任の事実上の転換が近年増加しており、
果たすべき責任、必要性への対応、準備も自ずと変化しつつあることは実務家に
おいても認識されるべきであろう。

「、所得の存在について原処分庁に立証責任がある以上、原則として、原 処分
庁において、収入のみならず経費についても、原処分庁の主張額以上 に必要経
費が存在しないことを立証すべき責任があると解される。 もっとも、原処分庁
は、必要経費の存否に関連する事実に直接関与して いないのに対し、請求人は
より証拠に近い立場にあること、一般に、不存 在の立証が困難であることに鑑
みると、更正時に存在し、又は提出された 資料等をもとに判断して、当該支出
を必要経費に算入することができない ことが事実上推認できる場合には、請求
人において、その推認を破る程度 の具体的な反証、すなわち、当該支出と業務
との関連性を合理的に推認さ せるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該
支出の必要経費への算入 は否定されるというべきである。」

いずれにしても必要経費の判断においては、対象となる経費の性格が異なるがゆ
えに対応するアプローチが異なるものとも考えられるものともいえようが、この
種のアプローチが増加傾向にあることは、特に裁決段階では増加しており、留意
されるべきであろう。すなわち実務としてもその準備として必要性への対応、区
分把握の必要性に対して一定の配慮が必要となっていくことであろう。

そもそも事業所得の経費として、給与とは異なり広範な必要経費が認められる
(これは小規模な同族会社などの法人も同様であろうが)ような理解、傾向は問
題ではないだろうか。多くの場合事業所得や法人化の大きなメリットと捉えられ
ることが多い(このような説明を行っている事例は枚挙にいとまがないだろう)
が、近年のこのような傾向に関しては、過大視されつつあることは否めず、上記
のようなアプローチが興隆してきているのではないだろうか。租税負担の公平性
や今後の働き方の変化によって個人事業が増加することも鑑みるならば、必要経
費(及び法人の損金)へのアプローチも修正が必要となりつつあるのではないだ
ろうか。

(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額
(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに
雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金
等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあ
るものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額
を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他
これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする。

以上の所得税法の基本的な解釈は下記のように判断でも維持されている。必要経
費と家事費の区分、さらには事業との関連性と必要性を要するものと解されてい
る。この点は解釈としては判例とも整合しており特段特徴的なものではないが、
後半部分の必要経費性の判断のみならず、本件ではこの両者を混合させたアプロ
ーチが採用されているものと理解される。

「事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの 趣旨
は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解 されると
ころ、個人の事業主は、日常生活において事業による所得の獲得 活動のみなら
ず、所得の処分としての私的な消費活動も行っているのであ るから、事業所得
の金額の計算に当たっては、事業の必要経費と所得の処 分である家事費とを明
確に区分する必要がある。そして、所得税法第37 条第1項、同法第45条第
1項第1号及び所得税法施行令第96条は、上 記1(2)のとおりそれぞれ規
定しているところ、以上の各規定の文言及 び事業所得の金額の計算上必要経費
が総収入金額から控除されることの趣 旨に照らすと、ある支出が事業所得の金
額の計算上必要経費として控除さ れるためには、当該支出が所得を生ずべき事
業と直接関係し、かつ、当該 事業の遂行上必要であることを要すると解するの
が相当である。そして、 かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行
う者の主観的な動 機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の
趣旨・目的等 の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行
われなけ ればならないと解される。」

以上のように、本件におけるアプローチは家事費、家事上の経費と各種所得の関
連を持った経費の存在に着目している。しかしながら、家事上の経費とは、判断
でも多くの場合、所得の処分として理解されているものであり、趣味的な費用な
ど多様な費用を含む概念であることであろうが、本件のように家事費、関連費と
して区分をより求めるものと判断されるなならば、この家事上の経費とは如何な
るものであるのかという点からの検討も必要となろう。所得の処分という表現の
みでは必ずしもその意味するところは明らかとは言えず、何が処分であり、対し
て所得、収入に対して関連するものであるのかという点は、具体的に判断する上
で、支障をきたすものとも考えられる。おそらく本件のようなゴルフ場費用や交
通費などが家事上の経費であることは社会通念に照らせば疑いようがないもので
あるのかもしれないが、趣味的な費用、特に趣味と事業の区分が情報機器の発達
によって曖昧となりつつあるものであり、より家事上の経費に関する具体的なア
プローチが必要となってくるのではないだろうか。

(家事関連費等の必要経費不算入等)
第四十五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動
産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必
要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

(家事関連費)所得税法施行令
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規
定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所
得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を
明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認
を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に
基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要
であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

また、このように家事上の経費の判断を行う上では、事実上立証責任の転換と上
記したものの、納税者段階での、事業との関連から、事業との関連や必要性が重
要になるものと考えられる。
「情報収集等 は、ゴルフをプレーしなければその目的を達することができない
性 質のものではなく」
この点で、本件では必要性の判断において、代替性がないことをその必要性の判
断の枠組み用いている。この代替性をどの程度存在しているのかという点が必要
性において重要であるのかという点が定かではないが、単に主観的な(名声をう
る、評判をうる等、判断ではこの点は全く根拠のないものとして一蹴されている)
必要性の主張においては重要視されるものではないという点は重要であろう。解
釈論として必要性=代替性の欠如と理解することは、また困難であるが、必要性
のアプローチとしてこの代替性が重要なキーとなっていることは、特に直接費用
として理解される原価とは異なる一般的な対応費用における必要性の判断におい
ては、重要であるものと認識されるべきである。

以上毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参
考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿