さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成30年6月29日で、消費税において課税の消滅時効を判断する偽りその他不正の行為の有無が争われた事例です。
具体的には、本件は医療従事者派遣事業を営む原告が所得税の確定申告において当該事業を記載せず(この点に関する重加算税等の賦課に関しては争いがない)、消費税の申告も行っていなかった(未申告)状況において、調査により等が未申告等が判明し、もって期限後申告を行ったところ重加算税等の賦課決定処分を受けたことから、それを不服として提起された事例である。中心的な争点は当該処分の基礎となるべき課税権が、消滅時効を迎えているのか否かという点であり、通常の5年の時効を延長し、7年の行使をおこなことができるのか否か、すなわちその適用要件たる国税通則法70条4項の偽りその他不正の行為が存在しているのか否かという点が問題となっているものである。
特に、所得税の事業所得における記載の排除を行っている仮想隠蔽行為の存在が前提となっており、所得税の過少申告と消費税の未申告を一連の行為として評価し、当該不正が成立しているのか否かという点を判断すべきであるのか、という点が納税者と課税庁の対立となっている(ここの課税要件は異なるものであり、一連のものとして評価されるべきであるのかという点は事実認定の問題であるのかもしれないが密接に関連するものとして評価されうるものであるのかは問題ではないだろうか)。従前、
所得課税を基礎とする所得税法や法人税法においては、如何なるものが偽りその他不正の行為に該当するのかという点につき、事例の集積があるものであるが、本件は消費税における当該偽りその他不正の行為の有無が本件事実関係において認定されうるのかという点が、課題となっているものであり、近年重要性がましている消費税においてかかる徴収権の延長が図られるものであるのか判断する上で参考となる事例であると考えられる。
国税通則法70条
4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等
以上のように本件は徴収権の時効の延長を判断すべき起点となる課題となる偽りその他不正の行為の本件事実関係において、特に消費税の未申告の状況(納税者の主張としては納税義務に対する無理解が原因との主張も行われているが申告納税制度を採用する制度上かかるような無理解は必ずしも未申告を支える理由とはならないものと考えられる)が偽りその他不正の行為の成立があるものと判断されるのかという点が課題となっている。従前、この偽りその他不正の意義としては、所得税法人税を中心に判例が存在しているが、本件でも下記のように最判を用いて、偽りその他不正の行為としては、単なる未申告は該当するものではなく、何らかの偽計その他の工作を行うこと伴う必要があるものであり、所得の秘匿工作画素の代表的な工作であり、かかる点は、税務当局の所得把握が困難とさせる一切の行為を指すものとして従前の判断を踏襲している。そもそも税務当局の所得把握が困難とさせる行為というものが抽象的であり、非常に広範囲な行為を対象としているものとなっているが、徴収権の時効延長を一定程度制限を付与している70条4項の趣旨との関連においていかに判断されるべきであるのかという点は、より検討課題であるのではないだろうか。
「国税通則法70条4項にいう「偽りその他不正の行為」、同法73条3
項にいう「偽りその他不正の行為」は同義であり、罰則規定(例えば消費
税法64条1項1号)にいう「偽りその他不正の行為」とも同義と解され
るところ、罰則規定において、「偽りその他不正の行為」による租税ほ脱
の罪(例えば消費税法64条1項1号)と、単純不申告罪(例えば同法
66条)とが別個に規定されていることなどからすると、「偽りその他不
正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不
能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをい
い、かかる工作を伴わない単なる不申告は「偽りその他不正の行為」に当
たらないと解される(最高裁昭和42年11月8日大法廷判決・刑集21
巻9号1197頁参照)。
(2) 所得を課税対象とする所得税や法人税においては、真実の所得を隠蔽
し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更に過少に
記載した内容虚偽の確定申告書を税務署長に提出する行為は「偽りその他
不正の行為」に当たり(最高裁昭和48年3月20日第三小法廷判決・刑
集27巻2号138頁参照)、所得秘匿工作をした上で申告をしなかった
場合には、所得秘匿工作を伴う不申告の行為が「偽りその他不正の行為」
に当たると解される(最高裁昭和63年9月2日第三小法廷決定・刑集
42巻7号975頁参照)。
そして、そこでいう所得秘匿工作とは、虚偽の収支計算書の提出や二重
帳簿の作成といった積極的に税務当局を欺く行為にとどまらず、売上を正
確に記載した帳簿を作成している場合に売上金の一部を仮名又は借名の預
金口座に入金保管すること(最高裁平成6年9月13日第三小法廷決定・
刑集48巻6号289頁参照)など、税務当局による所得の把握を困難に
させる一切の行為を指すと解される。」
項にいう「偽りその他不正の行為」は同義であり、罰則規定(例えば消費
税法64条1項1号)にいう「偽りその他不正の行為」とも同義と解され
るところ、罰則規定において、「偽りその他不正の行為」による租税ほ脱
の罪(例えば消費税法64条1項1号)と、単純不申告罪(例えば同法
66条)とが別個に規定されていることなどからすると、「偽りその他不
正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不
能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをい
い、かかる工作を伴わない単なる不申告は「偽りその他不正の行為」に当
たらないと解される(最高裁昭和42年11月8日大法廷判決・刑集21
巻9号1197頁参照)。
(2) 所得を課税対象とする所得税や法人税においては、真実の所得を隠蔽
し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額を殊更に過少に
記載した内容虚偽の確定申告書を税務署長に提出する行為は「偽りその他
不正の行為」に当たり(最高裁昭和48年3月20日第三小法廷判決・刑
集27巻2号138頁参照)、所得秘匿工作をした上で申告をしなかった
場合には、所得秘匿工作を伴う不申告の行為が「偽りその他不正の行為」
に当たると解される(最高裁昭和63年9月2日第三小法廷決定・刑集
42巻7号975頁参照)。
そして、そこでいう所得秘匿工作とは、虚偽の収支計算書の提出や二重
帳簿の作成といった積極的に税務当局を欺く行為にとどまらず、売上を正
確に記載した帳簿を作成している場合に売上金の一部を仮名又は借名の預
金口座に入金保管すること(最高裁平成6年9月13日第三小法廷決定・
刑集48巻6号289頁参照)など、税務当局による所得の把握を困難に
させる一切の行為を指すと解される。」
本件では以上のように、最判における判断を用いて、下記のように最終的に消費税においては課税要件としての資産の譲渡等を秘匿する行為があれば、未申告であっても延長が図られるものとしている。従来の判断は所得税法等が中心となっているものであり、間接税、流通税として課税構造が異なるものであり、必ずしも、秘匿工作の存在が同様に判断の基礎に置くべきものであるのかという点は明確に根拠が示されていない。70条の文理から単なる未申告が対象とならないことは確定しているものと考えられるが、秘匿工作の存在を課税要件全般を対象とするものであるのかという点は更に検討すべきものではないだろうか。
「資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並
びに役務の提供)を課税対象とする消費税等においては、資産の譲渡等を
秘匿する工作を伴う不申告の行為があれば、それが「偽りその他不正の行
為」に当たり、資産の譲渡等の秘匿工作とは、税務当局による資産の譲渡
等の把握を困難にさせる一切の行為を指すと解される。」
びに役務の提供)を課税対象とする消費税等においては、資産の譲渡等を
秘匿する工作を伴う不申告の行為があれば、それが「偽りその他不正の行
為」に当たり、資産の譲渡等の秘匿工作とは、税務当局による資産の譲渡
等の把握を困難にさせる一切の行為を指すと解される。」
また、本件では、事実認定の問題でもあろうが、秘匿工作として所得税における本件事業の過少申告(隠蔽)が基本的な前提となって、資産の譲渡等の秘匿を認定している。納税者が主張するように、両者は異なるものであり、一連のものとして評価して偽りその他不正の行為の認定を行うべきではないものとしている点は退けられている。このように所得税(特に事業、法人税も同様だろうが)における計算と消費税の課税要件の充足が別個の租税法規でありながら密接に関連するものとして理解されていることは留意されるべきであろう。消費税において適格請求書保存方式が本格導入されれば、かかるような帳簿構造を前提としている密接な判断は回避されるものであるのかもしれないが、資産の譲渡等の把握は、所得と異なるものであり、課税当局における把握の困難さは同列に扱われるべきものであろうか(把握が困難という点が抽象的であることも課題となるだろうが)。ただし、課税当局において把握が困難とさせるような幅広い状況を前提としているならば、事実上所得税における行為と消費税における行為は一連のものとして評価されることになる現状は回避し難いのかもしれない。
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