また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は神戸地判平成30年12月26日で、通達改正に伴って発生した財産評価の引下げを契機に従前の通達評価によって納税していた相続税額が不当利得であるとしてその返還を求めたものです。
具体的には、相続人たる原告が被相続人から相続により取得した株式に対して、財産評価基本通達に基づき評価を行った上で、確定申告を実施したが、その後、当該通達の定めに対して、別件訴訟が提起され高裁判決によってその通達の合理性が否定され、もって通達改正が行われたことを契機として、本件相続税申告によっても修正後の評価方法を適用したところ、従前の評価方法による場合と比して1億円近い差額が発生したため、当該差額は不当利得であるとしてその返還を求めるものである。なお、別件訴訟が確定した段階ではすでに更正の請求の期限は超過している(訴訟による請求も棄却)。納税者の立場から見れば、このような行政が発行している通達の改正に伴って従前と大きな納税額の相違が出ること自体が衡平負担の観点からは許容できるものではないことは用意に理解できるものであるが、本件判断は不当利得の成立も否定しており、通達改正の影響は実質的にその以前の状況に対して遮断されているような状況になっているものである。著名な財産評価に関する判決(純資産価額方式一辺倒から類似業種比準方式を適用可へ)による通達改正であるが、このような通達改正の影響を租税法規において如何に評価し、適用を行っていくべきであるのか、改正前の納税者の救済を如何にして図るべきかという課題を明らかとするものであると考えられる。
、「納税者が、申告が無効であるとして、申告により納付した租税を不当利得として返還請求をし得るのは、納税申告書の記載内容に客観的に明白かつ重大な過誤があり、通則法等の定める方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られると解するのが相当である(以上につき、最高裁平成22年10月15日第二小法廷判決・民集64巻7号1764頁、最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。」
判示では、上記のように不当利得の成立を最判を引用し、限定的に解している。最終的には原告の主張立証として特段の事情があるのか否かという点で判断不足として、主張を棄却していることになる。通達の実務上の位置づけを鑑みれば、特に財産評価基本通達における通達と時価の関係は、事実上の法令として理解しても差し支えないレベルとの評価もあり得るところであり、かかる点を信用して申告を行った原告の救済は図られるべきとの指摘も合理性があるだろう。しかしながら法令解釈上は困難であり立法によるべきものである(相続税の高額負担者のために立法措置が行われる可能性は極めて低いだろうが)。
本件では、前訴として通知処分の取消し請求と本件のような不当利得の関係性も整理されている点は今後の訴訟対応においても重要な点であろう。
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