さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年8月28日裁決で、米国からの年金に対して所得税法上の課税対象となるのか否かという点が争われた事例です。
具体的には、請求人が勤務中米国において、対象となった米国における社会保険給付として、年金を我が国において(現在は請求人は、国内に居住している)、課税所得として確定申告を行わなかったところ雑所得として課税対象であるとして、更正処分等を受けてことを不服として、当該給付は、日米租税条約の規定に基づき、我が国においては、課税対象とならない(課税権がない)として、提起されたものである。
近年は、労働役務の提供や、企業活動の展開がグローバル化しており、また、投資における国境の意義は低下している現状にあるものと考えられるが、このような状況を鑑みるに、本件のように、年金等の社会保険給付を我が国に基づくものばかりではなく、米国のような国外、国籍外の箇所から拠点とする団体から給付されるような状況の増加は、想定されよう。本件は、事案としてはシンプルであり、結論として課税対象としている点は(本件の起点は意図的であるのか否か定かではないが、日米租税条約の適用に関する自己都合が良い読み方をしている点がその背景にあろう)、特に異論がないものであるが、今後は給付される金員がどこにその、源泉を置くものであるのかという点は、一定の留保を行う必要が出てくるのかもしれない。本件では、所得区分を雑所得としているが、年金課税上もこの点は、議論のあるところ(立法論も含め)このような外国年金の存在も含め、今後の働き方の変容と合わせて、いかなる状況を課税対象とするべきであるのかという点を考える上では、参考となるような事例ではないだろうか。
日米租税条約(旧版)
第十七条
条2の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国の居住者が受益者である退職年金その他これに類する報酬(社会保障制度に基づく給付を含む。)に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
2一方の締約国の居住者が受益者である保険年金に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。この2において「保険年金」とは、適正かつ十分な対価(役務の提供を除く。)に応ずる給付を行う義務に従い、終身にわたり又は特定の若しくは確定することができる期間中、所定の時期において定期的に所定の金額が支払われるものをいう。
以上のように、本件は、本件の対象となった米国からの年金給付が日米租税条約(旧版、最近やっと日米租税条約の最新版が比準手続が完了した模様)、上記17条の対象となって、居住者の所在する居住地国でのみ課税権を有することとしている点をもって、その適用対象として該当し、もって、米国で課税されている(この点は納税者たる請求人の認識でありそもそも、この点において明らかに状況は異なっている)が故に、我が国の所得課税の対象とはならないのかという点が中心的な争点となっている。
「日米租税条約は、国際的な二重課税の排除、両締約国間の課税権の配分及
び脱税の防止などを目的とするところ、所得者の居住地国において同国の税
法を適用して課税権を行使することに関しては、これを否定するものではな
く、また、源泉地国が非居住者の所得に課税することも否定するものではな
いことから、所得者が同一の所得に対し所得の源泉地国及び居住地国の両国
で課税される場合、二重課税を回避するための措置として、既に源泉地国で
課された外国税額を居住地国において控除する規定を設けるとともに両締約
国間における課税権の配分を目的とする規定を設けている。」
び脱税の防止などを目的とするところ、所得者の居住地国において同国の税
法を適用して課税権を行使することに関しては、これを否定するものではな
く、また、源泉地国が非居住者の所得に課税することも否定するものではな
いことから、所得者が同一の所得に対し所得の源泉地国及び居住地国の両国
で課税される場合、二重課税を回避するための措置として、既に源泉地国で
課された外国税額を居住地国において控除する規定を設けるとともに両締約
国間における課税権の配分を目的とする規定を設けている。」
この点につき、上記のように判断では、租税条約の趣旨として二重課税の排除を基礎として、個別の条項として退職年金等に関しては以下のようにその趣旨を有するものとしている。下記のように、一般に少額所得であるがゆえに居住地国でのみ課税権を調整しているとして理解することは、いかなる所以によるものであるのかという点は定かではないが、本件では上記のように二重課税の対象となったものを排除する趣旨であるものとした基本的な租税条約の趣旨から結論を導いているように考えられる。すなわち、米国で課税対象となっていると納税者は主張するがあくまでも、0税率であり、実際に源泉徴収等の対象となってはいないことから、実質的な二重課税の状況にはそもそもないのであった、日米租税条約の規定を持ち出すまでもなく、我が国での課税権を否定することは困難であろう。しかしながら、このような二重課税ではないとする理解において、日米租税条約17条が排除すべき対象とした二重課税が如何なるものであるのかという点は重要である。課税対象となっていても、0税率(消費税のような理解であるが、政策的に一定の場合は、課税対象としながらも、課税を実施しないような場合も含まれよう)のような状況は二重課税とは評価されないのかという点は、検討されるべきであろう。私見としては二重課税の排除は、租税条約によって基本的な目標であるが、この排除はそれによって、投資の促進や負担の衡平を図るものであり、また、両国において如何なるものを課税を行うのかという点は国内法に基づくものであり、租税条約の規定が課税の状況にまで及ぶものと理解するのは困難であって、具体的な課税の状況までは考慮しているものではなく、まずは両国において金銭的な負担を伴う課税をその対象として捉え、各規定の対象に合致するものであるのかという点が判断されるべきものと考えられる。
「日米租税条約第17条1及び同条約第18条2は、政府職員の一定の退
職年金等を除き、一方の締約国の居住者が受益者である退職年金等に対して
は、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる旨規定してい
る。なお、この趣旨は、過去の勤務の対価としての性格をも有する退職年金
等につき通常の人的役務提供の場合と同様に役務提供地で課税することとし
た場合、一般に少額所得者が多いと思われる退職年金等の受益者がその居住
地国において外国税額を控除しきれないことが少なくないと考えられること
などから、居住地国においてのみ課税することを認めることとしているもの
と解される。」
職年金等を除き、一方の締約国の居住者が受益者である退職年金等に対して
は、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる旨規定してい
る。なお、この趣旨は、過去の勤務の対価としての性格をも有する退職年金
等につき通常の人的役務提供の場合と同様に役務提供地で課税することとし
た場合、一般に少額所得者が多いと思われる退職年金等の受益者がその居住
地国において外国税額を控除しきれないことが少なくないと考えられること
などから、居住地国においてのみ課税することを認めることとしているもの
と解される。」
そもそも二重課税を排除するという点で、租税条約がその基本的な趣旨としていることは、言うまでもないことであるが、実際のところ、多様な形式、二重課税の状況は発生しうるものであり、租税条約がその基本的な趣旨としている二重課税は必ずしも明らかではなく(抽象的と評価されるべきであろう)、各規定における対象を吟味し、個々の規定の適用にあたって、その趣旨に合致した二重課税の排除を企図しているものであるのかという点が解釈上の起点とすべきであろう。その点において、各規定の調整の趣旨は重要なものであるが、この点に関しては、十分な検討が行われてはいないものと捉えられる。本件は、実質的に二重課税の状況にないということで、ほぼそのまま、そもそも日米租税条約によって調整すべき対象が存在しないという点で、検討が終了しているが、本来課税を行っているような場合においては、まずは、対象となる退職年金等に該当するのか、その意義は如何に解されるべきであるのかという点が、判断の起点となるものと考えられる。この点は非常に抽象的な規定であり、その解釈は幅が存在するだろう。
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