2022年7月30日土曜日
判例裁決紹介(大阪地判令和3年4月22日、不動産所得の帰属、実質所得者課税の原則、親子間での使用貸借成立の有無)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和3年4月22日で、不動産所得の帰属に関する親子間での使用貸借の成立が争点となった事例です。
具体的には本件は、案件としてはシンプルであるが、親であり、不動産を保有する原告が子に対して当該土地を駐車場用地として使用貸借により貸出、また駐車場用設備(舗装等)を贈与したとして、当該駐車場に関する不動産所得を子供が申告していたことにつき、当該所得は租税負担を回避することを意図したものであり、親である原告に帰属するものとして更正処分を行ったことを不服として提起された事例である。
高齢の親と子供との間での契約、特に使用貸借という契約が真正に成立したものであるのか否かという点が中心的な争点となっており、基本的には事実関係の問題であるようにも捉えられるが、このような高齢者が関与することになる契約は相続対策として非常に重要な契約関係となるべきものであり、近年の社会環境においては、その取引の成立の真正性を扱う事例は重要性を増すものと考えられる。本件は納税者の主張が認められ、使用貸借の成立が認められるなど珍しいものであり、このような点において、本件事例は租税専門家において重要な示唆を含むものであろう。
また、本件の主たる論点においてこの取引の否認において(真正性の否定)としていわゆる「処分証書の法理」における特段の事情として、使用貸借に伴う異常な本件のような租税負担の回避を否定を主張する課税庁の主張を本件では、下記のように述べて
「節税効果を発生させることを動機として本件各使用貸借契約を締結することはあり得るのであって、節税の動機と目的物を無償で使用収益させる意思とは併存し得るものである)から、上記の目的がある場合であっても、直ちに本件各使用貸借契約書に記載どおりの行為がされたとの経験則を妨げる「特段の事情」があるとすることはできないというべきである。」
経験則的な処分証書の法理の成立の例外的な取引否定の方法論を否定している。この点も租税回避の否定方法としてこのような議論展開が許容されるものであるのかという点は、検討の余地があろう。大枠として基本的には取引の真正な成立の問題として仮装行為の問題であるとの印象もあるが。
租税回避の否認に関しては、否認規定の存在や私法上法律行為の否認論など多様な議論が存在するものであるが、本件のようないわゆる処分証書の法理の特段の例外的扱いとして租税負担の回避を位置づけるような検討が適当であるのかというものは検討の余地がある。税大でも議論がなされているようではあるが、処分証書の法理が私法上の法理として一定の位置づけがあることは否定しがたいものである。しかしながら租税法律主義が機能する租税法規に置いて経験則的な位置づけではあろうと、その成立を妨げる要因として租税負担の回避を用いることができるのか、これが租税法規の適用において基礎となる取引の判定において適用可能なものであるのかという点は議論の余地があろう。別に立法論として同族会社と同様に親族間の不当な租税負担の軽減を調整する規定については議論されるべきであろうが。
さらに、本件では、実質所得者課税の原則の成立の議論が行われている。判示では、課税庁が主張するように本件の起因となる不動産所得においてその所得区分上、資産の所有に基づく、担税力を前提とした課税を否定しており(使用貸借は弱い権利であり、所得の起点とならないという主張を否定している)、収益の帰属という部分に対して担税力の反映による判断の否定をしている点は特徴的ある。用語として使用していないが、いわゆる実質所得者課税の原則における法的な帰属を基礎とした判断であり、経済的な帰属(資産課税における所有権や担税力に基づく)による課税庁の主張を否定しているように考えられる。かかる争点においても素材となるべき事例であろう。
以上のように本件は複数の論点において重要な示唆を含むものであり、実務家においても有益な事例であろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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