2022年7月9日土曜日

判例裁決紹介【東京地判令和3年3月30日、中古資産の取得と耐用年数、総合償却】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和3年3月30日で、中古資産の資本的支出の耐用年数が問題となり総合償却の対象であるのか否かという点が基本的な争点となった事例です。 本件は化粧品等を製造する法人たる原告が中古機械設備を購入し、それを改良【資本的支出】して使用して場合に於ける減価償却資産としての耐用年数を中古資産の耐用年数の算定方法により算定した年数で損金計上を行っていたことにつき、調査により否定され、本件は総合償却資産であって、中古資産の取得に関する簡便法等の適用による耐用年数の算定はできない【結論として2年から8年】として耐用年数通達の1-5-8を適用して更正処分等を受けたことを不服として提起された事例である。 あまり、最近は総合償却というような表現を使用すること自体が珍しいとは思いますし、実務の人は、減価償却資産の償却費の計上方法は簿記等で学ぶ償却方法の機械的な適用にとどまっているようなケースが多いように想定される。あまり耐用年数通達自体も紛争対象となることは少ないように思われる。古典的な論点ではあるが、機械装置という基本的な資産の減価償却資産としての取り扱いに関しては、本件で問題となる総合償却の考え方が基本となっているものであり、減価償却資産の範囲の問題等も含め、中古資産の取得等に伴う問題が顕在化しているものであるが、機械及び装置という資産類型における減価償却資産の基礎となるべきものであり、専門家として理解しておくべきものであろう。近年は資産の所有自体が、資産効率の観点からも、或いはソフトウェアなど資産の類型の位置づけ、重要性が変化していることからあまり、検討されることの少ない分野であるが、総合償却というものは、複合的な資産設備において幅広く適用可能な考え方であり、一体として機能する資産の判断においては重要な項目となろう。すなわち、機械及び装置という一体として機能するべきものをどのように切り分け、理解するのかという部分は、実務上も悩ましいものではないだろうか。耐用年数省令は、用途別に類型化した上での分類を基礎としているが、所有者の意思に関わるものでもあり、また、ソフトウェアなども相互に関連して、現代の機械装置は構築されているものであろうが、このような環境変化において総合償却法がどのように機能を果たすべきであるのか、その意義を検討する上で、重要な事例であり、更に検討を行うべきものと考えられる。 「法人税法施行令の委任を受けた耐用年数省令が、減価償却資産の耐用年数について同令各別表に定めるところによると規定している趣旨は、企業において長期間にわたって収益を生み出す源泉である減価償却資産につき、費用収益対応の原則に従い、その取得に要した金額を使用又は時の経過による減価に応じて徐々に費用化する(耐用年数を用いて配分する)という減価償却の制度において、その取得費用を適正に配分するために、当該資産の内容や用途等によって将来の収益に対する寄与の度合いや態様等が異なることを勘案し、減価償却資産を類型化するとともに、その類型ごとに耐用年数を定めることとしたものと解される。」 以上のように減価償却資産の耐用年数の決定に関しては、耐用年数の類型化の意義を前提として記載している。費用収益対応の原則という会計原則を基礎としながらも適正な配分というかたちで、恣意的な配分を規制しているという前提を導いている。適正な配分というのは多義的な意義であり、一見するとどのような意義を持つものであるのかという部分が曖昧なものであるが、コントロール性が介在することを非常に嫌う租税法の考え方が反映されているものと理解されよう。 その上で、機械及び装置という資産累計に関しては、個々の資産ではなく、集合体として機能しているとの考えから、 「各事業に用いられる設備は、本来的には、複数の資産の集合体として、集団的に生産手段等として用いられるものであることが想定されているものといえる。そして、設備を構成する複数の資産については、個々の資産を単体として見れば、用役の提供に耐える年数がそれぞれ異なり得ることとなるが、それにもかかわらず、本件耐用年数表は、上記のとおり、業用区分ごとに定められた「細目」別に、設備を単位とした耐用年数(総合耐用年数)を定めているのであって、このことは、法人税法施行令の委任を受けた耐用年数省令において、「機械及び装置」については、設備を構成する各資産を個別の耐用年数により償却するのではなく、それらを一体のものとして共通の耐用年数(総合耐用年数)により償却するという総合償却法を採用していることを示すものと解するのが相当である」 一体のものとして、原則として総合償却による一体とした償却が採用がされている【昭和39年改正より個別は廃止】という基本的な解釈が示されている。 「「機械及び装置」である減価償却資産が、複数の資産により構成される設備の稼働によって初めて、本来の機能を発揮し法人の収益の獲得に寄与するものとなるというその特質に鑑みると、上記アのような減価償却制度における耐用年数の定めの趣旨に照らし、合理性を有するものといえる。また、設備を構成する個々の資産に細分化して個別の耐用年数により償却することの実務上の困難性に鑑みても、総合償却法により償却限度額の計算が簡易化されるという利点が存するものということができる。」 そして、その合理性を基本的に簡便性や制度趣旨から裏付けられるものとして考えている。 したがって、 「減価償却資産のうち「機械及び装置」について総合償却法を採用し、設備を構成する各資産を一体のものとして総合耐用年数により償却することとしているものと解すべきである。そして、このような総合償却法の下では、法人が設備を取得する場合、その設備を構成する個々の資産がいかなるものであるか(中古資産であるか否かを含む。)を問わず、当該設備が属する業用区分の細目について定められた総合耐用年数(以下「当該設備に係る総合耐用年数」という。)によるべきこととなる。 中古資産であろうとも、追加取得、改良等であろうとも機械装置として設備を構成するか否かという判断枠組みが重視されるものであって、耐用年数省令からは中古資産等において別異に解することはできないとしている。恣意を抑制するという点からは、一体として機能するものにおいて、その耐用年数が異なるという視点を介在させるという点は否定的に捉えられる点は一定の合理性があるものと考えられる。しかしながら、機能等、設備の稼働は経営環境等の影響を受け、変動するものであり、一体として機能するという点はそもそもその判断が困難である、曖昧としたものである点は否めない。この判断を如何に客観的に行うべきであるのかという点は検討しておくべきであろう【 単位が問題となる】。 1-5-8 総合償却資産(機械及び装置並びに構築物で、当該資産に属する個々の資産の全部につき、その償却の基礎となる価額を個々の資産の全部を総合して定められた耐用年数により償却することとされているものをいう。以下同じ。)については、法人が工場を一括して取得する場合等別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる一の「設備の種類」又は「種類」に属する資産の相当部分につき中古資産を一時に取得した場合に限り、次により当該資産の総合耐用年数を見積って当該中古資産以外の資産と区別して償却することができる。(平6年課法2-1「四」、平10年課法2-7「一」、平20年課法2-14「五」、平23年課法2-17「二」により改正) (1) 中古資産の総合耐用年数は、同時に取得した中古資産のうち、別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる一の「設備の種類」又は「種類」に属するものの全てについて次の算式により計算した年数(その年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には、2年とする。)による。 このように考えた上で、判示は通達による総合償却からの例外的な措置としている上記通達【本件でも適用された判断枠組み】をもって、本件対象の中古資産等は相当部分に該当するものではない【10%程度】であって中古資産であっても下記耐用年数省令にあるような特別の償却を行うことはできないという課税庁の判断を肯定している。 (中古資産の耐用年数等) 第三条 個人において使用され、又は法人において事業の用に供された所得税法施行令第六条各号(減価償却資産の範囲)又は法人税法施行令第十三条各号(減価償却資産の範囲)に掲げる資産(これらの資産のうち試掘権以外の鉱業権及び坑道を除く。以下この項において同じ。)の取得(法人税法第二条第十二号の八(定義)に規定する適格合併又は同条第十二号の十二に規定する適格分割型分割(以下この項において「適格分割型分割」という。)による同条第十一号に規定する被合併法人又は同条第十二号の二に規定する分割法人からの引継ぎ(以下この項において「適格合併等による引継ぎ」という。)を含む。)をしてこれを個人の業務又は法人の事業の用に供した場合における当該資産の耐用年数は、前二条の規定にかかわらず、次に掲げる年数によることができる。ただし、当該資産を個人の業務又は法人の事業の用に供するために当該資産について支出した所得税法施行令第百八十一条(資本的支出)又は法人税法施行令第百三十二条(資本的支出)に規定する金額が当該資産の取得価額(適格合併等による引継ぎの場合にあつては、同法第六十二条の二第一項(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)に規定する時又は適格分割型分割の直前の帳簿価額)の百分の五十に相当する金額を超える場合には、第二号に掲げる年数についてはこの限りでない。 一 当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間(個人が当該資産を取得した後直ちにこれをその業務の用に供しなかつた場合には、当該資産を取得した時から引き続き業務の用に供したものとして見込まれる当該取得の時以後の使用可能期間)の年数 二 次に掲げる資産(別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる減価償却資産であつて、前号の年数を見積もることが困難なものに限る。)の区分に応じそれぞれ次に定める年数(その年数が二年に満たないときは、これを二年とする。) イ 法定耐用年数(第一条第一項(一般の減価償却資産の耐用年数)に規定する耐用年数をいう。以下この号において同じ。)の全部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数の百分の二十に相当する年数 ロ 法定耐用年数の一部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の百分の二十に相当する年数を加算した年数 この通達の適用に関して、原告の主張は耐用年数省令は、中古資産について特に制限を設けることなく、上記のように処理方法を定めているのであって中古資産の耐用年数評価を適用すべきとしてあったのであるが、総合償却法の適用による機械装置の解釈において、通達のように相応の程度、この基準というか目安のようなものが曖昧模糊としていて、租税法規の基本的な要請に合致しているのかという点はたしかに課題であろうし、一体としてではなく、別の資産として捉えられ、機能するのか否かという点を判断の基礎に置くのが解釈としては総合償却法の観点からは妥当であるように考えられるが、中古資産と言えど一律に総合償却の対象から外れうるというのは、減価償却制度の基本的な前提、機械装置の類型の特徴、耐用年数省令や改正の趣旨【そもそもこれが妥当であるのかという点は、現代的な課題ではあろうが】否定的【限定される】に捉えられる点は、認識されるべきであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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