2022年7月30日土曜日

判例裁決紹介(令和2年5月11日裁決、医師の副業による所得と所得区分)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年5月11日裁決で、医師の副業(和楽演奏)による所得と所得区分が争われた事例です。 具体的には本件は医師である請求人が病院に勤務して得た給与所得以外に和楽の演奏(指導等も)を定期的に行っており、これに関する所得を雑所得として申告した上で、本来は事業所得であり、この和楽に関する損失は、給与所得を損益通算すべきであるとして更正の請求をなしたところこれを否定されたことから、不服として提起された事例である。 和楽の演奏という一般に趣味的な要素、芸能・芸術的な要素が強い特殊な業務であり、定期的な演奏や師範免状を得ているような状況下における所得稼得活動が素材となっているものであるが、副業的な業務による損失が対象として、近年種々議論される副業や働き方の変容に伴う検討において、有益な事例であろう。そもそもとして近年は副業の解禁が議論されるが、正副という存在を租税法規においてどのように反映させうるものであるのかという点は検討が必要であろう(源泉徴収に於ける主たる収入ぐらいかと)。本件でも問題になるが、社会通念として事業として認められるか否かという点も曖昧な基準であり、基本的には本件は事実関係の問題として捉えられているが、事業と雑という所得区分の従来の検討を基礎として給与所得を得ている対象との対比から判断が導かれている。安易に副業であるから雑所得であるという判断が行われていないかという点は、議論の余地があろう。 本件のように師範免許を有して、器具備品も所有し、無料演奏会も含むかたちで定期的に演奏会が行われ、収入を得ている事案ではあるが(低額とはいえ、芸能的な案件であればこのような状況は特に珍しくもないだろう、個人的には芸術的な業務において損失が発生していることを特別な取り扱いが行われるべきであるとは捉え難いが、文化政策的には別の意見があってしかるべきとは思う)、たしかに当該収入と経費は一般に釣り合うものではなく、本来の収入源である給与所得があってこそ係る活動が支えられている点は否めない。請求人の主張のように日本標準産業分類に該当するか否かという点が事実関係の判断要素といて妥当であるのかという点は否定されるべきではあるが、しかるに社会通念として事業として認められる要素としては、いかなるものであるべきかという点は慎重な検討が必要であるものと考えられる。 「所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する事業所得 とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、 かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務 から生ずる所得をいうが(昭和56年判決参照)、具体的に特定の経済的活 動により生じた所得がこれに該当するといえるかは、当該経済的活動の営利 性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による 企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、 人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職 業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相 当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事 情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきである。」 本件では上記のように、企画遂行性や労力の程度、設備の有無、安定した収益を獲得できるか否かという点が判断要素として従来の雑所得と事業所得との判断要素に追加されている。事実関係としてはこの部分が主要な要因となって、本件判断として雑所得としての判断が導かれている。個人事業主に置いて人的設備(雇用等が)が行われているか否かという点などが重要な要因であるとのことが法令解釈から導かれうるものであるのかという点は疑問ではあるし、相当程度安定的な収益の獲得などは、企画遂行性などが依拠すべき法令解釈が判然としない。 事業が多様であることからも最終的に総合判断であるべきであるし、時代の変化により判断要素が変動することも重要な点であろう。趣味的な活動を事業とすることは租税負担を回避する点からも区分されるべきであるとは考える(個人的には不動産所得も規制が入るべきであると考えるし、総合所得課税という概念が基礎とすることは必ずしも必要なのであろうかという点は現代の個人所得の活動状況から改めて見直されるべき)ものの、本件の判断の基準が妥当であるのかという点は司法に置いても検討されるべきであろう。 何れにせよ、副業や趣味的な活動が収益を生む環境が従前よりも整備されつつある現況において、安易に従来と同様の枠組みにて判断されることの是非は、検討されるべきものであり、今後も事例の検討を行うべきであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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