2016年12月22日木曜日

判例裁決紹介(平成28年2月4日、国外不動産の評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年2月4日裁決で、海外不動産の評価が問題となった事例です。

具体的には、相続人である請求人が米国に所在する不動産(賃貸用)を相続により取得した事案において、その財産価額の算定につき、所在地における地方税である遺産税の評価額に基づき、申告したところ、当該評価額は別荘地である特殊性から収益方式によって評価されたものであり、売買実例と大きな相違があるとして、当該州の遺産税評価額に基づき評価すべきとして更正処分が行われたところ、それを不服として争われた事案です。

国外財産の評価において、我が国の財産評価上、いかなるものとして捉えていくべきであるかは、解釈上も課題であると考えられますが、近年は国外財産を保有する相続関係の事案も増加しており、その評価方法は実務においても課題ではないでしょうか。

海外財産を評価する際には、まずはその鑑定評価をいかに捉えるべきかという点が問題となるでしょう。複数の評価額が存在する場合、原則として通達の評価を行うことになっていますが、この点は我が国の財産評価において財産評価基本通達の位置づけを考えれば、整合的ではあります。
本件は裁決であるので、通達自身の合理性については、問題となっていませんが、財産評価基本通達では、下記のように、

評価通達52《国外財産の評価》は、国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することに留意するとし、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。

記載されています。この中身の合理性はまずは検討されるべきものではないでしょうか

この通達がいかなる意義に基づき、特にそのいかなる法解釈として帰結の結果であるのかは必ずしも定かではありませんが、実務の指針としては機能していることは揺るぎようなないものと考えられます。

通常は基本的に相続税法が定める財産の価額、すなわち不特定多数の取引をベースとした客観的な交換価値に対して上記の国外財産評価が該当することになるのか否かが問題となるでしょうが、財産評価基本通達が前提として土地の評価等において固定資産評価や路線価などの我が国の事情を反映したものであり、原則的に通達をもってその国外財産を評価することは困難であると考えるならば、基本的に国外財産に関しては、個別的に対応すべきであり、本件の通達もこの表れであるように評価されます。

しかしながら個別対応として取り扱うだけでは租税法がその基本的な要請とする予測可能性を充分に担保するものではなく(この点では基本的に立法によるべきであるかもしれません)、この点で本件通達における準ずる方法や例示されている売買実例や精通者意見価格が具体的な個別対応における指針となっているものと考えられます。その点でこれらの指針は重要な位置づけを有しており、例えば準ずる方法がいかなるものであり、、いかなる条件において適用されるべきものであるのかという点が定かではない、また、売買実例等の例示に基づき、いかなるものを準備されるべきであるのか、参酌するとはいかなるレベルで捉え具体的な評価に適用していくのかという点は、検討すべきでしょう。まずは、相続税法が定める価額の意義に照らして適格か否かその基本的な法解釈に依拠した点がその妥当性を判断する要素となるべきものと考えられます。

このように考えると相続税法において価額の意義としていかなる要請を行っているのかという点が問題となりますが、たった二文字ではありますが、その解釈が重要なものと捉えられます(言うまでも国内財産においてもその意義は重要ではありますが)。事実上我が国の財産評価においては財産評価基本通達がその支配的意義を有していることは疑いようがないですが、国外財産においては、前記のように前提が異なることもあり、まずは、法が要請する価額の意義に立ち返るべきものというべきでしょう。

本件では、国外財産について、複数の租税が関連し、それぞれ、評価方法が異なることから(もちろん価額も大きく相違しています)、問題となった事案ではありますが、まずは例示にある考慮対象がいかなる要請を行っており、等と記載していることからも他にいかなるものが許容されうるものか定かではないものと捉えています。例示である以上、これに限定されるべきものではありませんが、財産種別や国外の状況等非常に多様な状況が想定されうるところでそれぞれの評価が価額に合致しているか判断することは非常に困難な作業ではないでしょうか。特に必ずしも価額自身がいかなるものを要請しているのか、定かではないとも考えられ、法解釈としても大きな課題というべきです。

本件はあくまでも裁決であるので、通達の例示等に拘束されるものであり、その意味で本件の判断はこの判断基準とに依拠した場合には合理的であると評価できますが、更に検討が必要であるといえます。

私見としては相続税法はまずは、その相続税負担において適正な財産の価額、すなわち経済的価値を適正に反映させ、また、評価であるがゆえに介入の余地が避け得ない恣意性を如何に排除して行くかが法の要請であるように考えられます。
この点は判例において客観的な交換価値をベースとして解釈していることからも裏付けられるでしょう。従って単に適正な価額であることのみではその要請に合致するものではなく、いわば、交換価値の適正性と客観性を兼ね備えたものが法の要請する価額であると捉えるべきであります。この点から通達の解釈が妥当であるのかという点が定まるものと考えられます。

本件のような国外財産では基本的に財産評価基本通達によることが困難であり、妥当ではない以上、問題は、上記のように、法が要請する適正な価額においていかなるものが基準として妥当であるのかという点でしょう。特に実例や精通者意見価格に於いて恣意性をいかに排除していくか複数の評価に対して総合的な判断も用いて行くことが必要であるとも考えられますが、評価の合理性を担保するためにもその判断基準が求められるものと考えます。本件では、財産税において収益性に基づく判断を行っていますが、基本的に我が国の固定資産評価において固定資産評価額等を用いて評価していることとの整合性からも問題であり、収益還元性を利用した評価は客観性という点でも実勢売買とは異なりうるもので、本件のようにその財産税価格の評価を用いることを否定した判断は相続税法の要請に合致していないという点で妥当なものと考えられます。

また、本件では最終的に遺産税の申告に用いられた価額を合理的と評価して適用しています。これについても、海外の法規に於いて定められた評価額(FairMarketvalue)が我が国の法規による財産の価額に合致するのかという点も問題といえるでしょう。海外の法規に定められた用語が我が国において適用可能かどうかは、「法人」の意義が争われた事案でも問題となったように、海外の法規の条件や我が国の法規の文言との整合性などの点で一定の評価を必要とするものであるといえますが、本件ではこのような判断を特に行わず、日米相続税条約における価額評価も検討すべきですが、あっさりとその評価額の我が国の法規への適合性を評価しています。この点は、海外の法概念が我が国の課税要件に合致するのかという点でも慎重な判断が必要なものと考えるべきであり、結局は我が国の価額の意義も問題になるわけではありますが、更に検討が必要な課題であるといえるのではないでしょうか。

以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2016年12月14日水曜日

判例裁決紹介(平成27年11月19日、貸付債権の貸倒損失の計上時期】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、名古屋地判平成27年11月19日で、事業を引き継いだ原告が引継ぎ前より保有していた貸付債権の貸倒れにつき、損金算入時期が争われたものです。

具体的には、薬局を経営する原告が一時休業していた事業を継承し、訴外A社に対する貸付を平成22年の申告において貸倒損失として確定申告したところ、当該貸付債権はその計上を認められないとしたため、原告がその取消を求めて出訴したものです。
当該債権は、平成8年に行われた調査において納税者からの申立書を提出して、税務上損金としない旨供述したものです。なお、貸付先である訴外Aは平成16年の段階で約100億円の債務超過状態であり、平成19年に於いては倒産している状態にあり、それから約3年後に貸倒損失として損金に算入したものです。

判示でも遅くとも原告は平成19年の段階で債権が貸倒れたものであることは認識されるべきものであり、本件のタイミングで損失を計上することは認められないとして基本的に課税庁の主張を認め原告の請求を棄却していますが、まずは、貸倒損失の損金算入時期が問題と考えています。
判示では、いわゆる興銀事件の最判を引用して債務者の状況及び債権者側の状況を用いて、損金算入をすべきものとして判断しています。この点は、従来の判例の流れを踏襲するものであり、現行法の解釈としては、合理的なものであるように評価されます。
しかしながら、その具体的な損失の算入時期の判断について、いかなる時期によるべきかという点は必ずしも定かではない状況です。

判示のように、基本的に債務超過等の状況によって損失であることが判断された時点で計上すべきであることは特に異論はないのですが、種々の要素を総合的に判断した上で、その損失を認定する以上、その具体的な計上時期に関しては一定の幅が想定されるものであり、かかる認識に基づくとすれば、いかなるタイミングでその計上を求めるのかという点は法解釈として検討すべき課題といえるでしょう。

一般に計上時期に関する決定を納税者に任意で認めるということは、法人税法の評価損の原則禁止や、恣意性の介入等の状況から、租税法の基本的な要請として、すなわち課税負担の公平性に反するものである処理であることは言うまでもなく、許容される可能性はないものと考えられます。但し、上記のように最判の判断過程に基づくならば、債務者の状況に主としてその判断は委ねられるうえ、このような状況は、基本的に債権者側において調査することは困難な状況であり、また、更に考慮要素として債権者側の状況も考慮されるべきものと考えられるものであり、その把握は一義的に行われるものではなく、一定の幅は想定されることは容易に想定されるところです。このような状況のあり方自身が予測可能性や法的な安定を担保しているか否かという点からも疑問が残るところではあります。判示のように、客観的な状況をもってその損失の状況が確定したところであるタイミングをもってその計上を行うべきであり、納税者等の操作性が介入することで、適格ではないことに賛意は示すことができるものと考えられますが、必ずしも、このように要請する法的な根拠が明らかではないものと考えています。法人税法22条4項に定める公正処理基準がその根拠となりうるものではないかと考えられますが、当該規定がそのような法的規範を有するものであるのか、その制度趣旨から、明確に導けるものと評価してよいのかという点は疑問があります。

そもそも租税法務において貸倒損失をいかに評価すべきは立法によって明示されるべきものではないかという考えも持っていますが、計上のタイミングが幅があることと任意性の介入を衡平させ、如何に捉え、予測可能性を担保する客観的な状況がいかなるものであるべきか法解釈や立法によって明らかとすべきものではないでしょうか。

このように考えるといかなる事情をもって、その損金計上を認めるのかという点をいかに判断し、その立証を行うべきかという点も課題と考えられます。
判示でも、課税庁の主張においても、貸倒損失の性格上、納税者に対して債権の内容等を具体的に特定し主張すべきとしています。また、その立証がなければ、不存在とみなすものとして判断を行っています。

通常、従来、課税訴訟や更正処分において、その立証責任は質問検査権の行使をその理由として、原則として課税庁にあるものと理解されてきました。私見としてもこの考えは質問検査が事実上、受忍義務をおっていることから考えても妥当であると考えています。しかしながらいかなるものにおいても例外がありうるものであり、近年は他の裁判例でも立証責任が転換され、納税者にその責任があるものと解される事案が増加しています。この例外がいかなるものであるのか、その原因がいかなる点に依拠しているのかという点、そのように転換が行われる場合、従来の課税要件のあり方や質問検査権の性格が従来と同様に解されるべきものと捉えても問題がないのか等々立証責任の分配については検討すべき点が多いように考えられます。

本件のように、債権の性格が事実上の転換の理由となる点はこの意味で、立証責任の分配を考える上で興味深いといえるでしょう。そもそも、事実上の転換を促す貸倒損失の性格がいかなるものであるのかという点は、判示では明示されていませんが、たしかに、上記のように最判以後債権者側の事情も考慮した総合的な判断が行われる以上、転換が行われるべきものと解することは合理的であると言うべきであると考えています。

このように債権の性質に応じてという判断であれば、納税者の予測可能性をより高めるべく、その予見において対応可能であるように要件がより明確化という観点から求められるのではないでしょうか。そもそも上記のように、貸倒損失の租税法務における取扱は立法によって明示的に捉えられるべきと評価しています。特に判示にあるように、立証がなければ事実上、不存在と認定するとするならば、より明示的な法的根拠を必要とすべきと解することが租税法規の基本的要請に合致するものと考えています。

また、より一般論として、このような立証の責任を転換する一つの理由としてこのような債権の性格に基づくことが根拠となりうるものでしょうか。質問検査権や申告納税制度の趣旨にも関わることではありますが、もし根拠となりうるものとした場合、いかなる場合がそのような転換の理由として検討されるのか、という点は租税法においても立証責任を考えてる上で、大きな課題となるのではないでしょうか。

以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。
判決

2016年12月5日月曜日

判例裁決紹介(減額更正処分における国家賠償、東京地判平成26年10月17日】

さて、また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成26年10月17日で、減額更正処分を行うべき国の責任を納税者が求めた事案です。

具体的には納税者が新株予約権の行使益に対して確定申告を行ったところ、それが誤りであったとして、当該納税者の破産管財人が係る所得に対する所得区分や収入金額の算定に関して、誤りがあったとして、国に対して更正の請求を求める機会を与えるべきであったところ、更正の請求の期限超過等を理由として、減額更正処分を行わないとした判断により、その行為を認めなかったとして、国に対して国家賠償を求めた事案です。

この処分においては、従来の課税処分と国家賠償の関係を最高裁が判断した事案と整合的であり、かかる判断基準に則り具体的な判断を行っています。。すなわち、単に過大な賦課徴収を行っていたからと言って直ちに違法があるものというべきものではなく、減額更正処分を行うか否かについて、その必要性を認定判断する上で、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と更正を行わなかったと認めうるような事情がある場合に限り違法の評価を受けるものとの最高裁判示に従い、判断を行って原告の主張を退けています。

この判示自身、申告納税制度の趣旨及び、更正の請求の期間制限に依拠した上で、限定的に国家賠償の対象を解していますが、現在の更正の請求に対する期間制限に対して判断されたものではなく、旧法の状況による判断であり、現行法の制度を前提とした場合、いかなる国家賠償の対象となるのか、議論の余地があるものと考えます。少なくとも更正の請求の期限延長において、いかなる変更がありうるのか、私見としては基本的に、申告納税制度を前提としている以上、この最高裁判示の変更が行われるべきものとはいえないと考えていますが、議論の前提として検討するべきものと考えています。

そもそも、課税庁において、更正すべき義務があると解されるのか、この点も問題であります。たとえ、客観的かつ明白な誤りの存在によって、申告に重大な瑕疵があったとしても、何をもってそもそも課税処分や、申告に誤りがあるものと判断すべきか、定かではありません。こちらについても申告納税制度を前提とする我が国の所得税において【賦課課税の場合はまた別の判断がなされる可能性は存在しているといえるでしょう】、減額すべき義務を課税庁に観念することは、たとえ誤りによって担税力がないものへの課税であり、租税負担の公平性に反するものとして法律上無効として判断される余地があるといえども、立法によることは別として解釈上導くことは極めて困難な状況にあるものと考えられます。


本件自身は、どちらかといえば、本来、納税者の申告においてサポートした税理士の責任を問うべきものであり、国家賠償をもって対応すべきとすることは、かえって通常の納税者との間で、衡平に反するものというべきではないでしょうか。

以上、毎度のごとく、論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。判決

2016年11月24日木曜日

判例裁決紹介(平成27年12月15日、固定資産税評価における増築の判定】

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は東京地判平成27年12月15日で、固定資産税評価において、増築を行ったことに対する評価が問題となったものです。

判示では、納税者の請求を退けていますが、具体的には原告が保有する建物に対して増築を行い、ビルの屋上にプレハブ小屋を設置した場合において、当該プレハブ小屋が独立の建物であり、構築物として評価されるものであるとした原告が主張したのものであり、プレハブ小屋がビルと一体の建物であり、増築に該当するものであるとして鉄筋コンクリートに基づく、建物の一部であるとした課税庁が主張した事案です。

納税者の主張の一つには、増築部分としして判断した場合、鉄筋コンクリートづくりの建物の評価がプレハブの部分にまで及んでおり、鉄筋コンクリートと軽量鉄骨が同様の基準に基づき評価することは不合理であるとしています。増築であるかいなかがその問題として考えられる場合、たしかに、その区分が問題となるべきでありますが、今回は、実際のところその評価において、増築部分と既存の建物を区分してそれぞれ製造材に基づき評価されています。その点で、納税者の主張は大きく根拠を失っているところですが、実務上、具体的な評価の実施において建材の区分は、その評価に関わることを改めて認識すべきと言えるでしょう。具体的な評価において建造費用を確定する上では、重要になるものと評価できるでしょう。逆に言えば、製造材の相違が重要は建物の区分において重要な基準となりうるものと言えるでしょう。

また、実際の評価において、用途区分が考慮されています。具体的には事務所用と居住用と主に区分されています。この用途に応じて評価における具体的な減点補正が行われることになりますが、この建物の用途に関しては、実際複合的な用途である場合がありうるところであり、その具体的な判断が問題となります。本判示においては、複合的な用途である場合には、主たる用途に基づき判断されうこととされているのですが、これを如何にして主たるものとして判断するのかという点については、定かではありません。法令解釈としてはこの主たるものについては、固定資産税が不動産の利活用にその趣旨をおいていることを鑑み原則として用地活用における面積基準が中心となるべきと解するべきと考えられますが、当該面積につき、如何に利用されているのか利用されている面積を確定するにあたり、具体的な利用状況を総合的に判断するべきものと考えています。

また、増築の有無を判断する際にも如何に判断されるべきであるのかという点も法令解釈上問題となりえます。本件では、ビルの増築であるのか、単に別途構築されたものであるのかが問題となりましたが、具体的に、増築であるのか否かがいかにして判断されるのかという点は重要なものであると言えるでしょう。
そもそも家屋や、事務所用、店舗用と言うかたちで用途区分を行っていますが、それぞれいかにして判断されるのか、その意義は必ずしも一義的であるといえるでしょうか。また、その判断過程において、利用者・所有者の意思に基づくべきであるのか、それとも現況によるべきであるのかこの点も明確にするべきでしょう。固定資産税が不動産に関する利用をベースに時価を判断する以上、実際の利用状況を鑑みるべきであると解されるところです。

まずは、ビルとの定着性が問題とされています。納税者の主張は、簡易的な設置であり、一時的なものであるとして、定着性を否定して独立の建物である根拠としています。家屋の一体性は、最終的には総合的な判断に基づくことになるでしょうが、設備の一体性や期間的な要素が中心的な判断要素として示されています。期間的な要素がどの程度であるべきかは定かではないものの屋根等による遮蔽や設備の一体性が固定資産における一体性を判断する指標であることは揺るぎないものであるといえるのではないでしょうか。

納税者の主張するように簡易的なプレハブであることは一体性を減ずる要素であることは必ずしも否定できるものではないと考えられますが、設置・撤去に関して一時的であるとの判断は、主として利用者の意思に依拠することとなり、客観的な裏付けが求められるべきものと考えられます。

何を持って一つの不動産であるとの判断は個々の資産類型によって異なりうるものですが、建物の一体性を判断する指標として本件における判断は意義を有するといえるものと評価されます。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。裁決

2016年11月19日土曜日

判例裁決紹介(社交飲食店に関する上納金の所得帰属、所得区分、平成27年12月11日裁決】


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成27年12月11日裁決です。
社交飲食店を営む請求人の他人名義の口座に振り込まれた金銭がいかなる所得であるのか、が問題となった事例です。

具体的には、不動産業を営む請求人が、複数のキャバクラ経営者【これを社交飲食店と言うそうです、初めて知りました】から定期的に各店舗の売上の一部を継続的に送金させ、しかも当該送金先は、他人名義【これもいわゆる交際相手:愛人関係にあったようです】であった事案で、重加算税が課された事案です。なかなかドロドロとした事案ですが、当該送金を指示した携帯電話が数年間で20回近く機種変更されるなど、また、情報提供やクレジットカードの機械手数料であるとの主張もなされましたが、課税庁の認定としていわゆる上納金であるとして、雑所得として課税を行った事案です。

上納金【そもそもこれは何でしょうか、一般的な意義ではわかるのですが】という認定自身も興味深いですが、事実関係も含め、複雑な社交関係飲食店に関する事実関係を表す事例としても興味深いものと思います。

裁決の判断もこの課税庁の処分を是認していますが、当該経済的利得がいかなる認定を受けるべきものか?そもそも、法的な権利のない所得であり【あえて違法とは評価していません】、所得の帰属はどこになるのかという点も問題となっており、中心的な争点は所得の帰属に関する事実関係の争いであるというべきでしょう(特に、携帯電話のやり取りなどは特殊ですが、なかなか興味深いものです】。

法令解釈としては、いわゆる所得の認定において管理支配基準の適用によって、その経済的利益の課税関係を認定しています。対象となる金銭が送金された口座の実質的に支配に基づき、その判定を行っているのですが、この点では管理支配基準の具体的な適用として、何をもって実質的な支配であるのかという点は、検討すべき課題であり、参考となるものと考えています。

また、法的な権利に基づかない、金銭所得の所得判定プロセスも重要であり、本件のように、所得の帰属が主たる論点となり、所得の種類自身は主たる争点とはならず、ほぼ帰属の判定をもって雑所得認定を行っている点は一般性を持つのではないでしょうか。

加えて本件では直接的な争点とはなっていませんが、当該上納金は事業所得の経費としていかなる立場に該当するのでしょうか。所得分類の影響と経費性を如何に関連付けるという点では、思考実験として当該上納金がいかなる経費性を帯びているのか、そもそも必要経費性を有するのかという点は検討すべきではないでしょうか。


以上、少し雑駁な裁決事例であり、そもそもこの面白さは事実関係の認定にあるところではあるのではないかと考えており、論文Stockとしてはいつものようにならないような気もしますが、参考までに。
裁決



2016年11月9日水曜日

判例裁決紹介【名古屋地判平成26年10月23日、消費税における区分判定】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判平成26年10月23日で、消費税法における課税仕入が個別対応方式において如何なるものに該当するのかを、どのタイミングで判断すべきかが問題となった事例です。

具体的には、原告がなした賃借用の建物を取得する課税仕入が、課税資産の譲渡等にのみ要するものとして区分した申告につき、当該仕入は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものと判断して更正処分を行ったことに対してその取消を求めた事案です。

本件で問題となった課税仕入の対象建物は、その用途として、事務所用・住宅用双方に活用する意図をもって建築していたものですが、事業年度【課税年度】の終期である時点までに課税仕入は発生していたものの、その時点では、事務所用の利用は発生していたのですが【課税売上は発生】、住宅利用に関する入居等はなく、非課税売上は発生していなかったとして、かかる時点での現況に基づき、本課税年度における当該建物に関する課税仕入は課税資産の譲渡等にのみ要するものとして区分して申告をなしたことに対して、課税庁は、当該利用用途の判断は課税仕入の時期における時点において判断されるべきであるとして、利用意図に基づき、更正処分を行っています。なお、その後翌期において住宅賃貸も開始され、非課税売上が発生しています。

判決としては、課税庁の判断を支持し、タイミングとしては、課税仕入の時期によるべきとしていますが、法令解釈としては一般論として、課税仕入についていかなるタイミングで、その属性を判断すべきかという一般的な法解釈が問題となると考えています。すなわち消費税法30条における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」の解釈としていかなる時点での判断が行われるべきであるのかという点が解釈上の問題となった事例です。

また、そもそも課税資産の譲渡等にのみ要するとは如何なるものであるのか、本件判断では、要するという文言を法令が採用していることをもって実際の売上との関連性とはないものと判断して課税仕入の時期における判断をサポートしています。従来より疑問なのですが、如何なるものをもって課税仕入と課税売上の関連・必要性を判断するのか定かではありません。
所得税法や法人税法においても、家事関連費や寄附金等、事業経費の必要性の認定は、直接間接をとわず、多岐にわたるものであり、如何なるものをもって売上との関連・必要性を認定することは困難な場合が少なくありません。このように考えると、消費税の課税売上との関連・必要性を「のみ」という文言で限定している本件のような課税仕入における個別対応方式において課税資産の譲渡等にのみ要するものが如何なるものであるのかという点は、どのように判断されるべきであるのか検討すべき課題でしょう。

私見としては、所得法人の益金とは異なり、課税資産の譲渡等という消費税法の直接的な課税対象をその関連・必要性を判断する起点としており、消費税が個々の取引における課税関係を想定していることからも、また、仕入税額控除が課税の累積を排除する消費税法における基本的な制度であることを考慮すると、この課税資産の譲渡等の解釈でもあるのですが、この譲渡等と直接的な関連・必要性が具体的な要件として必要であると解するべきであり、課税仕入の発生のタイミングによる状況や客観的な状況において判断されることは適切な消費税法における仕入税額控除の基本的な趣旨に反する可能性があるものと考えられます。適切な課税仕入の把握に基づき、仕入税額控除の実効性を確保するためにも、実際の課税資産の譲渡等との関連をもって客観的に判断される状況にあるべきであって、適格請求書保存方式の導入も含め相互牽制機能も考慮し、明確に課税仕入との関連・必要性を求めつつ、実際の課税売上との関係を断ち切る考えは妥当とは判断し得ないものと考えています。要する文言が、実際の課税売上との関連を問題にしてはいないとの判断には疑問があります。

もちろん、消費税法が所得法人と同様に一定の期間【事業年度 】の終了をもって算定を行い、納付税額を求めることからも、また、課税売上と課税仕入のタイミングがズレるような場合や損失の発生も考えられることから、実際の課税売上との関連・必要性を求めることは、そのタイミングまで、本件のような判断を保留することとなり現実的ではないのかもしれません。日々大量に発生する課税仕入において、立証に耐えうるような関連性・必要性を求めることはコスト的にも合理的ではないのでしょう。

しかしながら、現実の課税売上との関連を求めず、あくまで予定段階での課税仕入のタイミングでいかなる使用用途であるか否かに依拠する判断は、恣意の介入する余地を残すものであり、制度的な対応であるのかもしれませんが、事業年度の終了時での現況によるべきか否かは、ともかく(私見としては5億円以下の課税売上であることがそもそも制度適用の前提であるので、その売上が確定する事業年度終了時点での判断が合理的であると考えています】、実際の課税売上との関連性・必要性を排除すべきではないでしょう。仕入れ段階での客観的な状況に依拠するのであれ、今後適格請求書保存方式が導入される状況下において、形式的な保存で発生しうる租税回避を防止する上でも相互牽制作用を基礎として課税売上との関連性・必要性を直接的に求めるべきでしょう。実際の使用用途の変更に伴い、転用を認めていることは、より適格な消費税負担を図る意図であり、仕入れ段階での予定で判定することを求めているものではないと思います。

また、別件ですが、この課税資産の譲渡等にのみ要するものであるかについていかなる判断過程をとるべきであるのかという点についても興味があります。本件では、建物の建築の意図において住居事務所兼用としていましたので、実質的には共通して要するものであることに疑いの余地はなく問題とはならないのですが、一般的に考えて、課税資産の譲渡等にのみ若しくは非課税売上にのみ対応しているか否かの立証をいずれかを行えば良いのでしょうか。実務的には日々大量に発生するものに対して厳密な立証は困難であることでしょうが、このように問題になったような場合において、いかなる判断過程で、対応区分を判断するのかは明確にしておくべきだと考えています。共通性と個々限定【のみ)の立証は異なるものであると認識しているのですが・・・。日々の取引に関する立証においては証拠との距離から考えて、また、使用用途も考慮されることから、近年の傾向としてその立証責任は納税者に委ねられるべきものと想定されることからもいかなる判断で、本件のような取引に於ける対応区分を判断すべきであるのか明確にすべき課題ではないでしょうか。

以上です。長々と書きましたが、相変わらず論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2016年11月7日月曜日

判例裁決紹介(平成27年10月7日裁決、ソフトウェア委託開発の課税仕入の日】

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。

今回は平成27年10月7日裁決でソフトウェアの開発を依頼した請求人の消費税法における仕入税額控除のタイミングとして課税仕入を行った日が問題となったものです。
  具体的には、外部業者にソフトウェアの開発を委託していた請求人が、当該外注費用を課税仕入の額に含めて確定申告を行ったところ、課税庁が当該費用の仕入税額控除を否認し、仮装隠蔽が行われたとして重加算税を賦課決定したところこれを不服として提起されたものです。
法令解釈としては、仕入税額控除の判定を行う課税仕入の日がいつになるのかという意義内容が問題となったことになるのですが、ソフトウェアのみならず外注における課税仕入の日を具体的に判定する基準として、実務上も有益なものであると考えています。
課税仕入が如何なるものであるのか自身がそもそも法令解釈としては、問題でもあるわけですが、現状の帳簿方式を前提とする以上、課税資産の譲渡等を表裏一体の関係にあると解されることになります。仕入税額控除の趣旨目的から鑑みてこの解釈自身の妥当性も議論されるべきではあると考えていますし、今後適格請求書保存方式が導入される中でこの一体性が今後も同様の解釈がなされうるものであるのかという点は疑問の余地もあります。現状においては法的な取引が成立履行した時点をもって課税資産の譲渡等が行われたものと判断すべきであり、租税法の基本的な要請に従い、客観的に契約の成立履行が確認可能なタイミングによるべきと解するべきであります。この具備が適格請求書保存方式の採用において変化すべきか否かは、今後より検討すべき課題であると考えています。
  したがって具体的な当てはめにおいては、今回の外注が請負契約である以上、通常の外注は請負契約であることは当然のことかもしれませんが、民事法上、この請負契約が、いかなる性格のものであり、この点から上記課税仕入、課税資産の譲渡等に該当した日として判断されるべきか決定されるべきであり、基礎となる取引の有する法的な性格に基づき当該判断は行われるべきものと考えています。単に課税仕入れがいつ行われたかという当事者の認識に基づくものではなく、恣意性を排除し客観的な事実関係に支持されたものであるべきでしょう。
このような考えによれば請負契約は契約の整理その性格上一定の目的物の完成引渡しをその主たるものとしています。この目的物の完成引渡しがいかなる時点であり、課税資産の譲渡等において合致するのかが問題となります。今回はソフトウェアの外注による委託開発という成果物であることの特性が課税仕入れの日の判断に影響を及ぼすことになるでしょう

  つまり成果物の完成がいかなるものであり、どのタイミングで引き渡しされたものととらえるべきか判断されることになるのでしょう。本件の事実関係ではメールでの引き渡し・納品である場合に、いかなる時点で引き渡しが行われたものであり、それが完成したものであるのか判断する(検収)プロセスが基準として重要なものとなるでしょう。より具体的にはメールサーバーでの到着日がメール納品における判断基準として指摘されています。ソフトウェアという性格上、メール納品が行われることからもどのタイミングが消費税法上、適格であるのかさらに議論されるべきでありますが、バグの修正等完成の判断が明示的ではないものであり、本件でも完成が未了でありながら、部分的に納品されたものをもって課税仕入れとして判断していたとの認定で課税庁の判断を支持しています。本判断ではあまり問題になっていないのですが、仕様、契約内容における具体的な要求に基づいているのか等の基準の明確化が今後このようなソフトウェア開発等の増加に対して租税法の課題であると考えています。もちろん適格請求書の導入においても一義的にこの請求書に依拠した判断はかえって、租税負担の公平性を損なう恐れがあり、この観点からもこの基準の検討が必要であると考えています。
  本件で問題となった外注業務一般においてもいかなる時点で請負契約の完了を租税法務において認定し、消費税法上課税仕入れの日として判断するかは上記のような枠組みによるべきものと考えられますが、成果物の性格に基づき、具体的な完了を客観的に判断する基準を見出すことが必要であるといえるでしょう。もちろんこの判断は基本的には民事上の議論に依拠すべきものであることも事実ですが・・・。
 また、他にタイミングの決定を補完するものとして、いかなるものを考えるべきでしょうか。現行は帳簿方式を採用していることもあり、法人税法上の損金計上のタイミングに基本的に整合しています。この点は本件のような事実関係においても整合するものとして判断されるべきでしょうか。この形式は簡易的ではありますが、そもそも法人税法と消費税法は性格を異にするものであり原則的に整合すべきものであるとは考えていません。また、実際の金銭の支払関係をいかに把握したうえで判断に活かすべきでしょうか。消費税の性格上個々の取引に応じて判断されることから実際の金銭の支払はそのタイミングを決定する上で考慮要素として実務的には重要なのは変化がないのではないでしょか。この点も今後も検討したいところです。

長々と書きましたが、以上です。
毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。 裁決

2016年10月29日土曜日

判例裁決紹介【平成28年3月7日裁決、任意組合持分の譲渡】

さて、また興がのったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年3月7日裁決で、任意組合の持分を譲渡したことによる所得の取扱が問題となった事例です。

具体的には、ホテル等を営む不動産に関する組合契約を結んだ請求人がその持分を他者に譲渡した場合において、得られた所得がいかなるものと捉えるのかが問題となったものです請求人は総合課税対象となる譲渡所得であるとして申告したところ課税庁が当該譲渡は組合契約の対象となる譲渡所得であると不動産と密接不可分の持分の譲渡であるとして分離課税の譲渡所得に関するものであるとして更正処分を行った事例です。

任意組合の法的性格は民事法における議論であり、その組合契約に関する所得の帰属等に関しては、法的な取扱に関する規定が存在せず、通達に依拠しているところですが、本件のように近年は組合契約に基づく資産の保有や、投資事業の実施など環境は変化しつつあるように思われますので、この点で、今後の実務においても検討すべき事項であるように考えています。

裁決では、課税庁の見解を採用して、本件のような任意組合の持分の譲渡を組合契約の主たる目的である財産の保有に対して密接不可分なものとして捉え、当該持分の譲渡は不動産の譲渡と実質的には同質なものとして分離課税による譲渡所得として認定しています。

この点で、組合の財産保有に関しては組合員の共有として評価される性格であることも鑑みるとたしかに財産譲渡に関する性格を有することに異存はないのですが、単に密接不可分な財産との紐付きのみの存在として認識するべきでしょうか。請求人は収益への参加など、組合員たる譲渡として一種の有価証券・株式と同様の地位にあるべきものとして評価しています。我が国の上記通達は組合契約の損益の帰属は直接組合員に帰属するものとして捉えており、財産持分の転化したものとして組合持分と捉えうることは合理的な考えとも評価できます。主として民事法上の組合の評価に関わるものであるのかもしれませんが、租税法規における評価として当該契約の資産に発生したcapital gainをいかなる帰属として考慮すべきかという点も含め、単に財産との不可分な持分としてのみ評価することは議論の余地があるものと捉えています。

過去の裁決では、類似の匿名組合契約の持分の譲渡や有限責任事業組合の持分の譲渡などは総合課税の対象たる譲渡所得課税として判断していますが、このような契約主体の相違により課税関係が異なることになるのは留意すべき点ではありますし、バランス上問題とも言えるでしょう。逆に考えれば、任意組合の持分と上記との間でいかなる差異が存在するのか、当該差異をいかなる意義に依拠して課税上取扱を異にする原因として評価しているのかは、解釈上議論すべき点であると言えるでしょう。

本件の取扱は米国におけるpartnershipによる持分の譲渡と類似する点は見られるのですが、近年の投資環境を考慮するならば、持分の譲渡以外にも、組合と組合員の間での取引の評価(りんご生産組合の事例のように)、損益分配時の源泉徴収、出資時の課税関係(労務出資等も含む)、新規での組合への参加、途中退出など、立法によって解決すべき段階に来ているのかもしれません。
そもそも所得の帰属に関して規定がないことが許容される情況は租税法律主義の観点からは問題とも考えられるところです。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに

2016年10月20日木曜日

判例裁決紹介【平成28年3月31日、みなし役員の認定】


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年3月31日裁決で役員として経営に従事しているとして更正処分を行った事例に対して、不服申し立てを行ったことに対して一部請求人の主張が認められ、役員としての地位にはなく、支払った金額は業務委託費であると認定されたものです。外注費と役員の関係は珍しいですが、役員給与の認定と関連してその経費の性格を議論したものとしては実務上も参考になるものと評価しています。

具体的に裁決は、保険代理店業務を営む請求人の株式50%超を保有している使用人がみなし役員に該当するとして当該使用人に対して支払った保険契約の募集に関する業務委託料は、法人税法におけるみなし役員に該当し、役員給与として更正処分を行ったものです。主たる争点は当該使用人が経営に従事している役員に該当するか否かという点ですが、設立時の経緯からも当該使用人の家族を代表者とするなど、経理的に未整備な企業であるようであり、他にも事業経費の損金性が問題となっています。

当該使用人は請求人の株式を50%超保有して、調査段階でも供述で代表者として業務を行っていたとの書類や契約書に代表取締役として署名しているなどの事実関係を有している状況にあるのですが、このような状況であっても役員としての認定を必ずしも裏打ちするものとはとらえず、裁決としては判断としてその役員として認定を退けました。通常であれば、株式会社の株式50%超の保有しているような状況では、取締役として登録されているべきであると判断して、通常は経営に従事していると判断してその者への支払いは役員給与として認定することが妥当であろうと考えられます。

しかしながら、本件では裁決としてその認定を否定しました。上記のような通常の一般的な観念に基づく役員の認定を行うことなく、株式の保有がその経営に直接的に結びつくものではないとして慎重に判断しています。役員としての認定に関しては、その実質的な業務内容等に関して、総合的に、客観的な事情に基づいて判断されるべきとして、認定を行ったことになります。

本件の主たる争点が役員としての認定にあるのではなく、請求人の支出がいかなる性格を有しており、租税法上いかに評価されるべきであるのかがその主たる争点であることに鑑みると、単に役員であることとしてみなされることがその役員報酬に該当するものではく、いかなる業務に対して支払われたものであるのかという、支出先ではなく、その支払対価としての性格に着目した判断ともいえ、冷静な判断過程に基づく判断と評価されるべきです。

特に判断を左右した点としては、基本的な認定が当該使用人の行動や供述にのみ基づいていることと考えられます。現在の業務を主宰する請求人の代表取締役等に調査を行っていないなど、調査手続き上、立証において調査段階での不備が問題になっていますが、他の争点でも本件は調査段階での問題が争点になるなど、調査上の不備が認定を支えるべき客観的な資料の要求に達しておらず、経営に従事しているとの認定が困難になったものと評価されるべきかもしれません。そのような意味でも調査における実質的な資料の入手が、判断上のプロセスの合理性が具体的な判断における重要なテーマになったものと考えるべきです。

もちろん、経営に従事しているとの認定においては、その経営に関する業務に従事していることが必要であるのですが、具体的に経営に関する業務とは如何なるものであるのかという点は、定かとは言えません。経営とは包括的な概念であるとは考えられますが、いかなるものがその業務に該当することになるのかという点は、本件に限らず、外注と人件費とを区分するうえでも問題視されるべきとはいえるのではないでしょうか。

また、別の争点になりますが、請求人の損金の認定において、その具体的な立証を図るうえで、いかなる事実関係にあるのか、業務との関連性、あるいはその実在性について、納税者と処分庁のいずれかにあるのかという点で明確に証拠との距離感から納税者に対して一定の責任を求めています。先般の東京地判でもありましたが、裁決例において事実上の立証責任の転換を図った事例としては注目されるべきものといえるのではないでしょうか。基本的に課税庁に立証責任があることは否定されていませんが、証拠との距離に照らして、更正処分時において損金の額について参入を認めることができないとの事実上の推認ができる場合には、納税者に推認を破る程度の具体的な反証を求めています。

このような立証責任についての考え方は、近年の傾向であるともいえますが、このような責任を分配する考え方は、いかなる形態の課税処分において適用されるのか、あるいは包括的に、一般的になされるべき責任分配であるのかという点についてはより詳細な検討が必要でしょう。

以上です。毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。裁決

2016年10月13日木曜日

【譲渡所得特別控除の要件・居住の意義】裁決平成28年3月17日

また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は、裁決平成28年3月17日で、つい最近公開されたものです。事案としてはシンプルで譲渡所得課税の特例である、居住用財産の特別控除の適用して申告した請求人が、その具体的な適用要件である居住の用に供している家屋に該当性を否認されたことを不服として提起したものです。

具体的には請求人が租税特別措置法35条に定める譲渡所得の特例としての「居住の用に供している家屋』に対する特別控除の適用を申請したものの、当該家屋は相続以後、譲渡段階において水道ガス電気の契約がなく、住民票もないような状況であり、実際に居住の用に供しているとは認められないと認定された処分に対して不服を申し立てています。

請求人の主張を検討すると、住民票をおいている借家との対比において当該家屋が居住実態を有していることの根拠として
  • 当該家屋ではテレビもつけず
  • ウェットティッシュで体を拭き
  • 公園の水を使用
  • このような環境でも妻から責められるよりは心理的に安定している
と主張して居住の用に供しているとして、その特別控除の適用を求めています。
私見ながら、このような主張が認められると考えたところにも驚嘆しているところですが、なかなか悲哀も感じるところでもあり、近年の裁決例では屈指の存在です【(笑)】。
当然のごとく、裁決では、その判断として請求人の主張を退けていますが、法令解釈上は以下のような点で検討すべきものと考えています。
まずは、「居住の用に供している」という文言の意義です。
特に、この要件の解釈として、、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の本拠としていたことを要するものとして解釈しています。
すなわち、現に一定期間の居住の事実を求めて継続的に居住に関する事実関係の存在を求めている点は、興味深いところであります。純粋な文言の解釈においては、特に居住の用に供しているという文言において、継続的な過去の段階での居住の事実関係を求めているというよりはむしろ、譲渡時においていかなる事実関係において利用されているのかを問題とするように理解されます。この点につき、一定期間の継続的な居住の事実関係の必要性については、従前の判決等と整合的であり、安定的ではあります。
私見としても、本特別制度が、居住の事実に着目して、通常の家屋よりも今後の生活の拠点を整備する必要性から、担税力が小さいものとの判断に基づき、譲渡所得を減少させる納税者に取って有利な特別控除を制度化していることを鑑みて、また、単に一時的な居住事実をもって譲渡時点の担税力の減少を図るような租税回避行為を防止する観点からも、本要件の解釈として一定の期間における居住関係の事実を必要とする解釈は合理的なものと考えられます。このことは、当該特別控除が毎年度の適用を認めず、3年に一回の適用を認めている点からも整合的であるでしょう。
確かに文言上は継続的な要素を加味するべき条件は明確ではなく、法規に存在しない要件を付すものであり租税法の基本的要請たる予測可能性に反するとの意見も合理的ではありますが、制度趣旨等から鑑みて、当該条件は合理的な範囲を逸脱するものではないのではないかと評価しています。
なお、この場合、一定の期間の継続的居住がいかなる期間を指すものであるのかという問題は残ります。この点については裁決等でも明らかではなく、この点でより解釈上の問題があるものでもありますが、継続的な居住の要件が排除される可能性はないものと考えられます。
また、上記解釈では、別の用件として真に居住の意思の存在も必要とされています。この点も法文の解釈上、納税者の主観的な意思の存在を必要とする要件は、明示されていないのではないでしょうか。確かに、居住という行為自身は納税者にとって一様ではなく、納税者の主観的な意思に基づき、その判断をせざるを得ない状況も想定はできるところではあります。しかしながら、上記の解釈でも租税回避への対応を一つの争点としており、納税者の主観的意思に依拠した判断を実施すると言うよりはむしろ、主観的意思を標章するであろう、客観的な事実関係に着目した判断が合理的であり、租税特別措置法という一種の租税負担の公平性を犠牲にした制度において租税回避行為につながるような判断過程は妥当ではないと評価すべきでしょう。
主観的意思の考慮を如何にすべきかは、租税法の解釈にとって幅広い分野において問題となりうるものではありますが、本規定のような租税特別措置法の解釈においては一般的に議論の余地があると解するべきでしょう。そもそもの問題としてはいかなる状況にあることが合理的な居住に該当するのか、その居住という用語自身が保有する不明確さが問題であるように考えられます。規定の趣旨から考えて合目的な居住とは如何なるものを指すのか議論すべき課題ではないかと思います。
そのような意味で、本件のように、具体的な居住関係が争われた判断においていかなる具体的な基準としていかなる要素が、考慮されているのかという点は、検討に値するでしょう。本件では、電気水道ガス等の契約の有無に基づき、実際の使用において客観的な事実の標章としての存在による使用の事実関係のアプローチ、さらには家屋の老朽化などの機能面からのアプローチも採用しています。居住という太陽な意義を有する事実関係を背景にしていることからも総合的なアプローチになることは租税法として極めて合理的だと考えられますが、単に使用事実を推定する事実関係のみならず、実際の対象の状況などの機能面の状況も考慮している点は、参考になるのではないでしょうか。他にも、自治会への加入状況、近隣の証言なども考慮対象に含まれています。逆に住民票の存在は、考慮対象としては問題とされていません。
もちろん、このような判断過程を如何にして具体的な居住関係をサポートするかについては、納税者の主張にも左右されることではありますが、上記のような判断要素をその対象としている点は有益な判断要素ではないでしょうか。
加えて、本件では問題となっていませんが、本規定の具体的な要件の一つである、居住の用に供しなくなってから一定の期間までもこの措置の対象となります。その場合、この具体的な居住の用に供している期間が終了した日とは如何に認定されるのでしょうか。この点も上記のように居住自身の多様性から鑑みるに、容易には判断がつかない問題であるように考えられるところです。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いです。裁決

2016年10月6日木曜日

東京地判平成26年10月17日【瑕疵ある申告への国の責任】

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成26年10月17日で、納税者がなした確定申告について総額で数億円規模の申告誤りを行い、その減額更正を請求したもののその起源を超過していたため、対象とならず、客観的に明確な、かつ重大な深刻に対する瑕疵があったにも関わらず、税務署長が減額の更正処分を行わないのは、担税力に基づかない課税であって、また財産権の侵害であり、課税の公平に反するもので、当該申告は無効であり、また、無効でなくとも、非常に明白な誤りが存在する深刻であって、税務署長には国賠法に基づく、減額更正を行うべき義務があったとして国家賠償を求めた訴訟です。

具体的に、この申告の瑕疵の原因となった取引は、原告が保有する海外子会社が発行した新株予約権に関する課税処理であり、給与所得として申告したのに対して、実際は一時所得として考えらえるべきものです。この内容自身、原告の主張や、裁判所の認定にもありますが、概ね通常の税理士では、ミスとなるような状況で、高度かつ複雑な案件であります。まあ、新株予約権による所得をストックオプションとして機械的に従前の処理に従って、給与所得として申告をしたものとも考えられますが、著名な最高裁の判断においてもそのように一律に給与所得とすべきものではなく、一時所得に該当する可能性も否定されていないという点は、通常の専門家であっても判断が困難なものかもしれません。
そのような意味では、本来ならば、委任した税理士に対して損害賠償をすべき案件であり、いい方は悪いかもしれませんが、納税者の逆切れといったような裁判例で、あまり、参考としてほしくはない事例ではありますが、課税処分に対する納税者の不服に対しては、なぜ、誤りを税務署が正してくれなかったのかという、素朴な思いを持つものでもあり、そのような思いに対する訴訟として記憶されるべきものと考えています。

解釈論としては、課税処分に関して国賠法上の違法となるのはいかなる場合かということが問題となったのですが、従前通り、納税者が主張するように結果的に課税処分の違法性をもってその対象として国賠の対象となるのではなく、公権力の行使の時点での職務上の法規違反等をその対象とする形で、判示としては納税者の主張の一端を退けています。
立法論としては変更の余地はあるものですが、課税処分自身が大量かつ反復的なものであるということを考えると、制度改正の誘因は低いものと判断されるべきものです。単に瑕疵があった申告があったという事実のみでは、違法とされる状態になく、税務署職員による誤った説示、慫慂等があって初めて成立するべきものと解されるでしょう。課税処分の性質等を考慮すれば妥当なものと判断されます。

かつての実務では、減額による場合も含め更正の請求ができる期間制限は、一年とされていましたので、このような減額の更正に関しては、嘆願書によるべきものとして処理されていましたが、平成23年の税制改正においてこの期間制限は延長され、5年とされましたので、本件のような請求の機会は減少するものと想定されるところでもありますが、基本的な納税者の意識は恐らく、変わりようがなく、このような思いに対する判断としては参考となるべきものとして、留意されるべきものでしょう。言い換えれば立法的に解決された問題とも評価できるかもしれません。

また、個人的に気になるのは、納税者の主張にもあるように、このような明白な瑕疵は財産権を侵害するものであり、課税の公平負担に反するものとして無効となるという主張です。あるい意味当然なのかもしれませんが、担税力という極めてあいまいな概念に基づいて、租税公平主義に関する法的な概念に合致するとしてその処分の無効を主張する意味はあるのでしょうか。確かに制度的に包括的所得概念を採用していることは通説となっていますが、特に条文にもない担税力の概念によって判断をすることは困難であるように思われるところです(判示でも特に判断していませんし、従前とも同様です)。このような法令外の要件が認められるのであれば、担税力の概念自身がすでに経済学的には、過去のものとなりつつあり、効率性や、最適性をもとに租税負担を解釈すべき見解もその考慮要素になってくるように思われます。少しずつ、租税法においても単に担税力といった概念に限定される法令解釈も成り立つと考えられるところでもありますが、法令の安定性を重視する租税法規の立場からは慎重な検討が必要になるのかもしれません。

以上です。
毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

判決

2016年9月28日水曜日

東京地判平成26年11月20日

また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は、東京地判平成26年11月20日で不動産取得税に関する土地の軽減税率の適用を巡って、土地の 上に建設した建物判定が問題になったものです。従って、マニアックな地方税に関する事案ではありますが、いかなる建物を捉えて特別措置等をて供するかが問 題となっていますので、租税における建物に対する条文の適用に当たって一般的に参考になると思います。

具体的には、不動産デベロッパーで ある原告が土地を取得し、当該土地に建物を建設にする取引事例において、課税庁が課した不動産取得税、特に不動産取得税の軽減措置の適用対象になるとして 原告が主張した事案です。不動産取得税には軽減措置があって、取得後一定期間内に、その上に住宅等を建設した場合は、大幅な軽減措置の適用を受けられるの ですが、大規模なマンションの場合は、建設まで時間が近隣との調整など、大きな時間を有することからこの軽減措置の適用に当たっては、一定の猶予期間が定 められています。
この一定規模の判定単位が問題となったのが本件であり、本件では当該土地に複数の棟からなる建物を建設し、不動産取得税の課税庁 でもある市町村から団地の認定をうけ、建築確認を受けています。この団地における共同住宅の規模が一つ一つの棟は80件程度で、法が求める要件である 100件以上という要件には達していませんでした。但し団地としては、一つの土地において、約400件を超える共同住宅が存在しています。これによって不 動産取得税の納税額が数千万単位で相違することになります。従って、この要件の適用となる土地の上に建設した建物の判定単位が一つの棟をベースに判定する のか、取得した土地一般においての建物であるのかが問題となりました。

判示では、課税庁の主張を認め、執行の便宜や文言の解釈【共同住宅】の解釈から、住宅の単位として、基本的な単位である一戸若しくは一棟が住宅の単位であると判断しています。

不 動産の登記上は、一つの建物として登記する場合、効用上一体として利用される状態にある場合は、一つの建物として登記が可能です。現行法においても如何な るものが家屋であるのかという点については、不動産登記法上の意義を租税法において借用していることは法文上も明らかではありますが、如何なるものを一つ の単位として家屋、特に共同住宅として捉えているのか、という点については定かではありません。

私見としては、家屋の意義について不動産 登記法の意義を借用している以上、その判定単位についても同一の意義に解するべきであり、通常の日本語の文言に言うところの家屋の一つの単位にこだわるべ きとする判断は、租税法が予測可能性を重視している現状から鑑みて不整合であるように考えています。ましてや建築確認に於いて課税庁において一体として団 地認定を行っている事実関係に鑑みれば、このような判断単位に基づいて特例の適用を判断することは妥当ではないように考えられます。具体的な特例を定めた条文 である地方税法73条の24においても居住の用に供する目的で独立的に区画された部分を有する共同住宅等という文言の解釈においても明示的に一体として機 能する建物を一つの単位として捉えることは禁止していませんし、文理からみても明らかに通常の日本語の用法を活用した判断は疑問です。

確 かに、具体的な利用状況や利用意図に於いて建物の区分を行うことは、納税者の主観的な意図によって租税が左右される可能性をうみ、恣意的な課税になりうる とことではあります。また、執行の便宜という点からも、具体的に一つの建物として認定、客観的に確定させる基準を作成することは困難であり、法的な安定を 欠く懸念は存在します。法の趣旨から言っても適用範囲を拡大するような解釈は困難な可能性も考えられます。立法論としては、限定的に解釈するような文言を 挿入すべきとも考えられますが、不動産登記法の意義を準用しながら、一方でその準用を否定するような解釈は、租税法規の原則に照らして妥当なものと評価す ることは困難であると考えます。一般論としては租税法規において家屋の判定単位を通常の用法から離れている場合も許容するとする解釈は上記の点からも困難 であろうかと考えていますが、個別具体性から例外的には考慮する余地もしくは立法論として検討の価値はあるのかもしれません。

不動産取得 税が土地のに着目して、その上に存する建物の状況を加味して軽減措置の適用を認めている以上、土地の存在を一つの前提として、本来ならば法の要件を単に共 同住宅等とせずに土地の上に存する共同住宅等で判断すべきであることは、合理的であると考えられるのですが、立法論としてはいかがでしょうか。

以上です。

毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

 https://sites.google.com/site/hamadaensyu/home/shen-hu-zu-shui-fa-wu-yan-jiu-qing-bao-jiao-huan-hui

2016年9月20日火曜日

平成27年7月28日裁決

興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。

今回は、平成27年7月28日裁決で、
損害賠償請求に基づき裁判所命令で、保有する株式を発行会社に譲渡した請求人が当該所得の所得区分を巡って争ったものです。
事案として少しレアなケースに基づく判断ではありますが、所得区分を判断するタイミングをどの時点で行うのかという点では一般性を持つ判断であると考えていますので参考となると思います。

複数の損害賠償請求を訴訟にて争っている請求人がそのうち一つの訴訟において賠償を認められ、その弁済として保有する株式を発行会社に譲渡することで発生した所得、通常ですと、自社株の取得に伴うものであるので、譲渡所得ではなく、みなし配当の対象として配当所得課税の対象となるのですが、今回も課税庁は当該所得区分として更正処分を行いました(約4億円)。しかしながら、請求人は、当該所得は、強制的な譲渡によるもので所得税法9条に基づき、強制的な債務弁済のための資産の譲渡に該当し、資産の譲渡原因が譲渡者の資産状況、経済状況が悪化したことに伴い債務弁済が著しく困難である場合に該当するとして非課税所得として主張したものです。

確かに、当該譲渡命令以後、請求人は、抱えていた同様の損害賠償請求において債務弁済を命じられ、実質的に債務弁済が非常に困難な状況に至りました。従って、非課税所得の該当性を判断するタイミングがいつの時点であるのかこの点が主たるテーマとして争われました。

裁決としては、課税庁の主張を認め、資力の判断は譲渡時によるものとして、請求人が主張するように、処分時の状況において判断すべきとする主張は退けています。

私見としても、当該裁決の判断は妥当と考えています。
そもそも、9条の規定の趣旨は、包括的所得概念の基本的な理解から、複数の理由から、包括的所得概念の志向する公平性を犠牲にしてもなお、所得課税の実現を図ることが妥当ではない類型を立法化することで非課税所得に該当することを制度的に保証したものです。従ってその非課税の趣旨から鑑みて、適用範囲やタイミングを決定すべきことになるのですが、今回のケースでは、資力の実質的な喪失が理由となっているものです、この点がいかなる理由によっているか否かは、見解が分かれるところではありますが、大きく分けて徴収上の便宜や債務者弁済の実を図るものととらえられるものと考えています。

このように解すれば、実質的な妥当性を図る観点からみて一定の将来の時点での状況を考慮して、債務弁済に関する状況を判断することが可能となる見解も一定の妥当性を有するものとも考えられますが、今回の判断のように納税義務が発生する譲渡時をその判断起点とすることが、解釈論としては妥当でしょう。
確かに連続した今回のようなケースでは損害賠償請求による債務弁済、経済状況の判断は比較的容易であり、想定の範囲内であります。しかしながら、このようなレアケースをもとに、判断のタイミングを拡張することが法的な安定性を図るべきとする租税法律主義の要請に合致するとする判断はなく、もう一つの租税負担の公平性の観点からも当該制度がその犠牲を図ってもなお、非課税とする趣旨であることから考えるに、拡張的な解釈の妥当性は極めて限定的にとらえるべきでしょう。

もちろん、より詳細に本規定の非課税趣旨を議論すべきでもありますが、訴訟段階にある他の状況を鑑みて、経済状況を把握すべきとするような拡張的な解釈をすべき理由は、当該他の債務が未確定である以上、実質的にみても個別的な妥当性を追求して解釈を広げるべき理由とはなりえないものと評価しています。

以上、毎度のごとく論文ストックとして作成しているものですので完成度は低いですが気にせず。

2016年9月16日金曜日

本ブログは租税法を専攻する現役大学院生や大学院修了生と共有している判例裁決の備忘録として活用していく予定です。

論文などのStockとして作成しているものですので、完成度は低いです。

神戸租税法務研究・情報交換会の報告原案でもあります。