さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年2月4日裁決で、海外不動産の評価が問題となった事例です。
具体的には、相続人である請求人が米国に所在する不動産(賃貸用)を相続により取得した事案において、その財産価額の算定につき、所在地における地方税である遺産税の評価額に基づき、申告したところ、当該評価額は別荘地である特殊性から収益方式によって評価されたものであり、売買実例と大きな相違があるとして、当該州の遺産税評価額に基づき評価すべきとして更正処分が行われたところ、それを不服として争われた事案です。
国外財産の評価において、我が国の財産評価上、いかなるものとして捉えていくべきであるかは、解釈上も課題であると考えられますが、近年は国外財産を保有する相続関係の事案も増加しており、その評価方法は実務においても課題ではないでしょうか。
海外財産を評価する際には、まずはその鑑定評価をいかに捉えるべきかという点が問題となるでしょう。複数の評価額が存在する場合、原則として通達の評価を行うことになっていますが、この点は我が国の財産評価において財産評価基本通達の位置づけを考えれば、整合的ではあります。
本件は裁決であるので、通達自身の合理性については、問題となっていませんが、財産評価基本通達では、下記のように、
評価通達5-2《国外財産の評価》は、国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することに留意するとし、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。
記載されています。この中身の合理性はまずは検討されるべきものではないでしょうか。
この通達がいかなる意義に基づき、特にそのいかなる法解釈として帰結の結果であるのかは必ずしも定かではありませんが、実務の指針としては機能していることは揺るぎようなないものと考えられます。
通常は基本的に相続税法が定める財産の価額、すなわち不特定多数の取引をベースとした客観的な交換価値に対して上記の国外財産評価が該当することになるのか否かが問題となるでしょうが、財産評価基本通達が前提として土地の評価等において固定資産評価や路線価などの我が国の事情を反映したものであり、原則的に通達をもってその国外財産を評価することは困難であると考えるならば、基本的に国外財産に関しては、個別的に対応すべきであり、本件の通達もこの表れであるように評価されます。
しかしながら個別対応として取り扱うだけでは租税法がその基本的な要請とする予測可能性を充分に担保するものではなく(この点では基本的に立法によるべきであるかもしれません)、この点で本件通達における準ずる方法や例示されている売買実例や精通者意見価格が具体的な個別対応における指針となっているものと考えられます。その点でこれらの指針は重要な位置づけを有しており、例えば準ずる方法がいかなるものであり、、いかなる条件において適用されるべきものであるのかという点が定かではない、また、売買実例等の例示に基づき、いかなるものを準備されるべきであるのか、参酌するとはいかなるレベルで捉え具体的な評価に適用していくのかという点は、検討すべきでしょう。まずは、相続税法が定める価額の意義に照らして適格か否かその基本的な法解釈に依拠した点がその妥当性を判断する要素となるべきものと考えられます。
このように考えると相続税法において価額の意義としていかなる要請を行っているのかという点が問題となりますが、たった二文字ではありますが、その解釈が重要なものと捉えられます(言うまでも国内財産においてもその意義は重要ではありますが)。事実上我が国の財産評価においては財産評価基本通達がその支配的意義を有していることは疑いようがないですが、国外財産においては、前記のように前提が異なることもあり、まずは、法が要請する価額の意義に立ち返るべきものというべきでしょう。
本件では、国外財産について、複数の租税が関連し、それぞれ、評価方法が異なることから(もちろん価額も大きく相違しています)、問題となった事案ではありますが、まずは例示にある考慮対象がいかなる要請を行っており、等と記載していることからも他にいかなるものが許容されうるものか定かではないものと捉えています。例示である以上、これに限定されるべきものではありませんが、財産種別や国外の状況等非常に多様な状況が想定されうるところで、それぞれの評価が価額に合致しているか判断することは非常に困難な作業ではないでしょうか。特に必ずしも価額自身がいかなるものを要請しているのか、定かではないとも考えられ、法解釈としても大きな課題というべきです。
本件はあくまでも裁決であるので、通達の例示等に拘束されるものであり、その意味で本件の判断はこの判断基準とに依拠した場合には合理的であると評価できますが、更に検討が必要であるといえます。
私見としては相続税法はまずは、その相続税負担において適正な財産の価額、すなわち経済的価値を適正に反映させ、また、評価であるがゆえに介入の余地が避け得ない恣意性を如何に排除して行くかが法の要請であるように考えられます。
この点は判例において客観的な交換価値をベースとして解釈していることからも裏付けられるでしょう。従って単に適正な価額であることのみではその要請に合致するものではなく、いわば、交換価値の適正性と客観性を兼ね備えたものが法の要請する価額であると捉えるべきであります。この点から通達の解釈が妥当であるのかという点が定まるものと考えられます。
本件のような国外財産では基本的に財産評価基本通達によることが困難であり、妥当ではない以上、問題は、上記のように、法が要請する適正な価額においていかなるものが基準として妥当であるのかという点でしょう。特に実例や精通者意見価格に於いて恣意性をいかに排除していくか、複数の評価に対して総合的な判断も用いて行くことが必要であるとも考えられますが、評価の合理性を担保するためにもその判断基準が求められるものと考えます。本件では、財産税において収益性に基づく判断を行っていますが、基本的に我が国の固定資産評価において固定資産評価額等を用いて評価していることとの整合性からも問題であり、収益還元性を利用した評価は客観性という点でも実勢売買とは異なりうるもので、本件のようにその財産税価格の評価を用いることを否定した判断は、相続税法の要請に合致していないという点で妥当なものと考えられます。
また、本件では最終的に遺産税の申告に用いられた価額を合理的と評価して適用しています。これについても、海外の法規に於いて定められた評価額(FairMarketvalue)が我が国の法規による財産の価額に合致するのかという点も問題といえるでしょう。海外の法規に定められた用語が我が国において適用可能かどうかは、「法人」の意義が争われた事案でも問題となったように、海外の法規の条件や我が国の法規の文言との整合性などの点で一定の評価を必要とするものであるといえますが、本件ではこのような判断を特に行わず、日米相続税条約における価額評価も検討すべきですが、あっさりとその評価額の我が国の法規への適合性を評価しています。この点は、海外の法概念が我が国の課税要件に合致するのかという点でも慎重な判断が必要なものと考えるべきであり、結局は我が国の価額の意義も問題になるわけではありますが、更に検討が必要な課題であるといえるのではないでしょうか。
以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。
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