2022年7月30日土曜日
判例裁決紹介(大阪地判令和3年4月22日、不動産所得の帰属、実質所得者課税の原則、親子間での使用貸借成立の有無)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和3年4月22日で、不動産所得の帰属に関する親子間での使用貸借の成立が争点となった事例です。
具体的には本件は、案件としてはシンプルであるが、親であり、不動産を保有する原告が子に対して当該土地を駐車場用地として使用貸借により貸出、また駐車場用設備(舗装等)を贈与したとして、当該駐車場に関する不動産所得を子供が申告していたことにつき、当該所得は租税負担を回避することを意図したものであり、親である原告に帰属するものとして更正処分を行ったことを不服として提起された事例である。
高齢の親と子供との間での契約、特に使用貸借という契約が真正に成立したものであるのか否かという点が中心的な争点となっており、基本的には事実関係の問題であるようにも捉えられるが、このような高齢者が関与することになる契約は相続対策として非常に重要な契約関係となるべきものであり、近年の社会環境においては、その取引の成立の真正性を扱う事例は重要性を増すものと考えられる。本件は納税者の主張が認められ、使用貸借の成立が認められるなど珍しいものであり、このような点において、本件事例は租税専門家において重要な示唆を含むものであろう。
また、本件の主たる論点においてこの取引の否認において(真正性の否定)としていわゆる「処分証書の法理」における特段の事情として、使用貸借に伴う異常な本件のような租税負担の回避を否定を主張する課税庁の主張を本件では、下記のように述べて
「節税効果を発生させることを動機として本件各使用貸借契約を締結することはあり得るのであって、節税の動機と目的物を無償で使用収益させる意思とは併存し得るものである)から、上記の目的がある場合であっても、直ちに本件各使用貸借契約書に記載どおりの行為がされたとの経験則を妨げる「特段の事情」があるとすることはできないというべきである。」
経験則的な処分証書の法理の成立の例外的な取引否定の方法論を否定している。この点も租税回避の否定方法としてこのような議論展開が許容されるものであるのかという点は、検討の余地があろう。大枠として基本的には取引の真正な成立の問題として仮装行為の問題であるとの印象もあるが。
租税回避の否認に関しては、否認規定の存在や私法上法律行為の否認論など多様な議論が存在するものであるが、本件のようないわゆる処分証書の法理の特段の例外的扱いとして租税負担の回避を位置づけるような検討が適当であるのかというものは検討の余地がある。税大でも議論がなされているようではあるが、処分証書の法理が私法上の法理として一定の位置づけがあることは否定しがたいものである。しかしながら租税法律主義が機能する租税法規に置いて経験則的な位置づけではあろうと、その成立を妨げる要因として租税負担の回避を用いることができるのか、これが租税法規の適用において基礎となる取引の判定において適用可能なものであるのかという点は議論の余地があろう。別に立法論として同族会社と同様に親族間の不当な租税負担の軽減を調整する規定については議論されるべきであろうが。
さらに、本件では、実質所得者課税の原則の成立の議論が行われている。判示では、課税庁が主張するように本件の起因となる不動産所得においてその所得区分上、資産の所有に基づく、担税力を前提とした課税を否定しており(使用貸借は弱い権利であり、所得の起点とならないという主張を否定している)、収益の帰属という部分に対して担税力の反映による判断の否定をしている点は特徴的ある。用語として使用していないが、いわゆる実質所得者課税の原則における法的な帰属を基礎とした判断であり、経済的な帰属(資産課税における所有権や担税力に基づく)による課税庁の主張を否定しているように考えられる。かかる争点においても素材となるべき事例であろう。
以上のように本件は複数の論点において重要な示唆を含むものであり、実務家においても有益な事例であろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(令和2年5月11日裁決、医師の副業による所得と所得区分)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年5月11日裁決で、医師の副業(和楽演奏)による所得と所得区分が争われた事例です。
具体的には本件は医師である請求人が病院に勤務して得た給与所得以外に和楽の演奏(指導等も)を定期的に行っており、これに関する所得を雑所得として申告した上で、本来は事業所得であり、この和楽に関する損失は、給与所得を損益通算すべきであるとして更正の請求をなしたところこれを否定されたことから、不服として提起された事例である。
和楽の演奏という一般に趣味的な要素、芸能・芸術的な要素が強い特殊な業務であり、定期的な演奏や師範免状を得ているような状況下における所得稼得活動が素材となっているものであるが、副業的な業務による損失が対象として、近年種々議論される副業や働き方の変容に伴う検討において、有益な事例であろう。そもそもとして近年は副業の解禁が議論されるが、正副という存在を租税法規においてどのように反映させうるものであるのかという点は検討が必要であろう(源泉徴収に於ける主たる収入ぐらいかと)。本件でも問題になるが、社会通念として事業として認められるか否かという点も曖昧な基準であり、基本的には本件は事実関係の問題として捉えられているが、事業と雑という所得区分の従来の検討を基礎として給与所得を得ている対象との対比から判断が導かれている。安易に副業であるから雑所得であるという判断が行われていないかという点は、議論の余地があろう。
本件のように師範免許を有して、器具備品も所有し、無料演奏会も含むかたちで定期的に演奏会が行われ、収入を得ている事案ではあるが(低額とはいえ、芸能的な案件であればこのような状況は特に珍しくもないだろう、個人的には芸術的な業務において損失が発生していることを特別な取り扱いが行われるべきであるとは捉え難いが、文化政策的には別の意見があってしかるべきとは思う)、たしかに当該収入と経費は一般に釣り合うものではなく、本来の収入源である給与所得があってこそ係る活動が支えられている点は否めない。請求人の主張のように日本標準産業分類に該当するか否かという点が事実関係の判断要素といて妥当であるのかという点は否定されるべきではあるが、しかるに社会通念として事業として認められる要素としては、いかなるものであるべきかという点は慎重な検討が必要であるものと考えられる。
「所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する事業所得
とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、
かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務
から生ずる所得をいうが(昭和56年判決参照)、具体的に特定の経済的活
動により生じた所得がこれに該当するといえるかは、当該経済的活動の営利
性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による
企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度、
人的、物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職
業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相
当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事
情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきである。」
本件では上記のように、企画遂行性や労力の程度、設備の有無、安定した収益を獲得できるか否かという点が判断要素として従来の雑所得と事業所得との判断要素に追加されている。事実関係としてはこの部分が主要な要因となって、本件判断として雑所得としての判断が導かれている。個人事業主に置いて人的設備(雇用等が)が行われているか否かという点などが重要な要因であるとのことが法令解釈から導かれうるものであるのかという点は疑問ではあるし、相当程度安定的な収益の獲得などは、企画遂行性などが依拠すべき法令解釈が判然としない。
事業が多様であることからも最終的に総合判断であるべきであるし、時代の変化により判断要素が変動することも重要な点であろう。趣味的な活動を事業とすることは租税負担を回避する点からも区分されるべきであるとは考える(個人的には不動産所得も規制が入るべきであると考えるし、総合所得課税という概念が基礎とすることは必ずしも必要なのであろうかという点は現代の個人所得の活動状況から改めて見直されるべき)ものの、本件の判断の基準が妥当であるのかという点は司法に置いても検討されるべきであろう。
何れにせよ、副業や趣味的な活動が収益を生む環境が従前よりも整備されつつある現況において、安易に従来と同様の枠組みにて判断されることの是非は、検討されるべきものであり、今後も事例の検討を行うべきであろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
2022年7月19日火曜日
判例裁決紹介(令和元年9月10日裁決、架空外注費に関する調査、調査手続の不備)
さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和元年9月10日裁決で、架空外注費に対する調査への手続的な不備が問題になっている事例です。
具体的には本件は不動産管理等を行う、法人の外注費の損金算入否認【架空外注費】であるのか否かという点が争点となっており、典型的な外注費に対しての計上否認が争いになっている事例であろう。
事案としては、基本的に事実関係が問題になっているものであるが、本件において気になるのは、調査過程に違法性をというものであり、特に近年の調査の終了という点が争点になっている点が本件の特徴であろう。
通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、公平の観点からも問題があると考えられることからすれば、調査手続の瑕疵は、原則として課税処分の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。
もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、第26条の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるところ、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解するのが相当である。
上記のように、基本的に調査上の瑕疵、手続き上の違法性に関しては、法令解釈上、その不備に関する取消要因としては限定的であることはほぼ確定した解釈であろう。しかしながら本件のように、証拠収集手続という視点からはさらに限定されている。調査が処分の前提である以上、必ずしも証拠収集に限定した対応を行う所以はないようにも考えられるが、近年はこのような手続上の不備に関する解釈が主たるものとして機能し始めているようである。調査における各段階も異なるものであり、一律にその評価が行われることは困難であるように思われるが、立証資料に関して証拠書類としての帳簿の位置づけを強化する税制改正も行われ、この手続き上の瑕疵をどのように評価するのかという点は、新たに検討が行わるべき時代になりつつあるのでしょう。
質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施
の細目については、質問検査の必要性があり、かつ、これと相手方の
私的利益との衝量において、社会通念上相当の限度にとどまる限り、
権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解される。そし
て、どの段階で調査等を打ち切って更正処分を行うかについても、実
定法に何ら定めもないことから、制度の趣旨、目的に反しない限りに
おいて、原処分庁に裁量が認められていると解される。
本件では上記のように、調査の具体的な実施に関する調査官の裁量が広範囲にゆだねられている。原則論としてかかる解釈は合理的であるように考えられるが、調査の終了に関しては実定法に定めはないとして同様にその適用を図っている点は疑問がなしとはしえない。説明を実施することが法定されている段階において、このように、制度趣旨目的という比較的広範な視点からの制約において、裁量権を認めることの妥当性は議論されるべきであろう。そもそも調査が説明が不十分とか、調査拒否をどのように認定するのかという点は、非常に事実関係から認定することが困難な分野であり、かかる点からは立法化は困難であろうが、議論されるべきものだろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
2022年7月9日土曜日
判例裁決紹介(東京地判令和2年9月1日、キャバクラ接客による報酬の所得類型)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和2年9月1日で、キャバクラ接客による報酬の所得類型が給与であるのか、事業所得の対象であるのかという点が基本的な争点になっているものです。
具体的には、本件はキャバクラ等を経営する法人である原告が従業員(接客を担当するキャストと呼ぶらしいです)に対して支払った金員が報酬であるとして申告を作成していたところ、本件は、指揮命令、時間的な拘束の関係から給与であるとして、更正処分を受けたことを不服として提起された事例である。従業員(このような書き方自体が雇用関係を前提としているようであるのでキャストと呼びますが)が受け取った報酬が給与となるのか、事業所得の対象となるのかという点が中心的な争点となっているものである。争点としては源泉徴収義務が上がっているが、基本的には、仕入税額控除の適用対象となるのか否かという点が本件の起点となっているものといえよう。
一般的な働き方はではないが、そもそも教科書的な雇用契約というものは減少傾向にあり、事業所得と給与所得の境目は曖昧となりつつあるのが現状であって、両所得の要素を混在させているような働き方が増加傾向にあるものであり、本件もかかる点でその類型に属するものであろう。教科書的は働きからが明瞭であるようなケースはあくまでも教科書であり、事実関係の積み重ねにより(基本的には租税法の問題ではないのかもしれないが、)租税法の適用関係を判断することになるという点は重要な点であろう。このような非典型的な働き方における所得区分(源泉徴収義務や仕入税額控除の適用まで拡大するが)がどのように判断されるものであるのかという点は古くて新しい問題であり、本件もその1類型として、検討材料となるべきものであろう。特殊な働き方というように考えず重要な判断要因を検討することが実務家にとっても参考となるべきものであろう。
以上のように、基本的には事実関係を基礎に、本件の報酬がいかなる所得区分に該当するものであるのかという点が問題の中心になっているものである。
結論として給与であるとの認定を行っているもので、課税庁の主張を全面的に受け入れているが、納税者が主張する、高額の報酬の発生可能性や指導の有無等は発生は可能性に過ぎないものであり、主張としては根拠に欠けるものであって(経費が自己負担であることは主張の根拠となるものであるが、実際には、主たる要因にはなりにくい、個人属性が強い職務である以上経費負担は自己負担で報酬でカバーせざるをえない)、租税法規では一般的にかかるキャストは事業所得であるとの認定という主張も根拠に欠ける(確かに紛争では事業所得であるとの認定を受けるケースも多いが)ものとして評価されているものである。立証の問題であるように思われるが、裏付けが客観的であるの否か、仕入税額控除の適用を目的としてなどのようなものでは、当然不適当であろうし、立証の巧拙が明確に結論を左右しているような事案であろう(印象で裏付けようとしている)。
本件では、罰金の存在・、他店での勤務禁止、売掛金の回収義務の存在(この種の業界ではよくあることですが)が基本的な判断要素となって指揮命令存在や独立性が認定されなかったことで、給与としての認定を総合的に判断しているものである。キーとなる部分をどこに置くかにより判断が分かれるところで、本件は事業所得ではないという認定のアプローチ(給与所得の対象は非常に広範囲という前提から)が基本的なアプローチになっているものと捉えられる。
判示では、各キャストの中には、個人事業主として確定申告している存在があるからと言って事業所得に関連するものではないとの判断も行っている点は興味深い。多くの実務ではこのような個人の申告での対応が一つの裏付けとなるような事案が、主張が多いものであるが、本件ではこれは受領側の認識に留まり、支払側の認定の材料としては主たるものとしてはなり得ないとの判断を示している点は留意が必要であろう。近年は消費税の位置づけが強化され、形式的な判断の要請が法人税等にも入ってくるようになっているが、必要経費の認定も困難であり、このような一種の厳格化傾向は今後も強調される可能性は考慮されるべきであろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介【東京地判令和3年3月30日、中古資産の取得と耐用年数、総合償却】
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判令和3年3月30日で、中古資産の資本的支出の耐用年数が問題となり総合償却の対象であるのか否かという点が基本的な争点となった事例です。
本件は化粧品等を製造する法人たる原告が中古機械設備を購入し、それを改良【資本的支出】して使用して場合に於ける減価償却資産としての耐用年数を中古資産の耐用年数の算定方法により算定した年数で損金計上を行っていたことにつき、調査により否定され、本件は総合償却資産であって、中古資産の取得に関する簡便法等の適用による耐用年数の算定はできない【結論として2年から8年】として耐用年数通達の1-5-8を適用して更正処分等を受けたことを不服として提起された事例である。
あまり、最近は総合償却というような表現を使用すること自体が珍しいとは思いますし、実務の人は、減価償却資産の償却費の計上方法は簿記等で学ぶ償却方法の機械的な適用にとどまっているようなケースが多いように想定される。あまり耐用年数通達自体も紛争対象となることは少ないように思われる。古典的な論点ではあるが、機械装置という基本的な資産の減価償却資産としての取り扱いに関しては、本件で問題となる総合償却の考え方が基本となっているものであり、減価償却資産の範囲の問題等も含め、中古資産の取得等に伴う問題が顕在化しているものであるが、機械及び装置という資産類型における減価償却資産の基礎となるべきものであり、専門家として理解しておくべきものであろう。近年は資産の所有自体が、資産効率の観点からも、或いはソフトウェアなど資産の類型の位置づけ、重要性が変化していることからあまり、検討されることの少ない分野であるが、総合償却というものは、複合的な資産設備において幅広く適用可能な考え方であり、一体として機能する資産の判断においては重要な項目となろう。すなわち、機械及び装置という一体として機能するべきものをどのように切り分け、理解するのかという部分は、実務上も悩ましいものではないだろうか。耐用年数省令は、用途別に類型化した上での分類を基礎としているが、所有者の意思に関わるものでもあり、また、ソフトウェアなども相互に関連して、現代の機械装置は構築されているものであろうが、このような環境変化において総合償却法がどのように機能を果たすべきであるのか、その意義を検討する上で、重要な事例であり、更に検討を行うべきものと考えられる。
「法人税法施行令の委任を受けた耐用年数省令が、減価償却資産の耐用年数について同令各別表に定めるところによると規定している趣旨は、企業において長期間にわたって収益を生み出す源泉である減価償却資産につき、費用収益対応の原則に従い、その取得に要した金額を使用又は時の経過による減価に応じて徐々に費用化する(耐用年数を用いて配分する)という減価償却の制度において、その取得費用を適正に配分するために、当該資産の内容や用途等によって将来の収益に対する寄与の度合いや態様等が異なることを勘案し、減価償却資産を類型化するとともに、その類型ごとに耐用年数を定めることとしたものと解される。」
以上のように減価償却資産の耐用年数の決定に関しては、耐用年数の類型化の意義を前提として記載している。費用収益対応の原則という会計原則を基礎としながらも適正な配分というかたちで、恣意的な配分を規制しているという前提を導いている。適正な配分というのは多義的な意義であり、一見するとどのような意義を持つものであるのかという部分が曖昧なものであるが、コントロール性が介在することを非常に嫌う租税法の考え方が反映されているものと理解されよう。
その上で、機械及び装置という資産累計に関しては、個々の資産ではなく、集合体として機能しているとの考えから、
「各事業に用いられる設備は、本来的には、複数の資産の集合体として、集団的に生産手段等として用いられるものであることが想定されているものといえる。そして、設備を構成する複数の資産については、個々の資産を単体として見れば、用役の提供に耐える年数がそれぞれ異なり得ることとなるが、それにもかかわらず、本件耐用年数表は、上記のとおり、業用区分ごとに定められた「細目」別に、設備を単位とした耐用年数(総合耐用年数)を定めているのであって、このことは、法人税法施行令の委任を受けた耐用年数省令において、「機械及び装置」については、設備を構成する各資産を個別の耐用年数により償却するのではなく、それらを一体のものとして共通の耐用年数(総合耐用年数)により償却するという総合償却法を採用していることを示すものと解するのが相当である」
一体のものとして、原則として総合償却による一体とした償却が採用がされている【昭和39年改正より個別は廃止】という基本的な解釈が示されている。
「「機械及び装置」である減価償却資産が、複数の資産により構成される設備の稼働によって初めて、本来の機能を発揮し法人の収益の獲得に寄与するものとなるというその特質に鑑みると、上記アのような減価償却制度における耐用年数の定めの趣旨に照らし、合理性を有するものといえる。また、設備を構成する個々の資産に細分化して個別の耐用年数により償却することの実務上の困難性に鑑みても、総合償却法により償却限度額の計算が簡易化されるという利点が存するものということができる。」
そして、その合理性を基本的に簡便性や制度趣旨から裏付けられるものとして考えている。
したがって、
「減価償却資産のうち「機械及び装置」について総合償却法を採用し、設備を構成する各資産を一体のものとして総合耐用年数により償却することとしているものと解すべきである。そして、このような総合償却法の下では、法人が設備を取得する場合、その設備を構成する個々の資産がいかなるものであるか(中古資産であるか否かを含む。)を問わず、当該設備が属する業用区分の細目について定められた総合耐用年数(以下「当該設備に係る総合耐用年数」という。)によるべきこととなる。
中古資産であろうとも、追加取得、改良等であろうとも機械装置として設備を構成するか否かという判断枠組みが重視されるものであって、耐用年数省令からは中古資産等において別異に解することはできないとしている。恣意を抑制するという点からは、一体として機能するものにおいて、その耐用年数が異なるという視点を介在させるという点は否定的に捉えられる点は一定の合理性があるものと考えられる。しかしながら、機能等、設備の稼働は経営環境等の影響を受け、変動するものであり、一体として機能するという点はそもそもその判断が困難である、曖昧としたものである点は否めない。この判断を如何に客観的に行うべきであるのかという点は検討しておくべきであろう【 単位が問題となる】。
1-5-8 総合償却資産(機械及び装置並びに構築物で、当該資産に属する個々の資産の全部につき、その償却の基礎となる価額を個々の資産の全部を総合して定められた耐用年数により償却することとされているものをいう。以下同じ。)については、法人が工場を一括して取得する場合等別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる一の「設備の種類」又は「種類」に属する資産の相当部分につき中古資産を一時に取得した場合に限り、次により当該資産の総合耐用年数を見積って当該中古資産以外の資産と区別して償却することができる。(平6年課法2-1「四」、平10年課法2-7「一」、平20年課法2-14「五」、平23年課法2-17「二」により改正)
(1) 中古資産の総合耐用年数は、同時に取得した中古資産のうち、別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる一の「設備の種類」又は「種類」に属するものの全てについて次の算式により計算した年数(その年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には、2年とする。)による。
このように考えた上で、判示は通達による総合償却からの例外的な措置としている上記通達【本件でも適用された判断枠組み】をもって、本件対象の中古資産等は相当部分に該当するものではない【10%程度】であって中古資産であっても下記耐用年数省令にあるような特別の償却を行うことはできないという課税庁の判断を肯定している。
(中古資産の耐用年数等)
第三条 個人において使用され、又は法人において事業の用に供された所得税法施行令第六条各号(減価償却資産の範囲)又は法人税法施行令第十三条各号(減価償却資産の範囲)に掲げる資産(これらの資産のうち試掘権以外の鉱業権及び坑道を除く。以下この項において同じ。)の取得(法人税法第二条第十二号の八(定義)に規定する適格合併又は同条第十二号の十二に規定する適格分割型分割(以下この項において「適格分割型分割」という。)による同条第十一号に規定する被合併法人又は同条第十二号の二に規定する分割法人からの引継ぎ(以下この項において「適格合併等による引継ぎ」という。)を含む。)をしてこれを個人の業務又は法人の事業の用に供した場合における当該資産の耐用年数は、前二条の規定にかかわらず、次に掲げる年数によることができる。ただし、当該資産を個人の業務又は法人の事業の用に供するために当該資産について支出した所得税法施行令第百八十一条(資本的支出)又は法人税法施行令第百三十二条(資本的支出)に規定する金額が当該資産の取得価額(適格合併等による引継ぎの場合にあつては、同法第六十二条の二第一項(適格合併及び適格分割型分割による資産等の帳簿価額による引継ぎ)に規定する時又は適格分割型分割の直前の帳簿価額)の百分の五十に相当する金額を超える場合には、第二号に掲げる年数についてはこの限りでない。
一 当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間(個人が当該資産を取得した後直ちにこれをその業務の用に供しなかつた場合には、当該資産を取得した時から引き続き業務の用に供したものとして見込まれる当該取得の時以後の使用可能期間)の年数
二 次に掲げる資産(別表第一、別表第二、別表第五又は別表第六に掲げる減価償却資産であつて、前号の年数を見積もることが困難なものに限る。)の区分に応じそれぞれ次に定める年数(その年数が二年に満たないときは、これを二年とする。)
イ 法定耐用年数(第一条第一項(一般の減価償却資産の耐用年数)に規定する耐用年数をいう。以下この号において同じ。)の全部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数の百分の二十に相当する年数
ロ 法定耐用年数の一部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の百分の二十に相当する年数を加算した年数
この通達の適用に関して、原告の主張は耐用年数省令は、中古資産について特に制限を設けることなく、上記のように処理方法を定めているのであって中古資産の耐用年数評価を適用すべきとしてあったのであるが、総合償却法の適用による機械装置の解釈において、通達のように相応の程度、この基準というか目安のようなものが曖昧模糊としていて、租税法規の基本的な要請に合致しているのかという点はたしかに課題であろうし、一体としてではなく、別の資産として捉えられ、機能するのか否かという点を判断の基礎に置くのが解釈としては総合償却法の観点からは妥当であるように考えられるが、中古資産と言えど一律に総合償却の対象から外れうるというのは、減価償却制度の基本的な前提、機械装置の類型の特徴、耐用年数省令や改正の趣旨【そもそもこれが妥当であるのかという点は、現代的な課題ではあろうが】否定的【限定される】に捉えられる点は、認識されるべきであろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(東京地判令和3年5月21日、貸付債権の死後遺贈と譲渡所得課税)
さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和3年5月21日で、法人に対して保有していた株式と貸付債権を死後遺贈したケースにおいて、当該株式の譲渡に伴う譲渡所得課税の算定における株式評価額が争いになった事例です。
具体的には原告(相続人)、法人の経営を行っていた被相続人が、当該法人に対して保有株式及び貸付債権(16億)を死後遺贈した場合において、当該被相続人の準確定申告における譲渡所得の算定の科学が争点になっているものである。法人の純資産を用いた純資産価額方式による評価を行うことに見解の相違があるのではなく、死後に同時遺贈した貸付債権の純資産価額方式の利用において、法人の負債であるとして算定した評価額が適当であるのか否かという点が主たる争点になっているものである。課税庁としては、貸付債権は死後遺贈によって、混同によって消滅するものであって、これを負債として評価額上反映させることは不適当であるとして更正処分等を行ったものであり、それを不服として提起された事例である。
一般に法人に対して経営者が資金を貸し付けるような行為は、実務上では未だに珍しいものではなく、便宜的な勘定として活用されているものであると考えられるが、本件もそのような実務的な背景を基礎としている点で、参考となるべき事情であろう。個人的には経営者からの貸付は、通常の貸付債権と同様に扱われるべきであるのかという点には疑問ではあるが(出資と区別することが純粋にはできないし、金融の世界ではこの辺は考慮されているだろう)、本件は、死後において株式と貸付債権が同時に遺贈された特殊なケースであり、珍しいものではあるのかもしれないが、納税者の主張が認められ、16億円にも及ぶ多額な案件であり、経営者貸付(自己借受)のマネジメントの重要性を理解する上では、実務的にも有益な案件であろう。
贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
以上のように、本件の中心的な争点は、所得税法59条における譲渡のその時における価額はいかなるものであるのかという点であり、ここに死後の遺贈による貸付債権の混同、消滅の状況を反映させて価額を算定すべきであるのか否かという点が争点となっている。
「譲渡所得に対する課税の上記趣旨に照らせば、本件のような株式保有特定会社の株式の譲渡に係る譲渡所得に対する課税においては、譲渡人が当該株式を保有していた当時における株式保有特定会社の各資産及び各負債の価額に応じた評価方法を用いるべきものと解され、そうすると、株式保有特定会社の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算は、当該譲渡の直前におけるその各資産及び各負債の価額に基づき行うべきであると解するのが相当である。」
判示は上記のように、譲渡所得課税の趣旨に鑑み、譲渡直前の状況に基づくべきものであって、
「遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法994条1項)のであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた者は、何らの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない〔最高裁昭和30年(オ)第95号同31年10月4日第一小法廷判決・民集10巻10号1229頁、最高裁平成7年(オ)第1631号同11年6月11日第二小法廷判決・裁判集民事193号369頁〕。このような遺贈の性質に鑑みれば、遺言が作成されてからその効力が発生するまでの間において、遺贈の目的である権利が受遺者とされた者に移転することが確実であるとは通常は考え難いというべきである。」
最判における遺贈の性質に基づいて、権利の移転が確実であるとの課税庁の主張は根拠がないとして(立証が不十分)、消滅を反映させた純資産評価を行うことは否定している。キャピタルゲインへの課税漏れが発生することを実質的な理由としている課税庁の主張も、消滅の効果は遺贈対象の株式にも及ぶものであり、遺贈の時点では課税の対象にならないとしている。正確には遺贈の結果が反映されてはじめて発生する利得であるとの認識であるようにも捉えられるが、その場合、そもそも譲渡所得の発生そのものが否定されているようにも理解される。
従来の実務的には、直前を判断のタイミングとせず、譲渡所得税が何らかの譲渡のタイミングをもってキャピタルゲインを顕在化させる趣旨であるとして、文言通りその時という部分を強調して同時遺贈した負債の消滅を反映した評価額を基礎として租税負担を計算することが原則的な対応であったようにも考えられるが(私見としては同時に遺贈される以上、両方の効果を企図して行われた取引でもあろうし)、その時という文言を直前の状態によるものと解することは租税法規の解釈上は整合的ではないとの意見も合理性があるように思われるが、本件は取引の起点となる遺贈の性質評価が起点となって結論が導かれているものとも考えられる。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介(東京高判令和3年8月26日、事業税における駐車場業の判断、土地貸付)
また今週も興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和3年8月26日で、個人が駐車場用地として法人に貸し出し(貸出賃料は不動産所得)、もって法人が駐車場を営む方式(土地賃貸方式)で納税者が営む場合において当該個人の納税者が事業税の課税対象となる駐車場を営む駐車場業に該当するのか否かという点が争点になった事例です。
具体駅には本件は駐車場業という地方税法における事業税の適用範囲が課題になった事例である。業界関係では著名な、東京都における独自の判断枠組みで事業税を課していた(本件のような土地の貸付も駐車場業として)点が争点となったものであり、地裁に引き続き、納税者の主張が認められ、処分行政庁の主張が排斥された事例である。本件は最高裁にはあげられず、高裁段階でとどめており、処分行政庁としても今後の取り扱いを検討しているものであろう。業界関係では東京都がこのように駐車場業の解釈として、単に自己が所有する土地を用いて駐車場を営むに限定せず、実質的な公平性を確保する(との主張によれは時代の変化等に対応した新しい取引形態への対応等が意図され、都の事務提要にも明確に定めている(法律ではないのですが)趣旨にも反するとして地裁に引き続き、土地を賃貸している者に対しても個人事業税を賦課することの正当性を主張したことにつき、明確にその処分を裁判所は否定している。
「道府県が個人事業税を賦課する根拠は、地方税法72条の2第3項以外にないのであり、被控訴人が「駐車場業」を行う者であると認められなければ、「駐車場業」を行う者として個人事業税を賦課することは許されないことは自明である。そして、地方税法72条の2第8項13号の「駐車場業」とは、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行うものであることを要すると解すべきであることは、当審が引用する原判決が説示するとおりである。
また、事業税は、事業を行う者と道府県との間の応益負担の原則に立脚するものであることからすれば、個人事業税の対象となる「駐車場業」とは、当該個人において、事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であると解すべきことも、当審が補正の上引用する原判決が説示するとおりであって、これらを前提に、原判決の前提事実及び認定事実を総合すると、被控訴人が「駐車場業」を行う者であると認めることはできないというべきであり、原判決の認定判は、その手法も含め相当であると認められるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
以上のように、高判も基本的な判示は地裁を踏襲しているが、一部事業税の基本的な性格として事業を行う者道府県との間の応益負担を基礎として解釈を追加して(この事業税の性格については争いがあるだろうが)、事業の主体を明確にしている(応益関係において、本件は個人が事業を営むことが必要であるとしている)。かかる点は地方税の基本的な性格を鑑み、単に事業や駐車場業の意義だけではなく、当事者を明確にしたものとして、今後の事業税や地方税の解釈においても参考となるべきものであろう。
上記の解釈も含め最終的に判示は、
「個人の事業の方式や形態は時代の変化に伴い変容するものであり、駐車場に関する経営手法についても、従前の自己経営方式から近年は土地賃貸方式が主流となっているところ、その利益に対して事業税を課すことは合理的であり、土地賃貸方式のみを課税の対象から外すことは不均衡というべきであるから、土地賃貸方式による駐車場経営が「駐車場業」という文言の拡張解釈であると判示する原判決の判断には誤りがある」
と主張した処分行政庁の主張に関しては、すなわち、明瞭に駐車場を直接営まず、土地を提供している法形式を無視して実質的な公平性を担保すべく法解釈によって駐車場業を拡張的に解釈しているのが事務提要であるとの判示を否定している課税庁の主張は、以下のように、
「しかし、個人事業税の対象となる「駐車場業」とは、当該個人において事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であると解すべきことは、前記アに説示したとおりである。控訴人が指摘する土地賃貸方式による駐車場事業を個人事業税の賦課の対象から外すことは不均衡であるとの主張は、課税対象となる個人において行う「事業」の意義を正しく理解せず、都事務提要の「駐車場業について」の規定文言にとらわれ、土地賃貸方式による駐車場事業に関わる当該土地の賃貸人も一律に「駐車場業」を行う者に該当するとの誤った解釈を行うものであって相当でないから、控訴人の主張は採用することができない」
として
自分たちの作成したガイドライン、基準である事務提要に固執したものであり、駐車場業はあくまでも業として、事業として駐車場を営むものであり、駐車場を営む場所を提供する行為を、事業において不可欠なものを提供しており実質的に事業を営むものとして評価することは、租税法規の基本的な要請である分離解釈を超えるものと判示されているものと考えられる。地方税法においてもそもそもとして事業とはいかなるものであるのかという点は明確にされていない(所得税等と変わりはない)という点は課題であろうが、負担の公平に着目し拡張的に地方税法を解釈していることが否定された事例であって、地方税法の世界にとどまらず、通達等の解釈においても参考となるべき本件であろう。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
判例裁決紹介【令和元年9月10日裁決、架空外注費に対する調査と終了の裁量】
さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。 今回は、令和元年9月10日裁決で、 架空外注費に対する調査への手続的な不備が問題になっている事例 です。
具体的には本件は不動産管理等を行う、 法人の外注費の損金算入否認【架空外注費】 であるのか否かという点が争点となっており、 典型的な外注費に対しての計上否認が争いになっている事例であろ う。
事案としては、 基本的に事実関係が問題になっているものであるが、 本件において気になるのは、 調査過程に違法性をというものであり、 特に近年の調査の終了という点が争点になっている点が本件の特徴 であろう。
通則法は、第7章の2《国税の調査》において、 国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、 同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規 定はなく、また、 調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の 支払義務を免れることは、 公平の観点からも問題があると考えられることからすれば、 調査手続の瑕疵は、 原則として課税処分の効力に影響を及ぼすものではないと解すべき である。
もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、 第26条の規定による再更正処分等について、いずれも「 調査により」行う旨規定しているから、 課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、 課税処分の取消事由となるところ、これには、 調査を全く欠く場合のみならず、 課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」 という。)に重大な違法があり、 調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解 され、ここにいう重大な違法とは、 証拠収集手続が刑罰法規に触れ、 公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるな どの場合をいうものと解するのが相当である。
他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、 課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるか ら、 仮に証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があっ たとしても、 課税処分の取消事由となるものではないと解するのが相当である。
もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、
他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、
上記のように、基本的に調査上の瑕疵、 手続き上の違法性に関しては、法令解釈上、 その不備に関する取消要因としては限定的であることはほぼ確定し た解釈であろう。しかしながら本件のように、 証拠収集手続という視点からはさらに限定されている。 調査が処分の前提である以上、 必ずしも証拠収集に限定した対応を行う所以はないようにも考えら れるが、 近年はこのような手続上の不備に関する解釈が主たるものとして機 能し始めているようである。 調査における各段階も異なるものであり、 一律にその評価が行われることは困難であるように思われるが、立 証資料に関して証拠書類としての帳簿の位置づけを強化する税制改 正も行われ、 この手続き上の瑕疵をどのように評価するのかという点は、 新たに検討が行わるべき時代になりつつあるのでしょう。
質問検査の範囲、程度、時期、 場所等実定法上特段の定めのない実施
の細目については、質問検査の必要性があり、かつ、 これと相手方の
私的利益との衝量において、 社会通念上相当の限度にとどまる限り、
権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解される。 そし
て、どの段階で調査等を打ち切って更正処分を行うかについても、 実
定法に何ら定めもないことから、制度の趣旨、 目的に反しない限りに
おいて、原処分庁に裁量が認められていると解される。
の細目については、質問検査の必要性があり、かつ、
私的利益との衝量において、
権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解される。
て、どの段階で調査等を打ち切って更正処分を行うかについても、
定法に何ら定めもないことから、制度の趣旨、
おいて、原処分庁に裁量が認められていると解される。
本件では上記のように、 調査の具体的な実施に関する調査官の裁量が広範囲にゆだねられて いる。 原則論としてかかる解釈は合理的であるように考えられるが、 調査の終了に関しては実定法に定めはないとして同様にその適用を 図っている点は疑問がなしとはしえない。 説明を実施することが法定されている段階において、このように、 制度趣旨目的という比較的広範な視点からの制約において、 裁量権を認めることの妥当性は議論されるべきであろう。 そもそも調査が説明が不十分とか、 調査拒否をどのように認定するのかという点は、 非常に事実関係から認定することが困難な分野であり、 かかる点からは立法化は困難であろうが、 議論されるべきものだろう。
以上です。 毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低い ですが参考までに。
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