2017年5月30日火曜日

判例裁決紹介(東京地判平成27年9月25日、前期損益修正と損金性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
東京地判平成27年9月25日で、過年度費用の計上漏れに伴う前期損益修正が法人税法上損金として認容できるか否かが争われたものです。

具体的には、運送業を営む原告がトラック乗務を業務委託として外部業者に委託して毎年支払を行っていたところ、当該支払として毎月の乗務者への給与部分の支払及び、外注先の決算期に合わせて前記支払の40%を支払っていたところ、このような形式の支払のうち、平成21年度の確定申告において、平成13年に支払った費用を税務上計上漏れがあったとして、当該費用を外注費として計上を行ったことに対して、課税庁が当該費用は当該事業年度の損金には該当しないとして否認し、更正処分及び過少申告加算税を賦課決定したところ、計上漏れに伴う前期損益修正の計上は、会計慣行として確立した処理であり、損金として該当すべきであるとして、提訴したものが本件である。なお、原告は、申告において、前期損益修正とは計上せず、外注費として計上し申告している。
判示ではその計上を否認している。

本件は原告が過年度において支払った売上原価を構成する外注費を約8年後に支払った事案であり、意図的な損金の除外ではなく、計上漏れであって、かかる理由からその計上を支払った年度ではなく、申告年度において損金として計上可能であるのか否か問題となっている。本件においては損益の修正として約8年も立ってから計上している点で特異なケースではあるものの(通常は計上漏れ等過失による損益修正は、数年単位で修正が必要になるようなケースは稀であろう)、おそらくは、更正の請求の期限超過によるものとも考えられるが、一般の外注費に混在させて計上しており、本件の主張としては、前期損益修正であるものの、実態は過年度の計上漏れを取り戻すべく、アグレッシブな会計処理をしたことに対する損金否認として捉えることが妥当であるのかもしれない。しかしながら、損益の修正が、計上漏れ等の過失によって事実関係の発生し、決算書上計上することは、会計慣行として成立しているものであり、実務上も発生の余地は想定されるところではある。過失等による損益の修正が発生する場合において、実務上はどのような処理を行っているのかという点は、専門家としての判断でもあり、具体的な処理方法は別れるところであろうが、上記のように、費用項目に混在させているようなアグレッシブな処理もありうるのではないだろうか。租税負担の関係から考えても、実務上は金銭的な大小、修正申告等のコスト等比較衡量の上、処理されることになるのが通常であるだろうが、過失等による損益の修正は当然に想定されることであり(まあ、本来はそのような処理がないことが求められるのがあたりまであるが・・・)、かかるような処理が法人税法上許容されるべきか否かという点が争点となった事案であり、実務的にも有益な事案であるだろう。

本件は、上位争点に対して、法人税法22条4項の公正処理基準の観点からその該当性が争われており、しかるに当該公正処理基準が如何なる意味を有するのか、22条4項が納税者が行った会計処理、会計慣行として一定の評価を受けている処理を否認する根拠規定となりうるのか否かという法令解釈としての問題が中心的な争点であり、すなわちより具体的には、当年度において前記の尊敬を修正する、前期損益修正という会計処理が公正処理基準として適合するのか否かという点が問題となるものであるが、この問題の背景として公正処理基準として如何なる背景を有しており、その制度趣旨はどのように捉えるべきであるのか、という点が検討課題となるだろう。

 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

法人税法22条はその3項、4項において、法人税法上の所得計算規定として、損金につき、別段の定めがある場合を除き、上記のように、3分類(売上原価、販売費等、損失)に分類している。従ってまずは、問題となる費用が如何なる分類に属することになるのかという点が問題になる。すなわち、上記文言に従えば、分類によって、損金計上のタイミング、対応関係が異なることになり、そもそもこの対応という概念が文言にないものの、如何なる意義であるのかという点は問題ではあるが(個別的対応、期間対応等)、まずは法として上記のように問題となる費用が如何なる分類に属するものであるのかという点を確定させることが法の定めるプロセスであるだろう。また、一般的に、本件でもその問題の中心となる損金計上のタイミングの決定に関しては、分類に基づき、決定されるが、22条4項の定める公正処理基準をも加味して、基本的に会計原則・会計慣行が採用する収益との対応関係が重要なタイミングの決定基準であり、かかる点から、本件の損金計上の認容が判断されることとなる。但し、上記のように、この対応という概念は必ずしも一義的な概念ではなく、法の枠外で定められた基準であり、またその概念自身も多義的である。かかる点で、処理を具体的に判断する基準は広範囲に及ぶ費用の計上を容認する可能性があり、かかる点からもその具体的な損金計上のタイミングを規定する公正処理基準の意義は重要なものとなる。

本件でも、原告が主張するように、

 「法人税法22条4項は、当該事業年度の収益及び損金の額は、公正処理基準に従って計算されるものとする旨規定している。公正処理基準とは、企業会計原則に定められた会計処理の基準はもちろん企業会計上広く受け入れられている会計慣行を含む会計処理の基準であると解される。民法上の考え方によれば契約の解除や取消しがあった場合には契約当初に遡及してその契約の効力を失うことになるが、企業会計上は後発的理由に基づいて生じた損失については当該会計年度に遡及して決算修正することはせず、その解除や取消し等の事実が生じた決算期に当該損失を「前期損益修正損」として当期損失に計上することが、会計慣行として一般に受け入れられている。」

民法上の契約とは対比して、会計上の前期損益修正の慣行としての妥当性を主張しており、公正処理基準の具体的な意義によっては、その許容される損金の計上のタイミングが異なることになる。

本件判示においても、公正処理基準の意義は

「一 般に公正妥当と認められる会計処理の基準」との規定の文言にも照らすと、現に法人のした収益等の額の計算が、法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限りにおいては、法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され〔最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照〕、法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては、上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当である。」

として、脱税協力金の損金算入を否認した従来の最判を基礎として、公正処理基準を所得計算における簡素化の基本的な趣旨とするものであり、一定の実務上の慣行を許容すべく租税法規の基本的性格、強行法規性に鑑み、当該処理の法的根拠として設けられたものであり、必ずしも、あらゆる会計の慣行等をそのまま許容するものではなく、公正妥当という文言が採用されているように、法人税法の基本的な目的に則り、照らして、すなわち適正な課税、公平性の確保を反するものでない限り、という会計処理の許容という局面において、一定の制限を設けて租税負担の公平性や簡素化の要請に対する衡平に配慮しているものと解される。従来、本規定は、あくまでも簡素化を求めた趣旨であり、原則として、すなわち、別段の定めがない限り、基本的には納税者が採用する会計処理が許容されるべきものと解する立場から、法人が採用しているものを許容すべきであり、本規定、公正処理基準が会計処理を法人税法上、否認する趣旨ではないというという見解も存在しうるが、上記、脱税協力金のような違法な費用の損金性につき、争った事例のように、近年は公正処理基準のその文言特に公正妥当という点に着目して本件のように納税者の処理を許容するものではなく、法的判断を行う根拠規定として、法人税の基本的な目的に照らして、当該処理の適用を否定する規定として位置付けられている。すなわち事実上、納税者の処理を否認する根拠規定、限定的な作用を持つものととして理解されるべきである。私見としても、そもそも、会計基準・会計慣行がその目的を利益計算、情報提供に主眼を置くのに対して、法人税法は適切な納税義務の算定をその基本的な目的とするものであって、両者はその目的を異にするものであるから、また、会計基準は多様な、経済上の取引に対して必ずしも網羅的に規定していないことからも一定の法的判断を行うことが法人税法上必要であり、本規定はその役割を導入当初から変化させているものと理解すべきであるだろう。この点は、租税法規が強行法規性を有し、財産権の侵害となる可能性を有する以上、たとえ実務的な慣行であっても、法の定める要件の外に、具体的な課税要件・課税標準を算定する規定を置くことは租税法の基本的な要請に反するものであり、かかる点から民間や国際機関が定める会計基準に対して一定の法的判断を行うべきであるという考え方からも合致するものである。特に会計基準が、その起点として実務上の慣行を帰納的に集約したものであり、近年は会計基準とベースとした演繹的なアプローチが図られているものの、複数の会計処理方法から情報提供のため適切な会計処理方法を選択することを求めており、会計処理方法において選択可能性、ひいては決算書類の製作者による恣意の介在する余地が見受けられるものと評価せざるを得ない。また公正処理基準が導入された・制定された昭和40年代とは特に会計基準がその基本的な正確を変化させており、国際的な会計処理基準の導入等、従来の公正処理基準として会計処理を基本的に許容する原則的な対応は変わらないものの、今後は、公正処理基準を判断根拠として、個別具体的な判断を必要とすることになるものと理解すべきである。

従って、ここで問題となるのは、公正処理基準としての該当性を否認される具体的な基準はいかなるものであるのかという点が課題となる。上記及び本件でも法人税の基本的な目的がキーワードとなっている。これが具体的にはいかなるものがその対象となるべきであるのかという点が課題ではあるが、法令解釈としてその具体的基準を明らかとするべきであろう。本件はその範囲を検討する上で参考となるべきものである。上記脱税協力金は、法人税の基本的な目的としてこれを許容すると公平な課税所得の算定が損なわれることは明らかであり、かかる点からいってその計上が公正処理基準に反することは異論のないところであるが、下記のように本件では、法人税の基本的な要請として、納税者の恣意を排することを求めていると解している。租税負担の公平性の観点からは私見としても、複数の会計処理方法が想定される中において客観的に具体的な課税標準を確定させるためには、その具体的な判断基準として、すなわち公正処理基準としての妥当性の判断として恣意を排することを求めることは法人税法の基本的な目的に合致するものと理解すべきであると考えられる。しかしながら、具体的な会計処理方法の妥当性を判断する上でかかる処理方法の採用によって、実際に恣意的に所得計算を行っている場合(脱税協力金の計上が該当する)と、会計処理方法自身に可能性として恣意性が介在する余地があることは概念的に異なる状況であり、前者はその該当性を否定することは法令解釈として妥当性を有するものであると考えられるが、可能性として恣意性を有することはその可能性としても程度の差があり、本規定の基本的な趣旨を考慮するならば、単に恣意性が介在するというのみで具体的に公正処理基準としての妥当性を排除することは公正処理基準の否認規定としての正確として妥当であるのかという点はより検討が必要であるだろう。

いずれにしても、かかるように、公正処理基準の具体的な妥当性を判断する基準は法人税法の基本的な性格にあると理解されるがこの具体的な判断基準としていかなるものが合理性を有しているかという点は今後の課題であり、より一般的に個々の会計基準、会計処理方法の法人税法上の妥当性・適用可能性を判断する上で、重要な判断材料となるだろう。

また本件では個別具体的な会計処理基準として、前期損益修正の計上が認められるか否かという点が問題となっている。すなわち上記に照らして、当該処理が法人税法上の基本的な目的に反するか否かという点から検討が行われ判断がくだされている。実際には、前期損益修正を以下のように捉え、

「企業会計においては、会計方針の変更や誤謬の発見などにより、翌期以後になってから過去の利益計算を修正した方がよいと考えられる場合でも、遡って決算をやり直すのではなく、前期損益修正として、過去の損益を特別損益項目に計上して処理することが慣行として広く行われてきたとしても(乙7、8の1及び2、16、17。企業会計原則第二の六、同注解12参照)、このような企業会計上の慣行は、当初の株主総会での承認や報告を経て確定した財務諸表は、配当制限その他の規制や各種の契約条件の遵守の確認及び課税所得の計算に利用されているから、過去の財務諸表を遡って修正処理することになれば、利害調整の基盤が揺らぐことになるという企業会計固有の問題に基づくものであると考えられる。」としてその採用理由を会計上の便宜に求めている。

そして、
「ある事業年度に損金として算入すべきであったのにそれを失念し、それを後の事業年度に発見したという単なる計上漏れのような場合において、企業会計上行われている前期損益修正の処理を法人税法上も是認し、後の事業年度で計上することを認めると、本来計上すべきであった事業年度で計上することができるほか、計上漏れを発見した事業年度においても計上することが可能となり、同一の費用や損失を複数の事業年度において計上することができることになる。こうした事態は、恣意の介在する余地が生じることとなり、事実に即して合理的に計算されているともいえず、公平な所 得計算を行うべきであるという法人税法上の要請に反するものといわざるを得ないのであって、法人税法がそのような事態を容認しているとは解されない。また、法人税法上、修正申告や更正の制度があり、後に修正すべきことが発覚した場合、過去の事業年度に遡って修正することが予定されているのであって、企業会計上固有の問題に基づき行われているにすぎない前期損益修 正の処理を、それが企業会計上広く行われているという理由だけで採用することはできないというべきである。」

として、かかるような会計処理基準は恣意の介在する余地が発生するという点で、すなわち具体的な恣意的な行為を行っているか否かにかかわらず、納税者の恣意の介在する可能性をもって、その該当性を否定している。如何なる程度の可能性があることが具体的な判断基準であるのかは定かではないが、会計処理方法には具体的な適用要件を定めているものもあり、単に恣意性があることのみで判断することが、公正処理基準の趣旨に合致しているのかという点は上記のように、検討する余地があるだろう。

但し、本件において、上記にもあるように、法人税法が、課税標準の計算の訂正に関して、修正申告や決定処分、更正処分の制度を定めており、特に権利救済の制度として具体的な制度として更正の請求によることを求め、基本的に他の制度を設けず限定していることからも本件のように修正申告や更正請求によらず(実際上は、期限超過ではあるが)、自らの意思でその適用を図り納税負担を図っていることは、法人税法の制度背景から考えて、法の基本的な要請に反しているとも評価できる(このように考えれば、本件の事実関係に関わらず、前期損益修正は、公正処理基準該当性を否定されるべきものと理解される)。修正申告や更正の請求が存在することなども、上記具体的な法人税法の基本的な目的を判断する上で、重要な要素として捉えるべきであるかもしれない。このような、法人税法の制度との関連をもって、会計処理の妥当性を評価していることも特徴的である。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

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