2017年5月13日土曜日

判例裁決紹介(平成28年6月10日裁決、電話照会に関する更正の予知)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、
平成28年6月10日裁決で、課税庁による電話連絡を受けたことを契機に申告を見直した上で修正申告書を提出したことに対して、更正の予知による過少申告加算税の対象となりうるのかという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が本則課税による消費税の確定申告書を平成27年に提出したところ、課税庁より、10年以上前に簡易課税選択届を提出しており、本則課税の適用はできないのではないかという、電話連絡を受けたことから、顧問税理士と相談し申告を見直し、簡易課税制度における申告であるべきと判断して、修正申告を行ったところ、課税庁が過少申告加算税の賦課決定処分を行ったため、当該電話連絡は行政指導であって国税通則法65条5項に定める調査による更正の予知があった場合に対する過少申告加算税の適用除外に該当するとして提起したものである。

本件は、請求人がなした当初申告に対して課税庁による電話連絡があり、適正な申告ではないと判断して更正のあることを想定し、修正申告書の提出が行われたところ、国税通則法65条5項に「調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」という要件に該当しないとして過少申告加算税を賦課決定を行ったものであり、基本的な争点は、当該電話連絡が調査に該当するか否か争われた事案である。従来この更正の予知があったことに対する過少申告加算税をの賦課決定の適用除外に該当するか否かは、その適用を巡って争いがあり、この解釈が問題になっている。本件は、当該電話連絡が予知の起点となる調査であったか否かが問題になった事例であり基本的には事実認定が問題になったものであるが、かかる点で具体的に予知があった否かが問題になったものとは、些か趣を異にするが、実務でも調査や調査通知等によって、申告を見直すことは想定されるところであり、(この点は実務家にも聞いてみたいところであるが、実際調査の連絡等で課税上微妙な事例を如何に調整しているのか興味深い、そもそも課税庁からの電話連絡、確認、照会等は充分に想定されるところであるが、この点も実務的にはどのように対応しているのであろうか)、実務上も参考になるものと考えられる。学説においてもその調査による予知がいかなるものであるのかという点は、見解が分かれるところであり、近年の調査手続の改正に伴い、事前通知の法定化等の影響を受けて如何なる点で更正の予知を判断していくのか、という点で、法令解釈の観点からも本件の背景にある状況を検討すべきものといえよう。一般に納税者が想定する調査とは、臨場での調査、すなわち実地の調査を考慮するものと考えられるが、おそらくは、このような認識に基づく調査の認識をもって、過少申告加算税の適用除外に該当するか否かを検討するものと容易に想定されるところであるが、この電話連絡等の調査の存在につき、実務的にも見解が別れるところではあるのではないだろうか。かかる点で本件は従来の過少申告加算税の適用除外に対して適用が争われた事案と同様の問題類型に該当するものであり、必ずしも法令解釈として新規性があるものとはいえないかもしれないが、実務的にはこの事実関係の認定とともに参考となる事案といえるのではないだろうか。

過少申告加算税)
第六五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第六項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

まずは、本件で問題となった適用除外要件の解釈を行うにあたり、過少申告加算税の趣旨及び当該適用除外規定が如何なるものであるのかという点は明らかにしておく必要があろう。判断では以下のように判断を行っている。

過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を課することによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。一方、通則法第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」は、過少申告加算税を賦課しない旨規定しているところ、これは課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。

このように過少申告加算税は、その趣旨として、適正な納税者間の公平性及び納税義務違反の防止をその基本的な趣旨としているとしている。この点は、従来の学説や最高裁判例でも一致しており、行政制裁として、あくまでも罰を付与することをその主たる目的としているものではなく、違反を抑止し、適正な納税義務の履行を求めることを基礎としているものと理解される。この点は私見としても賛同されるべきものと捉えられる。また、かかる過少申告加算税の基本的性格から、本件の主たる対象となる適用除外要件に関しても、調査による非自発的な修正申告等は、その対象から除外することで、執行の便宜と、申告納税制度の徹底の衡平を配慮した制度が構築されているものと考えられる。しかるにこの調査による更正すべきものがいかなる状況にあるべきであるのかという点は、納税者間の公平性を一定程度抑えつつ、適正な申告の実現を図るという目的の上で、重要な除外要件であると捉えるべきであり、その具体的な範囲を明示的にする必要があるものと考えられる。

 第一項の規定は、修正申告書の提出があつた場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しない。

具体的に、上記にて国税通則法は65条において過少申告加算税の賦課要件を法定している。本件の中心的な争点は、上記のように5項に定める調査による更正の予知がいかなる場合であるのかという点が問題になったものである。この適用除外のケースが如何なる要件であるのかという点が課題であり、従来も議論となってきた。特に裁決例にこの種の事案が多く、また実務的にも電話確認や照会等は想定されるところであり、特に従前と異なり事前通知が制度化された現況においては、この種の電話照会等は多数行われることが想定され、この予知が如何なる場合に、発生しているのかという点は法令解釈としても重要な課題であるように捉えられる。また本件では直接に争われていないが、基本的な論点として、如何なる程度で更正があるべきことを予知したことになるのか、基本的に内心に関わる点であり、客観的に認識がどの程度必要と解されるのかという点は、議論の余地があるだろう。

本件の請求人及び担当税理士は、電話確認、
照会があったことによりこれを契機として、申告内容を点検確認を行い、申告の是非を検討したことは特段争っておらず、まずはこの電話照会の段階で調査が行われていたか否かという、上記適用除外規定のまずは、調査が行われたか否かという点がまずは問題となる。すなわちこの制度に定める調査とはいかなるものであるのかという点が課題となる。

そもそも調査とは拙稿においても指摘したように、従来、その具体的な対象範囲、行為は非常に広範囲に及ぶものであり、本件でも下記のように、基本的に通達で示している判断を踏襲している(通達である以上、当然でもあるが)。この調査の概念は、判決等でも確認されており、従来は、この意義が、課税庁としても、学説としても支配的であるように考えられる。しかしながら、近年の調査手続の改正を踏まえた上で、その意義が変更になっているとの見解も取りうるが、その調査の目的として、基本的に適正な納税義務の把握を求めたものであり、この点で継続的であるため、私見として、この調査概念の広範囲に及ぶ性質は、変化がないものと考えるべきであろう。

通則法第65条第5項に規定する「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、租税官庁内部における調査をも含むものと解される。

上記のように、調査の概念は、国税通則法において、基本的に、非常に広範囲の作業、認定判断プロセスを含むものであり、一般に認識される、特に納税者が(租税の専門家であってもほぼ同様であろう)、質問検査権の行使すなわち、臨場での実地の調査を調査として認識されるようなものとは異なるものである。本件でも請求人の主張にあるように、当該電話照会が、単なる行政指導であり、調査であることが明示されなかったことをもって調査の該当性を否定している。最終的には、既に、この電話確認の段階では、過去資料の確認等が行われており、調査は行われているとして過少申告加算税の適用除外は認められないとしている。

確かに、国税通則法において、定める調査の概念は一般に上記のように非常に広範囲の判断プロセスであることは私見としても合理的であると考えるが、これは必ずしも、本件における、国税通則法65条の調査概念を指すものであるという結論は、妥当ではない可能性もある。事前通知が法定化され、納税者における自己の納税義務につき、適正な手続きに基づく、自己の権利保全の実現を図るという、趣旨から考えれば、本件において、他の調査概念を一律に適用することは妥当か否かという見解もありえよう。調査の一連のプロセスが広範囲に及ぶものである以上、基本的に納税者においてその進行は、把握不能であり、かかる点から調査概念を上記のように広範囲に捉えることでは、適用除外要件の法規定の実効性が確保できないものとの可能性は充分に考えられるのではないだろうか。しかしながら、租税法の基本的な要請からも、特段の規定がない限り同一の文言の解釈について別意に解することは予測可能性や法的安定性を損なうものであり、基本的に同一なものと理解するべきであろう。かかる点から考えれば立法による解決は検討課題となるかもしれない。

1 調査と行政指導の区分の明示
 納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。
(注)
  • 1 調査とは、国税(法第74条の2から法第74条の6までに掲げる税目に限る。)に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいうことに留意する(「手続通達」(平成24年9月12日付課総5-9ほか9課共同「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」(法令解釈通達)をいう。以下同じ。)1-1)。
  • 2 当該職員が行う行為であって、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しないことに留意する(手続通達1-2)。
また上記のように、本件請求人の主張にもあるが、行政指導と調査の区分の観点からも問題といえよう。納税者は調査である旨の明示がなかったとして、上記、国税通則法に係る事務運営指針に反するものとして、調査の無効も主張しているが、本件の不備により処分の無効が可能であるのかという点は、申告納税制度を前提とする限りにおいて、困難であると考えられるが、事務運営指針の位置付けも含め、また、その具体的な定義も、ここで明らかにされている国税の職員の側に如何なる目的での行為であるのかという点が集約されている段階であり、行政指導と調査の区分は実質的には非常に困難である。少なくとも法定の根拠として如何なる点で係る調査が行政指導に該当し、調査から除外されるという判断になるのかという点で疑問を覚える。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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