2017年5月16日火曜日

判例裁決紹介(宇都宮地判平成28年12月21日、固定資産税評価における需給事情の反映)


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、宇都宮地判平成28年12月21日で家屋(旅館)に対する固定資産税評価の不服を訴因とした事案であり、観光客需要や設備面の問題、地盤の問題等を固定資産税の価格評価において反映させるべきか否かが争われたものです。

具体的には、那須塩原で旅館として業務を営む原告が所有する家屋に対して水道等の設備の不備や観光需要の減少に伴い、処分行政庁がなした課税台帳価格を不服として固定資産評価審査委員会への不服申立て等を経て当該家屋評価に基づく課税処分の取消も求めたものである。納税者の主張としては、当該理由から約35%の減価評価を求めたものであるが、判示としては、一部主張を認め、15%の評価減価を適用している。

本件は、原告が所有する旅館として使用している家屋の固定資産税評価額が問題となったものであり、具体的には、下記のように固定資産税の評価基準における需給状況の反映を台帳価格に行うべきであるのか否かが争われたものである。従来、処分行政庁が主張するように、実務的には需給状況の反映は極めて限定的に運用されており、その例外として本件における需給状況の反映が行われた事案として、地裁判断とはいえ、一部適用、反映を認めている点で、本件は実務的にも法令解釈としても多様な問題を提起するものとして参考になるものと捉えられる。類型としては、価格の不服を申し出るものであって、近年訴訟が急増している固定資産税に関わる具体的な対象資産の評価減を図った訴訟であり、固定資産税の重要な課税要件である価格の巡っての争いであり、かつ納税者の主張を認めた案件として、実務的にも参考にすべきものが多数含まれているものといえる(固定資産税は賦課されるもので興味が無いかもしれないが)。

そもそも、考慮される要素がいかなるものであり、また、当該要素に基づく、減価がどの程度であって、その妥当性が認められるか否かという点は如何なる基準に基づき判断されるべきであるのかという点で、議論のあるところであり、法令解釈として固定資産税評価基準の解釈は、他の国税等にも影響を及ぼすものであって、重要な検討課題となるだろう。私見としては固定資産税が求める恣意性の排除や客観性の確保が重要な点であると考えているが、本件は、最終的に納税者の主張の一部適用を認め、15%の評価減価を行っているが、この具体的な算定が総合的判断によっており、必ずしも法的な、論理的な根拠が明示的ではない点など、他にも検討すべき項目も含んだ事例であるが、需給状況の反映を図った事例として有益な先行事例となるのではないだろうか。


第三百四十九条  基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)
に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。


第三百八十八条  総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。この場合において、固定資産評価基準には、その細目に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めることができる。

本件では特に判断が行われていないが、固定資産税の課税客体は台帳価格であり、固定資産税の重要な課税要件である対象資産の価格の算定は上記のように、台帳に登録された価格であってこの登録価格は、時価によるものであると地方税法は定めている。本件における中心的な争点はこの登録価格が如何なる金額であるのかという点を争ったものであり、まずはその背景として固定資産税の評価方法につき、理解しておくべきである。
すなわち上記のように地方税法は、法によって固定資産税の台帳に登録する土地または家屋の価格として定めているが、この価格がいかなるものであるのかという点が解釈によってまずは明らかにされるべきであろう。この点が本件の前提となるべきであると考えられる。

当該価格は、資産の価格であり、客観的な交換価値であることは、法令解釈としてほぼ確立しているものと考えてよいだろう。他の租税法規においても時価は多数採用されているが、基本的に同一意義に解されており、客観性が確保された当該資産を交換する際に用いられるものを基準としていると考えることが租税法の基本的な要請に合致するものとして評価される。時価として捉えられる資産の価額は、基本的に活発な取引市場が成立している場合を除けば、その金額に関しては幅が存在することが容易に想定され、評価者や立場によってその評価金額は異なることになる。この点が、租税法において恣意の介入を招き、もって納税者間の公平性に問題を生じることから、単なる財の価値のみではなく客観性が確保されることが重要な要素となっているものと考えるべきである。また、固定資産税に関しては、上記のように地方税法388条において、総務省から公表される固定資産評価基準によることが法定されている。法によって委任され(この点で、もう一つの財産評価の事実上の基準となっている財産評価基本通達とは性格が異なる)、全国統一的にその評価基準を採用することで、処分行政庁による裁量の幅を縮小し、統一的な評価を行うことで、財の評価という時価の算定によって、納税者間において差異が発生しないことを企図している。この点が固定資産評価における重要な点であり、単に不動産鑑定評価等による価格・時価の評価の変動を個別的に反映させることが消極的になる要因でもある。法の要請として、固定資産評価を評価基準によることが法目的と手段として合理性を有していることが確定していものと解するべきであり、従って、基本的に単なる評価金額の減少のもって不服王したてを行っても、その減価を固定資産評価に反映させることは非常に困難であって、評価基準自身の合理性が失われているような明白な状況が想定されない限り、原則的には評価基準の合理性が推定されることになる。本件のように、個別の需給状況の反映は、基準にその根拠を有するものであり、その具体的な適用の局面が争われた事案であるが、個別の状況を反映させるものであって、評価基準における減価の具体的な手法としてその適用要件の解釈が重要となるものといえる。

具体的な家屋の評価は、以下の評価基準にあるように、
「家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という。)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に評点一点あたりの価格を乗じて当該家屋の価格を求める方法による(評価基準第2章第1節一)。各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとする。この場合において,家屋の状況に応じ必要があるものについては,さらに家屋の需給事情による減点を行うものとする。」

再建築費の評価点数を基礎として構成される。この点において財産評価基本通達との相違が発生するが、基本的に固定資産税は固定資産の保有をその課税物件として捉えており、その具体的な課税標準として価格を採用しているのであって、交換価値として現状の再調達図る際の価格の算定を基本目的としているものと解される。この点は再建築費の算定が詳細であり、この点で材料等の状況の反映等多様な作業が発生することになるが、近年の建築費の上昇等、家屋の経年劣化を相殺する状況にあり、検討課題となっている。この評価点数に対して減点評価として家屋の個別的な状況を反映させることになる。具体的には、家屋の損耗が対象となるが、必要がある場合において、家屋の需給事情の反映による減点評価を行うこととされている。この必要性がいかなる意義を有するのかという点も含め、反映すべき需給事情の対象範囲が具体的にいかなるものと解されるのかという点が問題となる。

まず、この基準に定める需給事情の反映に関しては、その補正率の算出として評価基準において以下のように定められている。


埋め込み画像 2

しかしながら、上記のみではいかなるものが需給事情として該当するのかという点は、定かではなく、旧式であることや所在地域の状況という文言からは具体的な補正の対象となるべき需給事情が明示的ではない。一般論として固定資産税がその資産の保有を課税対象として具体的な時価を課税標準とする以上、当該家屋等に対する需給状況が家屋の交換価値を減価する方向で補正すべき材料として判断されることは合理的なものであると考えられ、疑問はない。しかしながら、需給事情はその意義内容として、少なくとも家屋等の交換価値を減少するものとして考えられるものは多様であり、多義的な意義を有しているものと捉えられる。本件においても納税者の主張において、取り扱われている事情は、主たる利用意図である観光需要のの減少、水道等の設備事情、土砂災害等の危険指定区域等であって、多様である。このような多様な事情の中でいかなるものが固定資産評価において減価対象として反映されるべきものとして判断されるべきであるのか、判定する基準が法令解釈として、重要なテーマであろう。私見としては、この点につき、やはり時価の解釈によるべきであり、上記のような固定資産評価における法の要請として時価は客観的な交換価値であり、具体的には、客観性の確保による恣意性の排除がその具体的な補正の対象としての判断基準として理解されるべきではないかと考えられる。また、固定資産評価基準によって統一的な評価方法を定めていることの合理性もまた考慮されるべきであって、考慮されるべき事情は基準の例示に従い、裁量の余地は限定的に解するべきであろう。この点で立法論となるが、より明示的形式で評価に反映させるべき事情を列挙することが妥当であるように考えられる。

なお、処分行政庁は、この需給事情として既に廃止された固定資産評価基準における総務省の見解として以下のものを主張し、これが現行の評価においても適合的であるとして主張している。10年以上までに廃止されたものが現行の解釈として適合的であるのか否かはその根拠が定かではなく、論理的ではないが、実務上、下記が基準として今なお、機能しているのかもしれない。
(1)草葺屋根の木造家屋又は旧式のレンガ造の非木造家屋,その他間取,通風,彩光,設備の施工等の状況等からみて最近の建築様式又は生活様式に適応しない家屋で,その価額が減少するものと認められるもの
(2)不良住宅地域,低湿地域,環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
(3)交通の便否,人口密度,宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において,当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋」

上記解釈による適用範囲の限定は、通達が廃止されていることもあり、妥当であるのかという点で議論の余地がある。以上のように、私見としては、固定資産評価基準による統一的な評価は、地方税法の目的、固定資産税の基本的な要請に合致するものとして合理的であり、租税法の基本的な要請としても妥当であるように理解される。従って、需給事情という多義的な用語において、その減価補正への反映に関しては一定の基準により限定的であるべきであり、裁量の余地は縮小的に解釈されるべきであると考えられるが、その具体的な制約として合理的な基準が、時価の基本的な解釈であり、客観性の確保による恣意性の排除に求められるべきものと考えられる。

「評価基準は,家屋の固定資産税の課税標準の算定方法において再建築価格法を採用し,そのうえで,家屋の状況に応じ必要があるものについては,さらに家屋の需給事情による減点を行うものとすることを定めている(評価基準第2章第1節二)。
 このように需給事情による減点補正を認めているのは,再建築価格方式には,評価の方式化も比較的容易であり個別的な事情による偏差が少ないという合理性があるものの,需要と供給の間に乖離があり,そのために再建築価格方式による家屋の評価が当該家屋の適正な時価とはいいがたい場合もあることから,そのような場合に,需給事情による減点補正をすべきことを定めたものと解される。
 したがって,このような趣旨からすると,需要と供給の間に乖離がある場合には,需給事情による減点補正をしなければならないのであるから,需給事情による減点補正率を適用するのは極めて限定的な場合に限られるとまではいえない。」

判示においても、上記のように、減額補正の趣旨を適正な時価を把握する目的なものとして理解しており、処分行政庁が主張するように、極めて例示にあるような場合に限定されることは、否定的である。しかしながら減価補正を行うべき需要と供給の間に乖離がある場合が、いかなる場合であり、その場合に適用すべき義務規定と解されるのか不明であり、裁量の余地が生じることからは、減価補正の適用には上記のように裁量の余地は限定的に捉えるべきであろう。なお、極めて限定的と表現することは逆に適正な時価の把握に困難を生じる場合が想定され、衡平を欠くものと考えられる。

加えて判示では、
「 したがって,需給事情による減点補正率においては,所有者の意図した利用目的やその時々における利用方法の巧拙といった主観的事情を離れ,客観性ないし一般性を有する事情である場合,すなわち,家屋が特定の土地に定着するものであることに起因する家屋の所在地域の状況による価格変動要因ないしは家屋の個別性が強く代替性に乏しいことに起因する家屋の利用価値による価格変動要因が肯定される場合には,個別的な要因についても需給事情による減点補正率を適用すべきであると解するのが相当である。」

とのべ、需給事情の反映においては、主観的な所有者の意図等を排除して、客観的な事情であることを求め、例示にある以上の個別的な要因も減額補正の対象となる需給事情として解する旨述べており、すなわち一定の制約をつけつつも、需給事情の用語の意義の解釈として、文理に基づく解釈を行っている。私見としては上記のように、固定資産評価を統一的に行うことをその趣旨として、一定の合理性を肯定していることからも、必ずしも個別の事情として幅広く捉えうるのかという点は統一的な評価による利益を失わせる要因となりうるという点で、否定的に捉えるべきともいえるが、かかる統一的な評価による利益と適正な時価の評価の観点を秤にかけ、客観性を求めていることは重要な要素であることは認識されるべきであろう。この客観性を求める点において合理的であるといえる。本質的には、より具体的な減価補正の対象となる需給事情の例示等を行うことが上記のように合理的であるといえようが、この点は立法に属する点である。


また、本件では、以下のように、不動産鑑定評価における評価の適用に関しても判断を下している。鑑定評価における需給状況の判断が適用可能であるのか否かに対して、法的判断を下している。

不動産鑑定評価基準及び評価基準は,いずれも家屋等の価値を求めるための基準であるが,その性格は異なる。そのため,被告主張のとおり,不動産鑑定評価において減価要因とされているものが,評価基準において,必ずしも減価要因となるとはいえない。
 もっとも,評価基準における評価にあたって,不動産鑑定基準による評価を参考にすることは許されると解するのが相当である。」

不動産の評価が訴因となる事案において、問題となることが多い、この不動産鑑定評価の活用であるが、上記と同様に私見としても、目的の相違から必ずしも反映されるべきものではないものと捉えるべきであり、従って参考情報として認識すべきものといえるが、すなわち全面的な活用は排除されるべきものとして限定的に捉えるべきと考えられる。しかしながら、不動産鑑定評価の租税法規における位置付けは上記であろうが、固定資産の評価の局面において、この場合における、参考となるか否か、あるいは参考とすることが妥当となりうるのがいかなる場合であるのかという点が、例外として租税法における課題と言えよう。この点に関しても、私見としても客観的な交換価値である時価の意義に従って、客観性の確保されることが活用における基準となるべきものと捉えている。専門家であり、第三者による不動産鑑定評価は、一定の客観性を有していることは、否定しようがないが、受給事情としてはその反映は必ずしも明示的な基準ではなく、このような経済状況の鑑定においては、一定の評価に対して見積もりが介在せざるを得ない。この点につき、固定資産評価基準に対して地方税法が、あるいは租税法規が求める要請とは整合的ではないと評価され、複数の鑑定に基づく、客観性や恣意性の排除など、法が要請する客観性の確保、恣意性の排除を充足していることを立証するプロセスが要求されると考えるべきであろう。そもそも、その評価において目的の相違を反映、認識することは、重要であることは留意されるべきである。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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