2017年5月6日土曜日

判例裁決紹介(平成27年11月12日裁決、事業所得の帰属)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成27年11月12日裁決で、風俗店のコンパニオンとして業務に従事する請求人に対する所得の帰属が争われた事例です。

裁決としても珍しい事例であるが、具体的には、風俗店のコンパニオンとして業務を行った請求人が、確定申告を行っていなかった事例において、課税庁の調査により、当該店舗との誓約書等の契約関係書類から、業務による所得の発生を認定し、当該所得が請求人に帰属するとして所得税および消費税の決定処分を行ったところ、業務による所得としての金員は、請求人が役務を受けていた占い師によって多額の債務を抱えていた(と占い師から請求人が認識させられていた)として、当該弁済にその所得の大部分を充当しており、請求人は、当該所得の帰属は請求人ではなく、当該占い師にあると主張して、所得税法12条による実質所得者課税の原則の適用により、請求人に当該所得の帰属が否定されるとして提起したものである。最終的な判断としては、店舗と請求人による契約関係書類の関係より、法的な権利関係の帰属者を請求人であると判断して、課税庁の処理を是認した事例である。

本件は、裁決としても非常に珍しい、特殊な業務に基づく所得の帰属が争われたものであり、かかる点で、実務的にも参考とすべき点は、少ないものと考えられる(請求人が主張する占い師による詐欺的行為自体が所得帰属を否定する理由としても非常に珍しく、このような事例が報告される事自体が希少であろう、当然、感情的に請求人が酷であると判断されることは当然であろうが)。しかしながら所得税法12条に定める実質所得者課税の原則の適用事例は、限定的であり、本件は、その否定事例として、如何なる点でその適用が否定されたのかという、適用要件の解釈論を基礎とした点で、従前の事例と同様に、当該制度の具体的な適用関係を判断する上で、参考となるべきものと考えられる。

すなわち、当該所得が下記、所得税法12条に定める実質所得者課税の原則がいかなる要件をもって適用されうるのかという点が争点であるが、より具体的には、問題となった所得の帰属がいかなる者に帰属しているのか、という事実認定が問題の起点となったものと考えられよう。実務的に、特に家族間、親族間等において所得の帰属関係がいかなるものであるのかという点は、問題となりうるところであり、課税要件として中心を構成するものの認定を巡る争いは想定されうるとして、かかる点で本件は参考となりうるものと捉えられる。

第一二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
(事業から生ずる収益を享受する者の判定)
12-2 事業から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(以下12-5までにおいて「事業主」という。)がだれであるかにより判定するものとする。
より一般的に実質所得者課税の原則は、上記のような規定となっており、その性格が従来議論されてきた。その中心的な法令解釈上の論点は、名義人以外の享受する者がいかなるものと解されるか否かである。通説としては、法律的帰属説が原則的な位置づけにあり、例外的に経済的な帰属者が適用されうるものとして理解されている。私見としても租税法が法律関係をベースとしてその課税要件を構成するものであり、法律上の名義人への課税と納税者間の公平性を根拠との衡平から本規定が創設されたものであり、かかる点を背景に、法律上の帰属関係を課税の基礎としつつもも、実質に従って判断する者が具体的な帰属者として認定されることを法定したものであり、課税庁にかかる権限を法規をもって与えるものであり、課税実務からの要請にもとづくものであろうと考えられる。かかる点で法律関係をベース、帰属等を、法的に権利を収受する者と考える点は、法規の適用として当然のことでもあるが、租税法律主義という、基本的な租税法の基本的な要請に配慮した規定であろう(この点で創設規定か確認規定かという点で性格に対して争いがありうるところである。)

本件でも、請求人と店舗との間で、雇用契約、若しくは業務提供の契約を結んでいることは、争いがないところであり、所得税法上の事業所得の帰属が請求人あるいは、請求人が主張する金員を取得した占い師(租税法のペーパーでこの単語を使うとは考えたこともなかったが)であるのかという点が問題とされている。請求人は借金があると誤認を起こさせられることで、取得した金員を、全て占い師に渡していたということで実質的な収益を享受していないという点で、法律的な帰属ではなく経済的な帰属者がその帰属者であるという主張をしたものとして理解されよう。

最終的には、12条の解釈論として、法律的帰属説を原則的な解釈であるとした上で本件は誓約書等の存在を根拠として、請求人が法律的な帰属者であり、また単なる名義人ではないという判断から、請求人に当該事業所得の帰属があるものと結論づけている。

私見としては、上記規定は、いかなる場合に、法的な帰属関係があるものであるのか、権利義務の発生を認識されるのかという点が明示的ではなく、その判断に課税庁の裁量の余地が発生しうる可能性は否定できないものと捉えられる。実質的な所得者、すなわち収益の享受する者という概念がいかなるものであるのかという点が単に法律的な帰属関係に基づくべきであるというのみではなく、より具体的にいかなる状況にある、権利義務の発生によって判断されうるのかという点が租税法の課題として議論されるべきものといえよう。法規においても享受・帰属という文言が使用されているが、金員の管理支配をベースに判断するのか、法的な権利関係をベースに判断するのかという点は、より享受とはいかなる意義を持ち、帰属とはいかなる状態にあることを指しているのかという点が現状においては明示的ではないという点が、議論の対象となるのではないだろうか。

通達においては、事業の所得に関しては、経営をしているものという解釈通達が示されているが、この点でも経営とは複合的な、多義的であり、何をもって具体的に経営をになっていると判断されるのかという点はより具体的な判断基準が必要である。租税法の基本的な要請から考えれば、上記のように、基本的には法律関係を基礎とすべきであり、経済的な所得者までもこの規定の対象であると解することは拡張的な解釈であり、基本的には避けるべきであろう。かかる点は、上記のように本規定が納税者間の租税負担の公平性と安定性や予測可能性への配慮との衡平から構築されたものであるものの租税法規の基本的な要請として、かかる適用要件はより明示的であるべきであり、その解釈を明らかにすることは重要な点であろう。帰属がいかなる状況にあることを指す概念であるのかという点が明らかではない状況においては、例えば、法的な権利関係にあることを意味するのか、管理支配をしていることを指すものであるのかという点でも、無制限な所得の帰属者を認定することになり、帰属がいかなる状態にあることを意味する概念であるのか、収益の享受とはいかなるものであるのかという点が、法的な権利関係というのみではなく、より具体的に検討すべきではないだろうか。特に享受、帰属という文言の利用は、明確な用語ではなく、経済的な利得の支配関係をも含んだ概念であるようにも解することは可能である。本質的には立法によるべき課題であると捉えるべきでもあろうが、執行面、課税負担の公平性にも配慮しつつもより明示的な概念によることも必要と判断されるべきではないだろうか。

いずれにしても、本件は、請求人が金員の支払いにより、当該収益を管理支配していないことは想定されるところであるが、誤認に基づくものであっても自発的に行った行為であり(洗脳と表現できるのかもしれないが)、かかる金員の移転は、当初の意図として、債務の弁済であって、これは請求人と占い師の間の民事的な問題であり、民事上の契約、弁済が問題として理解すべきであって、租税法規において救済や、帰属や享受の意義を拡張的に捉え、法的な権利関係を超えて、無制限に所得の帰属者を判定することは、基本的な租税法の適用としては非合理的であるものと考えられる。
本件自身は、請求人には同情すべき点もあろうが、この事案としては、その業務の特殊性や帰属関係に関する主張の理由付けも珍しい事案ではあるが、この種の事案が租税問題になる事自体が非常にレアなケースであり、この点で、興味深い点であるが、本件の他の争点においても調査段階における不備(誤認を招く説明等)があったこともその争点とされているが、現実の課税実務の状況を垣間見える事案ともいえる。

以上、毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが、参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿