2022年10月17日月曜日

判例裁決紹介(神戸地判令和2年9月29日、課税仕入を行った日と不動産の引渡)

さて、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、神戸地判令和2年9月29日で、不動産の取得における課税仕入を行った日が如何なるものであるのかという点が争点となった事例です。 具体的には、本件は不動産賃貸業を営む原告が、その建物の取得に関して、消費税の申告上、当該取得の契約を締結日を、課税仕入を行った日として申告し仕入税額控除の適用を求めた申告につき、当該契約の締結日ではなく、翌年の建物の引渡日によるものであるとした更正処分等を不服として提起された事例である。仕入税額控除の適用のタイミングを問う古典的な論点であるが、会社分割や金地金の取引など、近年の作為的な消費税法条の行為を行ったという点も鑑み、更正処分等が行われている事例である。かかるような作為的な(租税回避とも当然評価されるような)背景から仕入税額控除の適用を否定することがその処分理由にあることは考えられるが、いかなるタイミングをもって課税仕入を行った日と捉えるのかというシンプルながらも基本的な論点は実務家においても参考となるべき事例であろう。特に今後は適格請求書等が基本となる状況であるが、このような判断の枠組みはどのように適用されていくのか、あるいは限定的になるのか、まだまだ検討すべきものであろう。 (仕入れに係る消費税額の控除) 第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。 一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日 上記のように本件は、仕入税額控除の適用において消費税法30条1項1号の課税仕入を行った日とは如何なるものであるのかという点が中心的な争点となっている。 上記の解釈において、通達は下記のように、固定資産の譲渡の時期に関して、引渡の日を対象としており、但書において契約効力の発生の日を認めていることに本件は起因している。 固定資産の譲渡の時期) 9-1-13 固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とする。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。 (注) 本文の取扱いによる場合において、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、9-1-2の例による。 本通達がいかなる所以をもって、但し書き部分を設けているものであるのかという点は、議論の余地があるが、必ずしもいかなる場合、理由をもって効力発生日を許容するものであるのか、課税仕入を行った日と評価される場合があるものであるのかという部分が定かではない。解釈としてこのような部分まで対象とすることに便宜的な意義を超えて、必要性があるものであるのか、逆に不安定な状況を生み出すものであるようにも捉えられるものである。私見として当該通達は例外的な場合を想定しているようにも捉えられるものの、法解釈としてその対象、根拠が仕入税額控除や課税資産の譲渡等の解釈として整合的であるのかという疑問に捉える。法人所得算定等、帳簿との連環を基礎とする現在の計算体型(発生主義的な発想)に基づく宥恕的な取り扱いであるようにも考えられるが、今後適格請求書等が基盤となる段階においてこの判断の枠組がどのように取り扱われるものであろうか。個人的には消費税法の基本的な構造に則り、判示のように、法的な取引の中から明確な状況を指すものが行ったものとして評価されるべきものであろうと(帳簿作業の影響を受けることなく)考える。少なくとも原告の主張するように、納税者の意思に任せ選択適用が認められているということは、現行法においても、今後も解釈として妥当ではなかろう。 「消費税法28条1項本文が、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額)とする旨定め、現実に収受した対価のみならず、収受すべき金銭等も含めていることからすると、資産の譲渡等による対価を収受すべき権利が確定したと法的に評価される時点で、消費税の課税対象とされる資産の譲渡等があったと解するのが相当である。このように解することが消費税法の規定や仕入税額控除の趣旨目的に合致するとともに、客観的な事情に基づいて課税資産の譲渡等の時期を判断することで、納税者の恣意的な申告を防ぎ、課税の公平に資することになるものと解される。」 判示は上記のように、仕入税額控除が課税資産の譲渡等と表裏一体であるとの構造から、対価の額を基礎として対価収受権利の確定をもって対象とすることと解している。これを法人税法などの権利確定主義と同様に理解できるものであるのか(発生主義や収益認識基準の登場等もあいまって議論すべきものであろう)という点は検討の余地があるが、課税庁の主張を受け入れ、 「消費税法30条1項1号の「課税仕入れを行った日」とは、仕入れの相手方において、当該資産の譲渡等について、同時履行の抗弁などの法的障害がなくなり、対価を収受すべき権利が確定した日をいうものと解すべきである。」 法的な障害がなくなっている状況を指すものとしている。かかる解釈をもって、契約の効力発生の日を否定し、引渡の日をその日として判断している。実際の資金の収受の事実を問わないことは明らかであろうが、そもそもこの権利の確定がいかなる意義であるのかという部分も法文からをもって必ずしも明瞭ではなく、対価の収受の権利を起点に確定していると評価することは、各タイミングにおいて相対的に評価されるものであり(契約の成立や効力発生日がもって、権利が確定していないとの評価もまた困難)、不安定な基準であることは否めない。今後適格請求書等の発行日という客観的な基準が登場する中で消費税の制度上、仕入税額控除の適用、課税資産の譲渡等のタイミングを判断すべきであるのかという部分は検討が必要になるものであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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