2022年5月7日土曜日

判例裁決紹介(千葉地判令和2年6月30日、借入金利子の不動産所得必要経費該当性)





さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判令和2年6月30日で、相続により取得した不動産に関する借入金利子の不動産所得必要経費該当性が問題となった事例です。

具体的には、不動産賃貸業を営む原告が確定申告において必要経費として算入した借入金利子が不動産賃貸の業務に関連するものではないとしてその該当性が課題となっている。対象となる不動産、建物は原告の母が購入し賃貸のように供していたものであるが、存命中に関連会社と原告に対して一部持分譲渡し、残債務返済のため借換債務を有していたが、これを相続により原告が承継したものであって、かかる借換債務に関する利子の必要経費該当性が課題となっている。持分譲渡等の経路が事実関係として背景になっているものであり、個別事例であるともいえようが、不動産所得という間接経費、一般経費が中心となる所得分類において、その帰属関係、必要経費としての業務従事割合は如何に判定されるべきであるのかという点は実務においても問題になるものであろうし、本件は関連会社といういわば、自己の中で持分の移動等が事実関係として介在する点で事案が複雑になっているが、基本的には、本人の認識としては特段、家族内での資産持分の移動に過ぎないものであり、税務上の判断が異なるようにはなかなか一般には理解しがたい点であろうが、かかるような状況であっても取引の性格を反映させて租税法規の適用が異なることは再認識されるべき事例であろう。実務では珍しくないものであろうが期間対応の一般経費の業務割合という点を扱った事例としては珍しく、ティーチングケースとしても有益な事例だろう。


「借入金利子は、借入金の利用すなわち借入金元本の融通を受けていることに対する対価としての性質を有するところ、借入金利子は、その支出が不動産所得の総収入金額を得るため直接に要するものでないから、個別対応の必要経費に該当しない。しかし、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用として当該業務との関連性が認められる場合、その借入金についてある年中に支払われた借入金利子は、不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てる資金の融通を受けていることについてその年中に支出された対価であるから、その年における不産所得を生ずべき業務について生じた費用として当該業務との関連性が認められ、一般対応(期間対応)の必要経費に該当するというべきである。そして、借入金は、他から融通を受けた交換価値であり、それ自体が支出その他の経済的価値の減少としての費用の性質を有し得るものでなく、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用である場合とは、借入金が充てられる支出が不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当する場合、すなわち、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てられるものである場合をいうと解される。」

以上のように本件では、借入金利子の必要経費該当性に関して、法解釈として利子の必要経費該当性は、不動産所得を生ずべき業務に付いての費用に充てられるか否かという判断を基礎としている。不動産所得はその性格上、対象資産の取得と、年次費用に分類されるが、その業務への該当性の判断が基本的に問題となる。本件では、関連会社も含む持分の譲渡が行われており、この事実関係の反映が譲渡所得と不動産所得、もって借入金利子の経費分配が発生していることになる。一般経費の必要経費該当性に関しては関連性を有することを基本的な要件として、直接・間接という検討が行われることが多いが、本件ではこの点には言及せず、関連の有無によってのみ判断が行われている。これが不動産の取得に関する費用としてのシンプルな状況を背景としているものであろうが、法文の解釈上は直接という要件が必ずしも重要な要件であることではなく、程度差がある場合において用いられるものであろう。ただし、前提として私見としてはこの関連性という基準、関連が如何なるものであるのかという点は相対的、主観的な判断であり、かかる点に依拠せざるを得ない点が所得税における必要経費算定の課題であると考えるが、本件では不動産取得の借入金が不動産の賃貸の業務に用いられている、実質的には不動産の業務割合が課題となっているシンプルなもので(更正処分では50%→裁決では約30%)、事案としては課題とならないものだろう。

本件では、不動産の取得と家族、関連会社内での持分譲渡が反映された上で、課題が発生したものである(原告としては実質を見て法律関係を無視している)が、不動産の取得費の判定にあたっては、取得段階に着目するのではなく、あくまでも業務供与の状況を反映させるべきであるという原則的な対応による判示が行われたものであり、経路判定の重要性を認識する上でも参考となる事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであり完成度は低いですが、参考までに。

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