2022年5月7日土曜日

判例裁決紹介(令和2年7月7日裁決、所得拡大促進税制の適用要件)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年7月7日裁決で、医師の出向に伴って受け取った金員が 給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除の適用上、除外されるべき 給与等に充当するために他者から受け取る金額に該当するのか否かが争われたものである。

具体的には本件は、医師である請求人がその雇用する医師を他の病院に対して派遣し、いわゆる在籍出向として勤務させていた場合において、当該出向先から対価として受け取っていた金員の適用を受け、かかる金員は、所得拡大促進税制の適用にあたり基礎となる 雇用者給与等支給額から除外して計算し、もって特別控除の適用があるとした確定申告をなしたところ、当該金員は委託費として支払われたものであり、計算上対象にはならないとした更正処分を受けたことを不服として提起された事例である。増加額の計算の基礎から除外されるものである下記の他の者から支払いを受ける金額に該当するのか否かという点が争点になっているものである。
その給与等に充てるため他の者(その個人が非居住者である場合の所得税法第百六十一条第一項第一号に規定する事業場等を含む。次号において同じ。)から支払を受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額)

租税特別措置法における非常にテクニカルな規定に関する判断であるが、改正も多く適用事例も多い(おそらく実務でも課題となるだろう、最近はこの適用を忘れていただけで過失が認められたケースもあるようで)、いわゆる所得拡大促進税制の適用に関わる事例であり、近年は本件で問題となったような在籍出向のように雇用契約と労務の提供が必ずしも一致しないような状況は、特に専門職においては、増加傾向にあるものであり、雇用契約と労務提供、そしてその対価の性格を以下に理解するのかという点を検討する上でも参考となる事例(旧法の制度上の事案であるが、本件に関する法文は変更なく今後も参考となろう)であろう。

以上につき、本件判断は、下記のように当該控除制度の趣旨を理解している。

「個人所得の拡大を図り、所得水準の改善を通じた消費喚起による経済成長を達成するため、事業者の労働分配(給与等支給)の増加を促す措置として創設されたものであり、国内雇用者に対する給与等の支給額(事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるもの。)が前年分を上回る等の要件を満たした場合に、一定額の税額控除を認めるものである。」

租税特別措置である以上、その解釈にあたってその趣旨が如何なるものであるのかという点は、当然考慮されるべきものであるが、本件判断では上記のように判断を行っている。如何なる根拠をもってこのように判断したものであるのか、そして、かかる趣旨から除外対象となる経費の判断として他者から受け入れた金額を判断すべきであるのかという点は、必ずしも本件判断では明瞭ではなく、金額の同一性等の事実関係から判断を行っている。しかしながら給与支給学は必ずしも上記要件から導かれるものではなく、実際、受け取った金額と支給金額が異なることは大いに想定されうるところである。これは その給与等に充てるためという文言の解釈として適正であるのか否か、支給金額に着目した判断が正当性をもつものであるのかという点は、不明瞭であり、予測可能性の観点からは不適当であろう。結果として課税庁の判断を覆し、納税者の主張を認めているものの、計算対象から除外する理由づけが事実関係の評価に依拠している点は、今後の検討材料ではないだろうか。私見としては事業者からの分配を強化することを目的として、支給者たる存在を重視する制度であって、支給を前提とした制度として、受領金額が給与と関連を有しているのか否かという点から判断されるべきであり金額等は問題(関連性を裏付ける補足的なものに留まる)とされるものではないのではないかと考えられる。

前提となる処分においても、その根拠は、支払先、出向先である医院が委託費として処理していたという事実関係から否定しているものであり、支給者とは異なる事実を用いており、私見としては処分理由として根拠に欠ける主観的な判断であり軽薄な印象が強い。

そもそも、出向等指揮命令が必ずしも直接的ではない環境を前提とした給与支給に関する課税関係の判断は、困難であり、今後も働き方の変化に伴い、指揮命令の関与の度合いが異なることが想定されるケースは増加する。このような場合において以下に給与と関連付けられるものであるのかという点は、今後の課題となるだろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。

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