2019年1月5日土曜日

判例裁決紹介(平成29年8月24日裁決、国外のスポーツ賭博の払戻金の所得区分、事前通知の例外事由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年8月24日裁決で、国外のスポーツ賭博へのベット(取引)による払戻金が如何なる所得として取り扱われるべきであるのかという点が問題となっている事例です。

具体的には、請求人が国外のブックメーカーが提供するスポーツ賭博に対してインターネットを通じて取引(ベット)を行っていた場合において、当該取引における払戻金の受領が如何なる所得分類に該当し、課税対象となるのか否か、そして、当該調査における事前通知を行わなわなかった(調査日に直接自宅を訪ね、連絡をとって面会調査を行っている)ことが、調査手続における違法に該当し、もって課税処分が取消対象となりうるものであるのかが争点となっているものである。近年は、特にこの裁決の調査段階では、ソフトウェアを活用した競馬に関する所得の所得分類が、いかなるものに該当するのか(一時か雑か)という点が争われた事例(当該所得における経費控除の対象がどのようなものであるのかという点も含む)が、専門家業界のみならず、一般にも話題となったものであり、本件もその同様の類型に属する事例であり、賭博に類する行為(そもそも国外でのスポーツに関する賭け事であり、賭博罪が成立するのかも含め議論の余地はあるであろうが、あくまでもその違法性は問題とならず所得課税の問題として)による所得が如何なる所得分類に該当し、課税を行うべきであるのかという点、また、その経費をどの程度対象として所得計算に反映させるべきものであるのかという点もが中心的な問題となっており、同様の類型に属するものであるとして、捉えられよう。かかる上で近年のインターネットを介した取引における所得を如何に捉えるべきであるのかという点を検討する上で参考となるべきものと考えられる。また、本件は、当該調査に関して事前通知を行っておらず、調査における不備(違法と評価するのかどうかも含め)が課税処分においてどのような影響を及ぼすものであるのか、あるいは、事前通知を要しない、例外的な場合を検討する上でも参考となるべきものと考えられる。


以上のように、本件の中心的な争点は、平成23年度に導入された調査(質問検査)における事前通知が実施されているものであるのか否か、という点が手続上の不備に該当し、もって当該調査の取消しを求めている点である。判断では下記のように、調査段階での不備が必ずしも違法性を有しており、もって処分の取消事由となるべきものではないという一般的な判断を行った上で、当該事前通知等に関する納税者の主張を退けている。かかる一般的な解釈の例外として、これも下記のように、重大な違法を有している場合において、すなわち刑罰法規に触れるような場合において、当該調査における取消事由を構成するものとして判断を示している。かかるような解釈は、平成23年の改正前における判示が基礎となっているものであり、質問検査権の行使につき多様な手続を定めた改正後も当該解釈が成立しているのかという点は未だ結論が出ていない点である。すなわち現行法においても同様に解釈できるものであるのかという点は、より検討が必要であろう(かかる点は定かではないと考えざるを得ない)。少なくとも刑罰法規への抵触に限定して、調査手続の不備と処分取消を関連付けることが妥当であるのかという点は議論があろう。私見としては、調査手続の基本的な趣旨は、租税負担の公平性を担保すべきことを基礎としているものであり、かかる点は平成23年改正においてもその変更はないものと捉えられ、従って、かかる点を基礎とする以上、取消事由を手続の不備一般に拡張して考えることは合理性を有していいないものと考える。ただし、その例外として不備があった場合において、刑罰法規への抵触を基礎としているのかという点はより、例外となるべき事象は異なる可能性もあることは、否定しがたいものとも考えられる。仮に重大な違法い限定すると解すると、改正の趣旨が損なわれることにもなりかねない(そもそも改正の趣旨が説明責任の強化という曖昧な概念であるが)。特に従前と異なり、質問検査の行使においては事前段階、終了、勧奨等、様々な段階における調査手続の整備が図られたものであり、従来の身分証や理由附記程度ではなく、かかる点を鑑み、より詳細な例外対象を検討すべきものであろう。たとえ重大な違法に限定すると解するとしても、そもそもいかなる場合に重大な違法と評価するのかという点は、各手続の趣旨目的に依拠することになるだろう。

通則法は、第7章の2において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題がある考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
 もっとも、通則法は、第24条《更正》の規定による更正処分、第25条《定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、証拠収集手続に重大な違法があり調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である

より具体的には判断は、下記のように、事前通知の要否に関して処分行政庁の主張を全面的に受け入れている。その不備違法を主張する請求人の主張を排している。市kしながら上記のように一般的な不備に関する取消事由との関連を述べるにとどまっており、例外としての該当性を否定している。さらに、下記のように事前通知を要しない場合における法定された要件の充足を明示していない。請求人が関連する資料を破棄するなどという課税庁の主張を客観性があるものとして所与のものとして受け入れているのみであって、下記 違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合とは」
とはいかなる場合を指すものであるのか、その解釈を示していない。どの部分が該当しているのか、、当該部分の解釈を示しておらず判断のプロセスが明確ではない。法が定める例外事由に該当することをもってその違法性を排している以上、より詳細な検討が含まれるべきものではないだろうか。例えば、違法または不当な行為とは如何なるものを意味しているのか(同族会社の行為計算否認の事例も含め不当とは如何なる意義を有するのかという点は多様な論点が存在する)、又は把握を困難にするおそれとは如何なる程度を指し示し、また誰がその判断を行うのか(質問検査の必要性と同様に課税庁にその判断が委ねられているのであろうか)等、連年の無申告や国外との取引がなぜ、この法廷の例外に該当するものと判断されるのかという点はより詳細に検討が必要であるように評価される。かかる例外事由を定めた規定は、解釈いかんによっては、事前通知の対象を限定するものとなりうるものであり、もって事前通知の法定を図った趣旨を損なう可能性もあり得よう。調査を実効的に果たすためには例外的な事由を必要とすることは、至極当然のことであろうが、かかる点においてその具体的な範囲を解釈論としてより検討すべきものであるのではないだろうか。

(事前通知を要しない場合)
第七十四条の十 前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場には、同条第一項の規定による通知を要しない。

しかしながら、請求人は、具体的な取引形態は不明であるものの、国外の事業者(■■■■■)がインターネットを通じて行う送金サービス等を利用し、国外取引により何らかの資金を稼得していることがうかがえる上、連年無申告であったというのであるから、このような場合、事 前通知をすることにより、請求人が関連資料を破棄するなど、通則法第74条の10に規定する「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認められる。
一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。

また、以上のように本件判断は、ベット取引における払戻金を競馬に関する最高裁事例に当てはめ検討している。基本的には事実認定の問題である。しかしながら、具体的な事実の認定においては、多数かつ多額の取引を行っていると認識していないがらも、個々の取引における払戻金の受領を目的としており(トータルとしての損益はともかく)、その納税者の意図から、一時所得に該当する旨の判断を行っている。このように多数回の取引の実施など(ソフトウェアを使用していないが、この点は上記最判の後の判断で必ずしも重要な要件とはされていない、このソフトウェアの利用も例示にとどまるものと捉えるべきものであろう)、の客観的な条件は満たしながらも、納税者の主観的要因を判断の基礎においている。この点は最判でも必ずしも明示的にされていない点であり、特徴的な判断であろう(是非はより検討が必要であろうが)。また営利性を有するかどうかについては、トータルの利益を基礎として(トータルでは損失が発生している)、営利性が欠如しているとして事後的な情報を活用して、更には課税としては一時所得として個々の取引を基礎としているのにもかかわらず、かかるような判断は、整合性がかけるものと判断される余地もあるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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