2018年8月13日月曜日

判例裁決紹介(平成29年3月14日、法人代表者の営むネット事業の所得帰属)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年3月14日裁決で、法人の代表者であった請求人が営むネットオークションの事業がいかなる者に帰属するものであるのかという点が争われた事例です。

具体的には、休眠中の法人の代表者でった請求人がネットオークションにおいて仕入れた商品を販売して1000万円を超過する売上を上げていた事例において、その収益が請求人個人に帰属するものであるのか、あるいは、法人に帰属するものであるのか、という点が争われた事例である。最終的には課税庁が主張するように、納税者である個人、すなわち請求人にその収益の帰属者であるとの判断、更には消費税の納税義務者としての認定を行っているものである。収益の帰属者がいかなる者であるのかという点は、租税法規が基本的に、実質的な所得者に対する課税を基礎としており、下記のように各実定法において具体的な認定規定をおいていることもあり、その具体的な認定については種々の争いが存在するところである。すなわち、本件もその類型に属するものであり、下記のようにいわゆる実質所得者課税の原則(実質課税の原則ではないことに留意、紛らわしいが、租税法規において明文をもって規定しているのは所得の帰属者をこのように名義等によらず実質的な所得の享受に依拠している判断を行うこととしている規定のみであるが。未だにこの部分が怪しい、実質課税と言う文言がまだ実務においては支配的なんだろうか)の適用、による具体的な帰属者の認定が争われた事例であるものとして理解される。

実質所得者課税の原則は、下記のように、主要な租税法規において定められているものであるが、収益の享受をそのメルクマールとしている。課税上、その対象となる所得や収益がいかなる者にあるのか、帰属しているのかという点は、当然のごとくその課税対象を明らかとする上で、重要な判断であり、課税における基本を形成するものである。本規定はその認定における例外規定として理解されるものであるのか、あるいは、租税法規の基本的な立場を確認しているものであるのか否かという点は、議論の余地があるものであるが、その具体的な認定は実務においても重要なものであるものと考えられる。特に本件では請求人が代表者となる法人との間での帰属関係が争われたものであり、我が国における法人成りの現状や、法人における代表者の行為をいかに捉えるべきであるのか(逆に法人の代表者の行為が法人に帰属するものととして扱われる売上除外、交際費・寄付金の問題等も想定されるところであり)、という点からも興味深い事例であろう。近年は、働き方改革に伴い、本件に類似するように(そもそも法人においては役員の専念義務もあるので副業のような存在は難しいかもしれないが)、副業的な行為が発生しううることが想定されるところであり、また、AIのような自動的な作業を構築することが可能な体制もあり得ようが、このような状況を前提とする中で、従前のような所得の帰属関係を判断する原則においてどのような変化が行われるべきであるのかという点は今後の検討課題ではないだろうか。容易に所得分散が図られることがないよう、このような販売取引の行為において如何にして、所得の帰属者を判定するのかという点は明らかとしておくべきものであろう。私見としてはインボイス制度が軌道に乗ればこのような所得関係の帰属関係も自ずと解消されるのかもしれないが、安易な所得分散の誘因は回避し得ないところであり、社会情勢の変動に伴ってどのような所得の認定を基準としておくべきであるのかという点は、より具体的なメルクマールを判断する上で必要となってくるのではないだろうか。

(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用す


(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように、本件の中心的な争点は、所得の帰属認定であり、裁決における具体的な認定判断のプロセスは、課税庁における事実認定、判断プロセスとしての基本的な考え方を反映しているものであるように捉えられる。しかしながら本件の具体的な判断においては、法人の業務としているのか否か、帳簿への記載の有無(そもそも帳簿への記載を正直に行っているような状況においては所得の帰属関係が問題になることは少ないだろうし、帳簿への記載と業務の主催者としての判断は関連付けられるものであろうか)、等の判断を考慮事項として、総合的に帰属関係を認定している点が特徴的であろう。法規定は上記のように収益の享受関係をその基礎としており、そもそもこの享受とはいかなるものと解されるのかという点は、必ずしも明らかではないが、収益の享受としては私見としては係る収益の処分関係を基礎として判断されるべきであり、法人の業務としての関係性は補足的な判断材料として認識されるべきものと考えられる。このように、実質所得者課税の原則の具体的な判断材料は必ずしもメルクマールとしては明瞭なものとは考えにくい現状にあるのではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


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