2018年7月31日火曜日

判例裁決紹介(平成29年5月23日裁決、認知能力の低下と正当な理由)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年5月23日裁決で、認知症(性格な病名に関しては墨塗りのため把握できないが、請求人の主張から認知能力の低下を伴う病気であるように捉えられる)のため、申告を行う事ができなかったことにつき、正当な理由があるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、平成27年度確定申告期(平成28年)次点で認知能力の低下を伴う状況にあったものと主張されている請求人が平成27年中にかつて相続により取得した不動産につき、譲渡を行ったものの、当該不動産の譲渡に関する所得税申告を行っておらず、かかる無申告につき、請求人の認知能力の低下があったとして正当な理由があるのか否かという点が問題になったものである。最終的には判断能力の低下と帰責性を認めず、正当な理由の成立を否認している。

(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。
一 期限後申告書の提出又は第二十五条(決定)の規定による決定があつた場合
二 期限後申告書の提出又は第二十五条の規定による決定があつた後に修正申告書の提出又は更正があつた場合
以上のように、本件は、無申告加算税における正当な理由の有無が問題になっているものである。この正当な理由とはなにかという点は、従前多様な事例が存在しており、本件もその類型に属するものであろう。正当な理由とは如何なる意義を有するものであるのかという点が本件の起点になっているものであるが、かかる解釈は以下のように、基本的に従前と整合的であり、制度趣旨として、適法に申告した者との公平性確保と適正な申告納税の実現を企図したものであり、具体的な要件として、納税者における帰責性の有無と、不当性の有無が求められており、かかる点から、限定的なものとなっているものと解される。けだし、自主的な申告を前提とする申告納税制度が基礎となる現況において、その申告の未提出に関して許容すべきで点は、限定的と解さざるを得ないものと理解すべきであろう。

かかる点において、本件は、基本的に事実認定の問題として理解されるべきものと捉えられる。しかしながら、本件においては納税者の認知能力(判断能力として表記されている)の低下につき、明示的な立証が図られていないものの、高齢社会の実現により、かかるような認知能力の低下は、納税者にとって回避し得ないような状況となってくるものと考えられ、立法による解決を図るべき問題であるのかもしれないが、近年は、本件のような事例が増加しつつあるようにも捉えられる。このような状況下において納税者個人を対象とした、申告納税制度を前提とする附帯税の宥恕規定として極めて限定的な解釈によるべきものであるのかという点は今後の検討課題となるのではないだろうか。

「無申告加算税は、法定申告期限までに納税申告書の提出がなければ、原則としてその納税者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。」

また、本件では、上記のように基本的な解釈を示した上で、具体的な事実関係として、確定申告期において判断能力の低下はないとして正当な理由の成立を否定している(如何なる点からかかるように判断したのかという点は定かではないが)。正当な理由と認知能力の低下の関係性については、他の事例も調査すべきものであるが、本件のような状況下において、認知能力の低下をもってしても、正当な理由としての該当性を否定しているものではなく、帰責性等の観点からより個別的な事例にあわせて判断する必要性があるだろう。但し、本件でもあくまでも帰責性の点からのみ判断しており、不当性を如何にして捉えるべきかという点は、他の租税法規における不当と同様に必ずしも明らかとはなっていないものとも捉えられる。

加えてこの判断能力の状況や、納税者に対する帰責性がないことの証左として、本件では、本件の起点となった相続財産の売却による譲渡次点の納税者の状況をもってしている。すなわち譲渡次点(平成27年6月)では、正常に譲渡取引を請求人自ら、行っており、代理人等を立てていないことから、一定の帰責性を認定している。この点につき、単なる確定申告時期における認知能力に対する点を補足したものとしての事実関係として譲渡次点を捉えているのか、あるいは、譲渡次点の状況も含め帰責性の判断のタイミングに含むものであるのかという点は必ずしも明示的に判断しておらず、この位置づけは不明瞭である。しかしながら正当な理由はあくまでも無申告に関する理由付けが課題となっているものであり、あくまでも申告期における状況をもって判断すべきものと考えられるが、かかるように、起点となった行為の次点をも考慮されるべきものであるのかという点は、正当な理由の判断の起点を如何なるタイミングによるべきかという点で検討すべきものであるように考えられるのではないだろうか。特に本件のように認知能力の低下が時系列により低下を伴うような状況も想定されるものであり、補足材料として捉えるのではなく、正当な理由の判断タイミングを遡求するような判断は期間税である所得税法において、適正な申告と公平性の確保を企図した無申告加算税の趣旨と適合的なものではないのではないとも考え得られよう。

また、直接的には本件判断とは関係がないが、本件の未申告の納税者サイドでの把握が税務署からの譲渡所得に関するお尋ね文書から行われている。近年はこの種のお尋ね文書が増加しているようであるが(この点はどのようになっているのか実務家に聞いてみたいところ)、係る書類お課税処分の位置づけを如何に考えるのかという点は、更正処分の認知の関係などの点で、さらに検討すべきものではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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