2018年5月1日火曜日

判例裁決紹介(平成29年9月1日裁決、国外財産調書の提出時期と自発的な修正申告)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成2991日裁決で、国外財産調書の提出時期と自発的な修正申告の課題が争われたものです。

具体的には、本件は、国外財産に関する所得の計上漏れがあった場合において、国外財産書を未提出であった請求人が、調査や問い合わせ等がない段階で行われた自発的な修正申告後に、当該申告漏れの国外所得に関連する国外財産につき、国外財産調書を提出した事実関係において、課税庁が行った過少申告加算税の加重措置を適用した賦課決定処分に対して自発的な修正申告において過少申告加算税の加重措置は適用されないものであるとして当該処分を不服として提起された事案である。最終的な判断としては請求人の主張を退け、文言解釈を中心に課税庁の処分を肯定している。

国外財産調書制度は、近年導入されたものであり、提出義務が一定の財産保有を前提としていることもあって、比較的事例の蓄積が行われていない制度であるが、手続規定として過少申告加算税の加重措置・軽減措置を付与した制度として、すなわち、金銭的なインセンティブを付与した制度として特徴的な制度である本件は上記のように自発的な修正申告を提出した後におけるタイミングにおいて、この国外財産調書を提出した場合、過少申告加算税の加重措置の適用を免れ得るものであるのか否かという点が争点となっているものである。BEPS等近年は国際的な租税回避への批判が高まっているものであるが、当該制度も、同様の状況を背景としたものであり、この性格の理解が重要な点となる。この制度は、課税行政として適正な情報申告を促し、もって適切な課税情報の把握を企図したものであり、そのインセンティブとして下記のように、一定の条件は付与されているものの過少申告加算税の加重減算措置を伴うものであり、納税義務の履行において公平負担の要請が強く働く我が国の租税制度においては珍しい制度と捉えられるのではないだろうか。そもそもこのようなインセンティブの付与が適切であるのか否かという点は、立法の範囲に属するものであり、政策判断の余地があるものであるが、その立法目的と公平負担の原則を確保しようとしている附帯税の趣旨、そもそもとしての租税負担に対する公平性との均衡が課題となるものと考えられる。

本件は、かかる制度に対して、
当初申告においては未提出であった状況下において自発的に修正申告を行った場合において、過少申告加算税の加重対象となりうるものであるのか否かという点が、課題となっているものであり、一定のaid、インセンティブの付与が行われることによって所定の目的が達成されうるものであるのか否かという点が起点となっているものとも考えられよう。しかるに国外財産調書は近年導入された比較的新しい制度であり、その特徴的な加重減算措置の付与も伴って、その性格を如何に解すべきであるのかという点は未だ検討課題として端緒についたばかりであって経済的な恩典、インセンティブの付与と政策目的との均衡が留意されるものではないだろうか。

近年は、この制度のみならず、国際的な情報交換、お尋ね文書などの様々な課税情報の把握手法が登場してきており、伝統的な質問検査のみならず、このような手法に対しても手続法として、如何に位置付けられるものであるのかという点は、重要な点であろう。本件はかかる点においても、またさらに、財産債務調書も含め、所得段階における財産把握の重要性を理解する上でも、特に今後はこのように、申告段階等における、書類要件の充足等の適正性を確保することは租税法規の充足において重要なものとなろうから(書面添付などもこのような点に含まれるであろうか)、合法性の原則等の租税法律主義(そもそもとして合法性の原則が租税法律主義にカテゴライズされるべきものであるのか否かという点は議論の余地があるが)が本件は、支配する租税制度において加重減算措置の適用要件の解釈、国外財産調書の提出のタイミングの重要性を理解する上でも実務的にも重要なものではないだろうか。実務上はこの国外財産調書の提出は金額要件もあり、如何に捉えられているのか、インセンティブと作成の負担とのバランスがどのように捉えられているのかという点は興味深い点である(かかる点は是非実務家に聞いてみたい)。

内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
(国外財産調書の提出)
第五条 居住者(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三に規定する居住者をいい、同項第四号に規定する非永住者を除く。)は、その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が五千万円を超える国外財産を有する場合には、財務省令で定めるところにより、その者の氏名、住所又は居所及び個人番号並びに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」という。)を、その年の翌年の三月十五日までに、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める場所の所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、同日までの間に当該国外財産調書を提出しないで死亡し、又は同項第四十二号に規定する出国をしたときは、この限りでない。
第六条 国外財産に関して生ずる所得で政令で定めるものに対する所得税(以下この条において「国外財産に係る所得税」という。)又は国外財産に対する相続税に関し修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は更正若しくは決定(以下この条及び第六条の三において「修正申告等」という。)があり、国税通則法第六十五条又は第六十六条の規定の適用がある場合において、提出期限(前条第一項の提出期限をいう。以下この条において同じ。)内に税務署長に提出された国外財産調書に当該修正申告等の基因となる国外財産についての同項の規定による記載があるときは、同法第六十五条又は第六十六条の規定による過少申告加算税の額又は無申告加算税の額は、これらの規定にかかわらず、これらの規定により計算した金額から当該過少申告加算税の額又は無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で当該修正申告等の基因となる国外財産に係るもの以外のもの又は隠蔽し、若しくは仮装されたもの(以下この項において「国外財産に係るもの以外の事実等」という。)があるときは、当該国外財産に係るもの以外の事実等に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額。次項において同じ。)に百分の五の割合を乗じて計算した金額を控除した金額とする。
2 国外財産に係る所得税に関し修正申告等(死亡した者に係るものを除く。)があり、国税通則法第六十五条第六十六条の規定の適用がある場合において前条第一項の規定により税務署長に提出すべき国外財産調書について提出期限内に提出がないとき、又は提出期限内に税務署長に提出された国外財産調書に記載すべき当該修正申告等の基因となる国外財産についての記載がないとき(国外財産調書に記載すべき事項のうち重要なものの記載が不十分であると認められるときを含む。)は、同法第六十五条又は第六十六条の規定による過少申告加算税の額又は無申告加算税の額は、これらの規定にかかわらず、これらの規定により計算した金額に、当該過少申告加算税の額又は無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

4 前条第一項の規定により提出すべき国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合において当該国外財産調書の提出が、当該国外財産調書に係る国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税についての調査があったことにより当該国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなして、第一項又は第二項の規定を適用する。

以上のように、本件の起点となったのは、国外財産調書の未提出な状況下において、自主的な修正申告後にその提出を行ったことを過少申告加算税の加重措置の適用があるのか否かという点である。かかる場合においても過少申告加算税の賦課において従前では、下記のように、国税通則法において調査の事実等がないような場合においては、いわゆる自発的な修正申告であり、その適用を行わない等の適用が制限される解釈が主流であり、実際の運用が行われている。このような場合において如何なるものと自発的と捉えるのか、より具体的には調査等による予知の存在をどのように解すべきであるのかという点が課題とされてきた。しかし本件はこのような自主的な修正申告の位置づけが一定の変更を受けていると捉えられているとも評価できるものであり、特徴的な事例であろう。上記のように国外財産調書においても調査等による予知がない場合において提出のタイミングの変更を促す規程は存在するものの、自発的な申告に対する制約が追加されたことは留意されるべきものと考えられる。

第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

しかしながら、このような解釈は如何なる所以によるものであろうか。本件では、下記のように、国外財産調書の趣旨を理解しているが、この所以は、インセンティブの付与という政策的規定とあいまって、どのような法的根拠に基づくものであるのかという点は重要な点であるように考えられる。かかる点においても本件は有益であろう。特に国外財産調書はインセンティブの付与という納税者にとって正反対の性格が付与されているような制度でもあり、この性格について、手続的な要件の充足が如何に解されるのかという点は本件は裁決事例であるものの、課税庁の意思を表すものとして参考とすべき事例であるように評価される。

「国外財産調書制度は、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題とされていたことなどを背景とし、適切な課税・徴収の確保の観点から、平成24年度税制改正において、国外財産に係る情報の的確な把握への対応として、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める仕組みとして創設された制度である。また、軽減加重措置は、国外財産調書制度の上記趣旨を全うするため、国外財産調書の適正な提出を確保する目的で、適正な国外財産調書の提出に向けたインセンティブとして設けられた措置であり、飽くまで国外財産調書の提出を基軸とし、これを適正に提出した場合には加算税を軽減する一方、適正に提出しなかった場合には加算税を加重するものである。上記軽減加重措置の例外として、国送法第6条第4項は、提出期限後に国外財産調書が提出された場合であっても、その提出が、国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税につき調査があったことにより更正等があるべきことを予知してされたものでないときは、その国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなして、軽減加重措置を適用する旨定めたものであり、その趣旨は、提出期限内に国外財産調書の提出がなく、提出期限を経過した場合であっても、自主的な国外財産調書の提出にインセンティブを与えることによりその提出を奨励するものと解される。」 

判断では、上記のように、趣旨を理解している。但し、上記は本制度の直接的な制度背景に留まるものであり、過少申告加算税のインセンティブ化に対して、基礎となる附帯税としての過少申告加算税の観点、その基本的な性格を反映させていない。最終的な結論において変わるものではないのかもしれないが、申告納税制度を基礎とする中で附帯税・過少申告加算税が如何なる意義を有するものであり、それを背景としたインセンティブ措置の要件解釈としては、厳格な文理解釈の要請も行うべきであるのか、その具体的な意義はより検討されるべきものではないだろうか。

このように考えると最終的には判断では、請求人は国税通則法における従前の自発的な申告に対する(そもそもこの予知がいかなる状況であるのかという点は明確とはいい難いが)取扱いを基礎として、かかる点において、その部分を本件にも反映させ、 国税通則法第六十五条第六十六条の規定の適用がある場合において、 という部分の解釈として5項の適用がないものとしている点を基礎とした解釈を行っているが、必ずしも否定されるべきものとは言えないとの見解もありえよう。但し、提出を基礎とした本件の制度の性格を最終的には強調しており、その有無が重要なものであり、もって、従前と異なる自発的な申告への評価をもたらしているものと考えられる。この点は留意されるべきではないだろうか。このようにその背景としての制度の趣旨を以下に捉えるのかという点において、結論が左右されうるものであり、その要件を如何に解するべきであるのかという点においてもこの理解は非常に重要なものとして留意されるべきであろう。またインセンティブの付与という直接的な恩典を供与する以上、従前のように、申告納税制度の本旨に立ち返り、自発的な申告に対して一定の過少申告加算税の付与を制限するような評価を行っているような状況とは異なるものとして捉えることもまた合理性を有していると評価される。このような制度を必要とする国外財産はどのような背景をもっているものであるのか、という吟味は制度趣旨の理解としても必要であり、また、制度の理解としてインセンティブの性格に焦点をあて、国外財産調書の提出に力点を置くことになるのであれば、その提出のタイミングはより重要な要件として如何なるタイミングを明らかにする必要が生じることになるであろうし、ただ単に提出すれば良いものではなく、法においても重要なものと不充分な場合においてはその提出の不備を認めるとあるが、この意義の解釈も含め課題が発生することになるのではないだろうか。

また、本件とは直接的に関連しないが、この国外財産調書の適用対象を決定する上で「起因となった」という文言が採用されている。財産と所得の関連を如何に捉えるのかという点に関わるものであるが、他の租税法規においては採用が少ない表現であって、この部分をどのように解すべきであるのかという点が課題となるように考えられる。所得税法においては、必要性や関連性等経費と所得の関係をいかに捉えるのかという点が課題とされてきており多様な裁判事例が存在している。このように考えると、その作成における不備にも関わるものであろうが、どのように国外財産調書の対象を設定するのかという点は単に財産価額のみならず、留意されるべきことになるのではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

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