さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。 今回は平成29年9月1日裁決で、 国外財産調書の提出時期と自発的な修正申告の課題が争われたもの です。
具体的には、本件は、 国外財産に関する所得の計上漏れがあった場合において、 国外財産書を未提出であった請求人が、 調査や問い合わせ等がない段階で行われた自発的な修正申告後に、 当該申告漏れの国外所得に関連する国外財産につき、 国外財産調書を提出した事実関係において、 課税庁が行った過少申告加算税の加重措置を適用した賦課決定処分 に対して自発的な修正申告において過少申告加算税の加重措置は適 用されないものであるとして当該処分を不服として提起された事案 である。最終的な判断としては請求人の主張を退け、 文言解釈を中心に課税庁の処分を肯定している。
国外財産調書制度は、近年導入されたものであり、 提出義務が一定の財産保有を前提としていることもあって、 比較的事例の蓄積が行われていない制度であるが、 手続規定として過少申告加算税の加重措置・ 軽減措置を付与した制度として、すなわち、 金銭的なインセンティブを付与した制度として特徴的な制度である 。 本件は上記のように自発的な修正申告を提出した後におけるタイミ ングにおいて、この国外財産調書を提出した場合、 過少申告加算税の加重措置の適用を免れ得るものであるのか否かと いう点が争点となっているものである。BEPS等近年は国際的な 租税回避への批判が高まっているものであるが、当該制度も、 同様の状況を背景としたものであり、 この性格の理解が重要な点となる。この制度は、 課税行政として適正な情報申告を促し、 もって適切な課税情報の把握を企図したものであり、 そのインセンティブとして下記のように、 一定の条件は付与されているものの過少申告加算税の加重減算措置 を伴うものであり、 納税義務の履行において公平負担の要請が強く働く我が国の租税制 度においては珍しい制度と捉えられるのではないだろうか。 そもそもこのようなインセンティブの付与が適切であるのか否かと いう点は、立法の範囲に属するものであり、 政策判断の余地があるものであるが、 その立法目的と公平負担の原則を確保しようとしている附帯税の趣 旨、 そもそもとしての租税負担に対する公平性との均衡が課題となるも のと考えられる。
本件は、かかる制度に対して、
近年は、この制度のみならず、国際的な情報交換、
内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提
(国外財産調書の提出)
第五条 居住者(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三 号に規定する居住者をいい、同項第四号に規定する非永住者を除く 。)は、 その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が五千万円を超 える国外財産を有する場合には、財務省令で定めるところにより、 その者の氏名、 住所又は居所及び個人番号並びに当該国外財産の種類、 数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「 国外財産調書」という。)を、その年の翌年の三月十五日までに、 次の各号に掲げる者の区分に応じ、 当該各号に定める場所の所轄税務署長に提出しなければならない。 ただし、同日までの間に当該国外財産調書を提出しないで死亡し、 又は同項第四十二号に規定する出国をしたときは、 この限りでない。
第六条 国外財産に関して生ずる所得で政令で定めるものに対する所得税( 以下この条において「国外財産に係る所得税」という。) 又は国外財産に対する相続税に関し修正申告書若しくは期限後申告 書の提出又は更正若しくは決定( 以下この条及び第六条の三において「修正申告等」という。) があり、国税通則法第六十五条又は第六十六条の規定の適用がある 場合において、提出期限(前条第一項の提出期限をいう。 以下この条において同じ。) 内に税務署長に提出された国外財産調書に当該修正申告等の基因と なる国外財産についての同項の規定による記載があるときは、同法 第六十五条又は第六十六条の規定による過少申告加算税の額又は無 申告加算税の額は、これらの規定にかかわらず、 これらの規定により計算した金額から当該過少申告加算税の額又は 無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額( その税額の計算の基礎となるべき事実で当該修正申告等の基因とな る国外財産に係るもの以外のもの又は隠蔽し、 若しくは仮装されたもの(以下この項において「 国外財産に係るもの以外の事実等」という。)があるときは、 当該国外財産に係るもの以外の事実等に基づく税額として政令で定 めるところにより計算した金額を控除した税額。 次項において同じ。) に百分の五の割合を乗じて計算した金額を控除した金額とする。
2 国外財産に係る所得税に関し修正申告等( 死亡した者に係るものを除く。)があり、国税通則法第六十五条又 は第六十六条の規定の適用がある場合において、 前条第一項の規定により税務署長に提出すべき国外財産調書につい て提出期限内に提出がないとき、 又は提出期限内に税務署長に提出された国外財産調書に記載すべき 当該修正申告等の基因となる国外財産についての記載がないとき( 国外財産調書に記載すべき事項のうち重要なものの記載が不十分で あると認められるときを含む。)は、同法第六十五条又は第六十六 条の規定による過少申告加算税の額又は無申告加算税の額は、 これらの規定にかかわらず、これらの規定により計算した金額に、 当該過少申告加算税の額又は無申告加算税の額の計算の基礎となる べき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額を加算した金額と する。
4 前条第一項の規定により提出すべき国外財産調書が提出期限後に提
以上のように、本件の起点となったのは、
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税につい
しかしながら、
「国外財産調書制度は、
判断では、上記のように、趣旨を理解している。但し、上記は本制度の直接的な制度背景に留まるものであり、過少申告加算税のインセンティブ化に対して、基礎となる附帯税としての過少申告加算税の観点、その基本的な性格を反映させていない。最終的な結論において変わるものではないのかもしれないが、申告納税制度を基礎とする中で附帯税・過少申告加算税が如何なる意義を有するものであり、それを背景としたインセンティブ措置の要件解釈としては、厳格な文理解釈の要請も行うべきであるのか、その具体的な意義はより検討されるべきものではないだろうか。
このように考えると最終的には判断では、請求人は国税通則法における従前の自発的な申告に対する(そもそもこの予知がいかなる状況であるのかという点は明確とはいい難いが)取扱いを基礎として、かかる点において、その部分を本件にも反映させ、 国税通則法第六十五条又
また、本件とは直接的に関連しないが、この国外財産調書の適用対象を決定する上で「起因となった」という文言が採用されている。財産と所得の関連を如何に捉えるのかという点に関わるものであるが、他の租税法規においては採用が少ない表現であって、この部分をどのように解すべきであるのかという点が課題となるように考えられる。所得税法においては、必要性や関連性等経費と所得の関係をいかに捉えるのかという点が課題とされてきており多様な裁判事例が存在している。このように考えると、その作成における不備にも関わるものであろうが、どのように国外財産調書の対象を設定するのかという点は単に財産価額のみならず、留意されるべきことになるのではないだろうか。
以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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