2018年4月28日土曜日

判例裁決紹介(平成29年8月23日裁決、医業収入の計上漏れと重加算税の不成立)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成29年8月23日裁決で医業収入の通帳提示が行われなかったことによる計上漏れが、重加算税の仮装隠蔽の対象として認められなかった事例です。

具体的には、本件は、医師としての業務を営む(産業医としても)請求人が当該収入の一部を申告せず、かかる対応が重加算税の対象となる仮装隠蔽に該当するものであるのか否かという点が問題になっているものである。かかる収入の計上漏れは請求人が通帳の提示を税理士への依頼による確定申告書作成への依頼時、また調査時において、提示を求められるまで、行わったことによって発生したものであり、このような収入の計上漏れが租税法規に定める附帯税の対象となりうることは、多様かつ大量の事例が存在しており、本件も上記請求人の行為が、仮装隠蔽に該当するものであるのか否かという点を基本的な争点としており、同類型の事例であるといえよう。但し、本件は課税庁が主張する仮装隠蔽の成立が、裁決段階ではあるものの、否定された事例であり、レアなケースでもあろうし、特に典型的な収入の計上漏れという事実関係において、如何なる点が根拠となって重加算税の成立要件たる仮装隠蔽の認定が否定されたものであるのかという点は、判断プロセス、具体的な事実関係の双方において、参考となるものと考えられる。
いずれにしても、重加算税の成立、仮装隠蔽の認定に関しては当該制度趣旨、法令解釈が基礎となっているものであり、本件はその参考としても有益であるものと評価されよう。
第68条  国税通則法
  1. 第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(同条第五項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
  2. 第66条第1項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書又は同条第5項若しくは第6項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように、本件の中心的な争点は請求人の行為が仮装隠蔽と評価しうるものであるのか否かという点にある。すなわち本件の意義としては具体的な事実関係として重加算税の成立要件に合致しているものと評価しうるかという点が中心的な争点であり、事実関係への評価が特徴的であるが、本件の起点となっているものは重加算税の要件、すなわち上記、国税通則法68条に定める仮装隠蔽が如何なるものと解されるのかという点が起点となっているものと考えられる。もちろん他に成立要件として、隠ぺい対象となる計算の基礎が如何なるものを対象としているのかという点なども検討課題ではあろうが、本件の用に収入金額が所得を計算する上で重要であるのは特に異論がないものであろう。

本件においても以下のようにリーディングケースである判例を基礎として、以下のように用いている。
具体的には、
「通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。」
として、重加算税の基本的な趣旨を不正行為に対する悪質な行為の防止ともって公平な租税環境を形成することにあるとしている。
さらに、重加算税の基本的な要件として以下のように解している。

「したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解される(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)。 」

として基本的に解している。故に基本的な解釈として特段特徴的なものではないが(条文構造において行為と申告の両方を要求しているとも、限定されるものではないとも考えられようが)、本件における判断の前提として、「 当初から所得を過少に申告することを意図 」として当初段階での意図・意思の存在をという点に起点が置かれている。この点に関する事実関係の判断において仮装隠蔽の意図が当初段階から成立し得ないとの判断(上記判示によればこの点が客観的に確認し得ることも重要となっているものであるが)、重加算税の成立を退ける結果となっている。この当初段階での意図の存在は如何なる所以をもつものであろうか。この当初段階は、不正の発生のタイミングを左右するものでもあり、重加算税の起点となるものであると考えられる。法条文においてはこのような当初という段階を明示的に示す文言は存在していない。しかるに如何なる所以をもってこの当初段階での意図・意思の存在が要件となるものであろうか。

最終的に排斥されているが、課税庁の主張段階では、この仮装隠蔽の起点と判断していた未提示の通帳の存在に対して、確定申告書の作成(税理士への依頼)段階での未提示と課税庁における調査段階での未提示(最終的に課税庁からの求めにより提示)の2つの段階において、その意図の存在を主張している。しかるにこの2つの場合において、「当初段階」とは如何なる段階であるのか、という点が必ずしも明示的に表現されていない(いずれも法に定める申告行為であろう)。すなわちこの当初段階を如何なる意義を有するものとして解するべきであるのかという点が判別し難い。このように考えるならば、重加算税の要件は他の附帯税と比して必ずしも明示的でもないものと評価し得よう。

そもそも仮装隠蔽の行為自身が様々な態様を含むものであり、明示的なタイミングを明らかにすることは困難であるものであろうが(しかるにこの具体的な行為を如何にかするべきであるのか、本件のように通帳の未提示であっても仮装隠蔽とは評価し得ないような状況もあり得ることであり、この峻別が非常に難しく、事実上、この当初からの意図の存在を客観的に確認できることが仮装隠蔽の具体的な意義になるものと考えられるのではないだろうか。、行為の当初段階から強くその逋脱等の不正に該当するような意図を行為者において要求していることは重加算税の特徴と考えられよう。そもそも租税法規において重加算税は他の附帯税とは異なり、逋脱等の不正行為に属するような重大な行為に対する負担として設けられているものであり、行為の前提として意思の存在を想定することは一定の合理性があると考えられる。しかしながら行為自身が多様であり、租税負担の回避等をどのタイミングで行ったものであるのか、起点となるべき時点を明らかにすることが必ずしも一義的に定まるものであろうか。本件では最終的に二時点共にその意図の存在を否定されているものであるが、重加算税の趣旨目的は他の附帯税とは異なり、積極的な不正行為を対象としている以上、その適用対象を厳格に捉えるべく、日々多様な行為が行われる状況において具体的な意図を伴う行為を抽出するべく、解されているものと捉えられよう。すなわち、他の附帯税とは異なり、期限後、過少申告などの申告行為を対象とするものではなく、重加算税はその前提となる行為自身の不正に対する負担を企図しているものであることから、必然的に当初段階から租税負担の回避を意図していることを要求して重加算税の適用対象を限定しているものと理解するべきであろう。突き詰めれば刑事罰との峻別が困難な領域でもあり、かかる点は重加算税の特徴として留意されるべきであろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿