2018年5月5日土曜日

判例裁決紹介(平成27年9月2日裁決、高級車両の事業専有割合と必要経費算入)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成27年9月2日裁決でベンツ等の高級車両の事業専有割合の算定と必要経費への算入が課題となった事例です。

具体的には医師として勤務しつつ、医業コンサルとしても事業活動する請求人が確定申告につき、必要経費として算入した車両(ベンツ、ジャガー等)減価償却費につき、その事業専有割合、減価償却方法(特に配偶者名義の車両に関する)が課題となった事例である。より具体的には車両の減価償却費の算定方法及び事業専有割合の算定方法において、課税庁と請求人の間で、約30%と70%と乖離が見られ、事業専有割合等の計算方法が非合理的であるとして更正処分を行ったことを不服としてその取消を求めた事例である。

本件は高級車の利用による事業への必要経費としてのそもそも必要性、経費としての該当性を直接的に課題としているものではないが、調査においてこのような高級車の利用は衆目を引くものであり、かかる点においてその争点の引き金を引いたものであろう。判断では特段その利用において事業への必要経費としての該当性を否定するような検討は行われていないが、いわば事業における相当性は、問題視されていない点は立証の観点でより、現実的ではあるが、このように事業実施における相当性を特段議論することなく、減価償却費としての利用に対して制約を付与することで、その利用を実質的に限定的に捉える点は、近年は本件のように事業専有割合が課題となることであろう。本件ではその事業専有割合の算定につき、一連のプロセス、特に車両という典型的な減価償却資産において事業への利用を判断している過程を示しており、かつ、家事関連費として明確に区分できない場合における必要経費算入否定する所得税施行令が組み合わさっており、特段、新規性を有するものではないかもしれないが、この種の事業と普段の生活において共用される共用資産を租税法規において、特に所得税法における事業所得の算定において評価されうるものであるのかという点は、実務上においても参考となるものと捉えられる。


第三七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

第四五条 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

以上のように本件は上記法令が定める必要経費としての減価償却資産に対する償却費の計上が課題となっているものであろう。事業生活と個人の消費生活(そもそもこの区分が可能であるのか、という点は疑問視される部分ではあるが、大学の研究者しているとそもそもこの区分がよくわからない・・・。事業主として経営責任のある人達もそもそも区分可能なものであるのであろうか、当然の前提として租税法規は事業と他の活動を区分しているがこの点は疑問でもある)に於いて共用される共用資産の事業専有割合は、法令上、明確にその算定方法等が規定されているものではなく、かかる点において法令に基礎をおいているものではない。いわば実務的慣行として評価されるものであろうが(かかる点では税務会計の処理としては該当することになるだろう)、このような共用資産に対する措置があって初めて、適格な所得計算が可能となるものであり、明文としての法令の基礎を有していないからと行って一概に否定されるべきものではないだろう。そもそも共用資産にとどまらず、共用されるような経費の按分は所得税法においては重要な課題であり、いかにして按分するのかという点は課題となるだろう。

しかしながら減価償却資産及び償却費の計算が、法令によって厳格にその算定方法等を定められている点に鑑みれば、また事業専有割合による算定が個別具体的な所得との因果関係を有するものではないことからも、このような共用資産の専有割合の算定は、減価償却費に対する法規定の基礎として共通していると考えられる。すなわち、当該割合の算定は減価償却資産として償却費の計算対象を明らかにするものであり、この法令上の基礎を如何に解するべきであるのかという点が課題となる。つまり、減価償却の計算方法を具体的に定めた事業の用に供しているとした減価償却資産の対象資産の選定と、一般論としての必要経費としての法令解釈に依拠することになるだろう。

この事業の用に供するという判断は、先行する映画フィルムを用いた租税回避の事例、回線設備の個別計上の是非が争われた事例等においてその具体的な判断が問われているものであるが、具体的に資産として機能面において実際に機能しているのか否か判断されており、多用途への利用が想定される資産への専有割合の判断が課題とされているものではない。すなわち、共用資産の区分を念頭においたアプローチではなく、かかる点において事業に供するを如何に判断するのか、実際にこの区分を如何にして行うのかという点は法令解釈上の課題となるものと考えられる。下記の用に判断においても業務との関連性など、客観性の確保などの必要経費としての判断が基礎となることは経費計上の一種であることからも回避され得ない。

「所得税法第37条第1項に規定する販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用については、当該業務の遂行と関連し、かつ、業務の遂行上必要であることが要件とされ、その支出する金員が業務遂行上必要か否かの判断においては、単に個人事業者の主観的判断のみではなく、直接かつ通常必要なものとして客観的に必要経費として認識できるものでなければならないと解するのが相当である。」

しかしながら、そもそも減価償却に関連する経費は、直接的な所得・収入との因果関係が関連付けられているものではなく、そもそも、このような共用経費における按分自身、その按分方法は、他者との取引とは異なり、第三者の関与がなく、内部取引として捉えられ、無制限な事業専有割合が算定されることは恣意的な経費計上が懸念されるものであり、また、恣意的な経費否認等の可能性も高まる。かかる点において減価償却とは異なり、共用資産・共用経費の按分に関しては損金経理要件や限度額の算定が行われておらず、如何にして、上記のように必要経費としての客観性を担保された形で経費計上を認めるべきであるのかという点が課題となるものと考えられる。この点が実務上も指針として明確的な状況にない点を示唆している。特に本件において中心となっている施行令に定める家事関連費との明確な区分は課題であり、立法による事前申請など立法措置が検討されるべきと考えられる。

第九六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

本件においては具体的な使用の状況(使用曜日、走行距離)から具体的に事業においての必要性を特定し、その上で事業専有割合が判断されている。最終的には課税庁が主張する事業専有割合が肯定されたものであるが、共用、混合的な使用状況にある場合は、その按分が事業の用に供するという点において法令に合致している処理であることは上記のとおりであるが、この具体的な判断が注目される。使用曜日や走行距離が具体的な判断基準として採用されているが、請求人が採用する単年度ベースの利用状況は、収入の変動から鑑みて、その因果関係が明示的ではないとして否定しており(但し、減価償却資産の性格上、所得との因果関係が必ずしも直接的ではないことからもこの判断には疑問もあるが)、算定方法として客観性が確保されているのか否かという点が重要視されている(車両での移動先等の明示も含む)。かかるような処理の背景として上記のように所得税法施行令に定める家事関連費との関連がその起点となっていることは留意されるべきであろう。すなわち、共用、混合経費の按分において必要性の立証のみならず、必要部分の明示的な区分が可能であることをその経費算入の要件として法令上明記している点がこのような判断プロセスを支えている。このように考えるならば、共用資産、経費の按分においては、この区分においては、必要性の立証のみならず、必要部分の明示的な(客観性を確保した上で)区分の存在が重要な要件となるものと考えられる。法令解釈としてはこの必要である部分とは如何なる意義を有するものであり、どの程度の立証が必要であるのかという点を検討課題とするべきであるものと考えるが、このように事実上の立証責任の転換が行われており、納税者にその事業の用に供していることの立証が求められていることは重要な点であると認識されるべきである。このように考えると事業の用に供しているという点と専有に関して、減価償却に対する法規定の基本的な趣旨からより検討すべきともいえるのかもしれない。

なお、以上のように本件の中心的な争点は減価償却としての資産の利用状況の判定であることは言うまでもないが、本件においてはかかる資産の事業に対する必要性の認定にあたり、事業用として実際の利用のみならず、利用の可能性も含んだものとして請求人から主張されている。具体的には、事業のため移動するための車両としての利用のみならず、24時間対応するための準備的な段階にあることも当該車両の必要性を主張している。これはいわば事業に関する必要性を、より拡張的に捉え、具体的に因果関係があるものとして必要性がある場合のみならず、利用の可能性がある場合も含むものとして、拡張的に可能性も考慮したものでと解しているものと考えられる。事業の経営者として、実際の舵取りにおいてはこのような可能性への配慮が必要であることは一般論として必ずしも否定されるべきものとしては捉えることは困難であるが、租税法規においてこの部分を如何にして評価すべきであるのかという点は、従前よりその必要性の解釈として問題とされているものと考えられる。そもそも可能性といえど、事業内容、可能性の程度において多種多様であり、一律に法規定で処理することが可能であるのかは疑問であるが、如何なる点を法はかかる拡張的な経費計上を肯定する考えに求めているのか、如何なるものとその経費において具備すべきものとしているのかという点は法の枠組みとして重要であろう。本件における事業専有割合もこの点において影響される、所得との関連において直接的ではないという点で、減価償却資産・共用資産の按分においてはより重要な要因であるようにも考えられよう。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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