さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は不動産取引における保有資産を仲介業者等を経由させて実質的に損だしを行っていることを、否定すべく、当該中間取引の真実性を否定することで対応しようとした事例です。
具体的には、不動産取引業を営む請求人が不動産取引につき、仲介業者等への売却を行い、もって中間的な取引が経由することで損だしが行われているような状況であり、一連の取引の真実性はなく、その実質において中間取引を否定した課税庁の判断につき適否が争われている事例である。関連する取引においては、実質的経営者や配偶者などの多様な利害関係者が絡んでくる取引であり、課税庁が主張するように、その取引に対する実質的な存在を疑われたとしても致し方ないような本件の事実関係であるが、最終的に課税庁の主張する取引の真実性否定が排斥されている状況であり、判断としては取引の存在は認めている。後述するように、調査手続等の争点も含むのが本件ではあるが、その課税庁が主張する実質的な取引に対する租税法規としての評価とその実在性を肯定した事例として本件は特徴的でもあり、かかる点において、如何なる点をもって事実関係としてその実在性を裏付けているのであるのかという点は、参考となるべき事例であるように考えられる。
一般に本件において争点とされるような租税法規においてその対象となる取引の真実性が否定されるような状況は、基本的に租税回避との境界線、いわば仮装取引(いわゆる通謀虚偽表示)に基づく、取引の真実性(無効)との議論とよく課税庁が主張する実質課税の原則(最近はこのような原則の存在は正面から語られることは少なくなっているようであるが、約10年前までは、税大のテキストにおいても実質所得者課税の原則の部分を実質課税の原則として紹介されていた)が語られることが多いものであるが、その適用範囲は明確ではない(実際の現場においてはどのように用いられているものであろうか、この点は実務家に聞いてみたいところではある)。この点の混在があるように考えられる。租税負担の公平性を基礎としている租税回避行為への対応と通謀虚偽表示によって当該取引の真実性が失われているような状況(そもそもとしての取引は無効)とは理念的に異なるものであり、現状はその混在、概念的に区分がなされていないようにも考えられる。本件でも実在性を議論対象としているが、その対応は、従前と基本的に変わらないものといえよう。租税回避行為に関しては、実際の取引としては異常な法形式を採用しつつも基本的にその取引の真実性が疑われるものではなく、租税負担の回避等を図っているものであり、私法上の選択可能性の濫用的な取引である。この濫用を如何にして対応して行くのかという点が課題であり、租税法律主義に関する基本的な要請としては、同族会社の行為計算否認の規定など、個別的な否認規定の存在等の法的な根拠を当該行為の否認には必要なものであると解すべきであり、実質的な課税という不明瞭な取扱をもって対応すべきものではなく、概念的に明瞭に区分される必要があろう(最も実際の取引においてその区分が必ずしも容易ではないことも重要な点であろうが、かかる点は一般的な否認規定の存在などをもって対応すべきものであり、実質課税のような納得の良い文言で対応すべきものではないだろう(法的根拠の曖昧な状況ではなく)、私見としては、具体的な適用要件、その定義は議論の余地があるものの、現在の複雑な租税回避の存在を前提として捉えるならば、具体的な判断方法を定めるなどして、同族会社の行為計算否認の拡張など一般的な否認規定の存在は法的根拠として導入が図られるべきものとも考えられる。
本件においても低額な取引を初回において請求人が行っており(約1/5の金額)、かかる点が異常な取引(経済的に異常ではあるが、金額の操作という点では特段、珍しいものではないが)であり、着目されたものであろうが、金銭のやり取り、所有権移転登記の存在等、客観的に取引の実在性を否定するような状況ではなかったことが本件の課税庁の判断を否定している点であろう。課税庁の主張の根拠は、取引当事者の証言において、中間の仲介者にあったこともないとの証言が基礎となっている点は、客観的な上記資料を否定するものとしては主観的な要因に依拠しているものと評価せざるを得ない。最終的には、下記のように法人税法22条の規定を活用して適正な時価をもって取引したものとして、取引の価額を修正し、実際の取引価額に近似させることで損だしの経済的な効果を否定している。この判断は、法人税法の特徴でもあり、実際の取引内容よりも経済的な成果を反映させる下記22条2項の規定を活用した本件判断は法人税法の本質を理解した判断であるだろう。このような取引価額の操作は古典的なものであり、実際の対応方法としては低額譲渡(下記規定は無償譲渡の規定であり、解釈上低額譲渡にまでその適用が及ぶかは争点となりうるが、公平負担の観点から、かかる部分まで対応してると解すべきであろう。最新の法改正においてはこの取引価格の算定は価額によるべきものとされており、立法的に解決されているものと考えられるが)として修正を行い、差額部分を寄附金として取り扱う、非常にオーソドックスな対応方法としてなっており、本件としては、ティーチングケースとして、このような対応を併記している点は参考となるべきものといえよう。
法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定している
法人税法第22条第2項は、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額の一つとして、無償による資産の譲渡に係る当該事業年度の収益の額を規定しているが、これは、法人が資産を他に譲渡する場合は、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識されるからである。そうすると、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡の場合でも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的 価値が認められるものであるから、益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと当該資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である。
以上のように本件の中心的な争点は請求人がなした取引の真実性が、実在性として、中間売買の不成立が問題となっているものであり、最終的には低額譲渡しての取扱を行っているものである。当初の課税庁の主張とは異なる判断が行われており、不服審査として適切な納税者の主張が行われているのかという点は疑問の余地があるが、争点主義・総額主義の観点からも古典的なケースではあるものの、裁決段階では、課税庁の主張は一貫しており、これに対する反論の機会は一定程度、担保されているようにも考えられる。もし課税庁が主張事実が変更されていれば、本件の理由附記、調査終了の際の説明の課題がより課題となってくるだろう。
特に調査終了の際の手続の際の説明に関して、本件は興味深い点を提供している。具体的に本件は、請求人の実質的な経営者に対して当該修了手続としての説明を実施している。この説明対象としての妥当性、調査手続としての瑕疵の存在の評価が課題となっているものである。
この調査終了の手続は下記のように平成23年の税制改正によって導入されたものであり、まだまだその位置付け、議論すべき点、法的な評価等が必ずしも定まっているとはいい難い(この点について特に説明義務について議論したものとして拙稿参照)。かかる点において本件は具体的な対象者として実質的な経営者のような存在への説明を行ったことが如何に評価されるべきであるのか、瑕疵として捉えられるべきものであるのかという点において課税庁の考え方を理解する点で参考となるべきものと考えられる。実際においてこの調査終了の際の手続が如何になるように運用されているのかという点は実務家の意見を聞いてみたいところであるが、いかがだろうか。
(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
5 実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。
6 第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる
上記のようにこの調査終了の際の手続に関しては平成23年における説明責任の強化を企図した税制改正により導入されたものである。但し、私見ではあるが、必ずしもこの説明責任という基礎的な目的が如何なる法的な責任を指しているのか定かではなく、単なる目標的なものを表すものであるのではないかとして具体的な解釈の指針として機能するものであるのかは議論の余地があるものと評価される。いずれにしても、この手続の租税法規における位置付けは従前の調査手続きに関する議論との延長線上にあるのか否か等、その具体的な性格は必ずしも明らかとなっていないものと考えられる。
判断では手続き上の瑕疵として実質的な経営者(そもそもこれがどの程度の位置付けであるのかという点は様々な状況が想定される)への説明が該当するとしても、課税処分の効力において如何なるものと捉えられるのかという点から検討を行っている。すなわち、従前の手続上の議論としても行われたように、一定の瑕疵が会ったとしてもその瑕疵が重大なものがあった場合においてのみ課税処分の無効性が問われるものと解されるものであるという点に依拠して、重大な瑕疵としての評価とはなりえない(確かに実質的な経営者に対して行っておれば、重大な瑕疵として評価することは困難であろう)として課税処分の有効性を判断している。しかしながら、課税処分の手続として、かかるような新規の改正により導入された手続の性格が如何なるものであるのか、従前のものと基本的に同一であるのかという点がまずは検討されるべきであろう。かかる点からの検討が実施されていない。私見としては、そもそもの前提となる質問検査の基本的な趣旨は変更となっているものではなく、租税負担の公平性を担保すべき制度であり、この点において基本的な性格は変わっておらず、、また調査手続きにおいては様々な調査が導入されており、明示的な法的な評価に関する規定や判示が存在しない以上、一律に瑕疵をもって当該処分の効力を失する状況となることは均衡に反するものと考えられるため、当該制度にいても従前同様瑕疵が会った場合においてもその重大性に対する一定の制限、より限定的な制限が付与されているものと解すべきものといえる。しかるに本件のように重大な瑕疵の不存在というテストを挟むことが妥当であるように考えられる。この点は上記のようなスローガン的な改正趣旨をもってして(おそらくは説明責任の強化は、反論の機会の確保において一定の担保されていることを保証するものと解すべきであろう)も変化するものと捉えることは困難であろう。もちろん、改正の趣旨をより適格に反映させるためには、当該手続の瑕疵が、処分の適格性を損なうものであるという主張もあり得ようことは想定される。
しかしながら、この重大性を如何に評価すべきであるのかという点は、議論の余地がある。従来この重大性に関しては刑罰法規との状況など極めて重大な瑕疵に関するものが判示においては明らかにされているが、如何なる程度が法的な保証として機能するものであるのかという点は必ずしも定かとなっていないものと考えられる。本来ならば改正の趣旨目的から具体的にその性格が議論されるべきであるが、上記のようにその点は必ずしも定かとなっていない。私見としては手続の相互関係、特に、終了後、更正等においては理由附記の制度が担保されていること等の点も鑑みれば(かかる点からは、この手続における瑕疵は治癒の余地が大きいだろう)、勧奨等への対応や法的な安定の確保等一定の反論の機会の保障を確保することと捉え、その重大性を検討することは可能であろうが、かかる点はより検討が必要であるようにも考えられる。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。
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