具体的に本件は、請求人が相続により取得した相続財産の評価につき、不動産鑑定による評価を適用して相続税申告を行ったところ、その適用が否認され、財産評価基本通達における評価方法によるべきであるとして、更正処分を行ったことに対してその取消を求めたものである。不動産鑑定評価における鑑定方法の合理性が問題となったものであり、公示地価からの離脱を主としつつも、原価法の適用、比準対象、事情補正等多様な点を争点としているものであり、実務的にも参考となるような事例ではないだろうか。主たる争点である公示地価からの離脱も含め種々の争点に対してはいずれもその合理性を否定しており、裁決としては特段珍しいものではないのかもしれないが、不動産鑑定評価による価額を相続税法の価額として適格性を有するものであるのか否かという点は、従前より多様な争点・事例が存在する分野であり、本件もその類型に属するものであろう。しかしながら、より具体的に、如何なる点をもってその不動産鑑定評価における合理性を否定しているのかという点は、多様な鑑定評価について丁寧に検討しており、その判断は実務上も本件の特徴として参考となるべき事例であるといえよう。
しかしながら、その合理性を判断するにあたっては、比準対象となる財産評価基本通達による評価等がより合理的であるのか否かという点が課題となる。如何なる点で鑑定評価における評価方法が財産評価基本通達による評価と比して合理性を劣位であると判断されるのかという点は、詳細に検討されていない。基本的には従前の最判が示しているように財産評価基本通達における評価の一般的な合理性がまずは大前提としてと捉えられ、不動産鑑定評価における評価方法が当該評価における評価額として時価を超えるものであるのか否かという点に対する推定を覆すものであるのかどうか、という判断枠組みの中で検討が行われている。一般的な推定として財産評価基本通達による評価を位置づけている点は従前の判断、裁判例とも整合的であり、この判断枠組みは留意されるべきものであろう。鑑定対象の評価額の差異が非常に注目を受ける(世の中でも某国有地の件で揉めているようですが、そもそも不動産鑑定は、必ずしも合理性が保証されているものではないとの理解は一般にはないのでしょうね・・・)ものであるが、本質的にその判断枠組みとしては、採用された評価方法が適切であるのか否か、という点が起点となる。従って如何なる点からその合理性、適切であるのかという点が判断されるべきであるのかという点が、判断の拠り所が必要となろう。この点については、法令解釈によるべきであり、以下のように評価の原則を定めた相続税法22条によることになろう。すなわち、財産科学としての取得における(タイミング)と時価の解釈によるべきものと考えられる。相続税法において時価として如何なるものを要請しているものであるのかという点が課題であり、この点がその評価方法の合理性にまで影響を及ぼすものとなろう。具体的な相続税法における評価の解釈としては従前と以下のように本件と変わるものではなく、かかる点において特徴的なものではないものであるが(裁決である以上、従前と大きな差異が生じることはあり得ないが)、争い方として公示地価からの離脱を否定する等、時価としての推定を覆す際に如何なる立証を行うべきであるのかという点を検討する上では参考となるものであると捉えられる。いずれにしても本件は広範囲に適用した不動産鑑定評価に於いて採用された評価方法の合理性が検討されており、鑑定評価の合理性を検討する上で参考となるものであると評価される。
第二二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
以上のように、本件では、相続税申告において適用された不動産鑑定評価の合理性が中心的な争点となっている。かかる点について本件判断では、以下のように、
「相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかしながら、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の 評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」
これは明示的ではないものの従前の評価が争われた事例と整合的であり、相続開始のタイミングにおいて客観性を伴った交換による価値が原則的なものであると解されており、タイミングは相続税法においては相続開始時であると自明であるが(それであっても、保証や時効、和解等の後発的な事情の反映は課題とされるが)、客観性をもった交換価値としての時価の要因が重要視されているものである。客観性を有していることをその基礎としていることから、主観的な要因や恣意の介在を防ぐことが租税法規、相続税法における時価の要因として重要な要因となっていることが考えられる。このように理解するならば続いて判断において、評価方法としての財産評価基本通達の位置づけが理解されることは、基本的に妥当性を有するものと理解されよう。
「そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格又は納付すべき税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。」
このように財産評価基本通達による評価は、画一的ではあるものの、一定の評価方法としての合理性と、全国一律に評価することで課税庁の恣意を排し一定の公平性を確保するという点で相続税法が求める客観性を確保する点でいわば二重の意味での合理性を有していることになる。従って、財産評価基本通達による評価は重要視され、その位置づけとして相続税法が求める時価として適合性を有していることとして、事実上の推認を受けるものとして理解され、その合理性が否定されるべき状況が下記のように限定されるべき状況に至ることは、
「したがって、このような場合には、評価通達の定めに従ってしたという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがあるなど、その評価の方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることにより、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価は、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることが立証されるなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」
本件のみならず、相続税法、あるいは租税法規一般における財産評価において基礎として理解されるべきであろう。
そもそも、わが国の租税法規において基本的な要請として租税法律主義が採用されている以上、このような事実上の推定基準としての位置づけを解釈指針である評価通達が位置づけられることが問題であるとも言えようが、時価の算定がそもそも非常に多様であるということの反映としてやむを得ないとも考えられよう。しかしながら対比として地方税法において一定の委任を受けている固定資産税における評価基準の状況もまた、検討すべきであるかもしれない。
また本件における評価方法の合理性は、主として公示地価における評価が鑑定士が選んだ事例との対比において(そもそもこの選定が主観的な要因を含むような状況であり、適正な基準に基づいているのかどうかという点で本件の鑑定評価の合理性は厳しいものといえるが)、この公示地価は、以下のように法令でその性格が定められており、
以上のように、本件では、相続税申告において適用された不動産鑑定評価の合理性が中心的な争点となっている。かかる点について本件判断では、以下のように、
「相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかしながら、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の 評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」
これは明示的ではないものの従前の評価が争われた事例と整合的であり、相続開始のタイミングにおいて客観性を伴った交換による価値が原則的なものであると解されており、タイミングは相続税法においては相続開始時であると自明であるが(それであっても、保証や時効、和解等の後発的な事情の反映は課題とされるが)、客観性をもった交換価値としての時価の要因が重要視されているものである。客観性を有していることをその基礎としていることから、主観的な要因や恣意の介在を防ぐことが租税法規、相続税法における時価の要因として重要な要因となっていることが考えられる。このように理解するならば続いて判断において、評価方法としての財産評価基本通達の位置づけが理解されることは、基本的に妥当性を有するものと理解されよう。
「そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格又は納付すべき税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。」
このように財産評価基本通達による評価は、画一的ではあるものの、一定の評価方法としての合理性と、全国一律に評価することで課税庁の恣意を排し一定の公平性を確保するという点で相続税法が求める客観性を確保する点でいわば二重の意味での合理性を有していることになる。従って、財産評価基本通達による評価は重要視され、その位置づけとして相続税法が求める時価として適合性を有していることとして、事実上の推認を受けるものとして理解され、その合理性が否定されるべき状況が下記のように限定されるべき状況に至ることは、
「したがって、このような場合には、評価通達の定めに従ってしたという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがあるなど、その評価の方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることにより、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価は、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることが立証されるなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」
本件のみならず、相続税法、あるいは租税法規一般における財産評価において基礎として理解されるべきであろう。
そもそも、わが国の租税法規において基本的な要請として租税法律主義が採用されている以上、このような事実上の推定基準としての位置づけを解釈指針である評価通達が位置づけられることが問題であるとも言えようが、時価の算定がそもそも非常に多様であるということの反映としてやむを得ないとも考えられよう。しかしながら対比として地方税法において一定の委任を受けている固定資産税における評価基準の状況もまた、検討すべきであるかもしれない。
また本件における評価方法の合理性は、主として公示地価における評価が鑑定士が選んだ事例との対比において(そもそもこの選定が主観的な要因を含むような状況であり、適正な基準に基づいているのかどうかという点で本件の鑑定評価の合理性は厳しいものといえるが)、この公示地価は、以下のように法令でその性格が定められており、
第一条 この法律は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もつて適正な地価の形成に寄与することを目的とする。
第一条の二 都市及びその周辺の地域等において、土地の取引を行なう者は、取引の対象土地に類似する利用価値を有すると認められる標準地について公示された価格を指標として取引を行なうよう努めなければならない。
基本的にその離脱、すなわち当該公示を離れる場合には一定の合理性の担保が必要となる。本件では鑑定士は実勢の取引価格との対比をもって低額であることをその理由としてあげているが、かかる点は単なる事実関係の指摘に留まるものであり、鑑定の評価として公示地価の合理性が推定として覆す合理的な理由の提示が必要と考えられる。この点はこの性格が租税法規においても相続税法が要請する時価の解釈と整合的であり、上記財産評価基本通達における評価の合理性を事実上同様の位置づけにあるものとしてリk祭されるべきであるとも捉えられているともいえる。取引事例との対比においては比準対象となる取引の選定方法や適用に関しては上記時価の解釈において比して合理性があることを立証する必要があることは念頭に置かれるべきものといえよう。本件のように一般的財産評価通達における評価方法の合理性を提示するにとどまっており、本件の対象となる不動産等に対する個別具体的な評価としての合理性が検討されていないことは、バランスを欠いているとの指摘もありえようが、上記のように二重の意味での合理性を有している財産評価基本通達における離脱、公示地価からの離脱に関しては強い合理性の推定を覆す必要性があることは、すなわち鑑定評価の合理性は相続税法、あるいは租税法規において限定的な状況にあることは留意されるべきものであると考えられる。
以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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