2018年4月13日金曜日

判例裁決紹介(名古屋地判平成29年6月29日、スワップと混蔵寄託の複合取引と譲渡所得の発生)

さてまた興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判平成29年6月29日で、金地金のスワップ取引と混蔵寄託の複合的な取引における譲渡所得の発生が問題となっているものです。

具体的には、原告が保有する金地金を貴金属製造販売会社に対して購入保管に関する契約を行う際に、行った保有している金地金と市場取引による金地金のスワップを組み込んでいる契約形態において、当該スワップ(交換)の時点で譲渡所得が発生したとして課税庁が更正処分を行ってことに対して、当該交換は寄託に便宜のための付随行為であり、経済的には価値がなく、同種同僚の交換であって資産の譲渡には該当しないとしてその取消を求めたものである。金地金の取引においてその取引対象物の性格上、盗難等の対応のため自宅等での保管ではなく、寄託等をもって保管契約を行うものであるが、本件は所有主が保管物に対して所有権を留保した上で預ける混蔵寄託を採用しており、実質的には所有権の変動も伴っていない状況であるが、かかるようなスワップと寄託の複合的な取引に対する租税法規における評価が課題となっている事例である。中心的な争点は、下記のように所得税法33条に定める譲渡所得の発生があったのか、という点である。特殊な金地金における取引慣行を反映した事例であり、当該原告がなした契約の事実関係が以下に評価しうるものであるのかという点が中心となっているが、その中で、スワップ契約を挟んでいるものであるが、このような金融商品として高度な(印象)取引を組み込んでいるものであるが、基本的に民事法に定める寄託(今後はこの性格も民法改正で如何になるのかという点は租税法規においても本件とは直接的な関連はないものの派生的な検討を行う上で重要であろうが)と交換を組み合わせた複合的な取引の存在を本件はその起点としており、かかる契約における内容が本質的な争点であり、その所得税法上の評価、譲渡所得との対応が問題と考えられる。

金融取引はその性質上、契約内容により多様な法的形式・契約構成により、目的とする経済的成果を達成することが可能であり、売買の繰り返しによる資金の貸付と同様の形式を生み出すような状況(レポ取引やイスラム金融等が対象)等、金融取引としての運用の一形態として実務的な慣行が発生しており、もちろん金融取引以外においてもこのような複合的な取引は形成されるものであるが(交換による売買等)、契約自由の原則が基礎となる民事法の取引評価のみならず、租税法規において如何にしてこのような取引に対して法規の適用を行っていくべきであるのか点が背景にあるものとして理解されるべきであろう。本件は上記のようにこのような金融取引特に金地金の取引における特殊な複合的な取引における譲渡所得の発生を問うものであるが、複合的な取引において如何にして分解し、譲渡所得の発生を認めるのかという点において課税庁の主張を認めた本件判示は参考になるものといえよう(譲渡の意義をより具体的に表すという意味でも)。


所得税法
(譲渡所得)
第三三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得

以上のように本件の中心的な争点は対象となった契約による所得税法33条における譲渡所得の要件たる資産の譲渡に該当するような取引が行われているのか否かという点である。判示ではまず、以下のように、従前の最判を引用し、譲渡所得の本質的な性格をキャピタル・ゲイン、保有期間における値上がり益として捉え、資産における支配の移転があったタイミングをもってさらには、かかるような資産の移転にかかる一切の行為をその対象として解している。すなわち譲渡等の所有権の移転にかかわらず、キャピタルゲインを課税対象としていることから移転のタイミングを包括的に課税することとしている。私見としてもこの点は異論がないところでもあり(かかる解釈から財産分与もまた所得課税の対象となることになるが)、包括的に課税対象を構成する我が国の現行所得税法とも整合的であって肯定されるべきものと考えられる。

判示では、下記のように最判を基本的に引用し、譲渡所得の基本的な性格を捉えた上で、従前と整合性をとっており、資産の譲渡は上記のように広範囲における取引契約を対象としている(例えば財産分与等)ものと解されるべきである。すなわち資産の譲渡の概念は所得税法において固有概念として捉えられることになるが、ここで問題となるのが、資産の移転(支配の)とは如何なるものと捉えられるのかという点である。本件でもスワップにより金地金の対象物は変更されているが(同種同量であるが)所有権は維持されており、如何なる意義をもって資産の移転が捉えられるべきであるのかという点はより検討が必要となろう。キャピタルゲインとしての考え方によれば、支配の移転をもって資産の移転と捉えられるものとも言えようが、そもそも対象となる資産が多様であり、支配という概念も必ずしも明示的ではないものといえる。下記判示の後半部分では、現実的な執行にも配慮して未実現の利得は課税対象から排除して、実現した時を課税のタイミングとしており、しかるに抽象的な利得段階では対象としていないことを鑑みるに、実現した段階をもって資産・支配の移転があったものとも解し得よう。但しこの部分では実現という用語が使用されているが、かかる部分が会計学における実現概念との混同を生じるとの懸念もある(同一であるのか具体的な差異も明らかとなっていない)。そもそも会計学における実現概念自身もその具体的な意義を明らかとしているものであるのか定かではないが、この実現という用語自身の具体的な意義も示されておらず、法的概念としても、また指針としても、甚だ心許ない。最終的な判示引用からも対価の受入れをもって具体化されるとの判断を行っていることからも、支配の移転は抽象的な利得段階からキャピタルゲインとして具体化されていることを意味するものと考えるべきではないだろうか。かかる点により一定程度執行の便宜も考慮した今日の資産の譲渡の意義として整合的ではないかと考えられる。対価の流入が一つのメルクマールとして具体化を表すものであることは下記最判においても明示的であり、対価の認定、対価の流入を伴わない他の場合における価値の具体化を如何にして認識するべきであるのかという点が今後の課題となろう。換言すれば、資産の譲渡とは、資産の移転及び価値の具体化の二要件が譲渡をしての要件となり、譲渡所得の発生を判断するものと考えられ、本件におけるスワップによる価値の具体化がありうるものであると評価しうるのかという点が本件の事実関係、契約関係において、評価が行われることになる。

譲渡所得の本質は、資産の値上がりにより当該資産の所有者に帰属する増加益(いわゆるキャピタル・ゲイン)であり、譲渡所得に対する課税は、上記増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要せず、所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解すべきである〔最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、昭和50年判決参照〕。そして、資産の値上がり益である増加益は、それが抽象的に発生しているにとどまる限りは、それを捕捉し評価して課税することが困難であることから、未実現の経済的利得として所得税の課税対象とされていないのであり、原則として、当該資産の譲渡により増加益が所得として実現したときに所得税の課税対象となり〔最高裁平成15年(行ヒ)第217号同18年4月20日第一小法廷判決・裁判集民事220号141頁参照〕、売買、交換等による資産の移転が対価の受入れを伴うものであるときは、その増加益は当該対価のうちに具体化されるものであると解するのが相当である〔最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁参照〕。」


かかる判断により、判示では、当該契約を分解し、スワップ(交換)と寄託を組み合わせたものとして評価しており、譲渡所得の認定を行っている。一般的にこのような取引において、事実関係を捉え分解して租税法規を適用することになるのかという点は必ずしも依拠すべき基準が見出されず、もって納税者の予測可能性に反するような状況も想定されることになる。事実認定は裁判所の判断に属すべきものであるが、このように分解して租税法規を適用する以上、租税法規の基本的要請として納税者の取引に対する安定性を重視する立場からは、その分解の基準が必要とも考えられる。所得や対象となる取引は一般的な基準は困難でもあろうが少なくとも本件のように譲渡が介在する取引においては、上記のように抽象的な段階を超えて、価値の具体化等の状況が明示的な状況であることが必要であり、かかる点において各個別法規の具体的な解釈に依拠することになるのではないだろうか。

なお、原告が主張するように、単なるこの取引は便宜的なものであり、経済的成果を得ていないとのことで資産の譲渡には該当しないという主張もあり得よう。具体的な利得に対する支配の移転が行われておらず継続的であるがゆえに、その課税対象とすることは否定されるべきものであると考えに基づくものである。判示では有償無償を問わないこと(対価が明確ではない)と利得に対する支配の有無は必ずしも同一ではないものであり、混同があるようにも捉えられるが、たしかに課税対象となる利得に対して納税者が支配を及ぼしていないのであれば、それは租税を負担する能力がなく(実際には納税資金も)、課税対象とすることに違和感があることは理解される。しかしながら、このように利得の支配を判断の基準に置くとするならば、繰延べが行われる可能性もあり、交換や適格組織再編等において明文をもって規定されている以外にも、このように課税の繰延べを認める解釈となりかねず、かえって包括的に課税対象を構成し、また租税負担の公平性を担保することが困難となるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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