具体的には、建物等を売却し譲渡所得を得た請求人が当該譲渡所得の取得費あるいは譲渡費用として、弁護士費用を含めて確定申告を行ったところ、課税庁は当該費用は取得費等に該当しないとして更正処分を行ったことを不服として提起されたものである。譲渡対象となった資産は相続により取得したものであり、遺産分割協議による相続分である。請求人は当該遺産分割協議に関して訴訟を提起しており、当該財産以外の帰属を求めて争いを行ったため弁護士費用を支出しており、本件における弁護士費用は当該訴訟に関する費用であり、この部分が相続に関わるものであるとはいえ、譲渡所得の取得費等に該当するのか否かという点が問題になっているものである。他にも固定資産税や弁護士への贈答費用なども対象として申告しているがこの点に関しては主たる争点とはなっていない。判断では当該弁護士費用等の取得費等該当性は否定されているが、判断にあたっては下記のように何をもって所得税法における取得費と解するべきであるのかという点が背景となっているものである。
最終的な取得費の解釈としては従前のものと整合的であり、特段法令解釈上、特徴的なものではないが、取得費は譲渡所得の控除要因であり、具体的に如何なるものが対象となるものであるのかという点は、すなわち、その範囲が如何なるものであるのかという点は、譲渡所得の金額算定上重要な課題であり、本件もその具体的な範囲を検討する上で、事実関係を背景として参考となる事例と考えられる。
弁護士が関与した訴訟においては、請求人は最終的に遺産分割協議で定まった財産の帰属関係に関してその主張を認められる全面的に敗訴しており、訴訟によって新たに資産を取得したものではない。請求人はその主張において、この得られるべき資産が失われたことももってまた、譲渡費用に該当するものとも主張しており、自己の見解に(あるいは自己の主張を納税負担において叶えようとするものであり)、論理的な背景が存在しているものとは捉え難く、主張も充分になされていない。この点で証拠資料の不備等もあって充分な主張、立証が行われたものでないこともまた事実であり、かかる点はこの事例を理解する上では考慮すべきものともいえる。取得費等は、その意義につき後述するが、基本的に当該譲渡対象資産の取得に要したものと考えるべきであり、本件における弁護士費用は、あくまでもその対象資産以外を取得するために相続紛争を解決し、訴訟によって得ることを目的として支出されたものであり、新たに資産の取得が行われた性格を有しているものではない。最終的にはこの判断を支える上でこの点が考慮対象として重視されており、取得費該当性を判断する根拠となっているものと考えられる。故に留意すべきは、必ずしも相続の遺産分割協議に関する費用としての弁護士費用一般においてその取得費該当性が否定されているものではないこともまた、理解されるべきであり、一般的に弁護士費用が取得費等として否定的に捉えられると解することは早計と考えられる。
第三三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
【令】第七十九条
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
【令】第八十一条
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
一 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの
譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
第三八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
(譲渡費用の範囲)
33-7 法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」(以下33-11までにおいて「譲渡費用」という。)とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。
- (1) 資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
- (2) (1)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。以下33-8までにおいて同じ。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用
(注) 譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
以上のように、本件の中心的な争点は、弁護士費用が取得費として該当するのか否かという点であり、前提として如何なるものが所得税法において取得費として考えられるのかという点が起点となっている。この点につき、上記のように条文は資産の取得に要した費用であり、判断においてもその解釈は下記のように、踏襲されている。但し、客観的価格を構成すべきとしている点が興味深い点である、これをより一般的に活用しうるものであるのかという点はさらに検討が必要であろう。所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めのあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定しているところ、ここにいう「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するための付随費用の額も含まれる(なお、相続人が資産を相続により取得するために要した付随費用の額も、「資産の取得に要した金額」に含まれる。)が、他方、当該資産
の維持管理に要する費用等はこれに含まれないものと解される。
以上のように基本的に判断の前提となる取得費の解釈としては従前と整合的である。しかしながら何をもって取得に要したものと判断するのかという点は必ずしも定かではなく、議論の余地があるものともいえる。譲渡所得において譲渡という文言も多様な意義を有するものであるという点は従来議論されているが、取得という文言もまた多義的であり、幅広い意義を有しているものと考えられる。しかるにこれに依拠する取得費もまた、必ずしも一義的とはいえず、付随費用がこれを構成することは許容されようが、如何なる程度を持って許容するのかという点は事例の集積を待つ他ないのかもしれない。
また譲渡費用に関しても、上記通達では譲渡に要した費用として通達において仲介手数料等直接要した費用として限定的に解しており、固定資産税等の維持管理に要した費用は対象から除外する旨と判断している。かかる点は本件判断でも踏襲されており(裁決である以上当然でもあるが、)、かかる点の合理性がより検討課題となる。すなわち、事業所得等における必要経費と同様に、如何なる所以をもって直接という文言を導入し、また、それを如何に捉えるべきであるのかという点は定かではないが、譲渡に関連して必要とされるものという点では、変わりがなく、本件のようないわば機会損失、機会費用などのようなものを対象としているという点においては結論は変わりがないものともいえよう(そもそも今回の請求人の主張は、必要性があるというよりも単に関連している程度に留まるものであり、また、立証も不十分であるから結論に左右するものでないが)。また譲渡に要したという点においても、客観的に必要性が立証されうるか否かという点を基礎に判断を行っており、判断プロセスとして、納税者にとっての必要性や目的意識等が左右される状況にないことはこの譲渡費用の該当性を判断する上で、特徴的であろう。客観性を如何に担保すべきであるのかという点が課題となるものであるが、租税法規の基本的な要請として恣意性を排除することで納税者感の公平性を担保するという点からは法規の解釈としては合理性を有するものと評価されるべきであろう。
資産の譲渡に当たって支出された費用が、所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみてその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものと解される。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
0 件のコメント:
コメントを投稿