2018年2月5日月曜日

判例裁決紹介(福岡地判平成28年7月28日、給与所得と事業所得の区分)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は福岡地判平成28728日で、キャバレー・クラブ等で働いているホステス等に対して支払れた金員の所得区分、すなわち、事業所得、給与所得のいずれかに該当するのかが課題となったものです。

具体的には、キャバレーやバーを経営している原告がそのクラブ等で働いているホステス等に対して支払った報酬につき、課税庁が給与所得にがいとうするとして源泉徴収義務がある旨の納税告知処分を行ったことに対して、当該報酬は給与ではなく、事業所得に該当するとして当該処分の取り消しを求めた事例である。

中心的な争点としては上記のように本件では原告法人が営むクラブ等で、行われたホステス等に対する報酬・支払が、給与所得であるのか事業所得に該当するのかという点が課題となっているものであり、直接的には給与所得に該当することが前提として原告の源泉徴収義務の存否が直接的な争点となっているものと考えられる。従って給与所得と事業所得の区分を如何なる基準に基づき判断されるべきであるのかという点が課題となるものであり、当該区分に関しては、従来議論が多い部分、判例等の事例も豊富に存在する論点である、しかしながら、下記に引用する最判の基準が基本的に当該所得の区分に関する規範を提供しているものであり、本件も基本的にこの判決において明らかとされた基準をベースに、検討が行われている。ゆえに、基本的に当該所得区分に関する事実関係が基本的に問題となったものであり、法令解釈として特段特徴的なものではないが、基本的に事実関係に基づく判断枠組み、当てはめが中心的な争点となっているものと理解される。

しかしながら給与所得該当性を本件の事実関係から判断している点は、通常この種のホステス等が受け取る金員に関しては報酬として給与ではなく、事業所得であるとして取り扱うことが基本となっている現状が多いものと考えられるので(この点は実務的にはどのような状況であるのかという点は聞いてみたいところではある。本件の原告主張においても一般的にホステス等に対する支払は事業所得である旨の主張が存在している)、かかる点からも本件の結論は一般的な状況とは異なるものといえるのか知れないが、それであるがゆえに、より留意点をしめすものとも評価し得よう。

本件は犯則調査の案件でもあり、裁判において表現されていないような事実関係の要因もあるのかもしれないが、詳細な事実関係に基づき給与所得と事業所得を判断するトレーニングとして、好例となるものではないだろうか。単に形式や慣例に基づく判断ではなく、事実関係と法的基準に則って判断している姿勢は、法令及び裁判例基準の基本的な当てはめであり、かかるような判断枠組みの重要性は租税法の研究としては評価されるべきものかもしれない。

「「およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得(同 法二七条一項、同法施行令六三条一二号)と給与所得(同法二八条一項)のいずれ に該当するかを判断するにあたつては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所 得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目 的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。し たがつて、弁護士の顧問料についても、これを一般的抽象的に事業所得又は給与所 得のいずれかに分類すべきものではなく、その顧問業務の具体的態様に応じて、そ の法的性格を判断しなければならないが、その場合、判断の一応の基準として、両 者を次のように区別するのが相当である。すなわち、事業所得とは、自己の計算と 危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する 意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、  給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提 供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、 とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継 続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるもので あるかどうかか重視されなければならない。」

上記のように本件判示では、弁護士顧問料の所得区分が課題となった昭和56年の最高裁判決(最判昭和56424日)における事業所得と給与所得の区分が引用され判断が行われている。従って本件はこの枠組みへの当てはめが中心的な判断となっているものであり、基本的には事実関係から如何にして給与と事業の所得区分、両所得における境目を如何にして判断するのかという点が中心的な問題となっている。

第二七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

上記法令の記載の通り、基本的に給与所得と事業所得は区分されているものの、単なる法形式、あるいは契約関係によって判断されるものではなく、実質的な内容を反映させて判断すべきものとして捉えられる。特に契約内容等に依拠されるものであり、単に雇用や請負、委任等の法形式を如何に整えようとも具体的な内容にもとづくものとしている点は留意されるべきであろう。比較的小規模な人的役務の提供においては両所得の区分が課題となる事例は非常に多く、実際の区分に関しては多様な事例が積み重ねられているものであるが、基本的に上記最判における基準が基本となっているものと解されている。つまり従属性と独立性が課題となっているものとして判断されているが、本件は特にホステス等に対する従属性、時間的な拘束が根拠となって判断が行われている。近年の判例傾向として従属性に対する判断を重視する見解は少数派となってきており、基本的には独立性を基準として判断する傾向にあるように考えられているが、本件のように未だ従属性を重視する判断をまた存在していることは留意されるべきであろう。少なくとも本件のような事実関係においては、この判断基準が未だ有効性を有していることは留意されるべきものと言えよう。
実務においては以下のように消費税法に基本通達が示す具体的な基準が一義的には活用されるものであるとも考えられるが、かかる区分はあくまでも消費税法における取扱いを示したものであり(そもそも消費税法と所得税法における区分の相違に関しては、重要な検討テーマである)
個人事業者と給与所得者の区分)
111 事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 

私見としてはこのような業種における所得の区分は、非常に相対的、区分の明確なすみわけは困難であると捉えるべきであるとして理解される。この原因が如何なるものから発生するものであるのか、その原因は如何なるゆえんを有するものであるのかという点がまずは検討されるべきかと考えられる。上記のように法令上明らかに両所得は区分されており、源泉徴収や経費控除の考え方等も明らかに異なる。しかしながら本件のように事業所得と給与所得の区分が明示的ではないような状況は多々発生しており、相対的なものであり、事実関係から判断せざるを得ない状況が大いにあり得る。この点の原因、あるいは立法論としての区分の確定、中立的な所得区分の発生を如何にしてあるべきであるのかという点は今後も課題となるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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