2018年1月2日火曜日

判例裁決紹介(高松地判平成28年11月9日、旅費交通費支給の非課税所得該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は高松地判平成28年11月9日で、原告が支給した旅費・交通費が過大であり、非課税所得には該当せず給与所得として源泉徴収義務を負うものとされた事例です。

具体的には、病院を営む原告が非常勤で勤務する医師に対して交通費・出勤手当等を支給していたことにつき、当該交通費等の金員支給がタクシーの利用を前提としたものであり、通常の、社会通念によれば過大であり、直接必要な範囲を超えるものとして認定され、給与所得として源泉徴収義務告知処分を受けたものに対して争っているものである。我が国の所得税法が包括的所得概念を基礎として、給与所得においても28条において給与等の性質を有する給与として(そもそもこの性質が如何なるものであり、その範囲を決定するものを決定する基準が租税法規における課題として古くて新しい問題ではあろう)非常に幅広い概念を採用していることに鑑みれば、実際の金員支給以外にもいわゆるフリンジ・ベネフィットがその課税対象となることに関しては、異論が少ないものと考えられる。本件もそのフリンジ・ベネフィットとして支給される通勤費・旅費手当等の交通費支給が課題となったものであり、この部分に関しては、法規において下記のように明示的に非課税とする定めが存在している項目である。本件においては当該支給金額が通常の範囲内を超過するものであり、その非課税所得該当性が否定されたものである。このような処分につき下記のように法的な根拠として、通常必要であると認められるとする文言の存在が本件の背景にあるものであり、その具体的な意義は如何なるものであるのかという点が本件の中心的な争点となるものと捉えられる。一般的な通勤費に関しては、明示的な法令の基準として事実上20万円のみがあるように考えられ、ほとんど問題となるべきものでないものかもしれないが、旅費手当も含め、その通常必要性が本来の要件であり、この点を如何に解するべきであるのかという点は実務上も参考となるものと捉えられる。また、医師という専門職を前提としたものであるが、個人に高い専門性が属人的に付与されるケースは他にも存在しており、かかる点を交通費支給において考慮しうるものであるのかという点も興味深い点である。

第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

所得税法9条
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
五 給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの

上記のように、本件の中心的な課題は上記法規定に定める非課税所得に対して支給された交通費等が該当するのか否かという点である。上記のように医師に対する過大なし急であり、この過大、正確には上記法規定にある通常必要であると認められる部分が如何なる部分であり、それを具体的にどのように判断し、超過の有無を判断することになるのかという点が問題となっている。

必要経費に関しては、その直接性や必要性の有無に関して如何なる因果関係にあるべきであるのかという点については、多様な論点とともに、多数の事例を伴って議論されている。しかしながら本件は基本的に給与所得を得るために支給されたものであり、給与所得控除との関連もあり、如何なる因果関係を求めているものであるのか点は、必要経費との同程度のものと要求するものであるのかという点も含め法令解釈上の課題となるものと考えられる。本件判示は最終的には社会通念による判断を基調としているように読めるものであるが、いうまでもなく社会通念は非常に曖昧模糊とした概念であり、租税法規が要請がする予測可能性の確保という点において劣位であることは否めないものであろう。
通勤等における社会通念とは如何なるものであるのかという点はそもそも幅のある概念であり、一義的ではない。必要経費のようにその前提とする業務が多様であるような状況とは異なるものであり、通勤等に関しては重大な問題とならないとの考え方もあろうが、本件のように紛争となりうるものであり、その具体的な意義を検討することは租税法の課題であろう。

判断プロセスとしては、以下のように、非常勤の医師の出勤に関しては、4号の旅行には該当しないものの、通勤には類似するということから、非課税限度額の規定の存在も考慮して通達のように9-5の取扱を採用している。この9-5の取扱自体が法が定める要件を超過しているものとも捉えうるところであるが、そもそも旅行ではなく、通勤に類するものである以上、非常勤等の実情を反映させて当該通勤の意義を拡張的に解することは租税法規において妥当であるのかという点は疑問を覚えるものである。限度額を定めている法の趣旨にも抵触するともいえよう。通勤であるならば通勤費として非課税所得に該当するか否かを審査すべきものではないだろうか。通勤と旅行(法規における)の相違は概念的に如何なるものであるのかという点は法令解釈上興味深い点であり、法がどのように考えているのかという点は、さらに現状の働き方が変化している現状況において、この区分のみで妥当性を有しているのかという点は立法上の課題ではあろう。常勤と非常勤の区分をより明示的に通勤においても反映させるべきものであるともいえるかもしれない。

いずれにしても判示においては、最終的に通達の取扱に全面的に依拠しており、この通達が如何なる法令を基礎としているか必ずしも定かではないものの、上記両法規の文言である通常必要であるという部分に関して、社会通念上合理的な理由の存在と、出勤のため直接必要であるという2つの要件を提示している。直接性を要求することに関しては弁護士における必要経費が争われた事例においても問題となったものであるが、この直接性の付与(そもそもこの直接性がどのようなものであるのかという点は必ずしも明らかではないが・・・)及び社会通念上の合理的理由の存在を法令解釈として一般性を持つものであるのかという点はより検討が必要であると考えられよう。私見としてはこの合理的な理由を社会通念を判断基準として有無を問題とすることは必要性を立証することを求めているものであるという考えも理解できるが、社会通念そのものが定量的なものではなく、下記のように他の租税法規における過大性の判断等と対比しても裁量的な要因であり、恣意の介在する余地が生まれるものであるとも捉えられ合理性をもっているのか疑問であり、要件を強化するものであるのではないかとも捉えられる。

「非常勤医師等の出勤は、法9条1項4号所定の旅行には当たらないものの、通勤(法9条1項5号)に類するものであることから、そのために支給される費用を非課税とすることに相当な理由があると考えられるが、一般の通勤手当と同様の取扱いとすると、非課税限度額(所得税法施行令20条の2)があるため、実情に即さないこととなるので、本件通達9-5が定められたものであることに鑑みると、「社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されたもの」であって、「出勤のために直接必要と認められる部分」は、交通手段としての合理性の見地から判断するのが相当である。」

(非常勤役員等の出勤のための費用)

9-5 給与所得を有する者で常には出勤を要しない次に掲げるようなものに対し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊料等の支出に充てるものとして支給される金品で、社会通念上合理的な理由があると認められる場合に支給されるものについては、その支給される金品のうちその出勤のために直接必要であると認められる部分に限り、法第9条第1項第4号に掲げる金品に準じて課税しなくて差し支えない。
(1) 国、地方公共団体の議員、委員、顧問又は参与
(2) 会社その他の団体の役員、顧問、相談役又は参与
また、このように社会通念上の合理性を要求することになると如何にしてその合理性を立証することになるのかという方法論もまた興味深い点となる。下記のように本件においてはタクシーの利用を付加価値の存在をもとにして主張している。感覚的には納得性があるものとはいえようが、処分を行う前提として妥当な理由として評価しうるものであろうか。
タクシーは、場所の移動に必ずしも必要不可欠とはいえない高い付加価値があり、高額な運賃等の中には、その付加価値に相当するものが含まれていることや、通勤において広く一般に利用されているともいえないから、非常勤医師等が、公共交通機関又は自家用車を利用することができず、タクシーを利用する以外には出勤することができないような例外的な場合を除き、社会通念上合理性のある交通手段とは認められない。

租税法規においてはこのように過大性、合理性をというような状況は他にも、役員給与や必要経費等法定されている。しかしながら何をもってその妥当性を判断するのかという点に関してはそれぞれ検討が尽きないところでもあり、従来紛争の発生や納税者にとっての予測可能性に対して問題視することが多い。如何なる点をもってその合理性を判断することになるのかという点は、前提となる法規の趣旨(租税回避防止等)や意義に依拠することになろうが、課税庁が有する同種同規模の状況による支給状況もまた、判断基準となるのかという点は過大である。そもそもこのような他者との比較による合理性のデータは、趣旨に合致するものではあろうが、入手が困難であり守秘義務の制約もある(最終的に課税庁に立証責任を認め選定対象のデータを如何にして抽出しているのかという点で恣意性の介在があるのか否かという点が審査対象になるのであろう)。しかるに予測可能性において危惧があることは否めない。法令が他者との比較による合理性を要請しているものであるのかという点は立証においても重要な点であり、納税者においても重要な点であろう。他者との比較をより拡張し社会通念としてという部分に拡大することはかえってその合理性を上記のように曖昧とする可能性もある。本件においては最終的には総合的に実際の利用状況、代替手法の存在、職務への影響等を考慮して、最終的には上記のように付加価値の観点から合理性を否定しているが、他者との対比における点を基礎としておらず一律に社会通念として判断に依存している点は、経費の合理性を担保する上では、他の租税法規における判断とは異なるものであり、かかる点において、興味深くより検討すべきものともいえよう。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


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