具体的には本件は土木建築業を営む請求人の元代表者が請求人の取引先から受領した金員が請求人の代理や代表として行動したことによる所得であり、請求人の所得として帰属するべきとしてなした更正処分が争われたものである。元代表者個人の所得であるのか、あるいは請求人に帰属すべきものであるのかという点が中心的な争点となっているものである。その他調査手続に関する不備・違法、特に約一年半に及ぶ長期間の調査の継続が過度の負担であり、違法性を帯びているのか否かという点につき課題となっている。
金員の帰属関係を争点とする事例は多数存在しており、基本的には事実認定の問題であるが、本質的には我が国法人の大多数を占める中小法人においては個人と法人間において、法的な関係性(役員等)は別として、実質的に所有と経営の分離が充分ではない存在が非常に多く、両者の差異が存在していないことが起因となっているものであろう。この区分を如何に行い、適正な所得の分配を行うことが租税法規における課題と一つとなっている。このような関係性を基礎として受領した金員の所得の帰属関係が問題となっているものであり、本件も元代表者(娘婿に代替わり済み)に対して取引先から支払われた金員を巡っての所得関係が争点となったものであり、また、このような特殊な関係性を前提とした事例における類型として実務上も当該所得の帰属関係を課題とする場合において有益な事例となるだろう。特に本件は課税庁が主張した法人の代理として行動したものであり、請求人に帰属するとした主張を退けており、かかる点からも如何なる所以をもって当該判断に至ったのかという点を検討することは非常に参考となる事例といえよう。そもそも代理という民事法の概念に基づくものであれば、代理権の付与、表見等、代理に係る概念との整合性もまた問題となろう。
支払先としては関係の継続を期待したものであり、交際費として処理しているものであるが、このような如何に処理しているのかという点も課税庁の主張の要因となっているものともいえようが、そもそもこのような情報は請求人である納税者が知りうるものではなく、納税者に取って予測可能性が担保されているとは評価し得ない。最終的にはこのもと代表者が辞任後、請求人の株式も保有しておらず、請求人の現代表者の義父であるというのみの関係性のみを前提として処分を行うことは必ずしも容易なことではない。肩書として会長という名称を用いることがあったとしても法人の代表者として法人への所得を帰属させるべきものであるのか否かという段階とは評価し得ないという判断であり、最終的には請求人の主張を認めている。かかる判断は総合的に判断したゆえでの結果であるが、もって如何なる点を重視しているのかという点は必ずしも定かではないが、支払の事実関係、法的な株式の保有、権限の存在等に基づき判断しており、従来の特殊な関係性をベースとした実質的な判断から客観的な証拠資料の存在をベースとして元代表者の行為が請求人の行為として同視し得るものであるのか否かというから判断を行っている。すなわち、支払受領の意図や受領した金員の処分可能性、特殊な関係性を基礎とした判断要因から法的な株式の保有関係等の客観的な状況が判断要因となっているものとして重視されているように捉えられる。もともと、いわゆる帰属という概念自体が租税法規においては如何に評価されるべきものであるのかという点は必ずしも定かではなく(法規に規定がなく)、法的関係性を基礎とするものであるのか、処分等の実質的な関係性も含むものであるのかという点は検討の余地がある。多様な事例が帰属関係においても問題となっているが代理による民事法の観点からも検討を加えるべきものであるのかもしれない。いずれにしても、事実関係に依拠して判断が異なる事案でもあるが、その安定性を確保し、判断の恣意性を排除するためにも、特殊な関係性のみを根拠とした判断は処分の起因とはなるものであることはまでは否定しようがないが、課税処分の前提として明示的な根拠しては必ずしも充分な位置付けを有するものとは異なると評価すべきものであろう。逆に納税者としては法的な関係性や支払関係などを如何にして客観的に裏付けられるのかという点を留意しておくべきものともいえる。
また、本件における中心的な争点の一つとして調査手続における不備・違法性が課題とされている。具体的には調査が1年5ヶ月に渡り継続していること自身(そもそも調査不協力や特定の団体に所属していることが起因となっているものであるのかもしれないが)が過度の負担であり、調査自身が違法性を帯びているものであり、もって課税処分が取消対象となりうるものであるのかという点が問題となっている。従来よりこの手続の違法がもって処分の取消原因となりうるものであるのかという点は議論が行われているが、平成23年の税制改正により、事前通知や調査終了手続の明示、理由附記の拡大等、調査手続の法定化・大改正が行われている。かかる改正により、その位置付け・見解が変化しているとの考えもありえようが、現状においては、下記のように、従前と同様に重大な違法性を前提として必ずしも一律に処分の取消原因となりうることを否定的に解している。判断は裁決であり、司法の判断が行われているものではないが、課税庁の見解・判断としても、かかるような見解を維持していることは認識されるべきものであろう。
通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に違反したことが課税処分の取消事由となる旨を定めた法令上の規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来負うべき納税の義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単に瑕疵があるというだけで課税処分の取消事由となるものではなく、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受け、課税処分を「調査により」行う旨を定めている通則法第24条から第26条までの各規定に違背するような例外的場合に限り、その違法が課税処分の取消事由となるものと解するのが相当である。
上記のように、この判断においても調査における違法性・不備が必ずしも処分の取消原因となりうるものであるものではないとしている。私見としても、かかる見解は賛成であり、改正を経ても、変化はないものと考えられる。本質的に調査、より正確には質問検査、実地の調査は、申告納税制度を前提とした租税制度において納税者間の公平性を担保するものであることは特段の変化がないものであり、強制力を有した処分を行う前提において、財産権の保護を図る上で一定の配慮が行われたものが本改正であり、たとえ従来の慣習としての調査手続が法定化されたとしても基礎とする部分においては変化がなく、従前と同様に重大な違法(もちろん違法性も多様な状況が想定されるものであり、いかなる場合をもって、上記と比較衡量として取り消し原因となるものであるのかという点はより詳細に検討されるべきものであると考えられる。)がある場合に限定された上で、処分の取消原因となるものと解するべきである。そもそも調査手続は下記の終了の際の手続のみならず、理由付記や事前通知から身分証の提示等、多様な規定が存在しており、この部分において、その不備・違法性があるからといってこれを一律に捉え取消原因として考慮することは衡平を欠くものといえよう。すなわち各手続に於いて保護されるべき納税者の利益と上記公平負担の確保との観点から、比較衡量されるべきものである。
個別的には本件において具体的な課題となっている調査の長期化が違法性を有しているのかという点が問題となる。調査の進捗は納税者の協力等多様な要因に左右されるべきものであり、必ずしも明示的なタイミングにおいて調査が終結したものと評価することは困難である。そもそも調査の起点として・要件として課税庁による必要性をその基礎としている以上、調査の性格としてかかるような性格を帯びることは当然ともいえる。また調査の概念自体が、平成23年の改正以後多様化しているものであり、納税者に対して直截的に引上して行う調査(実地の調査、質問検査)のみならず、いわゆる反面調査や関係者の調査、過去資料の分析等多様な調査が実施されている。つまり複合的な調査が実施されている状況が本来の調査であり単に質問検査のみが調査ではないものと考えられる。このような背景から、下記のようにいたずらに納税者を調査状態に置くことを回避するため、調査終了の際の手続が定められたものであろう。しかしながら、特に如何なる場合をもって終了と判断するものであるのかという点は明示的にされていない。課税庁職員の合理的な裁量に委ねられているものと解される。故に単に調査が長期間であるからといって必ずしも手続に於いて違法性を有するものであるとの評価は困難であろう。もちろんこの合理的な裁量が無制限と解することは法の趣旨に反するものであり、また、いかなる場合をもって長期間と判断するのか、納税者にとって過度の負担であると判断するのかという点は今後の課題であろう。但し、下記のような終了の際の手続としての説明義務や、書面による通知、調査再開の制限、理由附記の対象の拡大・強制化等の負担を回避すべく、実務上、現状において、調査をなかなか終了させず、長期化を図ることにより、納税者の調査終了の早期化需要・意識に働きかけ、実質的な修正申告の勧奨として企図している状況を発生させていることはありえよう。かかる状況は終了の際の手続の法定化の意義を損ない、もって納税者の予測可能性や法的な保護の重視という近年の傾向に反するものと評価することも可能であろうが、課税処分が大量かつ反復的に行われる性格である以上、また、納税者間の公平性を確保し申告納税制度を維持していく本質的な機能とのバランスが課題となる。故に一律に強制的な終了や長期化を防止することは上記機能を損なう可能性も高く、バランスが難しい。現状は改正が行われた直後であり、立法等による対応は慎重な検討が必要であるように考えられるが、現状において法解釈として単なる調査の長期化をもって違法性を有するものであるとの評価(憲法論としてはともかく)は困難であろう。
第七四条の一一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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