2022年10月17日月曜日

判例裁決紹介(令和2年3月24日裁決、和解による譲渡とみなし譲渡)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月24日裁決で、和解による譲渡がみなし譲渡に該当するとして時価課税を適用されたことを不服として提起された事例です。 具体的には請求人が相続により取得した株式を、当該相続時における紛争の解決(弟と)のため裁判上の和解によって譲渡したものの、調査により当該譲渡価格が所得税法59条のみなし譲渡として著しく低い価額の対価としての譲渡に該当するものとして、時価を引き直し更正処分等を受けたことを不服として提起された事例である。相続紛争によるものであり弟との間で株式の譲渡を行ったものであるとして認識し確定申告を行っていたものであるが、譲渡先が公益財団法人(代表者は弟)に対して譲渡しているということでみなし譲渡に該当するものとして、その譲渡先が法人か個人か、いかなるものとして認定されるかという点が起点となっているものである。他に当該株式の譲渡価額と実態の乖離や、評価方法等が争点となっている。本件はみなし譲渡に該当するのか否か、その評価額の妥当性が中心的な争点であるが、本件でも代表者が親族であるような財団法人が舞台になっており、近年はこのような財団法人を活用した相続が登場しており、租税回避が直接の論点ではないが、近年の相続環境(財団法人を介した取引や相続紛争)が垣間見える事例でもあろう。相続の環境も変化しており、知識がアップグレードが必要であろう。 (贈与等の場合の譲渡所得等の特例) 第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。 一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。) 二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。) 2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。 以上のように本件は所得税法59条におけるみなし譲渡、著しく低額であるのかという点が基本的な争点となっている。 請求人の認識としては相続紛争による譲渡であり、譲渡相手先は実質的に紛争当事者である弟であるという認識を抱いていたものであろうが(基本的にこの認識の持ちようは一般的にはあり得よう)、和解による条件においても明確に財団法人への譲渡が記載されており、裁判所が関与した和解でもあり、この部分は明確に認定を覆すことは困難となっている。 「所得税法第59条第1項第2号は、法人に対する著しく低い価額の 対価として政令で定める額による譲渡により譲渡所得の基因となる資 産の移転があった場合には、譲渡所得の金額の計算については、その 事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これ らの資産の譲渡があったものとみなす旨を定めているところ、この 「その時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価 値、すなわち、それぞれの資産の現況に応じ、不特定多数の当事者間 で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解され る。また、同号に規定する政令で定める額として、所得税法施行令第 169条は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2 分の1に満たない金額とする旨を定めているところ、この「価額」の 意義も上記と同様に解するのが相当である。」 また、上記のように所得税法59条の趣旨を述べた上で価額を客観的な交換価値であるとして従前の解釈を踏襲した上で、下記のように、裁判所が関与した和解による譲渡であってもその譲渡金額が低額であるのか否かという判断を免れるものではないと示している。 「利害が対立する第三者間で通常成立する価額と認めることはでき ず、また、本件各株式の買取価格が裁判所の和解調書に載ったからと いって、裁判所が算定又は提示して決定した価額ではないから、裁判 所の「介在の下に決定した」とも認められない。」 相続紛争が起点となっているもので、利害対立や裁判所の関与が見られるものであるが、かかる点において一見すると時価の要件を満たす、客観的な交換価値として認定されうるとの考えられたしても宜なるかなともいえようが、客観性が保証されているとしても成立経緯等から必ずしも価額として認定されうるものではないことが判断されている。裁判所や相続紛争というキーワードがあったとしても慎重にその譲渡価額の吟味が必要となることが留意されるべきとして参考とするべき事例であろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(令和2年12月17日裁決、役員が負った損害賠償義務の肩代りと役員給与認定)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今週は令和2年12月17日裁決で役員が負った損賠賠償義務を肩代わりしたことに対する役員給与とされたことが課題となっている事例です。 具体的には、本件は請求人(同族会社)の役員(法人代表者の子供)が他社に勤務している際に負った裁判上の和解に伴う損害賠償義務(連帯責任、未公開株関係)による弁済及び弁護士費用を請求人の損金(雑損失等)として確定申告した場合において、かかる支出は法人の業務との関連等はなく、役員給与であるとしてその損金性を否定した更正処分等を不服として提起された事例である。 このような役員の個人的な費消等に対して法人が支出した金員に関しては、役員給与であるとして、法人税法34条に基づき、損金算入を否定するとの処置が基本であり、法人税法実務における典型的な対応方法であろう。本件もその類型に属するものであり、実務家としては当然の発想でもあるのかもしれない。同族企業が中心的な我が国においてはこのような支出は特段珍しいものではなく、公私が未分化の状況であれば、このような支出は租税負担の軽減につながらないとの認識は一般的には受け入れられ難いようであるが、実務家にとっては身につけるべき基本的な思考であるように捉えられる。 しかし、個人的には、このような伝統的といっても良い役員給与の認定措置(なお、役員給与が我が国の現況において原則損金不算入とすることは必須ではあると考えるが)が本件のような場合においても安易に認定されているのではないかという私見が拭えない。結論として損金算入を否定することに関しては当然のものという印象ではあるが、 法人税法34条(役員給与) 4 前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。 上記のように法人税法が役員給与において、包括的に多様な経済的な利益を含むものとしていることを制度的に活用している本件のような役員給与認定は、租税法規が明瞭な規定に基づく処置によって対応を求めている基本的な姿勢に反するようにも考えられる。法人としての損金の意義が広く、多様なものを含みうる点や、同族会社の行為計算の否認が立証等の問題から適用が難しいとの理由はあろうが、損金算入を否定する点で変わりないとのことで役員給与の規定が用いられている。役員給与の損金不算入規定の趣旨はこのような公私が未分化の支出に対するものを否定する趣旨を含むものであることまでは否定されないが、本件の認定のように、そもそも法人の業務執行とは関係がないとの判断が前提となって法人の本来負担するものではないとのことで損金としての適格性を欠くものであって役員への経済的な便益の提供として対応するのみでは、結局のところ役員との資金の貸借に転換を図り(損金として否定はされるが)、短期的な潜脱の誘引になっているものとも考えられる。損金として正面から否定を行う規定の必要性があるように考えられる。 また、本件では、業務との関連を判断する上で、法人の事業の目的、定款と対比して本件損害賠償義務を生み出す行為との間で業務執行との関連性が判断されている。後出しのような文章などによって法人から主張されたものへの対応もあろうが、近年はこのような法人の目的との対応が重要なものとなりつつある。事実認定の問題であるかもしれないが、このような判断の枠組みは実務家として参考となるものだろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(大阪高判令和2年1月31日、従業員が行った架空経費の計上と法人の重加算税賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪高判令和2年1月31日で、従業員が行った架空経費等の計上が、仮装隠蔽にあたり、法人として重加算税の適用対象となるべきであるのか、という点が争点となっているものである。 具体的には、控訴人(原告)である法人の従業員が、行った架空の経費計上及び、売上の過小計上が、法人の行為として同視でき、重加算税の賦課決定処分の対象となりうるのかという点が中心的な争点となっているものである。控訴審では地判と同様に、控訴人の主張を退け、課税庁が行った重加算税の賦課決定処分が適法である旨判示しているものであり、控訴審では、従業員の行った行為であり、納税者である法人において、過少申告などの認識もなく、意図的に行う仮装行為等を行う意思はなかったとして、重加算税の適用は否定されるべきであるとの主張が課題となっているものである。事実認定として、納税者である法人の行為と、自己の利益のため会社に損害を与えるような行為をする従業員の行為を同視することが可能であるのかという点が、争われた地判とは異なり、重加算税の性格などが基本的な背景として争われている。 (重加算税) 第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。 基本的に上記のように、重加算税の賦課は、ほ脱とは異なり罰則としての機能ではなく、法の趣旨としてあくまでも附帯税としての性格に則り、下記のように事実としての仮装隠蔽の存在と申告によって足りるものであり、納税者の申告時の認識(これは法人においては具体的に判断するのは困難ではあるとは考えるのだが)は必ずしも必要のないものであるとの最判を引用した上で、判断している。基本的には、従前のものの踏襲であり、整合的で特段珍しい解釈が示されたものではないが、重加算税という実質的には制裁・罰則としての要素が強い附帯税においても同様の判断を適用されるべきであるのか、という点は、現代においても検討課題とすべき点ではあるだろう。 納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又 は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として過少申告の結 果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過 少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない〔最 高裁昭和62年5月8日判決〕 法人としては、従業員による犯罪の被害者であり、重加算税のような制裁的な納税上の取り扱いを受けることは酷であるとの思いが背景にあるものであろうが、基本的に法人と従業員の民事関係(損害賠償)等で対応すべきというのが、租税の基本的な考え方でもあることは、従前どおりであろう。変更には立法的な対応が必要であろうが、近年はあまりこの議論はなされていないように思う。従業員の犯罪行為に関しては、このような論点もあるということが一つの留意点として実務家として素直な感情論とは異なる対応が必要であることは認識されるべきであろう。 以上です。毎回の如く備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(令和2年12月15日裁決、実質所得者課税の原則)

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年12月15日裁決です。不動産取得に伴う収益が法人税法上の実質所得者課税の原則の適用によって更正処分を受けたことを不服として適された事例です。 具体的には、請求人たる法人が複数の不動産取引【土地の譲渡や権利金の収受】によって発生する収益が請求人に帰属するものであるのかという点が直接的な争点となっている。他に帰属に伴う収益の時期等も争点になっているが、中心的な争点は実質所得者課税の原則による名義人とは異なる請求人への収益の帰属の判断が妥当であるのか否かという点が課題となっている。本件は不動産取引という日常的な取引において発生したものであり、別途仮装隠蔽が争われるなど、基本的には事実認定が中心的な問題となっているものであろう。最近は訴訟レベルにおいて、実質所得者課税の原則の適用が争われるケースは減少しているが、まだ裁決レベルでは、法人税においても適用が争われているケースが発生している。かかる点は実務家においても参考とすべきものであろう。 (実質所得者課税の原則) 第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。 法人税法第11条は、別紙3の2の(1)のとおり規定するとこ ろ、同条は、法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときに は、実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上の 当然の条理を確認的に定めたものと解される。 したがって、事業収益の帰属者が誰であるかは、当該事業の遂行に 際して行われる法律行為の名義人が誰かというだけでなく、取引に係 るその他の諸事情を総合勘案して、当該事業の主体は誰であるかによ り判断することとなる。 以上のように、本件は実質所得者課税の原則が適用されるべきであるのか否かという点が中心的な争点となっており、法文は収益金が誰が享受しているのかという点が基礎になっている。理論的な争点としては、法はその適用対象をどのように捉えるのか、名義人とは異なる対象者をどのように解釈し、適用対象を判断するべきであるのかという点が基本的な問題となる。原則から離れた処置であり、個別事例に依拠しなければならないが、かかる点が基本的な争点となろう。 判断は、上記のように租税法上の当然の条理という点で、実質との相違をとらえるものという趣旨理解からから、事業の主体を基礎とした判断を行っている。当然の条理というものが如何なるゆえんで判断されているのかという点が定かではなく、かかる判断の根拠が不明確であるように捉えられるが、事業主体を基礎とする判断をどのように導いているのか従前の事例との相違も含め本件の判断は検討すべきものであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成したもので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(神戸地判令和2年9月29日、課税仕入を行った日と不動産の引渡)

さて、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、神戸地判令和2年9月29日で、不動産の取得における課税仕入を行った日が如何なるものであるのかという点が争点となった事例です。 具体的には、本件は不動産賃貸業を営む原告が、その建物の取得に関して、消費税の申告上、当該取得の契約を締結日を、課税仕入を行った日として申告し仕入税額控除の適用を求めた申告につき、当該契約の締結日ではなく、翌年の建物の引渡日によるものであるとした更正処分等を不服として提起された事例である。仕入税額控除の適用のタイミングを問う古典的な論点であるが、会社分割や金地金の取引など、近年の作為的な消費税法条の行為を行ったという点も鑑み、更正処分等が行われている事例である。かかるような作為的な(租税回避とも当然評価されるような)背景から仕入税額控除の適用を否定することがその処分理由にあることは考えられるが、いかなるタイミングをもって課税仕入を行った日と捉えるのかというシンプルながらも基本的な論点は実務家においても参考となるべき事例であろう。特に今後は適格請求書等が基本となる状況であるが、このような判断の枠組みはどのように適用されていくのか、あるいは限定的になるのか、まだまだ検討すべきものであろう。 (仕入れに係る消費税額の控除) 第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。 一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日 上記のように本件は、仕入税額控除の適用において消費税法30条1項1号の課税仕入を行った日とは如何なるものであるのかという点が中心的な争点となっている。 上記の解釈において、通達は下記のように、固定資産の譲渡の時期に関して、引渡の日を対象としており、但書において契約効力の発生の日を認めていることに本件は起因している。 固定資産の譲渡の時期) 9-1-13 固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とする。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。 (注) 本文の取扱いによる場合において、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、9-1-2の例による。 本通達がいかなる所以をもって、但し書き部分を設けているものであるのかという点は、議論の余地があるが、必ずしもいかなる場合、理由をもって効力発生日を許容するものであるのか、課税仕入を行った日と評価される場合があるものであるのかという部分が定かではない。解釈としてこのような部分まで対象とすることに便宜的な意義を超えて、必要性があるものであるのか、逆に不安定な状況を生み出すものであるようにも捉えられるものである。私見として当該通達は例外的な場合を想定しているようにも捉えられるものの、法解釈としてその対象、根拠が仕入税額控除や課税資産の譲渡等の解釈として整合的であるのかという疑問に捉える。法人所得算定等、帳簿との連環を基礎とする現在の計算体型(発生主義的な発想)に基づく宥恕的な取り扱いであるようにも考えられるが、今後適格請求書等が基盤となる段階においてこの判断の枠組がどのように取り扱われるものであろうか。個人的には消費税法の基本的な構造に則り、判示のように、法的な取引の中から明確な状況を指すものが行ったものとして評価されるべきものであろうと(帳簿作業の影響を受けることなく)考える。少なくとも原告の主張するように、納税者の意思に任せ選択適用が認められているということは、現行法においても、今後も解釈として妥当ではなかろう。 「消費税法28条1項本文が、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額)とする旨定め、現実に収受した対価のみならず、収受すべき金銭等も含めていることからすると、資産の譲渡等による対価を収受すべき権利が確定したと法的に評価される時点で、消費税の課税対象とされる資産の譲渡等があったと解するのが相当である。このように解することが消費税法の規定や仕入税額控除の趣旨目的に合致するとともに、客観的な事情に基づいて課税資産の譲渡等の時期を判断することで、納税者の恣意的な申告を防ぎ、課税の公平に資することになるものと解される。」 判示は上記のように、仕入税額控除が課税資産の譲渡等と表裏一体であるとの構造から、対価の額を基礎として対価収受権利の確定をもって対象とすることと解している。これを法人税法などの権利確定主義と同様に理解できるものであるのか(発生主義や収益認識基準の登場等もあいまって議論すべきものであろう)という点は検討の余地があるが、課税庁の主張を受け入れ、 「消費税法30条1項1号の「課税仕入れを行った日」とは、仕入れの相手方において、当該資産の譲渡等について、同時履行の抗弁などの法的障害がなくなり、対価を収受すべき権利が確定した日をいうものと解すべきである。」 法的な障害がなくなっている状況を指すものとしている。かかる解釈をもって、契約の効力発生の日を否定し、引渡の日をその日として判断している。実際の資金の収受の事実を問わないことは明らかであろうが、そもそもこの権利の確定がいかなる意義であるのかという部分も法文からをもって必ずしも明瞭ではなく、対価の収受の権利を起点に確定していると評価することは、各タイミングにおいて相対的に評価されるものであり(契約の成立や効力発生日がもって、権利が確定していないとの評価もまた困難)、不安定な基準であることは否めない。今後適格請求書等の発行日という客観的な基準が登場する中で消費税の制度上、仕入税額控除の適用、課税資産の譲渡等のタイミングを判断すべきであるのかという部分は検討が必要になるものであろう。 以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。