さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年6月2日裁決で、騒音による利用価値の低下したことを財産評価に反映することができるのか否かという点が争いになった事例です。
具体的に本件は、相続人たる請求人が土地を相続により取得し、広大地かつ鉄道の騒音があるとして路線価による評価に対して評価減を求めた、更正の請求を否定した処分の取り消しを求めた事例である。一番下につけたいわゆる利用価値の著しい低下を反映させる評価方法の適用が中心的な争点となっているものであり、その適用を求めた更正の請求を拒否した課税庁の処分に対して不服を提起しているものである。この著しい利用価値の低下に伴う10%評価減は著名なものであり(最近は路線価等に反映済みであるというような処理が通常であるようであるが)、その適用が如何なる場合であるのか、利用価値の著しい低下の意義、具体的な認定が可能であるのかという点が中心的な争点となっているものであり、この種の事例は複数みられるものであるが、本件は鉄道の騒音が利用価値の低下を導くものであるのかという点が問題になっており、同種の事案では比較的珍しいものであろう(多くは高低差等が問題になっている)。特に本件は固定資産税評価と路線価評価において当該騒音の反映が異なることになっており、かかる点からも珍しい事例である。審判所が職権で独自に調査も行っており、当事者の主張にはない評価を下すなど、納税者の主張が認められ10%評価減が認められたという点からも事実関係の評価など財産評価に関する検討を行う上で参考となる事例であると考えられる。
以上のように本件の中心的な争点は下記にある、国税庁のタックスアンサーにおいて明示される利用価値の著しい低下の評価減である。
No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
[令和3年9月1日現在法令等]
対象税目
相続税、贈与税
概要
次のようにその利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるものの価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10パーセントを乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。
1 道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
2 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
3 震動の甚だしい宅地
4 1から3までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの
また、宅地比準方式によって評価する農地または山林について、その農地または山林を宅地に転用する場合において、造成費用を投下してもなお宅地としての利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められる部分を有するものについても同様です。
ただし、路線価、固定資産税評価額または倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくしません。
以上、本件タックスアンサーがその基礎となっているものであり、現在の財産評価基本通達等においてその根拠となるものは必ずしも明確ではないものであるが(租税法律主義の観点からは個人的には疑問。その点においてタックスアンサーの性格を考えるうえでも参考となるものだろう)、土地の評価という種々の要因がその評価において反映されるものにおいて、10%の評価減が認められることは納税者にとって有益な措置であり、その適用を求めることは多いが、上記のように、限定的、あるいはいささか不明瞭な提示にとどまっており、その適用においては判断において困難があるものであろう。
本件は騒音という主観的な評価に伴うものを精通者意見等を用い、また実際の測定を行うなどして、その適用を求めた事例であり、納税者の主張が認められ評価減が認められた珍しい事例であるものと捉えられる。
本来、相続税等における財産評価は、その土地等の判断が困難であることもあり、路線価等非常に厳格な財産評価基本通達を用いてその統制を行っている。かかる点で通達といえど財産評価基本通達は事実上の時価としての推定を受けるレベルで考えられるものであり、また、多様な事例を一律に評価し、もって公平性の担保を図ろうとする点からもその例外的な存在は極めて限定的に理解されるべきものである。本件においても例示の騒音等に合致していることは特段争いがないが、課税庁の却下理由は、かかる騒音と評価額の低下において因果関係があり、取引価額への影響が認められないとの上記タックスアンサーの条件を基本に判断を行っているものであるが、その価額への影響を認めた本件判断の主要因が固定資産税評価額における当該騒音の反映であり、かかる点が要因となって上記のように、本件判断において納税者の主張が認められたものと考えられる。第三者における評価として、特に固定資産税評価額への反映がいわばキーとなった事例であろう。