2022年5月23日月曜日

判例裁決紹介(令和2年6月2日裁決、騒音による利用価値の低下と財産評価)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年6月2日裁決で、騒音による利用価値の低下したことを財産評価に反映することができるのか否かという点が争いになった事例です。

具体的に本件は、相続人たる請求人が土地を相続により取得し、広大地かつ鉄道の騒音があるとして路線価による評価に対して評価減を求めた、更正の請求を否定した処分の取り消しを求めた事例である。一番下につけたいわゆる利用価値の著しい低下を反映させる評価方法の適用が中心的な争点となっているものであり、その適用を求めた更正の請求を拒否した課税庁の処分に対して不服を提起しているものである。この著しい利用価値の低下に伴う10%評価減は著名なものであり(最近は路線価等に反映済みであるというような処理が通常であるようであるが)、その適用が如何なる場合であるのか、利用価値の著しい低下の意義、具体的な認定が可能であるのかという点が中心的な争点となっているものであり、この種の事例は複数みられるものであるが、本件は鉄道の騒音が利用価値の低下を導くものであるのかという点が問題になっており、同種の事案では比較的珍しいものであろう(多くは高低差等が問題になっている)。特に本件は固定資産税評価と路線価評価において当該騒音の反映が異なることになっており、かかる点からも珍しい事例である。審判所が職権で独自に調査も行っており、当事者の主張にはない評価を下すなど、納税者の主張が認められ10%評価減が認められたという点からも事実関係の評価など財産評価に関する検討を行う上で参考となる事例であると考えられる。

以上のように本件の中心的な争点は下記にある、国税庁のタックスアンサーにおいて明示される利用価値の著しい低下の評価減である。

No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価

[令和3年9月1日現在法令等]

対象税目

相続税、贈与税

概要

次のようにその利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるものの価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10パーセントを乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。

1  道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの

2  地盤に甚だしい凹凸のある宅地

3  震動の甚だしい宅地

4  1から3までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの

また、宅地比準方式によって評価する農地または山林について、その農地または山林を宅地に転用する場合において、造成費用を投下してもなお宅地としての利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められる部分を有するものについても同様です。

ただし、路線価、固定資産税評価額または倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくしません。


以上、本件タックスアンサーがその基礎となっているものであり、現在の財産評価基本通達等においてその根拠となるものは必ずしも明確ではないものであるが(租税法律主義の観点からは個人的には疑問。その点においてタックスアンサーの性格を考えるうえでも参考となるものだろう)、土地の評価という種々の要因がその評価において反映されるものにおいて、10%の評価減が認められることは納税者にとって有益な措置であり、その適用を求めることは多いが、上記のように、限定的、あるいはいささか不明瞭な提示にとどまっており、その適用においては判断において困難があるものであろう。

本件は騒音という主観的な評価に伴うものを精通者意見等を用い、また実際の測定を行うなどして、その適用を求めた事例であり、納税者の主張が認められ評価減が認められた珍しい事例であるものと捉えられる。

本来、相続税等における財産評価は、その土地等の判断が困難であることもあり、路線価等非常に厳格な財産評価基本通達を用いてその統制を行っている。かかる点で通達といえど財産評価基本通達は事実上の時価としての推定を受けるレベルで考えられるものであり、また、多様な事例を一律に評価し、もって公平性の担保を図ろうとする点からもその例外的な存在は極めて限定的に理解されるべきものである。本件においても例示の騒音等に合致していることは特段争いがないが、課税庁の却下理由は、かかる騒音と評価額の低下において因果関係があり、取引価額への影響が認められないとの上記タックスアンサーの条件を基本に判断を行っているものであるが、その価額への影響を認めた本件判断の主要因が固定資産税評価額における当該騒音の反映であり、かかる点が要因となって上記のように、本件判断において納税者の主張が認められたものと考えられる。第三者における評価として、特に固定資産税評価額への反映がいわばキーとなった事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(千葉地判、令和3年12月24日、税理士に対する損害賠償責任)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、千葉地判令和3年12月24日で、調査拒否による仕入税額控除の非適用を手動したとして税理士が損害賠償義務を認められたものです。

具体的には、本件は原告(遊技場経営法人)が調査等において、帳簿等の提示を行わず、もって消費税の仕入税額控除の適用ができないとして38億円を超える仕入税額控除が否定された、近年著名な事例(法令解釈的には保存の意義を巡るものであり、最判と変わるものではないので珍しいものではないのですが)において、税務調査等の対応を行った顧問税理士(被告)に対する原告法人による損害賠償請求の事案であり、総額38億円を超える損害の損失を裁判所が認定し、当初の請求満額である3億を超える損害賠償が認められた事例である。おそらく税理士に対する損害賠償としては認められた損害としては、最高額に属するような事案であるものと考えられる。地判の判断は、上記課税処分を争った事例における事実関係をなぞったものではあるが、租税専門家として、いかなる責任を追っているのかという点を認識する上で、非常に重要な事例であろう。

課税訴訟では再三の調査拒否により、調査非協力(このようなものであっても調査忌避に関する罰則の適用が実施されていないのは日本の租税制度の特徴ではあるのはないかと思われるところであるが)によって帳簿の保存がないということで(資料として読む分にはあっさりと認定されることになりますが、事実関係を読むと多年に渡るやり取り、本店所在地の変更や調査官マニュアルの作成、刑事告発を検討するなど多様な事実関係が存在しています)、ほぼ全ての仕入税額控除の適用が認められず、もって消費税の負担が38億円増加した事案であり、当初は事前通知がないことに対する書面による回答を求め調査を拒否することが発端となって課税訴訟も合わせ、一連の事実関係が形成されているものであるが、このような一連の流れに関して租税専門家として留意すべきことが多いものであり、経緯を理解してしておくことは重要であろう。

本件訴訟では、被告税理士は、課税訴訟と同様に課税庁の対応を指摘するのみであり、事前通知等に対する自己の解釈に基づき対応していたことから、

「本件調査に対する対応を行うに当たり、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、税法の解釈に関する自らの見識を有しつつも、適時に、原告(X2)に対し、本件調査の状況と見通しを客観的かつ真摯に説明し、原告から、本件調査に対する対応の方針について、十分に知識、情報を与えられた上での指示ないし同意を得た上、苟且にも、原告が、本来受けることができた青色申告の承認を受けることによる税法上の特典を受けることができなくなることや、本来受けることができた消費税の仕入税額控除を否認されることがないよう、細心の注意をもって、適切に対応を行う義務を負っていた」

として、判示ではその責任を認定され、専門家として特に説明や同意を求められている。この部分を怠り、

「被告は、原告の税務代理人として、本件調査に対する対応を行うに当たり、本件担当者から、本件各連絡票の送付を受け、法人税、消費税等の納付の基となる全ての帳簿書類を提示し税務調査に応ずることを求められ、当初は明示されなかったものの、その求めに応じなければ、青色申告の承認の取消処分を受け、消費税の仕入税額控除を否認されるおそれがある状況となり、後にはそのような重大な不利益処分がされる可能性があることが明示されたにもかかわらず、X2らとともに、原告の本店所在地を異動することを決定する、F国税局に対してA税務署の調査であれば税務調査に応ずる旨の文書を提出することを決定するなどの弥縫策をとったのみで、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するというそれまでの方針を維持することの可否について、課税当局の対応見込みを踏まえて原告(X2)と真摯に検討することがないまま、最後まで、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するという自らが立てた方針に拘泥し、その方針に基づいた対応をとった」

上記のように弥縫策として取り繕う行為を行ったものとして認定が行われている。。重大な不利益措置の内容を通知されながら(税務の専門家としては通知がなくとも認識すべき項目であろうが)専門家としての対応を行わなかった点が重大な責任を怠ったとして損害賠償責任を負うことになっているものである。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2022年5月7日土曜日

判例裁決紹介(令和2年7月7日裁決、所得拡大促進税制の適用要件)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、令和2年7月7日裁決で、医師の出向に伴って受け取った金員が 給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除の適用上、除外されるべき 給与等に充当するために他者から受け取る金額に該当するのか否かが争われたものである。

具体的には本件は、医師である請求人がその雇用する医師を他の病院に対して派遣し、いわゆる在籍出向として勤務させていた場合において、当該出向先から対価として受け取っていた金員の適用を受け、かかる金員は、所得拡大促進税制の適用にあたり基礎となる 雇用者給与等支給額から除外して計算し、もって特別控除の適用があるとした確定申告をなしたところ、当該金員は委託費として支払われたものであり、計算上対象にはならないとした更正処分を受けたことを不服として提起された事例である。増加額の計算の基礎から除外されるものである下記の他の者から支払いを受ける金額に該当するのか否かという点が争点になっているものである。
その給与等に充てるため他の者(その個人が非居住者である場合の所得税法第百六十一条第一項第一号に規定する事業場等を含む。次号において同じ。)から支払を受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額)

租税特別措置法における非常にテクニカルな規定に関する判断であるが、改正も多く適用事例も多い(おそらく実務でも課題となるだろう、最近はこの適用を忘れていただけで過失が認められたケースもあるようで)、いわゆる所得拡大促進税制の適用に関わる事例であり、近年は本件で問題となったような在籍出向のように雇用契約と労務の提供が必ずしも一致しないような状況は、特に専門職においては、増加傾向にあるものであり、雇用契約と労務提供、そしてその対価の性格を以下に理解するのかという点を検討する上でも参考となる事例(旧法の制度上の事案であるが、本件に関する法文は変更なく今後も参考となろう)であろう。

以上につき、本件判断は、下記のように当該控除制度の趣旨を理解している。

「個人所得の拡大を図り、所得水準の改善を通じた消費喚起による経済成長を達成するため、事業者の労働分配(給与等支給)の増加を促す措置として創設されたものであり、国内雇用者に対する給与等の支給額(事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるもの。)が前年分を上回る等の要件を満たした場合に、一定額の税額控除を認めるものである。」

租税特別措置である以上、その解釈にあたってその趣旨が如何なるものであるのかという点は、当然考慮されるべきものであるが、本件判断では上記のように判断を行っている。如何なる根拠をもってこのように判断したものであるのか、そして、かかる趣旨から除外対象となる経費の判断として他者から受け入れた金額を判断すべきであるのかという点は、必ずしも本件判断では明瞭ではなく、金額の同一性等の事実関係から判断を行っている。しかしながら給与支給学は必ずしも上記要件から導かれるものではなく、実際、受け取った金額と支給金額が異なることは大いに想定されうるところである。これは その給与等に充てるためという文言の解釈として適正であるのか否か、支給金額に着目した判断が正当性をもつものであるのかという点は、不明瞭であり、予測可能性の観点からは不適当であろう。結果として課税庁の判断を覆し、納税者の主張を認めているものの、計算対象から除外する理由づけが事実関係の評価に依拠している点は、今後の検討材料ではないだろうか。私見としては事業者からの分配を強化することを目的として、支給者たる存在を重視する制度であって、支給を前提とした制度として、受領金額が給与と関連を有しているのか否かという点から判断されるべきであり金額等は問題(関連性を裏付ける補足的なものに留まる)とされるものではないのではないかと考えられる。

前提となる処分においても、その根拠は、支払先、出向先である医院が委託費として処理していたという事実関係から否定しているものであり、支給者とは異なる事実を用いており、私見としては処分理由として根拠に欠ける主観的な判断であり軽薄な印象が強い。

そもそも、出向等指揮命令が必ずしも直接的ではない環境を前提とした給与支給に関する課税関係の判断は、困難であり、今後も働き方の変化に伴い、指揮命令の関与の度合いが異なることが想定されるケースは増加する。このような場合において以下に給与と関連付けられるものであるのかという点は、今後の課題となるだろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであり、完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(東京高判令和3年1月27日、業務受託先から受け取る報酬の社会保険料診療報酬該当性)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京高判令和3年1月27日で、麻酔科医が業務委託先から受け取る報酬の取扱(控除特例の対象となる社会保険料診療報酬に該当するのか否か)が問題になった事例で、 以前紹介した東京地判令和2年1月30日の控訴審です。

事案としてはシンプルで、基本的な争点は、地裁同様、麻酔科医として自己の医院も開業している原告が自己の病院以外で委託契約により実施した手術等の麻酔提供の業務の対価として受け取った報酬(業務委託契約、受託側)が租税特別措置法26条に定められる社会保険証料報酬の所得計算特例(概算経費控除)の適用対象となりうるものであるのか否か(当然自己の医院における収入が対象であることは争いがない)という点が主たる争点となった事例であり、当該報酬も含んだ形で確定申告に対して、課税庁が当該報酬は、社会保険料診療収入には該当せずの適用対象ではないとして更正処分を行ったことを不服申立を行ったことが発端となっている事例である。

判示は地裁を基本的に引用しており、結論も同様の形となっていて、控訴人の主張を全面的に認めていない。
本件は社会保険料診療に該当するのかという点で租税法規としてどのように判断されるのかという点が問題になっているが、その起点となるべきは麻酔科医という、専門職に関する人的役務の提供に関する報酬の捉え方が基礎となっている。事業所得であるのか、給与所得であるのかという所得区分の問題では本件はないが近年は、働き方の変化が進み、ジョブ型雇用の導入など、従前とは異なる独立的な働き方が登場し、所得区分を以下に捉えるのか等の紛争が想定されている。かかる点に対して判示の枠組みが一般性をもつものであるのかという点は必ずしも定かではないが(私見としては手術という提供した業務内容に対する判断が基本であり、拡張性は乏しいものと考えられるが)他の独立的、専門的な職務の捉え方を、租税法規としてどのように捉えるのかという点を検討する上で、参考となるべき事例であろう。専門職、独立的な、高度な判断を基礎として提供された業務、役務提供に対してどのように判断するのかという点は、複合的な所得や、その所得区分を中心に費用区分等、様々な論点を含むものであり、検討課題であろう。

特に本件では手術という複合的な業務に対して、地判同様、主体的な提供者であるのかという点から租税法規の適用対象としての該当性が判断されている。かかる判断の枠組みは些か明瞭ではなく、どのようなものを主体的と評価するのかという点は定かではないが、このように複合的な業務は多岐にわたるものであり、近年の労務環境から、チーム形成がなされていることは非常に多く、その一部切り取った判断を行うことは主観的な判断になる傾向があり、如何に所得を分解し検討するのかという点を検討する上では今後の検討課題であろう。

以上です。毎回の語録備忘録として作成しているものであり完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(千葉地判令和2年6月30日、借入金利子の不動産所得必要経費該当性)





さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判令和2年6月30日で、相続により取得した不動産に関する借入金利子の不動産所得必要経費該当性が問題となった事例です。

具体的には、不動産賃貸業を営む原告が確定申告において必要経費として算入した借入金利子が不動産賃貸の業務に関連するものではないとしてその該当性が課題となっている。対象となる不動産、建物は原告の母が購入し賃貸のように供していたものであるが、存命中に関連会社と原告に対して一部持分譲渡し、残債務返済のため借換債務を有していたが、これを相続により原告が承継したものであって、かかる借換債務に関する利子の必要経費該当性が課題となっている。持分譲渡等の経路が事実関係として背景になっているものであり、個別事例であるともいえようが、不動産所得という間接経費、一般経費が中心となる所得分類において、その帰属関係、必要経費としての業務従事割合は如何に判定されるべきであるのかという点は実務においても問題になるものであろうし、本件は関連会社といういわば、自己の中で持分の移動等が事実関係として介在する点で事案が複雑になっているが、基本的には、本人の認識としては特段、家族内での資産持分の移動に過ぎないものであり、税務上の判断が異なるようにはなかなか一般には理解しがたい点であろうが、かかるような状況であっても取引の性格を反映させて租税法規の適用が異なることは再認識されるべき事例であろう。実務では珍しくないものであろうが期間対応の一般経費の業務割合という点を扱った事例としては珍しく、ティーチングケースとしても有益な事例だろう。


「借入金利子は、借入金の利用すなわち借入金元本の融通を受けていることに対する対価としての性質を有するところ、借入金利子は、その支出が不動産所得の総収入金額を得るため直接に要するものでないから、個別対応の必要経費に該当しない。しかし、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用として当該業務との関連性が認められる場合、その借入金についてある年中に支払われた借入金利子は、不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てる資金の融通を受けていることについてその年中に支出された対価であるから、その年における不産所得を生ずべき業務について生じた費用として当該業務との関連性が認められ、一般対応(期間対応)の必要経費に該当するというべきである。そして、借入金は、他から融通を受けた交換価値であり、それ自体が支出その他の経済的価値の減少としての費用の性質を有し得るものでなく、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用である場合とは、借入金が充てられる支出が不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当する場合、すなわち、借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てられるものである場合をいうと解される。」

以上のように本件では、借入金利子の必要経費該当性に関して、法解釈として利子の必要経費該当性は、不動産所得を生ずべき業務に付いての費用に充てられるか否かという判断を基礎としている。不動産所得はその性格上、対象資産の取得と、年次費用に分類されるが、その業務への該当性の判断が基本的に問題となる。本件では、関連会社も含む持分の譲渡が行われており、この事実関係の反映が譲渡所得と不動産所得、もって借入金利子の経費分配が発生していることになる。一般経費の必要経費該当性に関しては関連性を有することを基本的な要件として、直接・間接という検討が行われることが多いが、本件ではこの点には言及せず、関連の有無によってのみ判断が行われている。これが不動産の取得に関する費用としてのシンプルな状況を背景としているものであろうが、法文の解釈上は直接という要件が必ずしも重要な要件であることではなく、程度差がある場合において用いられるものであろう。ただし、前提として私見としてはこの関連性という基準、関連が如何なるものであるのかという点は相対的、主観的な判断であり、かかる点に依拠せざるを得ない点が所得税における必要経費算定の課題であると考えるが、本件では不動産取得の借入金が不動産の賃貸の業務に用いられている、実質的には不動産の業務割合が課題となっているシンプルなもので(更正処分では50%→裁決では約30%)、事案としては課題とならないものだろう。

本件では、不動産の取得と家族、関連会社内での持分譲渡が反映された上で、課題が発生したものである(原告としては実質を見て法律関係を無視している)が、不動産の取得費の判定にあたっては、取得段階に着目するのではなく、あくまでも業務供与の状況を反映させるべきであるという原則的な対応による判示が行われたものであり、経路判定の重要性を認識する上でも参考となる事例であろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものであり完成度は低いですが、参考までに。