2022年4月18日月曜日

判例裁決紹介(令和2年1月6日裁決、理由附記の不備と処分の取消)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年1月6日裁決で、市町村民税の延滞金の減免申請却下処分につきその理由附記が課題とされた事例です。

具体的には、滞納している納税者(請求人)が、分割納付が困難になったことから、差押処分を受けるなどしていたが、延滞金債権のみが残り、生活困窮を理由としてその減免申請をなしたことにつき、処分庁が当該申請を却下したことから、その取消を求めるものであり、複数論点が含まれているものであるが、却下理由の理由附記が不備であるとして却下処分を取消した事例である。

国税の分野でも課税処分の理由附記が問われるケースは多々あるものの、概ね、その理由附記が不備であるとの請求が認められるケースは少ない。本件は、平成23年の国税通則法改正の趣旨も踏まえ、理由附記の制度趣旨を行政の恣意的な処分を抑制し、納税者の不服申立ての便宜を図る点に求めていて、本件のように根拠条文を示したのみでは、不十分であるとの判断を行っている。具体的な基準のみならず、法文の要件においてどのような判断が行われたものであるのかという点が不明瞭であるとの判断であろう(判断の減免制度への理解からは、本件処分自体が不適正であるとの判断を行っているものとは推測されるが)。

課税処分への手続不備は必ずしも処分の無効には直結しないとの判断が大勢を占める租税法規の上では、このような地方税においても些か珍しい減免申請に関してではあるが、理由附記の不備をもって処分の取消が導かれた結論は個人的には非常に珍しいものと捉えている(不備が治癒される等の主張は処分庁がなされていなかったようであるが)。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているもので完成度は低いですが参考までに。




2022年4月11日月曜日

判例裁決紹介(令和2年3月9日裁決、相続放棄と固定資産税賦課決定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和2年3月9日裁決で、相続放棄により実際の所有者とは異なる名義人を課税対象として固定資産税賦課決定を行ったことを不服として提起された事例です。

具体的には相続人たる請求人に対してなされた不動産の共有名義(被相続人名で登記)に関する固定資産税賦課決定処分に対して、登記変更はなされていないが、当該持分は被相続人が相続放棄を行っており(登記は変更されていないが)、実際には所有していないとしてかかる処分の取消を求めたものである。

相続登記の義務化が決定されているものの未だ義務化がなされていない現況においては、実質的な所有者と登記名義人が異なることは珍しくもないものであるが(これがわが国の土地制度の根本的な問題でしょう)、実質的に自分の財産を明確にしていない(把握していない、あるいは把握していないようにすることで公知しない)のは、わが国の伝統的な特徴(こういう中で本質的に申告納税制度が機能するのかというのは根本的な疑問ですが)であるところで、本件のような類似事例は色々な地域で見られるものであろう。所有者不明土地とよく言われる問題ではありますが、基本的な前提が崩れているところに、大きな問題が発生している典型的なところであるように考えられるところ。本件も登記の実効性が喪失している中での問題の類型であり、経過的な事例であるのかもしれないが、今後も重要な事例であり、本件は納税者の主張が認められた珍しい事例でもある。

本件では、地方税法に定めのある
第三百四十三条 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。

確定規定を基本的な争点とするものであり、被相続人(相続放棄済み)及びそこから相続した相続人が対象となった固定資産を現に所有しているものと捉えられるものであるのかという点が中心的な課題となっている。事案としてはシンプルであるが、この登記と異なる状況において、相続放棄の事実関係等は争われず、課税庁が主張するように相続の放棄の効果が第3者に対して主張するには登記を必要とするところ、登記名義及び固定資産課税台帳への登録名義が異なることを理由として賦課決定処分を行うことが妥当であるのかという部分が課題となっているものである。実質的にいわゆる台帳課税主義と呼ばれる固定資産税の基本的な考え方を前提とした解釈であるが、このような考え方が基本的に適用可能であるのかという点が問題になろう。

判断は、この適用を否定して、現に所有しているものとは判断できないとしているもので、相続放棄の効果を認めている。蓋し、上記のような台帳課税主義の固定資産税一般へ適用という理解は一面的なものであり、法令の趣旨からも、例外規定として所有権の実質的な反映を図る趣旨であることから登記を絶対的に捉える考え方はこの後半部分には適用されえないという解釈が適用されよう。法令解釈的には現に所有というのを如何に解するのか、認定するのかという部分も問題としては困難ではあるが・・・。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(大津地判令和元年12月6日、調査時における苦痛と国家賠償請求)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、大津地判令和元年12月6日で、調査時における苦痛があって休業を止む無くされたとした国家賠償請求訴訟です。

具体的には産婦人科を営む個人たる原告が課税庁の調査により、不法行為があり、苦痛があったとして営業の休止をせざるを得なかったとして国家賠償請求を求めるものであり、比較的珍しい部類に入るものでしょう。調査時に威圧的な言動があったというようなものは事例としても多いものの、国家賠償請求が認められるケースはほぼ存在していないが、本件も同様に、違法性を認めず、従業員(医師たる原告の配偶者)が原告に加わっている点も訴人として適格性を欠くものとして請求を退けている。事前通知なしの消費税の調査(自由診療が1000万円超)が行われたことも違法性を主張する材料となっている。基本的には調査協力拒否における理由を転嫁しているものとして課税庁に認識されたことが発端となっているものであろう。実務ではこのような調査協力拒否が頻繁なのかもしれないが最新の税制改正における立証責任の転換の背景としても重要であろう。

調査時に発見された非違が疑われる場合には広汎に調査を行うことが現行法において認められていることが、現行法であり、下記のように調査協力拒否に関しては、一定の説得が認められているのが従前の制度から現行法においても認められているというのが、

調査に当たり納税義務者が任意の協力を拒んでいるときには、それ
が社会通念上相当な限度にとどまる限り、当該職員が翻意を求めて説得等す
ることは当然に許される〔実定法上定めのない調査方法の細目について、調
査の必要があり、これと相手方との私的利益との衡量において社会通念上相
当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的選択に委ねられると判
示する最高裁昭和48年7月10日決定(刑集27巻7号1205頁)参
照〕

本件の解釈であるが、かかる点において、社会通念上相当限度を超えているのか否かという点(おそらくこの辺が隔たりが大きい点であろう)が事実関係として問題とされる争いとなっている。かなり古い判決でもあるが現行法においても適用されることが前提となっていることが改めて認識されるべきであろう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(東京地判令和元年12月6日、差し押さえと譲渡禁止特約)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年12月6日で、些かテクニカルというかマニアックな事例ですが、滞納会社に対する租税債権の回収のため、原告に譲渡された売掛債権(債務者側から供託済み)に対して課税庁が差し押さえを行ったことにつき、原告はその取消を求め対して被告は当該債権は譲渡禁止特約が付与されており、かかる点につき重大な過失があることから、当該債権の譲渡は無効であると主張した事例です。

租税の実務に携わる人にとってもこのような徴収系の案件はほぼ見ることがないものでしょうが、租税債権の徴収に関する差し押さえが有効であるのか否かという点をあらそうにつき、対象となる債権の譲渡が有効であるのか否かという点を基本的な争点としている事例である。基本的には民事の契約に関して譲渡禁止特約の存在と、その認識につき、重大な過失があったのか否かという点を事実関係を中心に争っているものであり、民事法の契約の評価が重要となっているものである。事業再生に取り組む際などはこのような点から二次納税も含め考慮範囲は拡張されうる点、そして、租税徴収においては実はこのような民事関係の知識が重要となってくる点を再認識點せられる事例でしょう。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(東京地判令和3年4月23日、税務相談と信義則)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和3年4月23日で、税務署での税務相談での説明と実際の課税処分の相違が信義則に反するものであるとして提起された事例である。

具体的には本件は原告が個人として保有していた株式を発行法人に対して譲渡して得た所得が譲渡所得として確定申告したところ、課税庁により当該所得はみなし配当所得であるとして、課税処分されたことを発端とするものである。確定申告にあたっては譲渡所得であるのか配当所得であるのか(支払い時に法人は源泉徴収済み)迷ったため、税理士事務所職員と同動し(この税理士事務所の責任は別問題であろう)、税務署において税務相談をした上で、譲渡所得として申告したものであってみなし配当所得であるとの処分は相談とは異なるものであるとのことで法の一般原則である信義則適用を求め不服を提起した事例である。合わせて過少申告加算税の賦課決定処分も行われており、かかる点での正当な理由の存在としての宥恕規定の適用も合わせて争われている。すなわち誤った税務相談を回答した法の一般原則である信義則の適用が中心的な争点である。なお、誤った回答をしたことに対する国家賠償請求は本件では争われていない。

法の一般原則である信義則の租税法規への適用に関しては判例を基礎に議論され、類似の事例が存在しているが、中心的な争点は公の見解に該当するものであるのか否か、そしてそれを信じるに足る点につき納税者の帰責性がないのかという点が争われることが多い。本件も同様のケースであり、税務署での一般職員の税務相談への回答が信義則の対象としてなり得るものであるのかという点が中心となって争われている。

「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者が当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるというべきである〔最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照〕。」

公的見解の表示に当たるためには、少なくとも、その内容に沿った取扱いを確実に受けられると信頼してしかるべきものによる表示に限られるというべきであり、税務署長その他責任ある立場にある者の正式な見解の表示であることが必要であると解すべきである。」

判示では上記のように、最判に基づき、基本的な信義則適用の要件が法令解釈として用いられている。この点については従前と整合的であるが、税務署での税務相談については、あくまでも行政サービスの一環であり、調査等も行っていないものであるとして、課税庁の主張通り、一定の権限のある、立場にある者(そもそもこれがどの程度であるのか、実際にそのような者から見解が示されることがあり得るのかという点は議論の余地はあろうが)に
公の見解が制限されている。租税法の適用において信義則は、租税負担の公平を犠牲にしてもなお、納税者を保護すべき場合において適用されるものであり、特に申告納税制度を基礎とする以上、一定の制限が付与されるのは明らかであるとは考えられるが、本件のように、明確に公の見解として対象を税務署長等に限定する判断は特徴的なものであろう。

最高裁は、特段このような限定を行っていないものであるが、判示では納税者への行動への信頼や帰責性の観点から、限定されているものと考えられる。
税務署長等に限定するような解釈であるが、私見としてはこれはあくまでも行政サービスという法的にいかなるものとして位置づけるべきであるのか不明瞭な税務相談からの視点からの判断であり、例えば、調査終了時の勧奨等、法的に裏打ちされた行為における見解であれば、別途信義則の対象となりうるものであるのか当検討すべき範囲はあるように捉えられ、最高裁の判示に依拠するならば特段限定をおいているものではなく、一律に税務署長等に限定されるべきものではないものと考えるべきであろう。

実質的に考えても、税務署長等に限定されるようなものであれば、信義則の保護対象となりうるものは極めて限定されるものであり、一般の通常人であれば、税務相談等においての回答を信じることは、必ずしも想定し難いものではない。この点に関して、税務相談等は本来は、税理士等租税専門家の役割であるのかもしれないが、納税者が抱く税務署への期待とは整合していないようにも捉えられる。申告納税制度を基礎とする以上最終的な申告における判断は、納税者に多くの場合に置いて責任が伴うものであることは、法令解釈として成立するものであるが、たとえ調査等を実施しておらず、回答に何らかの拘束を付与することは、実務的には実際的ではないのかもしれないが、このような税務相談への位置づけを基礎とすることは、かえって税務行政の納税者への信頼を損なうことになりかねないのではないかと懸念される。

以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。