さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和3年4月23日で、税務署での税務相談での説明と実際の課税処分の相違が信義則に反するものであるとして提起された事例である。
具体的には本件は原告が個人として保有していた株式を発行法人に対して譲渡して得た所得が譲渡所得として確定申告したところ、課税庁により当該所得はみなし配当所得であるとして、課税処分されたことを発端とするものである。確定申告にあたっては譲渡所得であるのか配当所得であるのか(支払い時に法人は源泉徴収済み)迷ったため、税理士事務所職員と同動し(この税理士事務所の責任は別問題であろう)、税務署において税務相談をした上で、譲渡所得として申告したものであってみなし配当所得であるとの処分は相談とは異なるものであるとのことで法の一般原則である信義則適用を求め不服を提起した事例である。合わせて過少申告加算税の賦課決定処分も行われており、かかる点での正当な理由の存在としての宥恕規定の適用も合わせて争われている。すなわち誤った税務相談を回答した法の一般原則である信義則の適用が中心的な争点である。なお、誤った回答をしたことに対する国家賠償請求は本件では争われていない。
法の一般原則である信義則の租税法規への適用に関しては判例を基礎に議論され、類似の事例が存在しているが、中心的な争点は公の見解に該当するものであるのか否か、そしてそれを信じるに足る点につき納税者の帰責性がないのかという点が争われることが多い。本件も同様のケースであり、税務署での一般職員の税務相談への回答が信義則の対象としてなり得るものであるのかという点が中心となって争われている。
「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者が当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるというべきである〔最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照〕。」
公的見解の表示に当たるためには、少なくとも、その内容に沿った取扱いを確実に受けられると信頼してしかるべきものによる表示に限られるというべきであり、税務署長その他責任ある立場にある者の正式な見解の表示であることが必要であると解すべきである。」
判示では上記のように、最判に基づき、基本的な信義則適用の要件が法令解釈として用いられている。この点については従前と整合的であるが、税務署での税務相談については、あくまでも行政サービスの一環であり、調査等も行っていないものであるとして、課税庁の主張通り、一定の権限のある、立場にある者(そもそもこれがどの程度であるのか、実際にそのような者から見解が示されることがあり得るのかという点は議論の余地はあろうが)に
公の見解が制限されている。租税法の適用において信義則は、租税負担の公平を犠牲にしてもなお、納税者を保護すべき場合において適用されるものであり、特に申告納税制度を基礎とする以上、一定の制限が付与されるのは明らかであるとは考えられるが、本件のように、明確に公の見解として対象を税務署長等に限定する判断は特徴的なものであろう。
最高裁は、特段このような限定を行っていないものであるが、判示では納税者への行動への信頼や帰責性の観点から、限定されているものと考えられる。
税務署長等に限定するような解釈であるが、私見としてはこれはあくまでも行政サービスという法的にいかなるものとして位置づけるべきであるのか不明瞭な税務相談からの視点からの判断であり、例えば、調査終了時の勧奨等、法的に裏打ちされた行為における見解であれば、別途信義則の対象となりうるものであるのか当検討すべき範囲はあるように捉えられ、最高裁の判示に依拠するならば特段限定をおいているものではなく、一律に税務署長等に限定されるべきものではないものと考えるべきであろう。
実質的に考えても、税務署長等に限定されるようなものであれば、信義則の保護対象となりうるものは極めて限定されるものであり、一般の通常人であれば、税務相談等においての回答を信じることは、必ずしも想定し難いものではない。この点に関して、税務相談等は本来は、税理士等租税専門家の役割であるのかもしれないが、納税者が抱く税務署への期待とは整合していないようにも捉えられる。申告納税制度を基礎とする以上最終的な申告における判断は、納税者に多くの場合に置いて責任が伴うものであることは、法令解釈として成立するものであるが、たとえ調査等を実施しておらず、回答に何らかの拘束を付与することは、実務的には実際的ではないのかもしれないが、このような税務相談への位置づけを基礎とすることは、かえって税務行政の納税者への信頼を損なうことになりかねないのではないかと懸念される。
以上です。毎回のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。