2020年10月31日土曜日

判例裁決紹介(最判令和2年3月19日、不動産取得税非課税算定のための画地計算法における価格按分の否定)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、最判令和2年3月19日で、不動産取得税における非課税対象を決定する際に用いた一画地の分割評価における固定資産税評価に関する判決です。

より具体的には、共有により土地を保有していた被上告人が共有物の分割により共有持分を取得したところ、通常の共有物の分割ではなく、分割前の持ち分の割合を超える部分の取得があったとして、不動産取得税の賦課決定処分をを受けたことを不服として、本件共有物の取得は形式な所有権の移転に該当するとして取消しを求め提起された事例である。共有物の持分の割合を超過しているか否かの判定において、すなわち当該土地の評価及び分割された土地の評価方法が問題とされたものであり、すなわち固定資産税評価基準に定める画地計算法に基づく評価方法と土地評価額を地積により按分される方法がこの不動産取得税の共有物分割における分割の局面において妥当であるのかという点が中心的な争点となっている。したがって、不動産取得税の事例ではあるが、固定資産税評価基準の適用、評価方法が争点となっているものである。

原審である大阪高裁では、納税者の主張を認め、共有物分割による分筆後の各土地の価格比により按分することを認めた判決を出したが、大阪府が上告し、本件の判断として、交際の判断を否定したものである。些か特殊な不動産の共有物分割のの流れの中での判断ではあるが(おそらく実務的には珍しいものではないだろうが)、判断が別れ最高裁の判示が示すように、不動産取得税における共有物の分割においては、固定資産税評価基準における評価を逸脱する、例外的な処理を行うことが妥当であるのかという点が否定的に解されたものであり、この判断のアプローチは租税法規において一定の評価を用いることが原則的な状況でありながら、それを逸脱する場合における困難な状況を示したものともいえ、当然固定資産税評価基準と財産評価基本通達の位置づけ等は異なるものであるが、特に固定資産税評価基準から外れることが如何に困難であるのかという点でも、今後の参考となるものであろう。

形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
二の三 共有物の分割による不動産の取得(当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得を除く。

以上のように本件は、上記地方税法における形式的な所有権の移転であり、不動産取得税の非課税対象となるのかという点が争点となったものであり、共有物の分割における分割前の部分を超過する部分の測定方法が問題となったものである。


土地1の価格は、一画地として認定された本件各土地全体の評点数を算出した上、これを地積比であん分する方法によって算定されているが、持分超過部分の有無を判断する場合にあっては、僅かな評価の差異によってその判断が異なることとなるから、より慎重な方法によって算定する必要がある。そして、一画地を構成する各筆の土地が所有者を異にする場合、各筆の土地はそれぞれの所有者がこれを拠出して一画地を構成しているという関係にあるから、それぞれの土地の価格の割合であん分する方がより公平に適するというべきである。また、本件においては、本件土地1と本件土地2の地積が異なる以上、その地積比で本件各土地の価格をあん分すれば、地積の大きい本件土地1について必然的に持分超過部分が生ずることは明らかであった。このような場合において、本件処分が、他の合理的な計算方法を試みることなく、漫然と地積比に従ってあん分計算をして本件土地1の価格を算定したことには、違法がある

この点については、原審は以上のよう(最判まとめ)に租税負担の公平性を基礎として、地積比による按分を否定している。慎重な方法により算定すべき(租税法規である以上当然ではあるが、共有物の評価においてより慎重さが求められるものとしているようにも読める)としてこの公平性の判断をいかなる公平に基づくものとして判断しているのか、些か不明瞭ではあるが、一画地に対する認識も最高裁と全く異なる。複数土地の拠出と捉え判断していることになろう。

これに対して最判は以下のように、

1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体を成していると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体を成している部分の宅地ごとに一画地とするものとしている。この例外は、筆界が土地の形状や利用状況等に即したものであるとは限らないことか
ら、上記の原則を貫くと、宅地の客観的な交換価値を合理的に算定することができず、分筆や合筆の仕方次第で評価額が異なることにもなって、評価の不均衡をもたらす可能性があるため、評価の均衡上必要があるときは、筆界のいかんにかかわらず、その形状、利用状況等からみて一体を成していると認められる範囲をもって、一画地として画地計算法を適用することとしたものと解される。

固定資産税評価基準における画地計算法を採用した趣旨に言及した上で上記のように、評価の不均衡を懸念したものであるとしている。この上で、下記のように、一画地として認められること(そもそも本件では一画地として認められるかどうかという点は争いとされていない、本来ならばこの点がまず問題とされるのであろうが)を前提とした上で、

隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定すべき場合とは、これらの宅地が形状、利用状況等からみて一体を成していると認められる場合であって、この場合の各筆の宅地は、一体を成している当該画地の構成要素にすぎず、個別に客観的な交換価値を算定するのに適さないものである。そうすると、隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定し、当該画地について画地計算法を適用する場合において、算出された当該画地の単位地積当たりの評点数は、当該画地全体に等しく当てはまるものと解するのが相当である。以上によれば、評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認して画地計算法を適用する場合において、各筆の宅地の評点数は、画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に、各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出されるものというべきである。

一画地を構成する各土地は、構成要素に過ぎず、個別に時価を算定するべきものではないと捉え、高裁と全く異なる土地の評価を行っている。固定資産税評価基準における伝統的な時価の評価における客観的な交換価値との対比において時価を超過しているものであるのかという点を判断の枠組みとする点を不動産取得税においても維持して、納税者の主張する(原審が認めた)各土地の価格で按分する方法は、そもそもの地方税法が想定する客観的な交換価値に該当するものではないとして捉えている。このように述べた上で、一画地とされる土地においては、各土地は一体として評価された土地の価格の地積按分であるべきとして判示している。結果として不動産取得税における評価基準の適用の局面であっても固定資産税評価基準からの例外的な処理を認めていないものと考えられる(画地計算法における地積按分を確定的に評価しているものであろう、あとはこの時価が客観的な交換価値よりも高いかどうかの問題に)。上記のように評価の不均衡を懸念する固定資産税評価基準による評価方法を是としたものであり、一律な評価の基礎とすることが客観的な交換価値における重要な要素であり、固定資産税評価基準の重要な目的であることを判断の基礎としたものであろう。租税負担の公平性を基礎とした原審と異なり、地方税法や固定資産税評価基準という基本的な評価における趣旨を重視した判断であり、固定資産税評価基準における事例ではあるが、原則的な評価方法を逸脱することの困難を租税法規において、示したものとも考えられる。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年10月24日土曜日

判例裁決紹介(令和元年6月6日裁決、売上計上漏れの告白と更正の予知)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は令和元年6月6日裁決で、過少申告加算税などにおける更正の予知がないことを条件とする宥恕措置が、調査段階において代表取締役が調査官に売上の漏れ【除外を】告白したことが該当しうるものであるのかという点が争点となった事例です。

具体的には法人たる請求人が自身の申告を修正する修正申告書を提出し、この経緯として売上の計上漏れがあったとして重加算税等の賦課決定処分を受けた事案において、調査の着手段階で代表取締役が調査官に対して売上の計上漏れを告白しているとして、更正の予知があったものではないとして過少申告加算税の適用等を免れるべきであるとして、不服を提起したものである。あまりこのような争点は、焦点が当てられることがないものでマイナーなものであろうが【そもそも申告を誤っていた等の状態にある場合において附帯税を付与することで公平性を担保しようとしている制度のさらなる例外であり、このような納税者は少ないだろう】、附帯税の宥恕を図るべきものとして、そして申告納税制度を基礎とする我が国の租税制度において、自発的な修正を促す趣旨として理解される制度である。現行法は下記のように、予知されていないこととあわせて事前通知の前【事前通知の前というタイミングは実際的には問題になりうるが】に制限が強化されている、附帯税の適用範囲を制限することが厳格に制度化されている現況であるが、本件な旧法の事前通知が要件とされていない段階のものである。この予知の有無に関してはこの旧法において事例が積み重ねられていたが、現行法においても同種の予知が存在しないことを養成されており、詳細な事実認定のもと、本件は参考となるべき事例だろう。

国税通則法65条
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

以上のように、本件は修正申告書の提出において、調査による更正の予知があったのか否かというものが課題となっているものである。実際の修正申告自身は調査の後に行われており、調査の着手前に売上の計上漏れがあることを調査官に告白していることが実質的に上記要件を充足するものであるのかという点が課題となっている。本件の制度趣旨が自発的な修正申告によって申告納税制度を保護しようとする趣旨にあるとするならば、この告白により、修正申告を決意したものであり実質的に要件を充足するとして、本件の告白は自発的なものであり、保護されるべきという主張が背景にあるものであろう。


過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を
課することによって、当初から適正に申告した納税者との間の客観的不公平
実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、
適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置
である。


これに対して裁決は、確かに下記のように自発的な修正申告を促すものとしているが、 上記のように過少申告加算税の基本的な趣旨を出発点にして判断の枠組みを示している。


一方、通則法第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後
修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査が
あったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの
でない」場合において、その申告に係る国税についての調査に係る通則法第
74条の9第1項第4号及び第5号に掲げる事項その他政令で定める事項の通
知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税を賦課しない旨規定
しているところ、これは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等
を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告
書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税
者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。

そして、通則法第65条第1項括弧書、同法第68条第1項括弧書及び旧通
則法第65条第5項に規定している「その申告に係る国税についての調査があ
ったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもので
ない」ときもその目的は同様と解される。

ロ 上記イの通則法及び旧通則法の各規定の文言及び趣旨からすると、修正申告
書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国
税について更正があるべきことを予知してされたものでない」ときに該当する
か否かの判断に当たっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の
認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合
考慮して判断するのが相当である。

このように、裁決は判断の枠組みを示した上で、調査と修正申告が具体的に関わるという認定【除外額の認定など】から修正申告が調査に関わりなく、予知がないものとを前提としてなされたものではないという判断を示している。私見としても附帯税が公平性を担保する趣旨にあり、例外的な本件の規定であることを鑑みるならば、決意などのような内心に関わることを基礎として時系列上、調査と修正申告書が続く形であっても更正の予知がないものとするような認定の方法は拡張的であり、本条の基本的な趣旨に反するものであると考える。単に自発的な申告を促すことのみが問題ではなく、附帯税の趣旨とのバランスから解されるべきであろう。また、法が修正申告書の提出と明記していることからも内心の表明として【決意とされているが】の告白のタイミングでの修正申告未提出にあるものを適用対象とすることは拡張的な判断で採用しがたいものではあるだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2020年10月20日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和元年12月5日、バックリベートの法人所得帰属認定)

 

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は大阪地判令和元年12月5日で、架空の広告宣伝費の計上と、代表取締役が受け取ったバックリベートが法人の所得に帰属するとして、それを除外した申告における青色申告の取り消し、重加算税の賦課がなされたことを不服とする訴訟です。

具体的には、本件は、不動産業を営む原告法人が、同族関係者ではない(雇われの)代表取締役がなした他社への架空広告宣伝の発注とバックリベートの受領(学生にとってはこのような商習慣の存在自身も認識するべきだろう)を行っていたことをもってその課税関係が問題に、特に青色申告の取り消し重加算税の賦課が行われたことを代表取締役(特に雇われの)個人の行為であり、法人に帰属させるべきものではないとして、提起した事例です。架空の費用の計上も争点となっているものであるが、どちらかというと法人ではなく、代表取締役個人が受け取ったものであり、法人の収入としてカウントすることが妥当であるのか否か、法人の所得として認定されるのか否かという認定の是非が中心的な論点になっているものである。いわば実質的所得者の判断が基礎となる事例である。なお、他にも損害賠償請求権の計上タイミングも同じく争点とされている。

実務的には、このような所得帰属の認定、特に代表取締役個人と法人を同一視するような所得帰属の認定は珍しいものではないのであろうが、一般的にはおそらくこのような法人と個人の分離が認めがたいような所得帰属の判断は疑問に思われようが(いささか乱暴であるようにも印象を持つだろう)、我が国特に、中小企業においてはこのような実質的な所得者を認定することは現状に合致しているという(というか我が国の特徴とも言えるものと考えられるが)点では違和感はないのかもしれない。いずれにしてもこのような実質的な所得認定が現状においてもなされていることは、課税庁、租税専門家ともに、留意されるべきであり、参考となる事例だろう。

法人税法11条資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

「法人税法の課税標準の計算上,事業から生じた収益に係る所得が誰に帰属するかについては,実質上その収益を誰が享受するかによって判断すべきであるところ(実質所得者課税の原則。法人税法11条参照),バックリベートに係る収益が,当該事業主体である法人に帰属するか,バックリベートを現実に受領した個人に帰属するかの判断に当たっては,バックリベートが支払われることとなった経緯や目的、バックリベート支払の根拠や算出方法,バックリベートを現実に授受した者の法律上の地位・権限,バックリベートと法人の事業との関連性の程度,取引関係者の認識,バックリベートの使途等,バックリベートの授受に関する諸般の事情を総合的に考慮して,法律上,当該バックリベートを享受する権利ないし地位をいずれが有するかによって判断すべきである。」

以上のように、本件はその中心的な争点として、バックリベートが法人の所得として認定されるものであるのか、いわゆる実質的所得者課税の原則が課題になっている。あまり詳細が表に出ることのないバックリベートの存在に関して実質的所得者を認定した事例はとても珍しいものであろうが、このような状況、収入に対する実質的所得者の原則の適用が如何に行われるべきであるのか、近年は特に実質的所得者の原則に関する事例は珍しく、かかる点からも参考とすべき事例であるだろう。

特に本件では、相手側となる、取引関係者の認識、意図がどのように判断されるのかという部分が中心的な認定要因となっている。リベートである以上、致し方ないものでもあるのだろうが、相手側の意図が判断要因となりうる点は、予測可能性の観点からは、帰属判定を行う上で、納税者側にとっては困難であるようにも考えられる。

以上です。毎度如く備忘録として作成しているものですので完成度は低いですので参考までに。

2020年10月13日火曜日

判例裁決紹介(大阪地判令和元年11月7日、従業員の横領による架空仕入の計上と重加算税)

 

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、大阪地判令和元年11月7日で、従業員の横領に伴う架空仕入れの計上が法人の行為と同視されるものとして重加算税の対象となるのかという点が課題となった事例である。

具体的には、本件はパチンコを営む原告がなした法人税に申告において、架空仕入が計上されていたことが調査により判明し、当該仕入が従業員の横領【に伴う現金不足を賄う目的で、経理操作、会計ソフトの修正【調査により、発覚したものであるが、会計ソフトの修正履歴を追いかけて発見している。ある意味当然ものともいえるのかもしれないが、近年の修正履歴を追いかけるような調査手法は現場でも珍しくなくなっているのであろうか、個人的にはこのようなシステムの修正は仮想等に該当するのかという部分も興味深い】を行ったものであり、仮想隠蔽に該当するとして重加算税の賦課決定処分を受けたことをもって、従業員の犯罪行為によるものであるとして、重加算税の賦課決定を不服として提起された事例である。従業員の横領に伴う損失の計上時期や法人の行為として捉えられるものであるのかという点が争点となっている事例は特段珍しいものではなく、本件もその類型に属するものである。損失の求償に関しては、従業員と法人の間で民事により回復される問題であり、従業員の犯罪による損害を租税負担においても追うべきであるのかという点が、すなわち法人としても従業員の犯罪の被害者であり、法人が追加的な租税負担を受けるものとして捉えることは非合理であるとする感覚がスタートラインにあるものであろう。この点は理解できないものではないが、この考えに基づけば個人と異なり、法人において組織的な仮想隠蔽でない限り、重加算税の賦課対象とならないものともいえ、対象範囲を制限するものであり、重加算税の趣旨目的からかかる解釈は否定されている、従来の判断に整合的な事例である。基本的には、かかる従業員の行為が法人の行為として認められる得るものであるのかという点が課題となった事実認定が中心の事件ではあるが、法人の管理体制を省みる上でも参考とすべき事例だろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件の中心的な争点は、上記国税通則法に定める重加算税の賦課において、納税者が行為の主体として行う場合に、この納税者を如何に解するべきであるのか、特に法人において、組織的な行為以外にも法人の行為として認定されうる、従業員、経営者等の行為が含まれるものであると解されるのかという点が争点になっているものである。
この点につき、本件では、下記のように、最判を引用して重加算税の趣旨目的から納税者の意義を拡張的に解釈している。かかる点は重加算税の趣旨からも合理的であろう。

通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装し,その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は,隠蔽仮装行為の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる(最高裁平成18年判決参照)。

 本件のように,納税者が法人である場合,当該法人の構成要素として存在する役員及び従業員をして,法人の事業活動,経済的活動が行われると同時に申告納税義務を適正に履行することが求められているのであって,これらの者に対する不十分な指揮監督,組織管理の不備という法人の内部的事情を理由に,申告納税制度による適正な納税義務の履行を免れるとすると,重加算税制度の趣旨及び目的が没却されることになりかねない。

 そうすると,納税者である法人において,その従業員が隠蔽仮装行為をし,その隠蔽仮装行為をしたところに基づき過少申告がされた場合であっても,当該法人において,従業員による隠蔽仮装行為を認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,当該法人においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,当該法人に対して重加算税を賦課することができると解するのが相当である。


しかしながらより具体的には法人の構成員たる従業員等に対して、職務権限や行為の態様が法人の行為として認定されうるものであるのかという点から判断される従来ものと異なり、不十分な指揮管理、組織の管理の不備から、従業員の不正行為を容易に認識、是正される事が可能であったそれを怠ったことに、法人としての行為に該当するものとして判断している点は本件の特徴的なものである。従来判例で問題となることが多い、代表取締役や役員等の対象ではなく、従業員であることがこのような内部管理上の不備を納税者の行為として認定しうるものと判断しているものである。我が国の中小企業の実情から内部管理の状況を反映させた判断を行うことは、事実上法人の責任を強化するものではないかとも考えられるが、職務権限等の具体的な行為を問題とせず、間接的な内部管理上の不備が法人の責任として、相当な注意を払っていないとして、法人の行為と同視されるものであるのかという点は些か拡張的な判断ではないだろうか。重加算税が行為をその判断の基礎においている以上、重加算税の直接的な対象となる仮想隠蔽の行為を対象とするものではなく【会計システムの修正】ではなく、法人の管理上の不備を基礎として法人の行為と同視するものとして判断が導かれているが、かかる点は納税者の行為として重加算税の対象とすることは困難ではないだろうか。ちなみに、税理士には依頼していることは、内部管理上の整備としては全く考慮されていない。

以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2020年10月3日土曜日

判例裁決紹介(東京地判令和元年10月24日、未使用ポイントと権利確定)

 

また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月24日で、企業が経理したポイントの未使用部分に関する債務確定が否定された事例です。

具体的には、キャラクター商品などを取り扱う原告法人がその確定申告において計上したポイント付与学の未使用部分に関して引当経理を行っていたところ、この部分に関して法人税法上、認容されるものであるのかという点が争われた事例である。顧客が購入した際に付与するポイントについての事業年度末における未使用部分に対して当該未使用部分に関しては未だ債務が確定していないものして課税庁が否定した点が争点となっているものであり、商品券に関する通達の類推適用等を求めて提起された事例である。

当時は会計処理方法、基準もポイントについては、特に定められているものではなく、法人税法、租税法規においてもその取扱は確定していない段階(いわば公正処理基準がそもそも存在しない段階、よく公正処理基準に該当するのか否かという点が問題になるが、このような新しい類型に関してはそもそも存在しないことが問題であり、これを如何にして租税法規において取り扱うべきであるのかという点が課題となるだろうが、本件はそのような意味においても参考となろう)にあったときの事例であり、本件判示以降通達においてもポイントに関してはその債務確定に関する一定の判断基準が示されている段階にある。本件はそのような段階における判断であり、債務確定という点、法人税法における債務確定を如何に解釈するのかという点で判断が導かれており、法人税法における損金計上のタイミングを検討する上で参考となる事例であろう。また近年はポイントプログラム自体がすっかり定着し、単独企業の提供するものから複数社で共同するものなど、その運営方法、利用方法が多様化している。最近は企業のみならず政府が発行主体になるなどの状況も登場しており、非常に重要な社会システムとして機能し始めている。このようなポイントを捉える上でも本件は有益な事例ではないだろうか(ポイントの性格を値引きに活用される限定的な存在として捉えているところは、今後の対象としてはより変更の余地はあるものであろうが所得税法における取り扱いを考える上でも参考となろう)。

同項2号に定める販管費等について
は、1号に定める原価とは異なり、償却費以外の費用で当該事業年度終了の
日までに債務の確定しないものは損金の額に算入することができないものと
されており(債務確定要件。2号括弧書き)、その趣旨は、未発生の販管費
等に係る引当金については、発生の見込みや金額の算定について法人の恣意
が入りやすいため、当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り
損金算入を認めることとして、課税計算の適正を図ろうとするものと解され
る。
すなわち、原価については、特定の収益を生み出すために直接必要であっ
た費用であり、個別的かつ客観的に収益と対応するものといえることから、
当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していない場合であ
っても、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実さをもって見込ま
れており、かつ、その金額を適正に見積もることが可能であれば、損金の額
に算入し得るものである〔最高裁判所平成12年(あ)第1714号同16
年10月29日第二小法廷判決・刑集58巻7号697頁参照〕のに対し、
販管費等については、特定の収益と個別的かつ客観的に対応させることが困
難であり、将来発生する費用の発生の可能性の評価や費用となる金額の算定
に当たって、法人の恣意性が入り込みやすいことから、企業会計上は引当金
を計上するとともに費用処理する処理が一般に公正妥当なものといえる場合
であっても、法人の所得の金額の計算上は、当該事業年度終了の日までに債
務が確定したものに限り損金算入を認めることとして、損金の額に算入され
る販管費等の額につき法人の恣意が入り込む余地を排除し、もって課税計算
の適正を確保しようとするのが、債務確定要件の趣旨であるというべきであ
る。
 
以上のように、本件では法人税法22条3項の損金計上に関して、

3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

債務確定の意義について法人の恣意が入り込む余地を排除することをもって適正な法人所得の計算を図ることを目的としていると解している。かかる点を受けて債務確定の意義を反映させた形で現行通達における債務確定の判断の枠組みを肯定している。その上で、単なる蓋然性があることのみでは足りず、費用の発生を基礎づける具体的原因事実の発生までを要求するものとして債務確定の要件を解釈している。具体的原因事実を如何に捉えるべきであるのかという点は必ずしも定かではないが、将来費用発生の可能性が高いことのみをもって計上することは許されないとして、原価と販管費等を区分している点を基礎に判断している点は特徴として理解されよう。
このように法人税法が損金において、原価と販管費等を区分してこの対応を変化させていることも考慮して本件は判断している。明確に区分して販管費等の特性を含んだ形で解釈を行っていることは注目されよう。この場合は原価と販管費等を如何にして峻別するのかという基準は法人税法においてどのように捉えるのかという課題は発生するものであろう。

債務確定通達(基本通達2-2-12)は、債務確定要件の判定
基準として、当該事業年度終了の日までに、当該費用に係る債務が成立して
いること(債務確定基準①)、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原
因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定基準②)及
びその金額を合理的に算定することができること(債務確定基準③)を定め
る〔関係法令等(3)〕ところ、その内容は、企業会計上、すべての費用及
び収益はその発生した期間に割り当てるように処理しなければならないもの
とする発生主義の考え方に整合するとともに、その発生の可能性の評価等に
関する法人の恣意を排除するという債務確定要件の上記趣旨にも沿うものと
いえる。そして、上記のとおり法人税法が引当金の損金算入を限定している
ことや、上記の債務確定要件の趣旨に照らせば、債務確定基準②の具体的原
因事実が発生したというためには、企業会計上引当金として計上できる程度
に将来費用が発生する可能性が高いとされるだけでは足りず、当期において
費用の発生を基礎付ける具体的原因事実の発生が認められなければならない
ものと解する
のが相当である。

債務確定主義の意義を恣意的な計算の排除に求めることは、現行法の理解として従来と整合的なものであるが、第三者との取引である場合などもあり、恣意の抑制と費用発生を明示的に結びつけることに限定されるものとして捉えることは必ずしも言い難いものであるのかもしれない。本件は引当処理を行っている将来の費用計上の議論であり、割り引いて捉えるべきであろう。いずれにしても法人税法上の費用計上においては、単に費用収益の対応(そもそもこの対応という概念が法的な概念ではなく如何に捉えるべきであるのかという点は具体的な事実関係においても問題を発生させることになるものでもあるが)や公正処理基準にのみ依拠しているものではなく、法人税法特有の基準要件として債務の確定を要請し、制約をおいていることは留意されるべきであろう。

また、本件では当該ポイントを将来の値引きに関わるものとして捉えている。現状多くのポイント制度はこのように捉えられているものであるが、顧客の確保をポイントは法人の戦略上確保されるものでもあり、近年はポイント制度も多様化が進んでいる。本件でも企業内通貨であるとしての主張も展開されたように通貨としての機能(この点は暗号資産の議論とも関わってくるのであろうが)、複数の関係者が関わる形で提供されるようになってきている現況においては捉えることも可能となってきている。例えば本件は換金性を否定したポイントであるが、換金性を一部でも認められるような状況にあればどのように理解されるだろうか(金商法等の関係で難しいかもしれないが)。ポイントプログラム自体が家電量販店の販促ツールから多様化しつつあることも鑑みるならば、一律に捉えることも困難であり、さらに法的な評価も含んで今後も議論されるべきだろう。


以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。