また、興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判令和元年10月24日で、企業が経理したポイントの未使用部分に関する債務確定が否定された事例です。
具体的には、キャラクター商品などを取り扱う原告法人がその確定申告において計上したポイント付与学の未使用部分に関して引当経理を行っていたところ、この部分に関して法人税法上、認容されるものであるのかという点が争われた事例である。顧客が購入した際に付与するポイントについての事業年度末における未使用部分に対して当該未使用部分に関しては未だ債務が確定していないものして課税庁が否定した点が争点となっているものであり、商品券に関する通達の類推適用等を求めて提起された事例である。
当時は会計処理方法、基準もポイントについては、特に定められているものではなく、法人税法、租税法規においてもその取扱は確定していない段階(いわば公正処理基準がそもそも存在しない段階、よく公正処理基準に該当するのか否かという点が問題になるが、このような新しい類型に関してはそもそも存在しないことが問題であり、これを如何にして租税法規において取り扱うべきであるのかという点が課題となるだろうが、本件はそのような意味においても参考となろう)にあったときの事例であり、本件判示以降通達においてもポイントに関してはその債務確定に関する一定の判断基準が示されている段階にある。本件はそのような段階における判断であり、債務確定という点、法人税法における債務確定を如何に解釈するのかという点で判断が導かれており、法人税法における損金計上のタイミングを検討する上で参考となる事例であろう。また近年はポイントプログラム自体がすっかり定着し、単独企業の提供するものから複数社で共同するものなど、その運営方法、利用方法が多様化している。最近は企業のみならず政府が発行主体になるなどの状況も登場しており、非常に重要な社会システムとして機能し始めている。このようなポイントを捉える上でも本件は有益な事例ではないだろうか(ポイントの性格を値引きに活用される限定的な存在として捉えているところは、今後の対象としてはより変更の余地はあるものであろうが所得税法における取り扱いを考える上でも参考となろう)。
同項2号に定める販管費等について
は、1号に定める原価とは異なり、償却費以外の費用で当該事業年度終了の
日までに債務の確定しないものは損金の額に算入することができないものと
されており(債務確定要件。2号括弧書き)、その趣旨は、未発生の販管費
等に係る引当金については、発生の見込みや金額の算定について法人の恣意
が入りやすいため、当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り
損金算入を認めることとして、課税計算の適正を図ろうとするものと解され
る。
すなわち、原価については、特定の収益を生み出すために直接必要であっ
た費用であり、個別的かつ客観的に収益と対応するものといえることから、
当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していない場合であ
っても、近い将来にこれを支出することが相当程度の確実さをもって見込ま
れており、かつ、その金額を適正に見積もることが可能であれば、損金の額
に算入し得るものである〔最高裁判所平成12年(あ)第1714号同16
年10月29日第二小法廷判決・刑集58巻7号697頁参照〕のに対し、
販管費等については、特定の収益と個別的かつ客観的に対応させることが困
難であり、将来発生する費用の発生の可能性の評価や費用となる金額の算定
に当たって、法人の恣意性が入り込みやすいことから、企業会計上は引当金
を計上するとともに費用処理する処理が一般に公正妥当なものといえる場合
であっても、法人の所得の金額の計算上は、当該事業年度終了の日までに債
務が確定したものに限り損金算入を認めることとして、損金の額に算入され
る販管費等の額につき
法人の恣意が入り込む余地を排除し、もって課税計算
の適正を確保しようとするのが、債務確定要件の趣旨であるというべきであ
る。
以上のように、本件では法人税法22条3項の損金計上に関して、
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
債務確定の意義について法人の恣意が入り込む余地を排除することをもって適正な法人所得の計算を図ることを目的としていると解している。かかる点を受けて債務確定の意義を反映させた形で現行通達における債務確定の判断の枠組みを肯定している。その上で、単なる蓋然性があることのみでは足りず、費用の発生を基礎づける具体的原因事実の発生までを要求するものとして債務確定の要件を解釈している。具体的原因事実を如何に捉えるべきであるのかという点は必ずしも定かではないが、将来費用発生の可能性が高いことのみをもって計上することは許されないとして、原価と販管費等を区分している点を基礎に判断している点は特徴として理解されよう。
このように法人税法が損金において、原価と販管費等を区分してこの対応を変化させていることも考慮して本件は判断している。明確に区分して販管費等の特性を含んだ形で解釈を行っていることは注目されよう。この場合は原価と販管費等を如何にして峻別するのかという基準は法人税法においてどのように捉えるのかという課題は発生するものであろう。
債務確定通達(基本通達2-2-12)は、債務確定要件の判定
基準として、当該事業年度終了の日までに、当該費用に係る債務が成立して
いること(債務確定基準①)、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原
因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定基準②)及
びその金額を合理的に算定することができること(債務確定基準③)を定め
る〔関係法令等(3)〕ところ、その内容は、企業会計上、すべての費用及
び収益はその発生した期間に割り当てるように処理しなければならないもの
とする発生主義の考え方に整合するとともに、その発生の可能性の評価等に
関する法人の恣意を排除するという債務確定要件の上記趣旨にも沿うものと
いえる。そして、上記のとおり法人税法が引当金の損金算入を限定している
ことや、上記の債務確定要件の趣旨に照らせば、債務確定基準②の具体的原
因事実が発生したというためには、企業会計上引当金として計上できる程度
に将来費用が発生する可能性が高いとされるだけでは足りず、当期において
費用の発生を基礎付ける具体的原因事実の発生が認められなければならない
ものと解するのが相当である。
債務確定主義の意義を恣意的な計算の排除に求めることは、現行法の理解として従来と整合的なものであるが、第三者との取引である場合などもあり、恣意の抑制と費用発生を明示的に結びつけることに限定されるものとして捉えることは必ずしも言い難いものであるのかもしれない。本件は引当処理を行っている将来の費用計上の議論であり、割り引いて捉えるべきであろう。いずれにしても法人税法上の費用計上においては、単に費用収益の対応(そもそもこの対応という概念が法的な概念ではなく如何に捉えるべきであるのかという点は具体的な事実関係においても問題を発生させることになるものでもあるが)や公正処理基準にのみ依拠しているものではなく、法人税法特有の基準要件として債務の確定を要請し、制約をおいていることは留意されるべきであろう。
また、本件では当該ポイントを将来の値引きに関わるものとして捉えている。現状多くのポイント制度はこのように捉えられているものであるが、顧客の確保をポイントは法人の戦略上確保されるものでもあり、近年はポイント制度も多様化が進んでいる。本件でも企業内通貨であるとしての主張も展開されたように通貨としての機能(この点は暗号資産の議論とも関わってくるのであろうが)、複数の関係者が関わる形で提供されるようになってきている現況においては捉えることも可能となってきている。例えば本件は換金性を否定したポイントであるが、換金性を一部でも認められるような状況にあればどのように理解されるだろうか(金商法等の関係で難しいかもしれないが)。ポイントプログラム自体が家電量販店の販促ツールから多様化しつつあることも鑑みるならば、一律に捉えることも困難であり、さらに法的な評価も含んで今後も議論されるべきだろう。
以上です。毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。