2020年4月20日月曜日

判例裁決紹介(東京高判令和元年11月27日、点々と移動して職務執行する者の住所地、居住者)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京高判令和元年11月27日で、点々と移動して職務を行う者(会社経営)が日本国内に住所地を有しているのか否かという点が争われた事です。

具体的には、本件は、内国法人及び海外子会社(シンガポールを本店にハブとして東南アジア各地に拠点を形成して)を経営している会社代表者(代表取締役、同族企業)が点々と拠点を移動したりしていることから所得税法に定める居住者に該当しないとして所得税の確定申告等を行っていなかったところ、調査により、当該代表者は日本国内に居住している者(居住者)に該当するとして、期限後申告の勧奨を受けたためそれに従い修正申告を行った原告が改めて日本国内に居所及び住所を有していないとしてその居住者性を否定した事である。地裁判決に続いて、裁判決も同様に原告納税者の主張を認め、課税庁の主張を排斥し、日本国内に居住していない、居住者としての該当性を否定した事である。裁決ではこのような点々と拠点を移動しているような状況にあって、如何にしてその判断を行うべきであるのかという点が課税庁の主張を認めていた、特に従来の住所判定の基礎となるような拠点移転の事実、滞在日数によるシンプルな判断をもってしていたところに対して、裁判所は否定的な判断を下した状況である。国際租税の基礎というべき納税義務の判断を行う基準となる居住者という概念自身は、従前議論が行われており、近年は社会環境の変化からその住所の概念も変容を余儀なくされているのではないかという問題意識は共有されているところであろうが、多くの居住者の概念が、その基礎となる住所の概念を如何にして解するのかという点を課題としていたように捉えられる。本件もその類型に該当するものであり住所イコール生活の本拠という法令解釈は揺るがないものであろう。そこで問題となるのが如何にして本拠と判断するのかという点が中心的な課題となっているのがこのような居住者における判断の基底にあるものである。近年は、必ずしも我が国のとどまった形での業務提供に限るものではなく、グローバルな展開の中で個人もその拠点を有するような状況は容易に想定されるべきものであり、このような状況を現行法において反映させるのかという点が課題となっている事であろう。そもそも生活の本拠という判断枠組み自体が今日の状況において適当であるのか、国際租税における属性、納税義務を判断する上で、ネットを活用した役務提供も容易になりつつありサプライチェーンが国内に限定されないような状況であれば(これが今年のようなコロナ禍の拡大を招いているのかもしれないが)判断枠組みとして妥当であるのかという疑問は起こり得ようが、生活という概念自身が必ずしも一義的ではなく(本件でも職務を中心に判断を行っているが、家族が国内に存在していることを重視する見解もありえよう)、本拠という存在をどのように判断するのか、主観的な要因が介在する余地が大きいことを租税法規の基本原則に照らして如何に考えるのかという点はより課題となろう。

このような中で本件は、点々と会社経営のため拠点を移動する、特にハブとなったシンガポールでの拠点での生活の拠点としての状況を認めるべきであるのかという点が中心的な課題となっているものである。かかる点では本件のような状況を前提とした判決であり、法令解釈上特段特徴的なものではないものとも捉えられ、的な価値は低いとも評価されるものであるのかもしれない。しかしながら本件は従前の判断枠組み(滞在日数や移動時のイベント)による課税庁の判断を覆した事であり、下記のように、資産状況や拠点移動のイベント(住民票や引っ越しなど)を重視しない判断は、今後の判断においても参考となるべきものであろう。



三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
四 非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう。
五 非居住者 居住者以外の個人をいう。

以上のように、本件は、住所の判断において、生活の本拠の判断において、下記のように課税庁の主張を排斥している。生活の本拠の判断を勤務者をベースにした引っ越しのような判断を避けて、職務の状況をベースにおいて判断している。予測可能性という点では劣位にならざるを得ないが(あるいは客観的かというと限界があるが)、職務などの性格を反映させ、あるい経緯を判断要素としている点は特徴的と言えよう。検討手法として時代遅れとしてかなり強く否定している点は、強調されよう。


第1審原告■■は、経営する会社の活動を日本から海外に広げ、日本と
海外に複数の居所を有し、海外滞在日数が徐々に増加していったのである
から、通常の引越しのように、特定の日又は期間に目に見える形で生活の
本拠が日本から海外に移転するというイベント的なものが存在しないのは
当たり前のことである。このような者に対して、過去に日本にあった生活
の本拠たる実体が時系列的にみて日本から海外に移転したかどうかを精緻
に時系列的に検討することは、検討手法として時代遅れ
である。第1審被
告の主張を採用するには無理がある。

以上です。
毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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