2020年4月20日月曜日

判例裁決紹介(東京地判平成31年2月5日、農地等に関する相続税の納税猶予と農業経営の廃止)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成31年2月5日で、相続税の納税猶予特例における停止条件の農業経営の廃止があったのか否かという点が課題となった事例です。

具体的には相続人たる原告が被相続人より相続した農地につき、農地等における納税猶予の特例の適用を申請して、約2億円相当の納税の猶予を受けていた場合において、利用状況調査を行っていたところ、農業経営を廃止したものとして課税庁より納税猶予の停止を受けたことをもって実質的には納税猶予の対象となる農業経営は継続している(農業法人に承継している)としてかかる適用の継続を求めたものである。農地に関する納税猶予の規定は、意外と歴史がある(昭和50年代から)ものであるが、近年は、その20年の猶予期間が経過して、納税が実質的に免除された事例も多発しているものの、あわせて、このような農業の継続が実質的に行われているのか否かという点が課題となった事例が増加しつつある。本件はかかるような農業経営に関する廃止しているか否かという点について具体的に判断した、特に農業経営法人を設立して、そこに農業を継承させているような状況に対して詳細な事実認定を行い、農業経営の廃止を判断している事例であり、実務的にも今後の参考となるべき事例であろう。特に近年は、このような事後管理を含む制度を含む納税猶予制度が事業承継など多様な局面に対して(そもそも事業承継が重要な課題として認識されたのは、つい最近だが、近年の状況からは、特に我が国の少子高齢社会を前提とするならば、今後もより重要性が増すのみだろう、実際個人事業にも適用されつつある)、事業等の廃止は最大の猶予の停止条件であり、かかる点の管理、サポートは租税専門家においても重要な課題であろう。本件はかかる点を再認識する点で、より重要なものであろう。農地に関わらず、事業の廃止を判断する際にも実質的な継続が認められるものであるのか(法人格の利用など)という点を検討する点でも重要な事例であろう。


農地等についての相続税の納税猶予及び免除等)
第七十条の六 農業を営んでいた個人として政令で定める者(以下この条において「被相続人」という。)の相続人で政令で定めるもの(以下この条において「農業相続人」という。)が、当該被相続人からの相続又は遺贈によりその農業の用に供されていた農地(特定市街化区域農地等に該当するもの及び利用意向調査(農地法第三十二条第一項又は第三十三条第一項の規定による同法三十二条第一項に規定する利用意向調査をいう。第一号において同じ。)に係るもののうち政令で定めるものを除く。次項第一号を除き、以下この条において同じ。)及び採草放牧地(特定市街化区域農地等に該当するものを除く。同号を除き、以下この条において同じ。)の取得(前条の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされる場合の取得を含む。第十九項から第二十一項までを除き、以下この条において同じ。)をした場合(当該被相続人からの相続又は遺贈により当該農地及び採草放牧地とともに農業振興地域の整備に関する法律第八条第二項第一号に規定する農用地区域として定められている区域内にある土地で農地又は採草放牧地に準ずるものとして政令で定めるもの(以下この条において「準農地」という。)の取得をした場合を含む。)には、当該相続に係る相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書(以下この条において「相続税の申告書」という。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地及び採草放牧地並びに準農地(政令で定めるものを除く。で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該農地及び採草放牧地については当該農業相続人がその農業の用に供するもの(第九項の規定に該当する農業相続人にあつては、その推定相続人の農業の用に供するものを含む。)に限るものとし、準農地については当該農地又は採草放牧地とともにこの項の規定の適用を受けようとするものに限る。以下この条において「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、納税猶予期限(当該納税猶予期限前に、その有する当該特例農地等の全部につき第七十条の四の規定の適用に係る贈与があつた場合には、当該贈与があつた日とし、当該特例農地等の一部につき当該贈与があつた場合には、当該特例農地等のうち当該贈与があつたものに係る第三十九項第三号に定める相続税については当該贈与があつた日とし、当該特例農地等のうち当該贈与がなかつたものに係る第四十項第五号に規定する政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税については当該贈与があつた日から二月を経過する日(同日以前に当該農業相続人が死亡した場合には、当該農業相続人の相続人(包括受遺者を含む。以下この条において同じ。)が当該農業相続人の死亡による相続の開始があつたことを知つた日の翌日から六月を経過する日。以下この項において同じ。)とする。)まで、その納税を猶予する。ただし、当該農業相続人が、その納税猶予期限又は当該贈与があつた日のいずれか早い日(以下この条において「死亡等の日」という。)前において次の各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日から二月を経過する日まで、当該納税を猶予する。
一 当該相続又は遺贈により取得をしたこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等の譲渡、贈与(第七十条の四の規定の適用に係る贈与を除く。)若しくは転用(採草放牧地の農地への転用及び準農地の採草放牧地又は農地への転用その他政令で定める転用を除く。)をし、当該特例農地等につき地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定(当該特例農地等につき民法第二百六十九条の二第一項の地上権の設定があつた場合において当該農業相続人が当該特例農地等を耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。以下この条において同じ。)又は養畜の用に供しているときにおける当該設定を除く。)をし、若しくは当該特例農地等につき耕作の放棄(農地について農地法三十六条第一項の規定による勧告(当該農地が農地中間管理事業の推進に関する法律第二条第三項に規定する農地中間管理事業の事業実施地域外に所在する場合には、農業委員会その他の政令で定める者が、政令で定めるところにより、当該農地の所在地の所轄税務署長に対し、当該農地が利用意向調査に係るものであつて農地法第三十六条第一各号に該当する旨の通知をするときにおける当該通知。第十二項第二号において同じ。)があつたことをいう。同号及び第十二項第三号において同じ。)をし、又は当該取得に係るこの項本文の規定の適用を受けるこれらの権利の消滅(これらの権利に係る農地又は採草放牧地の所有権の取得に伴う消滅を除く。)があつた場合(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定があつた場合を除く。)において、当該譲渡、贈与、転用、設定若しくは耕作の放棄又は消滅(以下この条において「譲渡等」という。)があつた当該特例農地等に係る土地の面積(当該譲渡等の時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等につき譲渡等(第三十三条の四第一項に規定する収用交換等による譲渡その他政令で定める譲渡又は設定を除く。)があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)が、当該農業相続人のその時の直前におけるこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等に係る耕作又は養畜の用に供する土地(当該農業相続人が当該相続又は遺贈により取得した特例農地等のうち準農地で農地又は採草放牧地への転用がされたもの以外のものに係る土地を含む。)の面積(その時前にこの項本文の規定の適用を受ける特例農地等のうち農地又は採草放牧地につき譲渡等があつた場合には、当該譲渡等に係る土地の面積を加算した面積)の百分の二十を超えるとき その事実が生じた日
二 当該相続又は遺贈により取得をした特例農地等に係る農業経営を廃した場合 その廃止の日

以上のように本件は上記の農地等にかかる納税猶予の特例が課題となった比較的珍しい事例である。上記のように法文は、納税の猶予、最終的には納税が免除されるような非常に有利な租税特別措置である以上致し方ないものであろうが、詳細な要件が付与されているものであり、そもそも読解に苦しむ法文であるものであるが、本件で課題となるのは、対象となる農業相続人(本件では原告)が、従来農業を継続していたところ、農業法人を設立(役員は原告)し、当該農地を含む農業に関わる事業資産をすべて譲渡(出資も含む)して、もって法人が主体となって農業を継続していた(この農業が継続している点については争いはない、近年の事例では、桜の木を植えていたなどそもそも農業であるのかという点が課題となるものも存在しているが本件ではこの点は課題となっていない)当該法人には従業員等はおらず、役員たる原告が農業を実施している状況にあって、農業法人が農業収益も帰属させており(一部農地等を売却賃貸したのは錯誤があるとの主張もあるが、数年間法人の収入として申告しており、地代を受け取って個人の所得として申告している点で錯誤は認めがたいだろう)、農業相続人たる原告が農業を継続しているとは認めがたいという点が問題の中心となっている。原告が税理士事務所にかkるような農業法人が関与することが認められるのか問い合わせをしている点があるがこの点は専門家責任として課題となるのであろうが(このような長期間に渡る事後管理の必要性が近年の制度においては重要な点になっていることは認識されるべき)、本件ではこの点は課題となっていない。

農業を営む個人等)

70の4-6 措置法第70条の4第1項に規定する「農業を営む個人」とは、耕作又は養畜の行為を反復、かつ、継続的に行う個人をいう。したがって、個人が耕作若しくは養畜による生産物を自家消費に充てている場合又は会社、官庁等に勤務するなど他に職を有し若しくは他に主たる事業を有している場合であっても、その耕作又は養畜の行為を反復、かつ、継続的に行っている限り、その者は農業を営む個人に該当する。
現行法の解釈としては通達は、上記のように、農業を耕作等を反復継続している個人として理解している。農業経営という用語と農業を営む個人という用語を同意義に解しているものとして理解されるが、耕作等の実施が中心になった判断が示されているようにも理解される。法が個人と明確にしている以上、同族会社であるとはいえ、法人格をベースとした農業法人を個人として理解して実質的な継続を認めることは、民事法の解釈ならともかく、厳格な文理解釈が要求される租税法規の解釈において採用しうるのか疑問ではある。蓋し、少なくとも個人という表現をいわば拡張的に理解する本件は、このような判断は農業相続人の行為、耕作等に着目した判断をベースとするものであるだろう。しかしながら、法文が農業経営としている点を鑑みるならば、単に耕作の状況に依拠するのではなく、所得・収益の帰属もより重視されるべきではあろう。かかる点で本件では制度趣旨を反映させ(租特である以上当然であろうが)、幅広い点を考慮した判断を提示している点は合理的であろう。特に多様な状況が想定される事業などにおいては、単に農業を継続しているとした耕作等の行為に着目して判断を行うことはかえって、租税負担の回避など、課題を生むことになろう。農業や事業を継続することが中心となっている制度であるが、単なる趣味的な状況であっても制度適用がなされることは、法が結果として納税の免除を伴うようなものである以上、趣旨に反するものであり、収益の帰属など、農業を経営すること、反復継続している状況が前提となるべきであり、営利性を含むものとして理解するべきではないだろうか。


当該農地を利用して永続的に農業を継続していこうとする農業者による相続税の納付を困難とするものであり、実際に、上記原則を貫くことにより、農業を継続する意思を持ちながらも、相続税の納付のために農地を手放さざるを得ない事態も生じるようになった。農地等納税猶予制度は、このような状況を踏まえ、昭和50年1月1日以降の相続又は遺贈によって取得する農地等に対する相続税について適用 することとされた特例であって、①相続人が、相続税の申告書の提出期限 までに農業経営を開始し、その後も引き続き当該農業経営を行うと認められる者であることを要件として、その農業の用に恒久的に使用される農地等に対する相続税額のうち、その農地等の恒久的な農地等としての価格(農業投資価格)を超える部分(いわば宅地期待益部分ともいうべき価額部分)に対する相続税の納税を猶予するとともに、②当該農地等につき、次の相続若しくは農業後継者に対する生前一括贈与又は相続税の申告書の提出期限から20年間の経過があって、それまでの間、農地等納税猶予の適用を受けていた場合は、その猶予されていた相続税の納税を免除する
の農地等納税猶予制度の趣旨や、同号の規定の「農業経営」という文言に照らせば、農業相続人が農業経営を廃止したか否かは、農地の使用状況、耕作作業の管理・態様、生産物の販売状況、生産物の売上げの帰属状況等を総合的に考慮して、農業相続人の事業としての農業経営を廃止したと評価することができるか否かによって判断すべき」

なお、本件のような同族会社を活用した、いわば法人成りのような行為は、特段珍しいものではないが、これを活用した租税回避が従来問題とされながらも、同族会社の行為計算否認のような特別な規定を要求している現状は法が法人格を有する法人と自然人を明確に分けていることの証左であり、よくこのような法人の濫用的な活用は避難されるが、本件はいわば逆に、法人格を活用しながらも実質的に個人としての継続を求める(実質的には個人)主張であるが、いずれにしても法人と個人は厳格に峻別されることになることは留意されるべきであろう。すなわち、詳細な事実認定と総合的な判断を行っているが現実的に法人の役員従業員としての耕作等の継続を個人の継続として判断することは困難であろうと判断すべきである。

以上、毎度のごとく備忘録として作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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