さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年11月14日裁決で、法人の役員であった代表者の妻が使用した宝石や服飾品の購入(金額は二年で合計4億円、金額的には特殊な事例として捉えられるかもしれない)が法人の交際費や棚卸資産には該当せず、役員に対する給与の支給であるとして、源泉徴収、法人税法等の更正処分が行われた事例です。
具体的に本件は、請求人法人の代表者の妻であり、請求人の役員であった者が使用した経費支出に対して、当該支出が、二年合計で総額約4億円を超過し、服飾品(エルメスなどのブランド品)や宝石等を購入していた場合において、かかる支出は個人的な費消であり、法人の交際費や貸付けではなく、役員に対する経済的利益の供与であり、もってかかる認定の相違による源泉徴収や法人税の更正処分の是非が争われた事例である。通常は役員たる地位にある者が役員の地位を活用し、自らに帰属するような支出を行った場合は、職務に反するものであり、会社法上の問題であるようにも考えられるが、現実的には、我が国の同族会社が多数を占めるような状況ではかかる点は問題とされることは稀であろうが、本件は上記のように金額も多額であり、調査により指摘された当該支出を後の修正申告において、当該役員に対する貸付けとして処理するなどしている場合でもあり、かかるような支出が如何なるものとして処理されるべきであるのかという点が問題となっているものである。
実際のところ、本件のように、所有と経営の分離が図られていないような法人は、多数存在しており、企業の損金として妥当であるのか疑問であるような経費の支出は実務上は特段珍しいものではないのであろうが(近年は減少しているだろうか、実務家に聞いてみたいところ)、かかるような経費支出において如何なるものを損金として認容することになるのか、多額の経費支出であることが起点となっているものであろうが、このような境界上にある支出に対して如何なる対応を取るべきであるのか、どのような処理を行うことになるのか、消費税負担への影響も含め、実務に携わる者としてはティーチングケースとして参考とすべき事例ではないだろうか。
(給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
交際費等の損金不算入)租税特別措置法
第六十一条の四 法人が平成二十六年四月一日から平成三十二年三月三十一日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額のうち接待飲食費の額の百分の五十に相当する金額を超える部分の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
4 第一項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」という。)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいい、第一項に規定する接待飲食費とは、同項の交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用(専ら当該法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。第二号において「飲食費」という。)であつて、その旨につき財務省令で定めるところにより明らかにされているものをいう。
一 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
二 飲食費であつて、その支出する金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額が政令で定める金額以下の費用
三 前二号に掲げる費用のほか政令で定める費用
以上のように本件は、法人の役員たる者がなした服飾品や宝石等の購入が、法人の交際費や棚卸商品(この点は、法人の業務とは異なるということで否定されている)としての購入、経費支出ではなく、個人的費消であり、もって役員に対する給与に該当するのかという点が問題となっている。基本的には係る支出の事実関係の認定、当てはめが問題となっている事例であり、特段法令解釈上、従前と整合的なものと考えられる。我が国の実務においては、かかるような法人の役員たる者が公私混同として経費を支出するような事例が多数見られ、租税法務においても、かかるような支出を如何にして租税負担に反映させるべきであるのかという点が争われた来たものであり、本件もかかる点において従来と同様の類型にあるものと評価される。本来ならば、租税法の適用の問題というよりも、ガバナンスの問題であり、上記のように、同族会社が多数を占めるような現況においては実質的には問題とされておらず、金額の大小は相違するもののかかるような費用支出は広範囲に存在しており、当該支出の損金計上を如何にして対応すべきであるのかという点が課題となるものであり、実際においては、下記のように、給与所得としての該当(まず所得税法の給与と法人の給与との整合的であるのかという点は言及されるべきであろうが、法人税法上は役員給与としての該当が問題になるのであろう)、をもって、経済的利益の供与という点をもって役員に対する給与という対応策が一般的であろう。判断においても以下のように、所得税法の給与概念から、役員に対する給与として認定する判断を前提としている。如何なる場合において給与から除外されるのか、かかるような推認の根拠は如何なるものであるのか、というような疑問は存在するものの、給与という認定を所与の前提としている。
所得税法第28条第1項に規定する給与所得は、自己の計算又は危険において独立して行われる業務等から生ずるものではなく、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいい、その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的利益も含まれると解される。
法人の役員は、役務提供の内容が極めて包括的かつ広範で法人の業務全般に及び、役員に就任していること自体(地位)によって法人に貢献することもその役務提供の一つに含まれ得るものであり、法人の役員が、実質的にの法人資産を自由に処分し得る地位及び権限を有している場合において、当該役員がその意思に基づき、経理上、給与等の外形によらず、法人から利益を得たようなときには、その利益は、当該役員の地位及び権限と無関係に取得したと見ることは相当ではなく、特段の事情がない限り、当該役員の地位及び権限に基づいて当該法人から当該役員に移転したものと推認することができ、給与等に該当すると解するのが相当である。
しかしながら、本件でも主張されているように、かかるような経費支出は、法人の交際費としての金額との対比が問題とされる。本件では、金額も多額であり、また、交際費として贈答に関する立証が不充分であり、もって交際費と給与との間で問題は少ないものと捉えられるが、この区分が課題となるものであろう。基礎なるべき法令解釈としては、単なる一般的な給与にとどまらず、類似の経済的利益の給付をも対象として給与と捉える給与概念と、交際費への立法趣旨にも依拠しているが、幅広くその適用を及ぼし、もって冗費等の抑制を図るべき交際費概念においても幅広い判断枠組みによる実質的な認定が許容されている点が、本件の基礎にあり、両者は目的も相違するものの、判断枠組みとしては、雇用や役員としての起点及び経済的利益の享受等を基礎とする給与概念と、支出の目的を判断の枠組みの中心とする交際費としては、両者は必ずしも明確に判断されるものではなく、両者が交錯する部分において如何にして分類を行うことになるのかその基準が問題となろう。特に役員は経営を委任されており、一般的な被雇用者とは異なり、職務内容において多様な行為が想定され(経営という行為を明確に規定できるものでないだろう)、行為やその背景にある目的が多様である以上、少なくとも役員に対する給与と交際費においては、明示的に職務内容と支出意図の観点からの分類は困難ではないだろうか。
本件判断でも、経済的利益の供与(受領)という点に焦点が当てられており、もちろん、贈答等の立証が請求人において不充分であることも影響しているのであろうが、租税法規においては、その処分においては法による根拠を必要とされることは、租税法規の基本的な要請であり、本件においても広範囲をカバーする給与概念への適用が図られている。いわば経済的利益の存在(享受)に対して焦点が当てられており、多様な状況が想定される支出の目的に依拠するのではなく、単なる個人的費消や実質的な費用性の欠如が問題とされているのではない。法人の行為や役員の多様な職務内容・目的との対比においては、私的な利用等を認定することは困難であって、判断に恣意が介在することは回避し難く、租税法規の基本的な要請として安定性に欠けるものと考えられる。かかる点において経済的利益の享受を基本的なメルクマールとしている点は本件の特徴として強調されてよいのではないだろうか。
また、本件では、請求人の主張として、役員としての給与の支給に関して、法人としての認容を要件とする主張も含まれているが、かかる点は、従前との解釈との対応において整合性が欠けるためであろうか、解釈として否定されている。
以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。
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