さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年5月14日裁決で、所得税法における実質所得者課税の原則の適用が問題となった事例です。
具体的には本件は請求人が代表者となっている医療法人が、請求人の家族(妻及び息子)に対して支払った金員(給与や、業務委託、賃料等)につき、支払われた金員の受領先である口座の管理状況等から所得税法12条に定める実質所得者課税の原則の適用により、請求人の所得として課税されるべきものであるのか否かという点が課題となった事例です。起点となった事実関係として、請求人の離婚訴訟(和解も含む)において、かかる家族名義の支払につき、名義同様に、当該口座の管理等の状況を移転し、もって実質と名義を整合させるような状況が、各種金員の支払後に発生しており、かかるような事実関係の反映も含め請求人は実質的な所得としての課税関係は有していないものとして主張しているものである。
下記のように、所得税法は、法的な帰属・名義にかかわらず、実際の収益の享受の状況をもって課税対象として所得税法を適用することを明文をもって定めている。この実質所得者課税の原則(これが実質課税の原則として適用根拠とされていた時代もあるものであるが、法文において明確なようにあくまでもその適用対象は名義関係と実質的な収益の帰属関係との整合性を図るべき規定である)、その適用において、法律上の名義と実質的な収益の享受している者との整合性を図るべく、法的な名義を超えて、かかる所得税法の適用を図るものであり、所得者という所得税の基礎的な対象を確定する趣旨であり、所得税負担を大幅に、特に負担者を確定する規定であり、如何なる者がその適用対象となって当該租税負担を行うべきであるのかを決定するものとして、非常に影響が大きい規定として、評価されるべきであり、如何なる適用要件をもってその帰属関係を画するものであるのかという点は重要な点である。しかるにその適用枠組みを如何にして解するべきであるのかという点が従前課題とされてきているものである。
(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
以上のように、法は、所得者として所得者を決定するにおいて、収益の享受というという事実関係に基づいている。また、下記のように、資産から享受する者に対してもまずは資産の名義人を基礎として推定するとしている。各種の資産類型等もあり、如何なるものをその収益の享受とするものであるのか、という点は、多様な状況が想定されうるものであるが、また名義を否定し、実質的な状況を課税関係に反映させることがその基本的な目的である以上、当該規定の適用においては、個々の事実関係に左右されることも多く、その適用において高い予見可能性が確保されているとは評価しがたいものであろう。そもそも、収益の享受とはいかなる状況を意味するものであるのかという点も必ずしも定かではなく、個々の事実関係に左右されている現況にあるものであり、法令解釈上も、かかるような一般的な所得帰属関係を律する規定の適用が安定的であるとは評価しがたいものと考えられる。従って、本件のように、複数の財産(給与に限らず、賃料等が対象)がその適用対象となっており、従前のように圧倒的に給与等の支払における所得者課税の原則からより多様な対象を適用対象として争っており、また最終的な判断においても、給与支給の状況においては、その実質的な所得者としての位置づけを認める判断を下しながらも、賃料等の適用において課税庁の主張を排斥している点においても、家族間の所得の分散が図られている事例は、数多く存しているであろうし、その具体的な判断枠組みを検討する上で、本件は参考となる事例であるように捉えられる。
資産から生ずる収益を享受する者の判定)
12-1 法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する。
以上のように、本件の中心的な争点は、本件における事実関係において、実質的な所得者課税の原則の適用により、請求人に対して家族名義で支払われた金員の帰属関係を法的な名義をこえ、課税対象として理解されることになるのかという点が問題となっている。まずは法令の解釈としては文言として、その収益の享受としており、実際に受け取った収益の消費や活用を含んでいるものとして理解することができるのか否かという点も課題となるだろう。上記通達においても、享受と言う文言から収益の起因となる権利者を基礎とした判断を行っており、依拠すべき対象を収益の受け取りに基礎をおいているように解されるべきであろう。
しかしながら、判断においては、事実関係を実質的に評価するにあたって、資金の管理状況を基礎としている。通帳の管理状況のみならず、出金状況を判定している。また、金員の支払の根拠となった、雇用契約の存在(役員としての契約も含む)、賃料支払や委託業務の存在しているのか否か、不存在を、判断の基礎においていることがその特徴として指摘されよう。いわば、法的な支払根拠の有無から判断して、かかる点が欠けるような場合において、資金の管理状況が問題として、請求人に対する所得であるのか否かを判断している。但し、判断では、当該金員の請求人に対する帰属をすべて認めているのではなく、名義が異なっており、その金員の起因となった不動産の賃料の支払い(家族名義不動産)に関しては、不動産の初有名義(登記等)を覆す状況にはなく、課税庁の主張が退けられている(同様に年金保険の契約支給も含む)。このように判断の基礎となる財産類型においてもその対応が分かれるものであり、その事実関係の評価が異なっていることは留意されるべきであろう。法的な名義を覆し、実質的な所得の帰属関係を確定させることは、実質的な所得者課税の原則として法文をもって明記されているとしても、相応の根拠が要求されるべきものであり、支払われた当該金員の管理状況のみの観点からのみでは、判断が困難であることもすなわち、資産の所有経緯等のその他資産類型に応じた状況もまた考慮されるべきものであるという点は参考とされるべきであろう。しかるに収益の享受という文言はの解釈として、収益の起点や管理なども考慮した総合的な判断を要求するべきものとして理解されるものと考えられる。
以上です。
毎度のごとく、論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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