2019年4月15日月曜日

判例裁決紹介(平成30年3月29日裁決、相続税申告における更正の予知)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30329日裁決で、相続税申告における相続開始直前における預金引き出しとそれに伴う申告漏れが意図的であり、重加算税の適用対象となるのか否か、そして、調査官による事前通知、日程調整による電話確認によって修正申告が更正の予知があって行われたものであるのかという点が争点となっている事例です。

具体的には、複数の相続人(これらがすべて請求人)いる場合において、その一人が相続開始直税において、被相続人の預金口座から資金(約1000万)を引き出し自己名義等の口座に入金していた事例において、調査官による事前通知後、修正申告を行った場合、かかるような行為が、財産申告漏れに関する仮想隠蔽を図ったものであるとして、重加算税の賦課対象となるべきか否か、及び、事前通知の後に修正申告を行っているものであるが、事前通知後の日程調整の確認電話において、調査官が行った修正金額の確認によって当該修正申告が更正を予知した結果行われたものであるのか否かという点が主たる争点となっている事例である。他にも広大地評価の適用も問題となっている。

事実関係としては、実地調査に関する事前通知の前に、調査官においては内部調査を行い、口座による引き出し、財産申告漏れを把握していた状況であり、また、遺産分割協議では、特段かかる引き出し額は問題とされていなかったような状況であり、また申告を代理する税理士も、預金の残高証明のみを求め、預金の出納状況をチェックしていなかった(この点は重加算税における賦課決定の回避が図られた要因の一つと捉えられる)ような事実関係にある。最終的な判断としては、課税庁の主張を排斥し、いずれも納税者の主張を認め、過少申告加算税及び重加算税の賦課を排斥している点において、本件は珍しい事例であり、実務的にも参考となるべき事例であるように捉えられる。民法の改正により変更の可能性は高いが、被相続人の口座が相続開始によってクローズされることは従来から相続実務においては、特段珍しいものではなく、請求人の行為もおおいに想定される事例であろう。実務においては、口座等の資産の動きを把握することは当然の行為でもあろうが(おそらく)、かかる行為の不備により(本件では上記のように、税理士は確認していない)、申告漏れや重加算税の可能性が発生することは、留意されるべきものとして認識されるだろう。また、本件においては最終的に相続人のうち、一人の行為が問題とされたものである(結果としては問題が少ないものと評価されたものの)が、必ずしも相続人の一人が誠実であるとは限らず、背信的な意思を有している場合もあろう。このように複数の相続人が存在する単独の納税者の行為は、他の相続人にも影響を及ぼすものであり、相続人間の問題であるのかもしれないが、相続税の負担を巡っては、連帯納付も含め、相続人全てにおいて影響を及ぼすものであり、かかる点の認識も相続税実務においては認識されるべきものではないだろうか(必ずしも相続人の行為が相互に把握されているわけではないであろう)。

(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
 (最新法令)本件のおける時点では平成28年改正前
5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合においてその申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

以上のように本件の中心的な争点は、申告漏れの発生した財産額に対して、事前通知の後行われた修正申告につき、更正が行われることが予知されるべきものであったか否かという点が問題となっている事例である。かかる予知の認定は、上記のように、過少申告加算税の賦課を回避する要件であり、その充足は如何なるものとして判断されるべきものであるのかという点は従来より課題とされている点であろう。本件もその類型に属するものであり、近年は国税通則法の改正により、実地の調査における前提として事前通知が義務化されたこともあり、かかる点における影響として予知における認定においてどのような変化が発生しているのかという点は検討課題となるのではないだろうか。

「過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を課することによって、当初から適正に申告した納税者との間の客観的不公平の 実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置 である。一方、通則法第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」は、過少申告加算税を賦課しない旨規定しているところ、これは 、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対して は例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。 上記の通則法第65条第5項の趣旨からすると、修正申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正が あるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かの判断に当 たっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。」

本件判断では、上記のように過少申告加算税の趣旨及び、予知の趣旨目的から、調査の内容等を総合判断して、予知の認定を行っている。かかる点は、従前と整合的なものであろうが、事前通知や日程調整などのため電話連絡を行っている際に出た修正申告の申し込みに対して修正額を調査官が問うた行為が予知を促すものであったのかという点が問題となっている。納税者側の事情というよりは課税庁の行為と納税者の内心に関するものの対応を検討するものであり、認定は困難が予想されるものである。ただでさえ、予知とは納税者の内心を起点とした概念であり、その判断を行うことは外形的な事情によることは安定性を確保することは困難なものであろう。予知をどの程度行っているべきであるのか、具体的な更正項目を予知している必要があるのか等、具体的な予知の判断枠組みは検討課題となるのではないだろうか。事実関係としても最終的には上記のように、課税庁の調査官の電話応答での質問は、金額の確認行為であり、具体的に更正を予知させるものではないとの認定を行っている点は、参考となるのではないかと捉えられる。

事前通知が法定化され、従前と異なる予知の解釈が整理されることもあり得ようが、本件のように旧法の状況においては、事前通知と予知の関係はどのように考えられるべきであるのか、例えば必要性が開示される事前通知(この程度も千差万別であるだろうが)であれば一定程度予知が成立する予知があるのではないかとも考えることもできよう。かかる点において立法において、現行法においては上記のように予知に加えて、事前通知の未了が要件とされることにより、予知と事前通知の関係に関しては、整理が行われている。このように考えるならば、今後は、幅のある予知の規定を活用して、一定のリスクある申告項目もとりあえず蓋をして、申告しておき、修正申告において予知がないということで過少申告加算税を回避するような行為は困難になるであろうし、事前通知以外において予知していない状況とはどのような状況であるのか、少なくとも従前と比して限定的な状況になるのではないだろうか。


重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。


「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのも のが隠ぺい仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別 に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。」


また本件のもう一つの論点である仮想隠蔽の成立であるが、この点もその認定が覆っっている主たる要因は、申告代理人である税理士が預金の出納を確認していない点と、実際に係る金銭が病院費用や葬儀費用にほとんど費消されており、申告財産からの排除を意図していないとの認定である。上記のように、申告行為そのものとその背景にある行為の側面から背信的行為を行っているのかという点の認定を行い、仮想隠蔽の成立を否定している。判断枠組みは特段珍しいものではないが、課税庁の主張を覆すものであり、このような財産の申告漏れにおいて重加算税の賦課を判断する上で、参考となるのではないだろうか。

以上です。 毎度のごとくstockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

0 件のコメント:

コメントを投稿