2019年3月23日土曜日

判例裁決紹介(平成30年1月30日裁決、相続税申告における財産一覧表からの記載漏れと仮想隠蔽)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年1月30日裁決で、納税者が税理士に交付した財産一覧表に記載漏れがあり、かかる行為に基づく相続税申告において仮想隠蔽の成立による重加算税の賦課が課題となった事例です。

具体的には本件は相続人たる請求人が相続税の申告において、税理士に依頼して申告を行った(期限後申告であるが)ところ、その申告の基礎資料となった財産一覧表において(一部預金残高証明書との不整合があり、税理士において修正)、保険契約に伴う受領金の記載漏れがあり、係る資料に基づく、相続税申告において未申告があることが調査によって判明し、かかる納税者の行為が仮想隠蔽に該当するとして下記のように国税通則法に定めのある重加算税の賦課決定処分が行われたことを不服として、その取消を求めた事案である。すなわち請求人たる納税者の行為が重加算税の賦課決定要件を充足する仮想隠蔽に該当すると評価されうるのか否かという点が問題になっているものである。

相続税の申告においては、その起点として最も重要な相続財産の把握であるが、実務においても多様な工夫が取られているものであろう。不相続人と相続人において事前に調整されていることや意思疎通があること、財産内容の開示、保証や各種年金、保険等の契約に関する情報が網羅的に把握されていることは基本的に稀であるだろうし、専門知識を有していないことから財産の把握に支障が発生することは言うまでもないことであろう。この点は実務家のみなさんが租税の専門家として、依頼を受けるにあたり、どのように工夫されているのか、興味深い点である。最近は相続税専門の事務所も出てきているが(個人的には租税の専門家としては長期間に渡り、家族等に関与して信用を基礎として相続税や財産関係の整理に関与すべきものと考えており、スポット的に関与する節税思考が基礎に来るような取扱は困難であるような気もしますが)本件のような、財産の一覧表を作ってくるようなケースはどのように扱うことになるのであろうか。長期間に渡る関係性を基礎としているわけではないような状況下では、網羅的な財産の把握は困難であり、納税者において意図的であるのか否かを問わず、財産の漏れは発生しうるものであり(保険などは通常は民事法においては相続対象の資産ではないが)、かかる点に対してどのように対処するのか、あるいはその漏れにおいてどのような不利益が発生することになるのかという点を検討する上で本件は参考となるべき事例と評価されよう。最終的に本件は、課税庁が主張している仮想隠蔽の成立が認められず、納税者が行った財産一覧表における保険契約等の財産漏れが仮想隠蔽には該当しないという判断が行われており、いかなる点がかかる判断の基礎になっているのかという点を理解する上でも有益な事例であるように考えられる。

国税通則法68条2項
2 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第七項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

以上のように、本件の中心的な争点は上記国税通則法に定める重加算税の要件たる仮想隠蔽の成立につき、納税者たる請求人が行った行為、依頼した税理士に交付した財産一覧表における相続財産の漏れが、該当するのか否かという点であり、本件では最終的に納税者の主張を認め、課税庁が主張する仮想隠蔽の判断を否定しているものである。

通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、「仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。

上記のように、判断では仮想隠蔽の法令解釈として、故意による課税標準等に対する行為であることを要するものとして理解している。本件ではかかる故意の成立の立証が行われるか否かという点が、中心的な立証の課題となっている。国税庁が公表する事務運営指針においては、より具体的に下記のように、納税者の行為が評価しうるものであるのかという点が基礎とされているが、本件ではかかる点はあまり強調されていない。財産の一覧表において、記載漏れがあったことは、納税者自身も認めており、作成段階におけるミス等によるものとして、故意によるものであることを事実上否定しており、下記のように、事務運営指針における事実関係の問題というよりは、上記のように行為の起点となるべき納税者の行為として内心に関する故意の成立が課題となっているものとして本件は判断の枠組みが形成されている点が本件の特徴と言えよう。


事務運営指針
1 相続税関係
(1) 相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」という。)が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしていること。
(2) 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること。
(3) 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。
(4) 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。
(5) 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。
具体的な財産の漏れは、保険契約に基づく受領金の漏れ(一部)であり、かかる保険契約は請求人自らが請求して請求人本人の日常的な口座に対して入金されているものであり、一部は計上してあったものの、一部保険契約に関する部分につき、漏れが存している状況であり、すべての保険契約が漏れているのではなく、一部の契約の漏れがどのように評価されるのかという点が本件の課題となっているものと考えられる。

判断の検討においては、まずは、当該保険契約による受領金が、日常的な口座への入金であり失念しやすい相続財産ではないとの評価を行っている。いささか感覚的な表現であり、如何なるものと比して失念しがたいものであるのかという点は定かとはいい難いが、このような失念しがたいものであルトの評価を起点とした上で、いかなる理由で、故意の成立を認めないものであるのかという理由付けが問題となろう。

次なる検討においては、この漏れに関する金員を受領した口座は上記のように納税者たる請求人の日常的に利用している口座であり、他の保険金の受領とともに、通常、相続税の調査において調査されることが明らかな口座であり、かかる点によって、調査によって容易にこの漏れが把握されうる状況にあることが評価されている。かかる点が本件における故意の成立として評価し難いとされて基礎的な部分であり、いわば、漏れることとなった財産の性質及び仮想隠蔽等による財産の漏れが仮に発生したとしても、調査対象として把握されうるものであるのか否かという点(把握の容易さ)が比較衡量されることにより、故意の成立が評価されている点が本件における枠組みとして特徴点であると指摘できよう。もちろん、調査が入った段階での納税者の協力的な態度が加味されている(調査において、持参した資料を特にためらうことなく提示するなど)ことは言うまでもないことであるかもしれないが(この協力的な態度が処分行政庁と審判所において評価が異なっている点は興味深い点であるが)、このような判断の対比が本件において、課税庁の主張を排し、納税者の主張を受け入れた理由となろう。故意の成立という点において、いささか定性的な判断であり、内心に対する判断、評価であるゆえに、当然であるかもしれないが、従ってかかる点において重加算税という非常に厳しいサンクションとしての機能を鑑みるに如何にしてその適用の判断枠組みにつき一般性をいかなる部分から導出することになるのかという点は課題であろう。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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