さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は確定申告の時期でもあり、住宅借入金等特別控除の事例です。平成29年10月11日裁決で、消費税負担のない住宅の個人間売買における住宅借入金等特別控除における特定取得の該当性が問題となった事例です。住宅借入金等特別控除における負担した消費税の項目はどのように理解しているのかという点が背景にある事例です。
具体的には、個人たる請求人が居住用財産を購入し、住宅を取得したとして、住宅借入金等特別控除を適用を行った確定申告を行い、係る申告にいて、当該取得を租税特別措置法41条における特定取得に該当するとして、申告したところ、課税庁が当該取得は特定取得に該当するものではないとして、住宅借入金等特別控除における借入金の適用上限金額を否認したことから、その取消を求めたものである。判断としては課税庁の主張を認容し、請求人の主張を退け特定取得該当性を否定している。
確定申告の時期でもあり、かかる作業の中心的な存在でもある、住宅借入金等特別控除であるが、意外とその適用をめぐり事例は少なく、法令解釈上の論点が少ない条文とされているものであるが(租税特別措置であり公平性等の問題はあろうが)、本件はその例外的な事例であり、特定取得ということで、耳慣れない表現であるかもしれないが、最近は殆どがこの特定取得に該当するものになっているはずであり、その具体的な意義を検討する上で参考となるものと言えよう。租税特別措置法における規定でもあり、一般性があるものとは言い難いとの評価もあろうが、当該制度は利用頻度が高いものであり、かかる点からも参考となるべき事例と考えられる。また、本件の起点となっている特定取得は、その制度趣旨(最終的な法令解釈もかかる点に依拠している)である、消費税の税率上昇を機とした景気への悪影響を除外することを意図した制度であることから、今後の増税においても同様の制度が予定されており、このような側面においても有益性があるものと評価される。あくまでも本件は所得税に関する租税特別措置法の解釈に関する事例であるが、その基礎には、消費税法改正の影響が鑑みられるものであり、横断的な判断が検討が必要な事例とも捉えられる。
(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)
第四十一条
3 前項に規定する借入限度額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 居住年が平成十二年から平成十六年までの各年、平成二十一年又は平成二十二年である場合 五千万円
二 居住年が平成十七年、平成二十三年又は平成二十六年から平成三十三年までの各年である場合(居住年が平成二十六年から平成三十三年までの各年である場合には、その居住に係る住宅の取得等が特定取得に該当するものであるときに限る。) 四千万円
三 居住年が平成十八年又は平成二十四年である場合 三千万円
四 居住年が平成十九年である場合 二千五百万円
五 居住年が平成二十年又は平成二十五年から平成三十三年までの各年である場合(居住年が平成二十六年から平成三十三年までの各年である場合には、その居住に係る住宅の取得等が特定取得に該当するもの以外のものであるときに限る。) 二千万円
5 第三項に規定する特定取得とは、個人の住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額が、当該住宅の取得等に係る消費税法第二条第一項第九号に規定する課税資産の譲渡等(第四十一条の三の二第十八項、第四十一条の十九の二第二項第一号、第四十一条の十九の三第二項第一号及び第四項第一号イ並びに第四十一条の十九の四第二項第一号において「課税資産の譲渡等」という。)につき社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)第二条又は第三条の規定による改正後の消費税法(第四十一条の三の二第十八項、第四十一条の十九の二第二項第一号、第四十一条の十九の三第二項第一号及び第四項第一号イ並びに第四十一条の十九の四第二項第一号において「新消費税法」という。)第二十九条に規定する税率により課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額の合計額に相当する額である場合における当該住宅の取得等をいう。
以上のように、本件の中心的な争点は、請求人が個人の居住用財産として取得した住宅に関する住宅借入金等特別控除の適用を巡って、その要件たる特定取得に該当するのか否かが問題になっているものである。かかる取得の該当如何によっては、住宅借入金等特別控除の適用の対象となる借入金の限度額が異なる結果となり、税額控除の金額に直接的に影響を及ぼすものである。この特定取得は、そもそもとして、消費税法の改正に伴う、税率の上昇を契機として消費活動や景気への影響を除去すべく設けられた制度であり、控除対象の金額において、消費税法の改正による増税の影響を拝すべく、限度額が定められているものである。その定義としては、上記のように、租税特別措置法41条の5項において、
個人の住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額となるような取得を対象とすることを要件としている。ここで問題となったのが、その取引における消費税の計算である。本件では、当該住宅の取得取引は、個人間の売買であり、必然的に消費税の負担は発生しておらず、仲介手数料として不動産業者に支払った金額にのみ上記増税された消費税負担が発生しているものとなる点が問題を発生させることになる。
法は上記のように、その適用において、
対価の額又は費用
として、「又は」で結んで取得に関する要件を整理している。仲介手数料は住宅の対価ではなく、付随費用と捉えられるべきものであり、取得の対価に該当しないものと解されるが(この点につき、付随費用として取得の対価とする見解もあり得ようが)、又は以下における費用に該当するものに関しては、新消費税の適用を受けており、もって特定取得に該当するということが請求人の主張となる。文言においては、又は費用として付随費用部分を、対価と並列的に規定しているように理解することは特段、違和感がないものであろう。請求人の主張もかかる点を捉え、法の要請として、対価又は付随費用のいずれかにその新消費税の負担が発生していることで特定取得は足りるものとしている理解が基礎にあるものである。しかしながら判断の解釈は、
特定取得とは、①居住用家屋の新築若しくは既存住宅の取得に係る対価の額
又は
②増改築等に係る費用の額に含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課され
るべき消費税額等の合計額に相当する額である場合における住宅の取得等であると解す
るのが相当
るべき消費税額等の合計額に相当する額である場合における住宅の取得等であると解す
るのが相当
として、取得等の内容を分類し、純粋な取得と、住宅借入金等特別控除の対象たる増改築等に分けて捉えることで、その適用対象における、上記文言の費用部分を解している。これにより、取得における仲介手数料のような対価に含まれない部分における消費税負担では、特定取得には該当しない、すなわち、特定取得の判断のメルクマールはあくまでも対価の額であり、付随的な費用は関連を有しないものとしていることになる。かかる解釈は、通常の文言を見れば、容易に理解できるものとはいい難いものであろう(かかる点において納税者の主張は理解できよう)。当該解釈の根拠はこの特定取得の立法趣旨であり、制度趣旨として親消費税の影響を除去することにあることから、対価に含まれる消費税の負担が問題であり、対価に含まれないものまでもその適用対象とはしないものとする理解が導かれていることになる。上記のような趣旨に基づく解釈は、租税法規の基本的な要請と整合的であるのかという点では疑問が指摘される可能性はある。そもそも我が国の租税法規においては、原則から逸脱することは限定されるべきものであることが強く主張され、このように趣旨が考慮されることは比較的珍しいものと評価される。しかるに、租税法規における趣旨が必ずしも明確ではないこともまた多いものであるが、本件のように裁決であるが制度趣旨を明らかとし(本法ではなく、租税特別措置法における制度であることが趣旨の特定につながったものであろう)、適用要件を分類整理してその適用を明らかとしている事例として、参考となるべき事例と考えられる。所得税の確定申告においては、この住宅借入金等特別控除の申請において、記入欄に消費税の計算に関する項目欄(実務においてはその具体的な意義を考えているだろうか・・・多分そんな暇はないと言われそうだが)があるが、かかるような消費税と所得税の関連をその制度背景として有していることは理解されるべきであろうし、本件のような問題の発生は専門家としてより留意されるべきものと考えられる。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。
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