2018年12月28日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年1月16日、課税庁の誤指導による所得の発生と留保金課税の適用)



さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、東京地判平成30年1月16日で、課税庁の誤指導により計上した所得の過大計上が修正されることにより発生した追加所得によって、特定同族会社に対する留保金課税の適用が行われたことを不服としてその取消を求めるものです。

具体的には、原告が課税庁の誤指導により(最終的には判決においてはこの部分の是非については、検討がなく、実質的な指導の誤りがあったことが認定されているわけではない、ただし8年以上当該指導による処理が継続していたものであり立証が困難であったものとも捉えれる)、本来ならば非課税であるべき売上を課税対象として仮受消費税を計上し、もって当該仮受消費税相当額の売上原価に関しても計上しており、すなわち、消費税の過大納付及び売上原価の過少計上が伴うことにより、消費税の還付及び所得の増額更正が行われることが必要となるべきものであるが、本件は、このような事実関係において、当該所得の修正をもって特定同族会社乃留保金課税の適用を受けることとなった原告(消費税の還付が合計一億円以上、留保金課税の適用は4億円以上)が、かかるようなペナルティ的に適用を受けるようなことは留保金課税の趣旨に反するものであり、また、当該誤納付により、原告の手許には存在しない金額が所得として捉えられる事になり、コントールの及ばない要因によって所得の増加と留保金課税の適用を受けることは、適正な手続の保障を欠くものとして当該処分の取消しを求めたものである。具体的争い方としては、当該過年度の損益の修正は遡及的に過去の所得を修正するものではなく、判明した年度の一時の所得として取扱うべきものとして所得の修正を否定し、また留保という文言から認識し得ない所得を対象としないものとして争っている(電気量の過大徴収を背景とした過年度の損益修正のタイミングをら争った事例を基礎として)。最終的には判示は、その適用を肯定し、原告の主張を否定しているものであるが、そもそも留保金課税はその適用事例が近年は減少傾向にあり(特定同族会社制度が導入以後はその適用は大幅に減少している)留保金課税の趣旨や、その適用要件に関する判示は貴重であり、かかる点において参考となるべき事例であると評価される。他の争点としては修正申告により訴えの利益の存在の課題も争点とされている。

(特定同族会社の特別税率)
第六十七条 内国法人である特定同族会社(被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となつた株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの(資本金の額又は出資金の額が一億円以下であるものにあつては、前条第六項第二号から第五号までに掲げるものに限る。)をいい、清算中のものを除く。以下この条において同じ。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、前条第一項又は第二項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額を次の各号に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に当該各号に定める割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。
一 年三千万円以下の金額 百分の十
二 年三千万円を超え、年一億円以下の金額 百分の十五
三 年一億円を超える金額 百分の二十
2 前項に規定する被支配会社とは、会社(投資法人を含む。以下この項及び第八項において同じ。)の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。
3 第一項に規定する留保金額とは、所得等の金額(第一号から第六号までに掲げる金額の合計額から第七号に掲げる金額を減算した金額をいう。第五項において同じ。)のうち留保した金額から、当該事業年度の所得の金額につき前条第一項又は第二項の規定により計算した法人税の額(次条から第七十条の二まで(税額控除)の規定により控除する金額がある場合には、当該金額を控除した金額)及び当該事業年度の地方法人税法第九条第二項(課税標準)に規定する課税標準法人税額(同法第六条第一号(基準法人税額)に定める基準法人税額に係るものに限る。)につき同法第三章(税額の計算)(第十一条(特定同族会社等の特別税率の適用がある場合の地方法人税の額)を除く。)の規定により計算した地方法人税の額並びに当該法人税の額に係る地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税を含む。の額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額をいう。
以上のように、本件の中心的な争点は、課税庁の過誤により発生した所得の修正がもって留保金課税の適用対象となるのか否かという点であろう。もう一つ、過年度の所得の修正が損益の修正として如何なるタイミングにおいて対応されるべきであるのかという点も興味深い論点であるが、そもそも、電力会社の過誤徴収とは異なり、課税庁の誤指導が起点となっているものとして原告は主張しており、この点は特段の争点となっていないものであって、具体的にどのような状況にあったものであるのかという点は本件事例では明示的でなく(黒塗りとされている)、かかる所以において、その適否において検討を行うことは困難であろう(この修正において、所得が修正されなければ、留保金課税の適用は発生しないものであるが。しかしながら判示でも示されているように、消費税は税抜処理を行っており、この修正を行ったとしても基本的に損益は発生せず、益金の計上は発生しないものであり、修正の対象は売上原価部分の過少計上であって、この性格(売上原価が法人税法は必ずしも如何なる性質かという点は、定かではないものとも言えようが、)に照らして、計上のタイミングは操作性を持つべきものではなく、前期損益修正として対応することは困難であろう(起点が消費税の還付であるとはいえ、これを益金として、それに対応するものとして理解することは困難であろう)。

判示においては、その留保金課税の趣旨としては、下記のように判示し、

留保金課税の規定の趣旨は、会社の支配者が少数のものに占められている同族会社においては、配当を行うかどうかは当該法人の意のままであり、配当が行われないと、個人株主の受ける配当等について累進税率による所得税の課税がなし得ないことになるから、その代替的課税として、同族会社の留保金額に対して課税することであり、また、同族会社においては、利益を内部に留保して、株主の所得税を回避する傾向があることから、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るため、特定同族会社に対して、通常の法人税のほかその利益の内部留保に対して特別の法人税を課すことにある。

として、その趣旨を個人と同族会社を利用した租税負担の回避を避けるべく、負担の均衡を企図したものであり、内部留保を侵害することまでも含む(若しくは、内部留保を制限し、配当を行うこと促進するものとしてまでは踏み込んでいない)ものと解している。この点は、

この趣旨は、当該同族会社 本件のように、課税当局の過誤を原因として、納税者において、過年度分の所得が増加させられ、その結果として同族会社の留保金課税というペナルティが課せられるという状況は、制度の予定するところではない。 
(ア)原告は、本件事業年度における8521万9600円の留保金課税を避けようとすれば、4億5859万8000円の課税留保金相当額を配当すればよかったのであるが、当該4億5859万8000円は本件事業年度において国庫に過誤納されていたため、手元になかったものであり、配当することはできなかった。それにもかかわらず、自らがコントロールし得ない状況下で生じた原因によって、何らかのペナルティが科されるという状況は、適正手続の保障に反し、近代的法制度が通有する意思主義の原則に反するものである。
(イ) また、「留保」という文言自体の持つ意味、及び配当の促進という 留保金課税の趣旨からすれば、当該事業年度当時に相当程度の蓋然性をもって認識し得たとはいえない所得は法人税法67条3項の「留保した金額」に該当しないというべきである。

当該規定をサンクションを付与して、租税を回避し、配当を促進するなどの経済的効果を企図したものという、理解をして、その適用範囲を制限すべきであるという原告の主張を対立しており、最終的に排斥している。この趣旨の理解はいかなる理由に基づくものであるのかは定かではないが、このわずかばかりの制度趣旨への理解の差異が、起点となっているものであろう。本制度はその適用においては、確かに負担が増加するものであり、もってその適用を回避しようとするならば、配当を行うように促す経済的な機能を有していることは否定し難いこのような実質的な経済的負担を回避をすることを誘引としているのかどうか、あるいは法人の配当政策や内部留保などの財務構造に関わるものであり租税政策がこの点までも起立しているものとして実質的に踏み込んでいるのかという点は議論の余地があると考えることもできる)が、もともとは、その趣旨として同族会社の特殊性(これが現代においてその特殊性を有しているのか、そもそもこのような特別の処理を肯定するものであるのかという点は議論の余地があろうが立法に属するものであろう)、から負担の均衡を図るものであり、サンクション的な性格を有しているものとして理解すること(若しくは財務政策、内部留保の制限や財務構造の変更までも促すものであると読むこと)は、特に現行のようにその適用対象範囲が限定されている現況においては、実質的な経済的負担に着目し、趣旨を拡張的に理解しているものと考えられる。近年は内部留保一般に対して、否定的な見解を採用して、より経済的な誘導作を取るべきとの見解も見られるものであり、その代表的なものとして留保金課税を評価する見解もあろうが、この点はあくまでも所得税負担も含めた均衡を鑑みた規定であり、法人の行為や内部留保そのものを否定的に捉えているものとは理解を異にすることは留意されるべきであろう。実質的な負担から法人の行為を制約するものとして理解することも否定できないが、その適用対象範囲を制限している立法経緯を鑑みるに、現行法においてサンクション的な付与によって内部留保を政策的に否定する段階までは踏み込んでいるものと捉えることは、困難であると考える。

また留保という文言に関しても

いずれにしても、原告が主張するように、本件の所得の増加は、課税庁の誤指導に原因があるといえども、かかる理由をその適用を制限すべき根拠は法定されておらず、サンクションの付与によって納税者の行為を制限するものではない以上、如何に納税者の権利を保護する適正な手続の保障の対象外にあるものとして理解する判断は制度趣旨に鑑みて合理的であろう。誤指導を起点としており(実際にはこの点が特に立証がされていないが、制度改正による勧奨が法定される以前の事象であり、相対の慫慂である点において立証が困難であるものであるのかもしれない)、附帯税の宥恕として正当な理由が成立することは、あり得ようが、納税者の不満や理解があることは理解できるが、立法の属するものであると捉えるべきであろう。

判示では、以下のように
利益を得るに至った経緯や、そのような利益を得ることについての認識の有無を問わず、等しく妥当するものといえる。
更には、
以上に述べた留保金課税の趣旨や、留保金額の算定方法を定めた法人税法67条3項の文言に照らすと、本件のように、修正申告により所得が増加した場合において、増加した所得金額が同項の留保した金額に当たるか否かは客観的に判断すべきものであり、増加した所得金額に相当する現金又は預貯金を当該同族会社が現実に保有しているか否かや、所得が増加した経緯、当該同族会社が相当程度の蓋然性をもって当該所得の発生を認識し得たか否かを考慮する余地はないというべきである。これと異なる趣旨をいう原告の主張は採用することはできない。

として留保した金額という文言において納税者の主観的な認識の関与を否定的に捉えている。同じく同族会社に対する行為計算の否認とは異なり、不確定な概念を取り込んでいるものはない本制度であるが、客観的に所得が法人に帰属するものであれば、その対象とするものであり、いわば形式的な適用が行われるべきものと言えよう。行為計算の否認において問題となるように、納税者の意図が介在するものとしてあるいは適用の要件として、留保という文言を制限的に解することは、納税者の意思のような(もってすれば、制度誤認、錯誤による配当の実施などが発生するかもしれない)主観的な事情を介在させる事になり、負担の均衡を図る制度趣旨を損なう可能性もあるため否定的に捉えられるべきであろう。いわば機械的な対象が選定されるものとして理解されるべきである

いずれにしても事実関係や法令の適用関係が不明あるいは複雑であるので(特に誤指導の対象など)より検討すべきものと考えられるところで、納税者の負担の増加と納税者財産権の保護との政策的な均衡を立法において如何にして確保されるべきであるのかという点を検討する上では、参考となるべき事例であると評価される。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年12月24日月曜日

判例裁決紹介(千葉地判平成30年1月16日、徴収権の時効と期限後申告の可否)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は千葉地判平成30年1月16日で、事項により期限後申告ができず、譲渡損失に関する繰越控除の規定の適用の是非が問題とされた事例です。

具体的には、給与所得者である原告がなした先物取引に関する損益につき、過去に渡って申告されておらず、調査において指摘され、過年度に遡って期限後申告を行ったところ、法定納期限から5年が経過した年度における消滅時効が完成しており、当該期限後申告が認められず、もって、当該年度に発生していた先物取引に関する損失が翌年度に繰越すことができないとされた点が問題となっている事例である。従って、時効完成後も期限後申告を認めもって、損失の翌事業年度への繰越を求めているものである。また、調査段階での説明不足により上記年度の翌事業年度において期限後申告が行われておらず、もって決定処分を受けたことを不服としている。

期限後の申告は無申告加算税の趣旨から鑑みるに、通常通り、申告を行ったものとの衡平を企図したものであり、申告納税制度を基礎とした、納税者自身による確定申告の不備がもともと起点となっているものであろう。しかるに、損失の繰延べによる便益の享受を本件においては、意図したものであり、原告たる納税者の主張は自己の不利益を補うような姿勢にも見られる。

期限後申告と時効の関係に関しては、私見ながらこのような法益の発生が想定されるものとは予想していなかったものであり(時効となり納税義務が消滅している段階においてあえて自己の申告を行う人が想定されるものとは考えにくいため)、従前、修正申告に関しては判決があったものであるが、本件のような判示は、特徴的なものと言え、今後の参考となるべきものと言えよう。また、手続上の不備に関しても平成23年の改正により設けられた手続整備に関するものであり、説明や勧奨に関する事例として参考となるものと評価される。


(国税の徴収権の消滅時効)
第七十二条 国税の徴収を目的とする国の権利(以下この節において「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(第七十条第三項の規定による更正若しくは賦課決定、前条第一項第一号の規定による更正決定等又は同項第三号の規定による更正若しくは賦課決定により納付すべきものについては、これらの規定に規定する更正又は裁決等があつた日とし、還付請求申告書に係る還付金の額に相当する税額が過大であることにより納付すべきもの及び国税の滞納処分費については、これらにつき徴収権を行使することができる日とし、過怠税については、その納税義務の成立の日とする。次条第三項において同じ。)から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
2 国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。
3 国税の徴収権の時効については、この節に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する。

以上のように本件の中心的な争点の一つは、損失の繰延を前提として消滅時効の完成がなっている年度の納税義務につき、期限後の申告が許されるのか否かという点が問題となっている。法文上は、所得税法の期限に関して明確な期限が定められているものではなく(決定を除き)、法令解釈により、検討されるべきものとなる。かかる点については、本件は以下のように判示しており、かかる点において先例的な価値があるものと考えられる。

国税の徴収権は、原則としてその国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅し(法72条1項)、その時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができない(同条2項)ことからすると、時効期間が経過した場合は、納税者が時効の利益を受ける意思があるか否かを問わずに絶対的に消滅し、課税庁は徴収手続をすることができないと解するのが相当である〔なお、法25条の規定による決定にいても、原則として、その決定に係る国税の法定申告期限(所得税の場合は法定納期限と同日)から5年の除斥期間に服する(70条1項1号)。〕。そして、確定申告は、納税者自らの判断と責任においてその納税額を自ら確定させる行為であると解されるから、法25条の規定による決定がされない場合であっても、当該申告の対象となる国税の時効期間が経過し、抽象的な納税義務自体が消滅し、具体的な納税義務の内容をおよそ確定することができなくなったときには、期限後申告をすることはできなくなると解するほかはなく、したがって、納税者が期限後申告をすることができる期間は、原則として、当該国税に係る法定納期限から5年間(ただし、国税の徴収権で、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税等に係るものの時効は、当該国税等の法定納期限から2年間は進行しない(法73条3項本文参照)ので、この場合には、期限後申告をすることができる期間は、法定納期限から7年間)であると解するのが相当である

すなわち国税に関する徴収権の時効は、通常とは異なり、援用を必要とせず、利益の放棄を禁止しているという基本的な性格から、抽象的な納税義務が消滅し、もって申告によりその納税義務を確定させる行為はできないものとして判断している。私見tのしてもかかる判断は合理的であるように考える。もし仮に期限後申告が認められるものであるとするならば、法が明文をもって明記している時効制度やその特徴との整合性が取れず、租税法律関係の早期安定や財産権保護の基本的な要請に反する事になりかねない。申告納税制度が自己の所得を自らの手によって、確定させることで納税者として義務の履行を図るべきものとして捉えるならば(一種の国民としての義務と権利として捉え)、その趣旨を貫徹させるためにも、期限後申告が期限の定めなく認めるべきとの解釈を主張することもあり得ようが(そもそも、本件のような損失の繰延などの状況を除けば、消滅後の納税義務の履行を求めるようなケースは想定し難く、保護すべき利益は考えにくい)、立法政策の範囲に属する問題であろう。いずれにしても時効制度の趣旨目的と申告納税制度のバランスにおいて上記解釈を変更すべき理由は、見出し難いものと考える。

また、本件でも一部主張されているが、下記のように平成23年度税制改正によって、調査終了の際の手続や勧奨等が制定されており、かかる点において、課税庁の対応において不備、あるいはそれを起点として、納税者において意思決定に錯誤があった場合に、いかなる影響が想定されるものであろうか。かかる点においても明文の規定は存在せず、本件では原告が主張した錯誤の存在そのものが否定され(そもそも原告が主張する錯誤がいかなるものであるのか具体的に立証されていないものではあるが、最終的には、その錯誤の点に関しては問題とされていない。

(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
5 実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。
6 第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる。

しかしながら、勧奨に応じた場合、不服申立が制限され、また終了の際の説明においては、どの程度の説明義務を追うべきものであるのかという点が必ずしも定かではない状況(商大論集にも書いたが)であり、そもそも納税者は納税に関する知見にかける(最もこの点は、租税に関する教育にたずさわる者としてはまずは反省すべき点ではあるが)場合があり、説明等においても誤解が生じている、あるいは意思決定において錯誤が発生している可能性は否定し難いものである。実務上は、書類への押印等により一定程度、、説明への了知等が図られているものであるのかもしれないが、納税者段階においてこのような手続に対して説明責任の強化、権利保護の観点からは、必ずしも錯誤による無効が全面的に否定されるべきものではないのではないだろうか。しかしながら租税法規においては、税負担に関する錯誤無効が従来問題となったように、このような手続段階における錯誤についても錯誤により申告が無効、課税処分への影響が認められる余地があるのか、より今後の検討が必要であろう(信義則の適用により救済されるものであるのかしれないが)。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。


2018年12月12日水曜日

判例裁決紹介(平成30年3月7日裁決、相続財産の使用貸借の精算と譲渡費用、重加算税の賦課)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成30年3月7日裁決で、昭和から長きに渡って相続財産の使用貸借において精算を図った事により生じた費用が譲渡費用に該当するのか否か、そして、当該行為により重加算税が賦課されるべきであるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人がかつて(昭和30年台)において相続により取得した農地において、農業に従事じていた弟に対して、当該農地の譲渡に伴い、支払った金員が離農補償費用として、譲渡費用に当たるのか否か、すなわち、当該金員がいかなる性質に基づき支払われたものとして捉えることができるのかという点が争点となっているものである。長期間に渡り、相続財産の帰属関係が曖昧なまま、耕作が行われてきた事により、権利関係が明確ではない状態であったものであるが(主張においても、この耕作における関係が無償での使用に伴う使用貸借であるのか、あるいは賃貸借であるのか争いがある)、この関係を精算することを意図した処理が問題の起点となっているものである。本件は内容以外でも興味深いのは、2018年の裁決で未だに年貢という表現が出てくることで・・・。

このように基本的には、本件の問題の中心は、事実関係が対象であり、離農に伴う補償金たる性格を有するのか、相続財産に関する解決金(そもそもこの解決金自身があまり明確な表現ではないが)として捉えるのかによって、租税法規上の適用関係、譲渡費用としての位置づけが相違することになったものである(離農の補償金が譲渡費用を構成することは争いがないものであろう)。

加えて、本件では、かかるような認識にあったことに対して、課税庁としては本来ならば、解決金であったものを、離農補償金として書類に記載したとして仮装隠蔽の成立を指摘し重加算税の賦課決定を行っている。本件ではこの部分の成立も問題となっているが、この点は課税庁の主張を排斥し、重加算税の成立を認めていない。

3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
 
「使用貸借契約における借主が、その目的物につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情のない限り、この負担は、使用収益に対する対価ではなく、借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げになるものではないと解される(最高裁昭和41年10月27日第一小法廷判決・民集20巻8号1649頁参照)。そして、土地の使用貸借は、たとえ、建物の所有を目的とするものであっても第三者に対抗することができないものであって、利用権としては、賃借権と異なり法律の保護が薄弱であって、借主の死亡によりその効力を失い、相続の対象にもなり得ない権利であるから、課税上、その経済的価値は零とみるのが相当である。」

上記のように、本件はその中心的な争点として譲渡費用としての該当性を問題としている。判断では、上記のようにのべ、使用貸借 の成立を認定し、もって、経済的価値がゼロにあるものへの支払いであるとして、譲渡費用としての成立を否定している。確かに使用貸借の利用権は法的な保護は弱く、その経済的価値はゼロであると評価することは租税法規においては異論はない。しかしながら、そのような利用権の支払いであっても、本来ならば譲渡費用として該当するのか否かという点が問題となるべきであろう。この点に関しては譲渡において必要性がないものであるのか否かという点は検討されていない。譲渡につき、直接要するのか否かという点が問題となろうが、かかる観点からは根拠が明示されていないように考えられる。殆どが賃貸借であるとの認識から請求人の主張は構成されているのであろう。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

また、本件では、上記重加算税の賦課たる仮装が発生していたしたか否かという点も問題になっており、精算段階での請求人が使用貸借による離農補償金ではないと認識していたかという点が問題になっている。本来ならば譲渡費用には該当しないことを認識しながら、名目上離農補償金として記載していることが仮装の事実関係の成立を構成しているものと考えている事による。主観的な要因に基づいているようにもよめるが、このような曖昧な関係の整理においては明確な対価関係の認識できるような意図が込められているのかという点は疑問であり、その名目に限らず、複合的な内容が含まれることもあり得よう。いずれにしても主観的な要因による判断は仮装の形式的な事実をサポートするものであり、このような主たる要因として判断される事例は興味深い。最終的にその認識は主観に左右されるものであり、重加算税という重大なペナルティを課す場合において、中心的な要因として解釈することは困難ではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。


2018年12月3日月曜日

判例裁決紹介(平成30年1月11日、離婚による財産移転と第二次納税義務者該当性)


さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成30年1月11日裁決で、離婚に伴って発生した財産の移転(財産分与とはあえて書きません。当事者の意思が明確ではないので)、無償または著しく低い対価による譲渡であるとして、第二次納税義務者として該当するのか否かが問題となった事例です。

具体的には、事業を営む家庭に婿入していた者が滞納者となり、当該滞納者が離婚に伴い請求人(最終的に元配偶者から事業を継続引受け)に対して移転させた預金債権を受領した場合において、請求人に対してかかる移転が下記のように国税徴収法39条において定める、無償等による譲渡に該当するため、第二次納税義務者に該当するのか否かという点が問題となっている事例である。離婚に伴う財産の移転(特に財産分与)如何なる名目、実質を有しているのかという点は譲渡所得税の発生等、従前租税法規の適用に関して問題となっているものであるが、本件は滞納者である元配偶者から預金債権を受領したことが第二次納税義務者としての要件を充足するのか否かという点が問題になっているものであって、このタイミングにおける財産の移転をどのように評価するのかという点が問題の中心をなしてるものである。最終的には課税庁の主張する、著しく低い対価による譲渡であったという旨の主張を覆している。かかる点においても本件は特徴的なものであろう。

そもそも離婚時の財産の分与、移転が複合的な性格(慰謝料、財産の清算、養育費等)のものであり、如何なるものが相当であるのか、すなわち対価の適正額が如何なる金額に該当することになるのかという点が必ずしも明示的なものではない。実質的には民事法の問題であり(例えば養育費の基準も社会情勢によって変動が大きいものであろう)、民事法の観点からは財産の移転そのものが一義的には問題であり、その性格を問題として相当額を算定する必要性は、劣位にあるものであろう。しかしながら租税法規の適用上は、その性格、性質を如何に判断するのかという点は、算定上、重要な課題である。本件はこのよううな点で著しく低い対価の額の決定のみならず、課税庁の主張が排斥された点で興味深い事例であろう。

無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第三十九条 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(第五十八条第一項(第三者が占有する動産等の差押手続)及び第百四十二条第二項第二号(捜索の権限及び方法)において「親族その他の特殊関係者」という。)であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
以上のように、本件の中心的な課題は第二次納税義務者の適用対象として該当するのかという点が問題となったものであり、39条に定められている無償等による譲渡に該当するのかという点が問題となる。そもそも、第二次納税義務者は、本来ならば課税要件の充足がない状態において、特別な受益等を基礎として、徴収の便宜、確保を図ることを企図した制度であり、厳格な要件の判断が必要とされるべきものである。

徴収法第39条が規定する第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者である滞納者が、その者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、その者の財産について無償譲渡等の処分を行ったため、その者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められることとなった場合に、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対して、補充的に当該国税について履行責任を負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度であると解される。
上記のように、その性格は、判断においても前提とされているものである。

離婚時の財産の移転、財産の分与が譲渡に該当するということは、著名な裁判例が示すように、基本的に約40年の歳月も経過しており、通説として捉えて構わないだろう。所得税法の事例ではあるが、租税法規の譲渡は非常に広範囲にかかるものとして、多様な形式を含むものと解されるべきものとして理解されよう。本件もこの点に関しては特に、異論がないものとして(というか所与のものとして)判断しているように捉えられる。

しかるに問題は、相当額よりも低額により譲渡されているのか否かという点であろう。かかる点は民事法の問題でもあるが、かかるような複合的な性格を有するものに対して、本件では、それぞれに分解していて詳細に検討している。最終的には民事法の領域でもあり、事実関係を如何に考えるのかという点が課題となろう(民事法において決定すべき項目であり、相当額といえど、租税法規の適用において実質的に決定するような行為は、租税法規の性格から許容されるべきものであるのかという指摘はあり得よう)。いずれにしてもこのように中身の要素を詳細に性格を分類し、その相当額を算定するという判断は、財産分与額の決定においては当事者の意思が介在するものでもあり、妥当な金額を判断することは困難でもある。

ただし、本件は第二次納税義務者の該当性に関する判断ではあるものの、離婚時の財産移転に関して、このように詳細に事実関係を捉え、中身を分類整理し、その相当額を認定している判断プロセスは、譲渡所得課税の認定においても適用されうるものであるのか、従来は、このような丁寧な判断の枠組みでは処理されておらず、今後このように譲渡額をどのように判断するのかという点は、注目されるべきものといえるだろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。