2018年8月31日金曜日

判例裁決紹介(東京地判平成30年1月24日、未分割遺産の更正の請求と財産評価)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は東京地判平成30年1月24日で、未分割遺産に関する相続税の確定申告を行ったていた原告が、その更正の請求にあたり、当初申告における課税訴訟において当該財産の評価額の引下げを確定判決として得ていたことから、当該価格によるべきとして請求をなしたことを、課税庁が否定し、当該基礎となる金額は、当初申告における評価額を基礎とすべきであるとして拒否したことを争点としている事例です。

具体的には本件は相続人である原告が他の相続人との間で、遺産分割協議が整わず、未分割遺産による相続税の確定申告を行っていたものであり、別件訴訟により、この当初の申告において、対象となった相続財産のうち、取引相場がない株式の評価方法において過大であるとして争っていたことがそもそも背景にある。当該株式の評価に関しては、未分割の時点での評価は過大であると認定され、その評価が引き下げられる判決が確定しており、(この判決の確定により、財産評価基本通達における株式保有割合の見直しが図られた著名な判決である、約10億円の相続税負担が軽減されている)かかる判決により、遺産分割協議が最終確定し、当該判決における評価額に基づき協議が成立したものである。かかる協議の成立により、未分割遺産に対して更正の請求を行ったものであるが、かかる点においてその適用対象となる財産価額において上記判決において確定した価額をもって請求したところ、当該請求における基礎となる金額は当初の申告における財産評価額であるべきであり、更正の請求は認められないとした処分を不服としたものである。実質的には判決をもって株式の評価額が否定されたものを用いるべきであるとした課税庁の処分であり、未分割遺産に対する更正の請求がいかなる意義を有するものであるのかという点が起点となっている。納税者が長期間に渡って課税訴訟において当初の申告における評価額における争いの末、得た評価額を否定するものであり、納税者の理解が得られるものではないことは明らかと言えよう。最終的には、判示としては別件訴訟における行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力を認め、当該価格によるべきであるとして納税者の請求を認めているものである。

近年は相続を取り巻く環境が多様化しており、財産分割が申告期限前に確定せず、未分割遺産の発生は必ずしも珍しいものではない。本件は、当初申告における財産評価の見直しという極めて珍しい状況が発生しているものでもあるが、そして本質的には争い方の問題であるとも言えるが、本件判断が一般性を持つこととなれば、かかるような訴訟関係は一般性は困難であり、未分割遺産に対する財産評価額の判断の根拠が極めて厳格にその対象となることになり、取得関係の変化によって価格が変更している場合を除き、当初の確定申告、すなわち、下記の55条における価格を基礎として判断することになるものと考えられる。単に未分割遺産に関する申告として捉え、評価額は分割協議確定後における更正の請求に多いて修正を図ることは非常に困難であることが導かれ、実務上も留意されるべきものであろう。そもそも本件のように財産価額が確定判決において大幅な評価額の変更、減少を伴うような事例は少ないものとも言えようが、未分割遺産であろうとも当初申告における財産価額の評価は留意されるべきであり、安易な修正は困難であるものとの認識は共有されるべきであろう。更正の請求において国税通則法におけるものとは異なり、相続税法特有の後発的な事情を反映させるものとして、限定的な条件が付与されていることは重要な点であろう。

(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと


(未分割遺産に対する課税)
第五十五条 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつた場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第三十二条第一項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。

以上のように、本件の中心的な課題は、未分割遺産に対する課税とその状況下における更正の請求の特則の関係性を如何に解するべきであるのかという点であろう。判示では以下のように、

相続税法は、相続税について、55条で、国家の財源である税収を迅速・確実に確保する観点から、遺産分割が未了であっても、相続人は民法の規定による相続分の割合に従って財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告すべきこととした上で、32条1号で、後に遺産分割が行われ、財産の取得状況が変化し、申告又は従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となった場合には、国税通則法23条1項の特則として、同号の後発的事由に基づく更正の請求を認めたものと解されるしたがって、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち、 申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできないものと解され(ただし、遺産分割による財産の取得状況の変化により、個々の財産の価額が変化するといえる場合には、この変化は主張し得るものと解される。)、その結果として、同号に基づく更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額となるというべき

原則として、当初申告における価額を基礎としているものであり、原則的には価格の変化における主張は排斥されるべきものとして解している。厳格な救済の要件を提示しているものであり、単に価額の変更をもってその未分割遺産に対する請求を行うことは困難であることが認識されるべきものと考えられる。かかるように解釈する根拠はいかなるものであると考えるべきであろうか。上記判示は、制度趣旨を基礎としているようにも捉えられるが、その根拠としては法文において、価額変更の局面を限定しておりかかる点がその根拠となろう。私見としては、かかるような限定は、課税処分の基本的な性格から、その大量性等に配慮し、権利救済の方法を更正の請求に限定しており、また相続税法においては特則をもって対象を明示しており、基本的に他の方法によることを制限していることからも、厳格にその要件は解釈されるべきものであると考える。

本件判決は、当初申告における大幅な訴訟による価額変更を基礎とした事例判決でもあろうが、上記のような基本的な解釈を背景としつつも、確定判決の拘束性を認め納税者の権利救済の範囲に対する例外、救済を図った点で特徴的な事例であるように評価される。

以上です。
毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年8月24日金曜日

判例裁決紹介(札幌地判、平成28年4月15日、分掌変更による退職金の損金算入)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、札幌地判平成28年4月15日で法人の損金認定において、コンサル料と分掌変更による退職金の支給が争われた事例です。

具体的には本件は、ホテル等の事業を営む原告が所有するホテルの売却に伴い、法人の代表者に対して支払われた売却先からのコンサルタント料としての金員が法人としていかに捉えられるのか、すんわち、売却価格の一部分割による支払いであるとして、法人に帰属すべきものであるのか否か、加えて、いわゆる分掌変更による退職金の支給が法人による退職金として損金として評価されうるものであるのかという点が争点となった事例である。基本的には事実関係を如何に認定すべきであるのかという点が中心的なものであり、特に法人の益金の帰属、損金としての認定という、通常争点となりやすい点が課題となった事例であり、かかる点において、本件は、実務においても参考になるものと考えられる。いずれも法人の代表者が関わった法人の行為を如何に租税法規として捉えるべきであるのかという点が問題になっているものと考えられる。かかる点において我が国の法人の典型をなす経営と所有が一体化しているような法人における代表者の行為、位置づけが、更にはその行為の合理性が問われた事例として本件は、従前の類型とともに、特徴的な事例であるものと考えられる。

まず、本件の中心的な争点の一つは、所有不動産の売却に伴って発生した法人の代表者へのコンサル料としての相手側からの支払われた金員をどのように評価するべきであるのかという点である。法人が売却した土地の対価部分を一部分割して、法人の代表者に対して支払われたものであるという認定を課税庁および判示においても採用しているが、このように形式的には法人とは異なる自然人としての代表者に対して支払われたものが租税法規において法人への帰属として処理されることが本件の特徴的な判断であろう。このような処理は課税実務においては一般的なものであり、特段異論があるものであるのはないとも評価しうるのではないかともいえようが、法人の代表者が行うコンサルといういわば曖昧な行為が背景にあるものであり、見方によっては法人に対する背信的な行為でもあろう、このように個人的利益と法人との関連において追求することを法人税法は如何に捉えていくべきであろうか。また所得分割のような租税回避を許容しうるのかという点が本件の起点となっているように考えられる。このような特殊な行為はその背景として、我が国の法人の所有形態が基礎づけられているものと捉えるべきであり、他の法規との間での基本的な相違であろう。

判示がいかなる法的な根拠をもって、課税庁の主張を肯定し、本件金員を法人の受け取るべき対価であるとの認定を行った上で、民事法上の契約関係を法人税法において引き直しているのかという点は明示的ではないが、かかるように民事法上の形式を租税法規において否定しているような状況は留意されるべきであろう。特に本件では所得分割のような租税回避の行為としての認定を行っていない(課税庁等の主張にも見受けられないようなので当然かも知れないがため法人税法において本件のような行為が否定されるべきものとしていかにして根拠を持っているのかという点は更に検討が必要であるように考えられる。いわば、本件の契約の目的から真実の法律関係を認定しているような事例であり本件の特徴を構成しているといえよう。

また本件の第二の争点は上記のような取引を行った代表者が辞任して監査役に変更となった事によって支給された退職金 を損金として該当しているのか否かという点である。いわゆる分掌変更による退職金支給の問題である。退職金は法人税法上多様な論点を生じうるものであるが、本件が課題とする退職の時期において分掌変更を実質的な退職として租税法規の解釈上認めうるものであるか否かという点も課題となっており、本件もその類型に属するものであろう。このように退職の意義を実質的な意義において拡張している点が分掌変更の特徴的な解釈であろうが、その根拠は必ずしも法令を根拠としているものではない。退職という文言自身は基本的に所属している企業等からの離脱を指すものであり、職務内容の変化までも含むものとして解釈することは困難ではないかともいえようが、下記のように分掌変更による退職金の支給を一部条件をつけて認容している通達が、実質的な根拠となっている。この条件となるべきものも、定性的な条件であり、本件もその判断を支える上で、重要な事例となるものと言えよう。

「法人税法34条1項によれば、役員に対する退職給与は、損金の額に算入することができるものとされているところ、ここにいう退職給与とは、本来退職しなかったならば支払われなかったもので、退職に基因して支払われる給与をいうと解するのが相当である。また、役員が実際に退職した場合でないとしても、分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、当該事情に基因して支払れる給与も、退職給与として損金に算入することが相当であり、法人税基本通達〔昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規)〕9-2-32(別紙の2参照)は、これと同様の趣旨を規定したものとして合理的なものと解される。

(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
判示においては実質的に通達の処理を許容しているが、言うまでもなく、通達は法源性を有しておらず、租税法律主義を基本的な要請とする租税法規の基本的な解釈指針としてかかるような通達を根拠とすることを許容することは困難であろう。私見としては、退職金が所得税法において1/2課税の対象となっており(かかる点も改正対象とすべきであるが、現在までの退職金課税とのバランスが取れないことも問題である)、また、上記のように我が国の法人の大部分が所有と経営の分離が図られていないような状況下において、そもそも退職金のみならず役員に対して支給される給与を租税法規において制限して、その租税回避等を制限しているように(但し、この規制に関しては、平成18年改正により、隠れた利益処分防止など、その制約要因自身が揺らいでいるようにも評価しうる)、このような状況を鑑みるに、退職の意義を拡張的に解釈することを許容することは合理性を欠くものと評価しうるのではないだろうか。

このように分掌変更による退職金を法人の退職金として認識しうるものであるのかという点は見解が別れうるが(私見としては役員が担うべき経営という業務自身が必ずしも明確な状況でもなく、かかる対象職務から判断するに、その内容の変更を基礎とした判断は困難であるように考えられる)、租税法規としては、通達が許容している実質的な退職の具体的な判断基準を如何に捉えるべきであるのかという点をより具体化している作業が課題であろう。本来的にはかかる判断の前提として、法人税法がいかなるものと退職として捉えているのかという点がまずは明らかにされるべきであり、更には退職金がいかなる性格を有しているが故にかかるような取扱を行っているのかという点が検討されるべきであろうが、かかる点は必ずしも明示的ではない。しかるに実質的な判断に依拠することになるが、そもそも退職に起因する支払というのみでは判断は困難ではないだろうか。そもそも法人税法が問題とする役員においては、経営という業務を委任されることになるがその職務内容は上記のように多様であり、職務内容からの判断が適切であるのかという点は議論されてしかるべきではないだろうか。本件では設備工事への意思決定への関与(そもそも意思決定は多様であり、このような単一の意思決定が左右されるべきような決定であるのかという点は定かではなく、経営という多様な職務において、かかる点を取上げ判断材料としているのかという点は十分に吟味されるべきである)、更にその決定を裏打ちする株式の保有関係(私見としては我が国の法人としてこのの保有関係がまずは前提となるべき、客観的な判断要素として前提となるべきではないだろうか。)、がメルクマールとなって実質的な退職には該当しないとの判断を導いている。加えて退職によって変わったとされる代表者等の役員の認識・動向も考慮されており、主観的な判断材料も考慮されていることは留意されるべきであろう。そもそもとして法人の意思決定への関与が退職と関わる(重要な判断要素となる)ものであるのかという点は、問い直されるべきである。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年8月23日木曜日

判例裁決紹介(平成29年10月31日裁決、中小企業投資促進税制の適用要件)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年10月31日裁決で、中小企業投資促進税制の適用要件を充足しているのか否かが争われた事例です。

具体的には製造業を営む請求人が販売者から機械装置(本税制の適用対象資産)を取得し、もって自社の事業の事業の用に供していた場合において、 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除 、いわゆる中小企業投資促進税制の適用がある旨の確定申告を行ったところ、課税庁より、当該資産は、販売者の側にて、展示等に使用されており、請求人がはじめて使用した、新品であることとは認められないとしてその適用を否認された事例であり、中小企業投資促進税制の適用要件が争われたものである。中小企業投資促進税制は、租税特別措置であり、対象資産が変更されているもののその適用期限は延長され、中小企業において設備投資を行う上では、重要な考慮対象であるものと考えられ、その適用要件は留意されるべきものと捉えられる。

より詳細には、当該制度の適用にあたって適用要件として設けられている その製作の後事業の用に供されたことのないものを取得したことを要件としている点が、本件の事実関係において充足しているのか否か、という点が問題になっているものである。基本的には事実関係によるものであるが、法規定における適用要件、特に租税特別措置の適用要件を課題としているものであり、かかる要件の具体的な意義は適用を行うにあたって重要なものである。この云わば、新品であることを要件としていること、事業のように供されているのか否か(かかる点から判断すると、単に租税特別措置の要件として飲みなあず、減価償却等の判定においても関わってくるものである)、、特に事業とは如何なるものと意味するものと解すべきであるのか、供しているとはどのような状況にあることを指し示すべきであろうかというような点が本件の起点として発生している。このような固定資産を事業の用に供しているのか否かという点が、取得された資産が新品であるのか否かという点の裏には、このような典型的な法人税法、租税法規における固定資産としての判断が表裏一体となっているという点は実務家としても認識されるべきであろう。特に中小企業投資促進税制においては、取得側において対象の指定事業に供されているか否かという点bか有りが強調されているようにも捉えられるが、かかるように、取得資産の状況もまた留意されるべきものとして再度認識されるべきであろう。取得者側において判断が容易であるような指定事業に用いていることとは異なり、販売者側での状況は、把握が困難なことも想定され(輸入品などはその典型であろうが)、一般的には中古資産の判定は、耐用年数の判定のような状況に利用されることが多いものと想定されるが、租税特別措置の要件でもあることは本件からの示唆として特徴的なものではないだろうか。

(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)
第四十二条の六 第四十二条の四第三項に規定する中小企業者又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するもの(以下この条において「中小企業者等」という。)が、平成十年六月一日から平成三十一年三月三十一日までの期間(次項において「指定期間」という。)内に、次に掲げる減価償却資産(第一号又は第二号に掲げる減価償却資産にあつては、政令で定める規模のものに限る。以下この条において「特定機械装置等」という。)でその製作の後事業の用に供されたことのないものを取得し、又は特定機械装置等を製作して、これを国内にある当該中小企業者等の営む製造業、建設業その他政令で定める事業の用(第四号に規定する事業を営む法人で政令で定めるもの以外の法人の貸付けの用を除く。以下この条において「指定事業の用」という。)に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。次項及び第九項において「供用年度」という。)の当該特定機械装置等の償却限度額は、法人税法第三十一条第一項又は第二項の規定にかかわらず、当該特定機械装置等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定機械装置等の取得価額(第四号に掲げる減価償却資産にあつては、当該取得価額に政令で定める割合を乗じて計算した金額。次項において「基準取得価額」という。)の百分の三十に相当する金額をいう。)との合計額とする。
一 機械及び装置並びに工具(工具については、製品の品質管理の向上等に資するものとして財務省令で定めるものに限る。)
二 ソフトウエア(政令で定めるものに限る。)
三 車両及び運搬具(貨物の運送の用に供される自動車で輸送の効率化等に資するものとして財務省令で定めるものに限る。)
四 政令で定める海上運送業の用に供される船舶

以上のように本件の中心的な争点は、上記特別償却の適用要件を如何に解すべきであるのかという点、すなわち、制作後事業の用に供されたことがないものをどのように解すべきであるのかという点が争われたものである。国税庁の解説においても、下記のようにのべ、その具体的な状況として新品であることをその条件としているものである。

その製作の後事業の用に供されたことのない(つまり新品の)次に掲げる資産で、指定期間内に取得し又は製作して指定事業の用に供したもの

本件では、当該購入製品を販売者が見本品として活用していたことが事業のように供されたものであるのかという点が具体的に課題となっている。放棄において新品であることが、販売者が活用することを含むものであるのかということが問題になっている。一般的に新品であれば、製造者から他社に対して販売されたことがないものであることもまた、一般的な用法であり、請求人の主張するように、販売者以外の者によることを前提としていると言う解釈もまた、成立しうるものではないだろうか。特に新品という用語に着目すればこのように考えることもまた、一定の合理性があろう。特に見本のように活用していることは、当該製品の試運転とも捉えられ、これを販売者における事業の用に供していたとして理解することは必ずしも自明であるとは評価し難いとも言えよう。

具体的な判断では、以下のように、一般的な説明である新品という用語ではなく、法文の事業のように供されたことがないものという点を基礎として判断しており、また、特段の限定がついていないことから、納税者のような解釈は否定されるものとして最終的に納税者の主張を退けている。

「措置法第42条の6第1項は、その適用の要件のうちに、①「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」である特定機械装置等を取得し、②「指定事業の用に供した」ことを掲げている。そして、①の要件に係る「事業」について「指定事業」というような限定がされておらず、事業を営んでいる者も限定されていないことから、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、特定機械装置等の製作者及び特定機械装置等を取得した販売者(以下「販売者等」という。)において使用されたことのない、いわゆる新品であるものをいい、それに該当するかどうかは販売者等における業種、業態、その資産の構成及び使用の状況に係る事実関係を総合的に勘案して判断することになる。」

このように法文上、明示的に事業の用に供していることに対してその実施者を制約していないが、租税法律主義の基本的な要請からは、解釈においてその制約をかけるべきものと考えることは困難であろう。まして、本制度は租税特別措置として、特別控除を提供するものであり、基本的に法文に忠実であるべきであることが求められるものとも言える。新品であるという文言がいわば誤解を招くような状況を発生させているような状況とも言えるが、事業の用に供していると言う文言から本件判断の一定の合理性は得られよう。しかしながら、本件制度がいかなる理由に基づきいわゆる新品であることを要請しているのかという点を、すなわち制度趣旨を考慮しておらず、かかる点からはより詳細な検討があってしかるべきものとも考えられる。新品であることを強く要請する、設備投資を促す趣旨としては、中小企業の基盤強化がその基礎となるものであれば、特段販売者側での活用を排除すべき理由は少ないとも考えられよう。実際において(特に、重要な機械設備であれば)見本品を現場でみて考え、購入を行うことはごく一般的に想定されうるものである。

またそもそも見本品に活用することが事業の用に供していることになるのかという点も疑問である。他の租税法規においても事業の意義は議論対象となるが、基本的に継続的な行為を指すものと解される。しかるに見本品は、試行的なものであり、継続性が確保されているものであるのかという点からも、事業の用に供しているという判断になることは議論の余地があろう。

以上です。
毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

2018年8月13日月曜日

判例裁決紹介(平成29年5月11日裁決、医師の診療に基づかない補聴器の購入と医療費控除の対象)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年5月11日裁決で、医師の診療に基づかない補聴器の購入が医療費控除の対象になりうるものであるのか否かという点が問題になった事例です。

具合的には、本件は、請求人が確定申告における医療費控除の対象とした医師の診療に基づかない補聴器の購入が、その対象となるものであるのか、という点が問題になった事例である。下記のように、通達では、自己の日常最低限の用をたすために供される補聴器等を医療費控除の対象であると明記しており、かかる通達の適用が行われるものであるのか否かという点が争点になっているものである。最終的な判断としては、医師の診療に関わるものではなく、直接必要でもないことから、その医療費控除の適用対象範囲として否認された事例である。

近年は医療の対象が拡大しており、下記のような医療費控除の対象もまた対象範囲が拡張傾向にある(個人的には、癒し系のペットやロボットなどの購入もその対象になりうるものであるのか否かという頭の体操を行ったことがあります)。保険診療において、国民の医療に関するコントロールが厳しく図られている状況から緩和される傾向にあり、その適用対象範囲を如何なるものとして理解すべきであるのかという点は基本的な視座として重要なものであるように考えられる。所得税法における重要な控除項目としての位置づけを当該医療費控除は有しており、その適用範囲を検討することは有益であろう。実務的にはその計算が、非常に多忙な時期に集中するものであり、その適用範囲を詳細に検討する機会は少ないものであるのかもしれないが(また金額的には限定的であろう)、単なる医療費控除の対象となる項目を列挙するものではなく、本件のように一定の判断枠組みを有していることが理解されることは重要なものであるように捉えられる。すなわち、同じものの購入であっても、その適用範囲が異なりうるという点は租税の専門家としても留意しておくべきものと評価される。特に近年は、医療費控除の適用に関してはその適用要件を手続的に緩和する方向にあり、かかる作業に関与する租税専門家の責任はより詳細な注意が必要となるものといえよう。

また、近年では、係る制度の適用を巡って問題となるケースが増加しつつあり、医師の指導に基づくサプリメントの購入などが医療費控除の対象になりうるものであるのか(消極)というように、対象となるものの範囲を巡る争いが増加傾向にあり、適用対象としての境界を如何に解すべきであるのかという点は、課題となりつつあるように考えられる。また、近年はインフルエンザの予防接種のように、医師によって積極的に推奨されるような予防医療に関する措置の拡大も図られつつある。私見としては、単に医療費の負担による担税力の低下という点の反映のみではこのような多様な医療の登場に対して、的確に対応できているのかという問題意識は存在している。医療費控除に対していかなる位置づけを与えるのかという点も含め、より、医療費の削減などの意図(スイッチングOTCが制度化されたように)、現行の医療費控除を社会保障の枠組みにおいてもその制度趣旨を見直すべき時期にきているものであるのではないだろうか。

いずれにしても現行の枠組みにおいて、本件のように、補聴器の購入のように、費用対象項目が同一であっても医療費控除の対象として存否が分かれることは、実務家としてはどのように考えるだろうか。かかる点については意見を聞いてみたいところである。

(医療費控除)
第七十三条 居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
2 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。
3 第一項の規定による控除は、医療費控除という。
(医療費の範囲)
第二百七条 法第七十三条第二項(医療費の範囲)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。
一 医師又は歯科医師による診療又は治療
二 治療又は療養に必要な医薬品の購入
三 病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供
四 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第三条の二(名簿)に規定する施術者(同法第十二条の二第一項(医業類似行為を業とすることができる者)の規定に該当する者を含む。)又は柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第二条第一項(定義)に規定する柔道整復師による施術
五 保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話
六 助産師による分べんの介助
七 介護福祉士による社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)第二条第二項(定義)に規定する喀痰かくたん 吸引等又は同法附則第三条第一項(認定特定行為業務従事者に係る特例)に規定する認定特定行為業務従事者による同項に規定する特定行為

以上のように、本件は、所得税法における医療費控除の対象として医師の診療に基づかない、補聴器の購入がその対象となりうるものであるのかという点が問題となっている。本制度は上記のように、適用対象となる医療費の範囲を診療・治療(そもそもこの両者の相違も気になるところであるが、かかる点は医療法の借用であろう)、必要な医薬品の購入、人的役務の提供に限定され、更には、通常必要であるものという要件が伏せられている。所得税法においては必要経費等において、馴染み深い論点でもあるが、この経費の通常必要とは如何なるものであるのかと解されるのかという点は、一般的にその論点となろう。施工令は、より具体的に、一般的な水準というような要件を付与している。この通常性を如何に理解するのかという点は、必ずしも明らかとなっておらず、必要経費における通常性友整合的であるのかという点も定かとは言えない(そもそも現行の医療制度においても保険診療が我が国の根幹をなしており、通常性に反するような状況は非常に想定し難いという点も考慮されるべきではあるが、比較的不明瞭な概念であろう。

このように基本的に医療費控除の対象はその適用の類型を基本的には3の類型(診療等、医薬品の購入、人的役務の提供)を基礎としつつもその全体的な枠組みとして、医師等による必要性の保証が付与されているものと理解される。かかる点が医療費控除の判断枠組みにおいて重要なものとして挙げられよう。もちろん、近年は医師も倫理的な縛りは多いものの、医師の推奨など、健康効果が期待される食品や器具の登場もあり、かかるような存在を医療費控除の対象として如何に捉えるべきであるのかという点も問題とはなりうる(概ね効果が客観的に検証されていないような状況であり、現行法の枠組においては対象外と捉えるべきであろう。)。

そして以下のように、本件の直接的な争点となったのは、下記通達により、医療費控除の適用対象を拡大しているが、その適用を巡って争われたものである。すなわち医師の診療に基づかず、購入シアt補聴器の購入が通達の適用対象であるのかという点が課題となっている。
73-3 次に掲げるもののように、医師、歯科医師、令第207条第4号《医療費の範囲》に規定する施術者又は同条第6号に規定する助産師(以下この項においてこれらを「医師等」という。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下この項においてこれらを「診療等」という。)を受けるため直接必要な費用は、医療費に含まれるものとする。(平11課所4-25、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(1) 医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの
(2) 自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用
(3) 身体障害者福祉法第38条《費用の徴収》、知的障害者福祉法第27条《費用の徴収》若しくは児童福祉法第56条《費用の徴収》又はこれらに類する法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並びに(1)及び(2)の費用に相当するもの
判断では、以下のように、医療費控除のの基本的な趣旨を捉え、その具体的範囲として、近年の医療の状況から直接適用の範囲において、拡張しているものである。そもそも納税者にとって有利な処理であり、文句が出ないものであろうが、租税法規においてこのような拡張的な解釈をなす事の是非も課題となろうが、判断では肯定している(裁決である以上当然とも言えるが、そもそもこのような拡張的な解釈は立法により対応されるべきものであろう)。そこで問題となるのが、明示的に補聴器等を対象としながら、その適用を拒否している枠組である。つまり、通達では、医師の診療等において直接必要な医療費ということで、判断における医療費控除の適用対象として否定しているものである。この診療等に対して直接必要(他の必要経費でも問題となる概念d値あるが、直接性や必要性はどのような対象を含むものであるのかという点も課題となりうるだろう)、であることが重要な条件となっている。この点に関しては、上記の医療費控除の枠組みにおいて特徴として残存しているものであり、より強く特徴として認識されるべきものとして理解されよう。もちろん、同一のものに対する費用支出でありながら、必要性の有無により適用対象として異なる結果となることは、フェアではないとの意見もあり得ようが、医療費控除の基本的な趣旨からその生理が行われているものと考えられる。
「所得税法における医療費控除の制度は、多額の医療費の支出を余儀なくされた場合における担税力の減殺を調整する目的で、創設されたものである。現行の医療費控除の制度は、当該控除の対象となる「医療費」の費目を、所得税法第73条第2項により委任された所得税法施行令第207条各号に掲げる医師等による診療等の対価に限定し、もって所得税の公平な負担を図ることとしている。そして、本件通達の定めは、上記の医療費控除制度の目的及び内容を前提としつつ、社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴い、同条各号に掲げる対価そのものよりも、医療費関連費用の負担の方が増大している実情をも踏まえ、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用は「医療費」に含まれるものとして、医療費控除の対象となる「医療費」の範囲を具体的に定めたものと解される」
このように、本件が指し示しているように、医療費控除の判断枠組は単なる医療費としての該当性のみを判断しているものではなく、また費用支出項目に依拠しているのみでは判断枠組としては正当ではないことに留意すべきであろう。単に費用支出項目としての直感的な医療費対象ではなく、医師等による診療等において一定の必要性が保証されていることが求められていることが重要な点であろう(このように考えると、医師に診療拠点において推奨として販売される物品の位置づけなども医療費控除の対象として対象となりうるのかといった点も検討課題であろう、この場合は医薬品の枠組において判断されることになるだろうが)。
以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

判例裁決紹介(平成29年3月14日、法人代表者の営むネット事業の所得帰属)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成29年3月14日裁決で、法人の代表者であった請求人が営むネットオークションの事業がいかなる者に帰属するものであるのかという点が争われた事例です。

具体的には、休眠中の法人の代表者でった請求人がネットオークションにおいて仕入れた商品を販売して1000万円を超過する売上を上げていた事例において、その収益が請求人個人に帰属するものであるのか、あるいは、法人に帰属するものであるのか、という点が争われた事例である。最終的には課税庁が主張するように、納税者である個人、すなわち請求人にその収益の帰属者であるとの判断、更には消費税の納税義務者としての認定を行っているものである。収益の帰属者がいかなる者であるのかという点は、租税法規が基本的に、実質的な所得者に対する課税を基礎としており、下記のように各実定法において具体的な認定規定をおいていることもあり、その具体的な認定については種々の争いが存在するところである。すなわち、本件もその類型に属するものであり、下記のようにいわゆる実質所得者課税の原則(実質課税の原則ではないことに留意、紛らわしいが、租税法規において明文をもって規定しているのは所得の帰属者をこのように名義等によらず実質的な所得の享受に依拠している判断を行うこととしている規定のみであるが。未だにこの部分が怪しい、実質課税と言う文言がまだ実務においては支配的なんだろうか)の適用、による具体的な帰属者の認定が争われた事例であるものとして理解される。

実質所得者課税の原則は、下記のように、主要な租税法規において定められているものであるが、収益の享受をそのメルクマールとしている。課税上、その対象となる所得や収益がいかなる者にあるのか、帰属しているのかという点は、当然のごとくその課税対象を明らかとする上で、重要な判断であり、課税における基本を形成するものである。本規定はその認定における例外規定として理解されるものであるのか、あるいは、租税法規の基本的な立場を確認しているものであるのか否かという点は、議論の余地があるものであるが、その具体的な認定は実務においても重要なものであるものと考えられる。特に本件では請求人が代表者となる法人との間での帰属関係が争われたものであり、我が国における法人成りの現状や、法人における代表者の行為をいかに捉えるべきであるのか(逆に法人の代表者の行為が法人に帰属するものととして扱われる売上除外、交際費・寄付金の問題等も想定されるところであり)、という点からも興味深い事例であろう。近年は、働き方改革に伴い、本件に類似するように(そもそも法人においては役員の専念義務もあるので副業のような存在は難しいかもしれないが)、副業的な行為が発生しううることが想定されるところであり、また、AIのような自動的な作業を構築することが可能な体制もあり得ようが、このような状況を前提とする中で、従前のような所得の帰属関係を判断する原則においてどのような変化が行われるべきであるのかという点は今後の検討課題ではないだろうか。容易に所得分散が図られることがないよう、このような販売取引の行為において如何にして、所得の帰属者を判定するのかという点は明らかとしておくべきものであろう。私見としてはインボイス制度が軌道に乗ればこのような所得関係の帰属関係も自ずと解消されるのかもしれないが、安易な所得分散の誘因は回避し得ないところであり、社会情勢の変動に伴ってどのような所得の認定を基準としておくべきであるのかという点は、より具体的なメルクマールを判断する上で必要となってくるのではないだろうか。

(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用す


(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。

以上のように、本件の中心的な争点は、所得の帰属認定であり、裁決における具体的な認定判断のプロセスは、課税庁における事実認定、判断プロセスとしての基本的な考え方を反映しているものであるように捉えられる。しかしながら本件の具体的な判断においては、法人の業務としているのか否か、帳簿への記載の有無(そもそも帳簿への記載を正直に行っているような状況においては所得の帰属関係が問題になることは少ないだろうし、帳簿への記載と業務の主催者としての判断は関連付けられるものであろうか)、等の判断を考慮事項として、総合的に帰属関係を認定している点が特徴的であろう。法規定は上記のように収益の享受関係をその基礎としており、そもそもこの享受とはいかなるものと解されるのかという点は、必ずしも明らかではないが、収益の享受としては私見としては係る収益の処分関係を基礎として判断されるべきであり、法人の業務としての関係性は補足的な判断材料として認識されるべきものと考えられる。このように、実質所得者課税の原則の具体的な判断材料は必ずしもメルクマールとしては明瞭なものとは考えにくい現状にあるのではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。