さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。 今回は東京地判平成30年1月24日で、 未分割遺産に関する相続税の確定申告を行ったていた原告が、 その更正の請求にあたり、 当初申告における課税訴訟において当該財産の評価額の引下げを確 定判決として得ていたことから、 当該価格によるべきとして請求をなしたことを、課税庁が否定し、 当該基礎となる金額は、 当初申告における評価額を基礎とすべきであるとして拒否したこと を争点としている事例です。
具体的には本件は相続人である原告が他の相続人との間で、 遺産分割協議が整わず、 未分割遺産による相続税の確定申告を行っていたものであり、 別件訴訟により、この当初の申告において、 対象となった相続財産のうち、 取引相場がない株式の評価方法において過大であるとして争ってい たことがそもそも背景にある。当該株式の評価に関しては、 未分割の時点での評価は過大であると認定され、 その評価が引き下げられる判決が確定しており、( この判決の確定により、 財産評価基本通達における株式保有割合の見直しが図られた著名な 判決である、約10億円の相続税負担が軽減されている) かかる判決により、遺産分割協議が最終確定し、 当該判決における評価額に基づき協議が成立したものである。 かかる協議の成立により、 未分割遺産に対して更正の請求を行ったものであるが、 かかる点においてその適用対象となる財産価額において上記判決に おいて確定した価額をもって請求したところ、 当該請求における基礎となる金額は当初の申告における財産評価額 であるべきであり、 更正の請求は認められないとした処分を不服としたものである。 実質的には判決をもって株式の評価額が否定されたものを用いるべ きであるとした課税庁の処分であり、 未分割遺産に対する更正の請求がいかなる意義を有するものである のかという点が起点となっている。 納税者が長期間に渡って課税訴訟において当初の申告における評価 額における争いの末、得た評価額を否定するものであり、 納税者の理解が得られるものではないことは明らかと言えよう。 最終的には、 判示としては別件訴訟における行政事件訴訟法33条1項所定の拘 束力を認め、 当該価格によるべきであるとして納税者の請求を認めているもので ある。
近年は相続を取り巻く環境が多様化しており、 財産分割が申告期限前に確定せず、 未分割遺産の発生は必ずしも珍しいものではない。本件は、 当初申告における財産評価の見直しという極めて珍しい状況が発生 しているものでもあるが、 そして本質的には争い方の問題であるとも言えるが、 本件判断が一般性を持つこととなれば、 かかるような訴訟関係は一般性は困難であり、 未分割遺産に対する財産評価額の判断の根拠が極めて厳格にその対 象となることになり、 取得関係の変化によって価格が変更している場合を除き、 当初の確定申告、すなわち、 下記の55条における価格を基礎として判断することになるものと 考えられる。単に未分割遺産に関する申告として捉え、 評価額は分割協議確定後における更正の請求に多いて修正を図るこ とは非常に困難であることが導かれ、 実務上も留意されるべきものであろう。 そもそも本件のように財産価額が確定判決において大幅な評価額の 変更、減少を伴うような事例は少ないものとも言えようが、 未分割遺産であろうとも当初申告における財産価額の評価は留意さ れるべきであり、 安易な修正は困難であるものとの認識は共有されるべきであろう。 更正の請求において国税通則法におけるものとは異なり、 相続税法特有の後発的な事情を反映させるものとして、 限定的な条件が付与されていることは重要な点であろう。
(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者 は、 次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る 課税価格及び相続税額又は贈与税額( 当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出 又は更正があつた場合には、 当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額) が過大となつたときは、 当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以 内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、 その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求( 国税通則法第二十三条第一項(更正の請求) の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。) をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法( 第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括 遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、 その後当該財産の分割が行われ、 共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課 税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価 格と異なることとなつたこと。
(未分割遺産に対する課税)
第五十五条 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申 告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しく は決定をする場合において、 当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相 続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、 その分割されていない財産については、 各共同相続人又は包括受遺者が民法(第九百四条の二(寄与分) を除く。) の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得し たものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、 その後において当該財産の分割があり、 当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係 る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課 税価格と異なることとなつた場合においては、当該分割により取得 した財産に係る課税価格を基礎として、 納税義務者において申告書を提出し、 若しくは第三十二条第一項に規定する更正の請求をし、 又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。
以上のように、本件の中心的な課題は、 未分割遺産に対する課税とその状況下における更正の請求の特則の 関係性を如何に解するべきであるのかという点であろう。 判示では以下のように、
相続税法は、相続税について、55条で、国家の財源である税収を 迅速・確実に確保する観点から、遺産分割が未了であっても、 相続人は民法の規定による相続分の割合に従って財産を取得したも のとしてその課税価格を計算して申告すべきこととした上で、32 条1号で、後に遺産分割が行われ、財産の取得状況が変化し、 申告又は従前の更正処分に係る課税価格及び相続税額が過大となっ た場合には、国税通則法23条1項の特則として、 同号の後発的事由に基づく更正の請求を認めたものと解される。 したがって、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、 原則として、 遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、 すなわち、 申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りが あったこと等を主張することはできないものと解され(ただし、 遺産分割による財産の取得状況の変化により、 個々の財産の価額が変化するといえる場合には、 この変化は主張し得るものと解される。)、その結果として、 同号に基づく更正の請求上、 課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告にお ける価額となるというべき
原則として、当初申告における価額を基礎としているものであり、 原則的には価格の変化における主張は排斥されるべきものとして解 している。厳格な救済の要件を提示しているものであり、 単に価額の変更をもってその未分割遺産に対する請求を行うことは 困難であることが認識されるべきものと考えられる。 かかるように解釈する根拠はいかなるものであると考えるべきであ ろうか。上記判示は、 制度趣旨を基礎としているようにも捉えられるが、 その根拠としては法文において、 価額変更の局面を限定しておりかかる点がその根拠となろう。 私見としては、かかるような限定は、 課税処分の基本的な性格から、その大量性等に配慮し、 権利救済の方法を更正の請求に限定しており、 また相続税法においては特則をもって対象を明示しており、 基本的に他の方法によることを制限していることからも、 厳格にその要件は解釈されるべきものであると考える。
本件判決は、 当初申告における大幅な訴訟による価額変更を基礎とした事例判決 でもあろうが、上記のような基本的な解釈を背景としつつも、 確定判決の拘束性を認め納税者の権利救済の範囲に対する例外、 救済を図った点で特徴的な事例であるように評価される。
以上です。
毎度の如く論文stockとして作成しているものですので完成度 は低いですが参考までに。