2018年7月24日火曜日

判例裁決紹介(平成29年6月14日裁決、給与所得と事業所得の区分)

さて、また興が乗ったので、判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月14日裁決で、設備業を営む請求人が給与所得者から事業所得者へ転換したとして、事業所得における損失と給与所得を損益通算を求めた事例です。

本件は、給与所得者として勤務していた請求人が年度途中の契約変更により同勤務先から、福利厚生等の都合から業務委託契約を受け、事業を営む形式に変更し、もって事業所得にかかる損失と給与所得の損益通算が認められるか否かが争点となったものである。勤務実態等の変更が事実上なく、実質的に変更はないとして、その事業所得への転換を認めず、もって損益通算を否定した事例であるが、事業所得と給与所得の区分が起点となっているものである。すなわち外注費か給与であるのか否かという点が問題になっているものであり、かかる点は古くて新しい問題として、従前議論されてきているものである。

第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

(給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
法は上記のように、各所得を規定しているが、人的役務の提供という点においては、その具体的な差異は、僅少であり、数多くの裁判事例が積み重ねられてきた。本件も基本的にその類型に属するものであり、事業所得と給与所得の境界において、如何にして事実関係から当てはめが行われているのかという点が興味深い点であろう。法令解釈としては、下記のようになっており、給与所得との区分に関しては、従前の判例を踏襲しており、かかる点からは、本件は基本的に特徴的なものではなく、基本的には事実関係が問題となっている事例である。

「業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。そして、判断の一応の基準として、両者を次のように区分するのが相当である。すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解される」

本件では給与金額の差異がなく、退職共済が継続中であり、、雇用保険等の休止手続は取られ、請負契約が締結されている、損害負担などの事実関係が基本となっており、総合的に判断して、給与所得としての判断が行われているものである。上記の要件に如何なる部分が合致しているのかという点は必ずしも定かではなく、単なる事実関係の指摘にとどまるものであり、総合的判断は、専門家としても境界が定かとは評価し難い状況になろうかと捉えられるところでもあるが、本件ではよく言われる契約書や社会保険の手続等の存在等の事業所得性を肯定する要因を多いところではあり、実務的にも本件判断は示唆されるべきものが多く、有益なものであるように考えられる。年度途中での契約の変更は、基本的に稀であり、本件のように何らかの人的役務の提供が継続している場合においてはたとえ形式的に所得稼得形態を変化していたとしても、多分に実質的な役務提供の形態を判断することが専門家として留意されるべきものであることを示しているようにも捉えられ、私見としては格好のティーチングケースであるように評価される。

以上です。毎度のごとく、論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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