2018年7月14日土曜日

判例裁決紹介(平成29年6月13日裁決、保険金のみなし相続財産該当性、夫婦間における費用負担)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月13日裁決で、共済より受領した金員のみなし相続財産としての該当性が問題となった事例です。

具体的には、被相続人である請求人が相続人であるなき配偶者が結んでいた共済契約に基づく受領した金員につき、課税上の扱いが如何なるものとして捉えられるのかという点が課題となった事例である。すなわち、当該契約の掛け金を実質的に負担しているのが請求人であり、雑所得として帰属するものであるのか、あるいは契約名義通り、負担者は名義人である配偶者であって(実際、名義人である配偶者の生命保険料控除の対象としていた)相続税法に定めるみなし相続財産に該当し、所得税法9条規定に基づき非課税であるのか否かという点が争点となったものである。最終的には支払口座等の名義人から実質的な負担者が被相続人である配偶者ではなく、請求人であることから、課税関係が判断されている事例である。

所得税法9条の適用対象として生命保険に関する二重課税に関しては一時期話題となったが、本件はそもそもとして、当該契約がみなし相続財産に該当するのか否かという点が争点となっているものであり、より具体的には、下記、みなし相続財産に関する規定のうち、負担関係が如何なるものであるのかという点が中心的に争われている。しかるに、基本的には契約に関する資金の出所を中心とした事実関係の争いが基礎となっているものであるが、そもそもとして被相続人が負担するとは如何なる意義に解されるべきであるのかという点が起点となっているものであり、相続税法における保険契約の負担者を以下に認定するのかという点は留意点を示している事例であると言えよう。一般的な納税者の感覚としては、従前の配偶者の申告において当該契約の掛け金に対して生命保険料控除を適用して申告したいたこともあり、その負担者を同じ租税法規の適用の局面において否定的に解されることは、理解しがたいとの考えることもやむを得ない点であり、単に単一の所得税法、相続税法の理解だけではなく、統合的にアプローチすべきものととして実務上も参考となるべきものと捉えられよう。特に本件は、資金の支払い方法に着目しており、名義口座における資金移動関係が重要な認定の要素となっている点も負担関係の認定における実務上の判断において参考となるべきものと評価される。

第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

以上のように本件は、請求人が受領した共済契約に基づく受領金が、被相続人が負担したものとみなして相続財産の適用対象となるのか否かという点が中心的な争点となっており、かかる点により、当該金員に対する所得税法上の取扱等も影響を受けるものである。この具体的な判断基準として掛け金の負担が問題とされているものである。

「生命保険契約においては、契約者は、保険会社に対して保険料の支払義務を負っており、一般的には、払込みの義務を負った保険契約者と保険料負担者が同一になると考えられるが、保険契約者でない者が保険料を負担している場合もあることから、所得、相続の各税法においては、これらの場合を予定して、取得した保険金の課税関係をそれぞれ規定しており、これら規定上の保険料の負担者とは、単に保険契約者をいうのではなく、実質上の保険料負担者をいうものと解される。そして、預貯金口座等からの振替によって保険料等の支払がなされている場合は、その保険料等の実質上の負担者は、特段の事情のない限り、当該預貯金口座等の名義人であると解するのが相当である。」

かかる点につき、判断では、上記のようにみなし相続財産の規定を解しており、当該判断に基づき、主として口座の名義や管理支払関係を基礎とした判断を行っている。そもそもかかる解釈において名義を基礎とした判断を行ったものは如何なる根拠に基づくものであるのか、あくまでも口座は、金銭の出納を標章するものであり、個人課税を原則とする以上、かかる判断の基礎とするものとして一定の合理性があるが、特に課税処分の大量性などの性格に元付けはその判断根拠としての位置づけは一定の理解が行われるものである。しかしながら、民事法における夫婦間の財産関係も(夫婦財産契約等を除く)前提として考えるならば、共同体として連帯的にその負担関係を営むことを鑑みるならば、かかる点において個人課税を貫く形で名義人等を基礎とした判断に依拠していることは、必ずしも妥当と言えるのであろうか。その基礎には従前の家族関係がベースであるように考えられ、本件のように現代社会においては、共稼ぎが通常であって、個人所得課税を基礎とした判断が今後は合理性を持つ可能性もあるが、今後の家族関係のあり方、働き方等も考慮に入れた判断枠組みが必要であるように考えられよう。

また、保険料の負担者は、実質的な負担者をいうものと解されているが、みなし相続財産の趣旨から、その負担関係を基礎としている以上、単なる名義人を排するものであることは合理的であろう。しかしながら、そもそも負担とは如何なるものを指すものであるのか、という点は必ずしも定かではなく、単なる名義人を超えて課税を行う以上、相続税法規が如何なるものを負担と捉えているのかという点はより検討が行われるべきであろう。私見としては、相続税が遺産取得税を基礎とする以上は、相続財産を構成する財産からの出捐が明らかであることが基礎として負担を行っていると解するべきであり、法的な義務の存在等を負担として捉えることは趣旨に反するものであるのではないかと考えられる。かかる点に基づき相続財産の範囲を確定する基準が議論されるべきであろう。

さらに、所得税法における生命保険料控除と負担関係の関係性もまた議論されるべきであろう。保険契約のように比較的長期間に渡り契約関係が発生する契約においては、所得税法において一定の合理性が認められていた処理をもって事実上の判断基準として機能していると理解されてもやむを得ない。実際、上記解釈によれば所得税法における負担と相続税法における負担とは整合性が図らられているように捉えられる。生命保険料控除の適用に関しては実質的にその適用を判断する基準がそもそも曖昧なものである可能性は大いにあり得ようが(この辺は実務家に聞いてみたいところ)、その適用要件と、相続税法、所得税法における負担関係の関係性は更に検討されるべきものではないだろうか。


以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

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