さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。 今回は平成29年4月4日裁決で、 保証債務履行に伴う譲渡所得課税の特例の適用にあたって求償権の 行使可能性が課題となった事例です。
具体的には、 母親の連帯保証人となっていた請求人がその保証債務の履行のため 所有する土地を譲渡して得た所得につき、確定申告後、 保証債務履行に関する譲渡所得課税の特例の適用があるとして更正 の請求を行ったところ、 求償権の行使可能性が存在していないとして否定された事例である 。すなわち当該譲渡所得課税の適用の有無、 適用要件の解釈が課題となったものである。 譲渡により請求人は母親に対する保証債務履行によって求償権を得 ているが後に母親が死亡したことにより、 相続によって求償権が混同によって消滅した状況が発生しており、 かかるような状況の発生を基に、この譲渡時において、 求償権の行使可能性がなかったものとして取り扱われることになる のではないかという視点から、 当該タイミングにおいても求償権が行使不能の状況に会ったのでは ないのか否かという点が争点になっているものである。 行使不能の状況の判断のタイミングや債務超過でありながらも一定 の資産の保有等を前提とした求償権の行使可能性の判断等、 種々の論点を含むものであるが、 この求償権の行使可能性の判断に関しては、 下記のように基本的に貸倒れに関する判断通達を準用していること もあり、 より広い状況においても活用可能な事例でもあると考えられる。
最終的には、 相続により求償権という債権が消滅するものであるが、 このような事後的な状況の発生が前提となって、 納税者においては、 直感的に租税負担を発生させるべき所得の発生が観念されない、 担税力の減少を伴うものであるとして実質的に捉えられる状況にあ るとした判断を行うことは宜なることかなと考えられるが、 このような直感的な状況とは異なる結論が導かれる事例でもあり、 専門家としては留意すべきものを示唆しているだろう。 本件に限らず、保証契約に関する租税負担に関しては、 債務不履行等の事後的な状況が発生することがままあるものであり 、 このような状況を見越して如何にして租税負担において反映させる べきであるのかという点が重要であろう。本件判断は、 このような親子関係、相続、債権の消滅、 後見等の状況も加味された事例であり、 現代の高齢社会における租税負担や家族間での求償権の行使等を検 討する上で参考となるべき事例であるように考えられる。
第六四条 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。 以下この項において同じ。) の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額( 不動産所得又は山林所得を生すべき事業から生じたものを除く。 以下この項において同じ。) の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又 は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部 若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、 政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、 その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこと となつた金額に対応する部分の金額は、 当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
2 保証債務を履行するため資産(第三十三条第二項第一号( 譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。) の譲渡(同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。) があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行 使することができないこととなつたときは、 その行使することができないこととなつた金額( 不動産所得の金額、 事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される 金額を除く。) を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみな して、同項の規定を適用する。
以上のように本件では本件の事実関係において事後的な状況として 、相続により債権の消滅が行われるような状況であり、 これら結果論としての事実関係を踏まえてもなお、 請求人の有する求償権が行使不能であり、 上記保証債務の特例の適用要件を充足しているのか否かという点が 問題となっているものである。
「土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上、 本件特例の適用があるといえるためには、① 債権者に対する保証債務が存在し、② 土地の譲渡が行われその譲渡代金を当該保証債務の履行に充て、③ 当該保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することが できなくなったことの各要件が満たされなければならないものと解 される。そして、上記③の「 求償権の全部又は一部を行使することができなくなったこと」 とは、求償権の相手方たる債務者について、 破産手続開始の決定を受けるか、又は、失踪、 事業閉鎖等の事実が発生したり、 債務超過の状態が相当期間継続して金融機関や大口債権者の協力を 得られないため事業運営が衰微し、再建の見通しもないこと、 その他これらに準ずる事情があるため、 求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になった場 合をいい、これは、 求償権の相手方たる債務者の資産や営業の状況、 ほかの債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に判 断すべきものであると解される。」
具体的な判断としては、 基本的には事実関係が問題になっているものと考えられるが、 上記のように
「求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことを
如何に解すべきであるのか、 その判断枠組みが起点となっているものである。 かかる解釈は基本的に従前と整合的であり、 総合的な判断を基礎として、 法的な債務の消滅に限定されるものではなく、 実質的な判断を許容している点に特徴があるものである。 従ってこの具体的な判断が課題となる。
(回収不能の貸金等の貸倒れ)
51-12 貸金等につき、その債務者の資産状況、 支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった 場合には、 当該債務者に対して有する貸金等の全額について貸倒れになったも のとしてその明らかになった日の属する年分の当該貸金等に係る事 業の所得の金額の計算上必要経費に算入する。この場合において、 当該貸金等について担保物があるときは、 その担保物を処分した後でなければ貸倒れとすることはできない。 (昭57直所3-1改正)
(注) 保証債務は、 現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはでき ないことに留意する。
この点につき判断は以下のように判断し、 上記貸金の貸倒れを基礎とした判断を行う基本通達の立場を準用し ている点を基礎としてかかる点を基準として判断している。 私見としては必ずしも貸金債権と保証債務における求償権( 特に家族間での) に関して類似のものとして判断基準を同一と捉えることには飛躍が あるようにも考えられるが、 執行の便宜等を考慮したものであるのかもしれない。
「基本通達51-12は、
前述の通り、 本件は納税者にとって事後的な状況を反映させるべきであり、 すなわち、 納税者にとっては将来その求償権が行使不能に至るような状況であ ることから、 実質的には発生時点で求償権の行使不能な状況であると認識してい るものであることは明らかであろう。 いわば後付の事実をもってその具体的な主張を支えるものとしてい ることをいかに租税法規において評価するのかという点が問題とな る。つまり判断のタイミングが課題となろう。 法は上記のように譲渡( 同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。) があつた場合において、
としているものであるがこの解釈として如何なるタイミングである のか、という点が課題と言える。本件では、譲渡後、 納税義務の発生時点を基礎としているように捉えられる。 かかるタイミングは他の行使不能を判断する上でも重要となろう。 いわば直感とは異なるような状況が生み出される要因でもあり留意 されるべきものと考えられる。 判断では複数のタイミングにおいて判断が行われているが、 財産状況が変動することも考えれば如何なるタイミングにおいて判 断されるべきであるのかという点は予測可能性の点から確定される べきものといえる。 私見としては譲渡所得が譲渡時をキャピタルゲインを顕在化するタ イミングとしている以上、所得の発生の有無に関わるものであり、 同一時点で判断されるべきものと考えられる。
本件におけるこのような事後的な相続における債務の消滅は、 かかるような処理は納税者の任意によるものであり、 必ずしも消滅という事実関係が求償権の行使不能をサポートする事 実として一般的に評価されるべきものであると捉えることは、 判断において、 後付の状況の反映や納税者の恣意が介在する事になり、 特例の適用によりなかったこととされるキャピタルゲインの顕在化 を基礎として課税する譲渡所得課税の基本的な性格や客観的な状況 を求め租税負担の公平性を要請する基本的な要請に反するものでは ないだろうか。また、 債権の混同による消滅と求償権の行使不能を同一視する点も課題が あろう。あくまでも弁済の一種であるといえる。 加えて判断タイミングにおいて債務超過状態にあることも本件にお いては重要視されていない点も特徴的であろう。 一定の財産の存在・ 運用の状況があることが前提となっているものである( 一定の財産の運用により利益をうる可能性がある以上、 行使不能が客観的に確定しているものとはいい難いとの評価であろ う) が実質的な債務超過を対象とすることを事実上制限しているものと 捉えられ、一定額の財産の幅が必ずしも明らかではなく、 運用等の不確実な状況を前提としており予測可能性を非常に残って いるものと考えられるのではないだろうか。上記のように、 法は法的な権利の消滅等のみならず、 実質的な行使不能も対象としていることからすれば、 かかる点は判断の基準として曖昧な物となっているのではないかと 評価されうるだろう。
また、 本件の特徴としては請求人は保証対象である母親の成年後見人担っ ていたことが挙げられる。 成年後見人としては財産の運用を決定すべき権限を一定程度保証さ れているものであるが、そこには限定もあるのであり、 上記のように債務超過状態における運用の可能性を考慮に入れた判 断においてはかかるような状況も考慮すべきではないだろうか。 近年は高齢社会の到来により、 意思能力制限をうけることは増加傾向にあり、 横領等その財産管理に関しては課題が多く財産の運用においては司 法の関与など制約も発生する。 かかる点においてこのような後見における制約を租税法規において 如何に評価すべきであるのかという点は必ずしも明らかとなってい ない。 民事法の制約を租税法規においてどの程度反映させるべきであるの かという点は、立法の課題であるかもしれないが、 このように高齢社会に対応した法制度の存在は、 今後の租税法規において如何に解釈論として対応することになるの かという点は、より検討すべきであるのかもしれない。
以上です。 毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成 度は低いですが、参考までに。