2018年5月26日土曜日

判例裁決紹介(平成29年4月4日裁決、保証債務履行に伴う譲渡所得課税特例の適用と求償権の行使可能性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年4月4日裁決で、保証債務履行に伴う譲渡所得課税の特例の適用にあたって求償権の行使可能性が課題となった事例です。


具体的には、母親の連帯保証人となっていた請求人がその保証債務の履行のため所有する土地を譲渡して得た所得につき、確定申告後、保証債務履行に関する譲渡所得課税の特例の適用があるとして更正の請求を行ったところ、求償権の行使可能性が存在していないとして否定された事例である。すなわち当該譲渡所得課税の適用の有無、適用要件の解釈が課題となったものである。譲渡により請求人は母親に対する保証債務履行によって求償権を得ているが後に母親が死亡したことにより、相続によって求償権が混同によって消滅した状況が発生しており、かかるような状況の発生を基に、この譲渡時において、求償権の行使可能性がなかったものとして取り扱われることになるのではないかという視点から、当該タイミングにおいても求償権が行使不能の状況に会ったのではないのか否かという点が争点になっているものである。行使不能の状況の判断のタイミングや債務超過でありながらも一定の資産の保有等を前提とした求償権の行使可能性の判断等、種々の論点を含むものであるが、この求償権の行使可能性の判断に関しては、下記のように基本的に貸倒れに関する判断通達を準用していることもあり、より広い状況においても活用可能な事例でもあると考えられる。

最終的には、相続により求償権という債権が消滅するものであるが、このような事後的な状況の発生が前提となって、納税者においては、直感的に租税負担を発生させるべき所得の発生が観念されない、担税力の減少を伴うものであるとして実質的に捉えられる状況にあるとした判断を行うことは宜なることかなと考えられるが、このような直感的な状況とは異なる結論が導かれる事例でもあり、専門家としては留意すべきものを示唆しているだろう。本件に限らず、保証契約に関する租税負担に関しては、債務不履行等の事後的な状況が発生することがままあるものでありこのような状況を見越して如何にして租税負担において反映させるべきであるのかという点が重要であろう。本件判断は、このような親子関係、相続、債権の消滅、後見等の状況も加味された事例であり、現代の高齢社会における租税負担や家族間での求償権の行使等を検討する上で参考となるべき事例であるように考えられる。

第六四条 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生すべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす

 保証債務を履行するため資産(第三十三条第二項第一号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。

以上のように本件では本件の事実関係において事後的な状況として、相続により債権の消滅が行われるような状況であり、これら結果論としての事実関係を踏まえてもなお、請求人の有する求償権が行使不能であり、上記保証債務の特例の適用要件を充足しているのか否かという点が問題となっているものである。

「土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件特例の適用があるといえるためには、①債権者に対する保証債務が存在し、②土地の譲渡が行われその譲渡代金を当該保証債務の履行に充て、③当該保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことの各要件が満たされなければならないものと解される。そして、上記③の求償権の全部又は一部を行使することができなくなったこと」とは、求償権の相手方たる債務者について、破産手続開始の決定を受けるか、又は、失踪、事業閉鎖等の事実が発生したり、債務超過の状態が相当期間継続して金融機関や大口債権者の協力を得られないため事業運営が衰微し、再建の見通しもないこと、その他これらに準ずる事情があるため、求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実になった場合をいい、これは、求償権の相手方たる債務者の資産や営業の状況、ほかの債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に判断すべきものであると解される。」

具体的な判断としては、基本的には事実関係が問題になっているものと考えられるが、上記のように 「求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことを  如何に解すべきであるのか、その判断枠組みが起点となっているものである。かかる解釈は基本的に従前と整合的であり、総合的な判断を基礎として、法的な債務の消滅に限定されるものではなく、実質的な判断を許容している点に特徴があるものである。従ってこの具体的な判断が課題となる。

(回収不能の貸金等の貸倒れ)

51-12 貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、当該債務者に対して有する貸金等の全額について貸倒れになったものとしてその明らかになった日の属する年分の当該貸金等に係る事業の所得の金額の計算上必要経費に算入する。この場合において、当該貸金等について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとすることはできない。(昭57直所3-1改正)
(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
この点につき判断は以下のように判断し、上記貸金の貸倒れを基礎とした判断を行う基本通達の立場を準用している点を基礎としてかかる点を基準として判断している。私見としては必ずしも貸金債権と保証債務における求償権(特に家族間での)に関して類似のものとして判断基準を同一と捉えることには飛躍があるようにも考えられるが、執行の便宜等を考慮したものであるのかもしれない。
「基本通達51-12は、法律上債権は存在するがその回収が事実上不可能である場合、すなわち債務者の資産状況、支払能力等からみて、その債務者に対して有する貸金等の全額が回収できないことが明らかになったと認められる場合において、その貸金等の全額を貸倒れとすることができる旨定めていることから、本件特例における適用については、債務者の資産状況、支払能力等からみて、その債務者に対して有する求償権の全額が回収できないことが明らかになったと認められる場合において、求償権の行使が不能であるとすることができるものとして取り扱われることになると解される」

前述の通り、本件は納税者にとって事後的な状況を反映させるべきであり、すなわち、納税者にとっては将来その求償権が行使不能に至るような状況であることから、実質的には発生時点で求償権の行使不能な状況であると認識しているものであることは明らかであろう。いわば後付の事実をもってその具体的な主張を支えるものとしていることをいかに租税法規において評価するのかという点が問題となる。つまり判断のタイミングが課題となろう。 法は上記のように譲渡(同条第一項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、 としているものであるがこの解釈として如何なるタイミングであるのか、という点が課題と言える。本件では、譲渡後、納税義務の発生時点を基礎としているように捉えられる。かかるタイミングは他の行使不能を判断する上でも重要となろう。いわば直感とは異なるような状況が生み出される要因でもあり留意されるべきものと考えられる。判断では複数のタイミングにおいて判断が行われているが、財産状況が変動することも考えれば如何なるタイミングにおいて判断されるべきであるのかという点は予測可能性の点から確定されるべきものといえる。私見としては譲渡所得が譲渡時をキャピタルゲインを顕在化するタイミングとしている以上、所得の発生の有無に関わるものであり、同一時点で判断されるべきものと考えられる。

本件におけるこのような事後的な相続における債務の消滅は、かかるような処理は納税者の任意によるものであり、必ずしも消滅という事実関係が求償権の行使不能をサポートする事実として一般的に評価されるべきものであると捉えることは、判断において、後付の状況の反映や納税者の恣意が介在する事になり、特例の適用によりなかったこととされるキャピタルゲインの顕在化を基礎として課税する譲渡所得課税の基本的な性格や客観的な状況を求め租税負担の公平性を要請する基本的な要請に反するものではないだろうか。また、債権の混同による消滅と求償権の行使不能を同一視する点も課題があろう。あくまでも弁済の一種であるといえる。加えて判断タイミングにおいて債務超過状態にあることも本件においては重要視されていない点も特徴的であろう。一定の財産の存在・運用の状況があることが前提となっているものである(一定の財産の運用により利益をうる可能性がある以上、行使不能が客観的に確定しているものとはいい難いとの評価であろう)が実質的な債務超過を対象とすることを事実上制限しているものと捉えられ、一定額の財産の幅が必ずしも明らかではなく、運用等の不確実な状況を前提としており予測可能性を非常に残っているものと考えられるのではないだろうか。上記のように、法は法的な権利の消滅等のみならず、実質的な行使不能も対象としていることからすれば、かかる点は判断の基準として曖昧な物となっているのではないかと評価されうるだろう。

また、本件の特徴としては請求人は保証対象である母親の成年後見人担っていたことが挙げられる。成年後見人としては財産の運用を決定すべき権限を一定程度保証されているものであるが、そこには限定もあるのであり、上記のように債務超過状態における運用の可能性を考慮に入れた判断においてはかかるような状況も考慮すべきではないだろうか。近年は高齢社会の到来により、意思能力制限をうけることは増加傾向にあり、横領等その財産管理に関しては課題が多く財産の運用においては司法の関与など制約も発生する。かかる点においてこのような後見における制約を租税法規において如何に評価すべきであるのかという点は必ずしも明らかとなっていない。民事法の制約を租税法規においてどの程度反映させるべきであるのかという点は、立法の課題であるかもしれないが、このように高齢社会に対応した法制度の存在は、今後の租税法規において如何に解釈論として対応することになるのかという点は、より検討すべきであるのかもしれない。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。


2018年5月19日土曜日

判例裁決紹介(平成29年8月21日裁決、中間取引の実在性、調査終了時の手続)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は不動産取引における保有資産を仲介業者等を経由させて実質的に損だしを行っていることを、否定すべく、当該中間取引の真実性を否定することで対応しようとした事例です。

具体的には、不動産取引業を営む請求人が不動産取引につき、仲介業者等への売却を行い、もって中間的な取引が経由することで損だしが行われているような状況であり、一連の取引の真実性はなく、その実質において中間取引を否定した課税庁の判断につき適否が争われている事例である。関連する取引においては、実質的経営者や配偶者などの多様な利害関係者が絡んでくる取引であり、課税庁が主張するように、その取引に対する実質的な存在を疑われたとしても致し方ないような本件の事実関係であるが、最終的に課税庁の主張する取引の真実性否定が排斥されている状況であり、判断としては取引の存在は認めている。後述するように、調査手続等の争点も含むのが本件ではあるが、その課税庁が主張する実質的な取引に対する租税法規としての評価とその実在性を肯定した事例として本件は特徴的でもあり、かかる点において、如何なる点をもって事実関係としてその実在性を裏付けているのであるのかという点は、参考となるべき事例であるように考えられる。

一般に本件において争点とされるような租税法規においてその対象となる取引の真実性が否定されるような状況は、基本的に租税回避との境界線、いわば仮装取引(いわゆる通謀虚偽表示)に基づく、取引の真実性(無効)との議論とよく課税庁が主張する実質課税の原則(最近はこのような原則の存在は正面から語られることは少なくなっているようであるが、約10年前までは、税大のテキストにおいても実質所得者課税の原則の部分を実質課税の原則として紹介されていた)が語られることが多いものであるが、その適用範囲は明確ではない(実際の現場においてはどのように用いられているものであろうか、この点は実務家に聞いてみたいところではある)。この点の混在があるように考えられる。租税負担の公平性を基礎としている租税回避行為への対応と通謀虚偽表示によって当該取引の真実性が失われているような状況(そもそもとしての取引は無効)とは理念的に異なるものであり、現状はその混在、概念的に区分がなされていないようにも考えられる。本件でも実在性を議論対象としているが、その対応は、従前と基本的に変わらないものといえよう。租税回避行為に関しては、実際の取引としては異常な法形式を採用しつつも基本的にその取引の真実性が疑われるものではなく、租税負担の回避等を図っているものであり、私法上の選択可能性の濫用的な取引である。この濫用を如何にして対応して行くのかという点が課題であり、租税法律主義に関する基本的な要請としては、同族会社の行為計算否認の規定など、個別的な否認規定の存在等の法的な根拠を当該行為の否認には必要なものであると解すべきであり、実質的な課税という不明瞭な取扱をもって対応すべきものではなく、概念的に明瞭に区分される必要があろう(最も実際の取引においてその区分が必ずしも容易ではないことも重要な点であろうが、かかる点は一般的な否認規定の存在などをもって対応すべきものであり、実質課税のような納得の良い文言で対応すべきものではないだろう(法的根拠の曖昧な状況ではなく)、私見としては、具体的な適用要件、その定義は議論の余地があるものの、現在の複雑な租税回避の存在を前提として捉えるならば、具体的な判断方法を定めるなどして、同族会社の行為計算否認の拡張など一般的な否認規定の存在は法的根拠として導入が図られるべきものとも考えられる。

本件においても低額な取引を初回において請求人が行っており(約1/5の金額)、かかる点が異常な取引(経済的に異常ではあるが、金額の操作という点では特段、珍しいものではないが)であり、着目されたものであろうが、金銭のやり取り、所有権移転登記の存在等、客観的に取引の実在性を否定するような状況ではなかったことが本件の課税庁の判断を否定している点であろう。課税庁の主張の根拠は、取引当事者の証言において、中間の仲介者にあったこともないとの証言が基礎となっている点は、客観的な上記資料を否定するものとしては主観的な要因に依拠しているものと評価せざるを得ない。最終的には、下記のように法人税法22条の規定を活用して適正な時価をもって取引したものとして、取引の価額を修正し、実際の取引価額に近似させることで損だしの経済的な効果を否定している。この判断は、法人税法の特徴でもあり、実際の取引内容よりも経済的な成果を反映させる下記22条2項の規定を活用した本件判断は法人税法の本質を理解した判断であるだろう。このような取引価額の操作は古典的なものであり、実際の対応方法としては低額譲渡(下記規定は無償譲渡の規定であり、解釈上低額譲渡にまでその適用が及ぶかは争点となりうるが、公平負担の観点から、かかる部分まで対応してると解すべきであろう。最新の法改正においてはこの取引価格の算定は価額によるべきものとされており、立法的に解決されているものと考えられるが)として修正を行い、差額部分を寄附金として取り扱う、非常にオーソドックスな対応方法としてなっており、本件としては、ティーチングケースとして、このような対応を併記している点は参考となるべきものといえよう。

法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定している

法人税法第22条第2項は、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額の一つとして、無償による資産の譲渡に係る当該事業年度の収益の額を規定しているが、これは、法人が資産を他に譲渡する場合は、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識されるからである。そうすると、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡の場合でも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的 価値が認められるものであるから、益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと当該資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である。

以上のように本件の中心的な争点は請求人がなした取引の真実性が、実在性として、中間売買の不成立が問題となっているものであり、最終的には低額譲渡しての取扱を行っているものである。当初の課税庁の主張とは異なる判断が行われており、不服審査として適切な納税者の主張が行われているのかという点は疑問の余地があるが、争点主義・総額主義の観点からも古典的なケースではあるものの、裁決段階では、課税庁の主張は一貫しており、これに対する反論の機会は一定程度、担保されているようにも考えられる。もし課税庁が主張事実が変更されていれば、本件の理由附記、調査終了の際の説明の課題がより課題となってくるだろう。

特に調査終了の際の手続の際の説明に関して、本件は興味深い点を提供している。具体的に本件は、請求人の実質的な経営者に対して当該修了手続としての説明を実施している。この説明対象としての妥当性、調査手続としての瑕疵の存在の評価が課題となっているものである。

この調査終了の手続は下記のように平成23年の税制改正によって導入されたものであり、まだまだその位置付け、議論すべき点、法的な評価等が必ずしも定まっているとはいい難い(この点について特に説明義務について議論したものとして拙稿参照)。かかる点において本件は具体的な対象者として実質的な経営者のような存在への説明を行ったことが如何に評価されるべきであるのか、瑕疵として捉えられるべきものであるのかという点において課税庁の考え方を理解する点で参考となるべきものと考えられる。実際においてこの調査終了の際の手続が如何になるように運用されているのかという点は実務家の意見を聞いてみたいところであるが、いかがだろうか。


(調査の終了の際の手続)
第七十四条の十一 税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等(第三十六条第一項(納税の告知)に規定する納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)を含む。以下この条において同じ。)をすべきと認められない場合には、納税義務者(第七十四条の九第三項第一号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる納税義務者をいう。以下この条において同じ。)であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする。
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。
3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。
4 前三項に規定する納税義務者が連結子法人である場合において、当該連結子法人及び連結親法人の同意がある場合には、当該連結子法人へのこれらの項に規定する通知、説明又は交付(以下この項及び次項において「通知等」という。)に代えて、当該連結親法人への通知等を行うことができる。
5 実地の調査により質問検査等を行つた納税義務者について第七十四条の九第三項第二号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への第一項から第三項までに規定する通知等に代えて、当該税務代理人への通知等を行うことができる。
6 第一項の通知をした後又は第二項の調査(実地の調査に限る。)の結果につき納税義務者から修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付があつた後若しくは更正決定等をした後においても、当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、第七十四条の二から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定に基づき、当該通知を受け、又は修正申告書若しくは期限後申告書の提出若しくは源泉徴収による所得税の納付をし、若しくは更正決定等を受けた納税義務者に対し、質問検査等を行うことができる
上記のようにこの調査終了の際の手続に関しては平成23年における説明責任の強化を企図した税制改正により導入されたものである。但し、私見ではあるが、必ずしもこの説明責任という基礎的な目的が如何なる法的な責任を指しているのか定かではなく、単なる目標的なものを表すものであるのではないかとして具体的な解釈の指針として機能するものであるのかは議論の余地があるものと評価される。いずれにしても、この手続の租税法規における位置付けは従前の調査手続きに関する議論との延長線上にあるのか否か等、その具体的な性格は必ずしも明らかとなっていないものと考えられる。

判断では手続き上の瑕疵として実質的な経営者(そもそもこれがどの程度の位置付けであるのかという点は様々な状況が想定される)への説明が該当するとしても、課税処分の効力において如何なるものと捉えられるのかという点から検討を行っている。すなわち、従前の手続上の議論としても行われたように、一定の瑕疵が会ったとしてもその瑕疵が重大なものがあった場合においてのみ課税処分の無効性が問われるものと解されるものであるという点に依拠して、重大な瑕疵としての評価とはなりえない(確かに実質的な経営者に対して行っておれば、重大な瑕疵として評価することは困難であろう)として課税処分の有効性を判断している。しかしながら、課税処分の手続として、かかるような新規の改正により導入された手続の性格が如何なるものであるのか、従前のものと基本的に同一であるのかという点がまずは検討されるべきであろう。かかる点からの検討が実施されていない。私見としては、そもそもの前提となる質問検査の基本的な趣旨は変更となっているものではなく、租税負担の公平性を担保すべき制度であり、この点において基本的な性格は変わっておらず、、また調査手続きにおいては様々な調査が導入されており、明示的な法的な評価に関する規定や判示が存在しない以上、一律に瑕疵をもって当該処分の効力を失する状況となることは均衡に反するものと考えられるため、当該制度にいても従前同様瑕疵が会った場合においてもその重大性に対する一定の制限、より限定的な制限が付与されているものと解すべきものといえる。しかるに本件のように重大な瑕疵の不存在というテストを挟むことが妥当であるように考えられる。この点は上記のようなスローガン的な改正趣旨をもってして(おそらくは説明責任の強化は、反論の機会の確保において一定の担保されていることを保証するものと解すべきであろう)も変化するものと捉えることは困難であろう。もちろん、改正の趣旨をより適格に反映させるためには、当該手続の瑕疵が、処分の適格性を損なうものであるという主張もあり得ようことは想定される。

しかしながら、この重大性を如何に評価すべきであるのかという点は、議論の余地がある。従来この重大性に関しては刑罰法規との状況など極めて重大な瑕疵に関するものが判示においては明らかにされているが、如何なる程度が法的な保証として機能するものであるのかという点は必ずしも定かとなっていないものと考えられる。本来ならば改正の趣旨目的から具体的にその性格が議論されるべきであるが、上記のようにその点は必ずしも定かとなっていない。私見としては手続の相互関係、特に、終了後、更正等においては理由附記の制度が担保されていること等の点も鑑みれば(かかる点からは、この手続における瑕疵は治癒の余地が大きいだろう)、勧奨等への対応や法的な安定の確保等一定の反論の機会の保障を確保することと捉え、その重大性を検討することは可能であろうが、かかる点はより検討が必要であるようにも考えられる。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。





濱田 洋

2018年5月8日火曜日

判例裁決紹介(平成29年6月26日裁決、相続により取得した財産の取得費)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成29年6月26日裁決で相続により取得した財産を譲渡した際における取得費として相続税評価額を適用すべきであるとして争った事例です。

具体的には、請求人が他の相続人と共同で相続した土地を譲渡した場合において、取得費として収入金額の5%ルールを適用して申告し、更正の請求として相続により取得したものであり相続税評価額をもって取得したものとすべきであると主張して提起した事例である。すなわち譲渡所得におけるキャピタルゲインを算定する基礎として取得費が以下に考えられるべきであるのかという点が基本的な争点になっているものである。

取得費が如何なるものであるのかという点は、その範囲として登録免許税を含むか否か等、種々の論点が提起されてきており、本件はその一類型に属するものであるが、本件は財産を取得したものとして相続を捉え、取得費として主張しているものである(但しこのように考えれば、相続税と所得税の二重課税の課題が通常は出てこようがその部分は主張されていない。)。遺産取得税を基礎とする相続税の性格から鑑みれば一定の理解が可能であるものであるが、このような主張は基本的に立法によりその性格が下記のように明らかとされており、実質的に取得に相続を含んでいないものとして、取得費を引き継ぐことになっているしかるに、本件のより詳細な争点として5%のルールの適用の是非があろうが、かかる点に関してはその合理性が問われたとしても、直接的に相続税評価額を取得費とすべきとする論拠にはなりえず、かかる点において、総合的に本件の主張の整合性は疑問も多い。いずれにしても本件の主張のように遺産取得税としての性格を強調して、譲渡所得税における取得費として相続税評価額を活用することは立法論として主張を受けることが多いものであるが(この書き方のように私は生命保険における二重課税の問題も含め、課税対象を異にするものであると評価しているが)、法令解釈としてこのような取得費としての意義を採用することは些か困難であろう。但し、一般的な納税者の思いとして、財産を利用するにあたって相続税を必要としており、実質的な取得費ではないのかという素朴な思いを持つことは容易に理解できよう。かかる点につき、本件は解釈論としてというよりは、相続税と譲渡所得課税を中心とした所得税との関係(特に二重課税)をより検討する上で参考とすべき事案であると評価されよう。


第三三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

第三八条 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。

以上のように、本件の中心的な争点は上記所得税法に定める、取得費が如何なるものであるのか、特に、相続により取得した(便宜的にこのように称するが)財産の取得費が如何に評価されるべきであるのかという点が課題となっている。本件で直接的に問題になる相続等による取得費については、確認的に(下記の法規が確認的であるか否かという点は、生命保険に関する二重課税の課題を起点としている)所得税法において明示されており、所有関係が継続していたものとみなして課税することとされている。いわばキャピタルゲインを課税することを譲渡所得課税の本質として捉えているゆえの処理であり、この理解が本件においてはまずは留意されるべきものと考えられる。

第六〇条 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす
一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
二 前条第二項の規定に該当する譲渡
 居住者が前条第一項第一号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす

私見としても、上記規定はみなし規定としてその趣旨からも明確であり、解釈上の例外を認めるものではないことは明らかであるものと考えられる。通達においてもその適用関係が下記のように示されており、相続により取得した財産の取得費に関しては一定の解決が図られているものと考えられる。しかるに、このみなし取得関係において、如何なる取得費が形成されるべきであるのかという点が基礎的な課題となることになるものといえよう。故に、下記の通達の処理により昭和28年以降の財産の取得関係においていわゆる5%ルールの適用があるとした解釈が合理的であるならば(この点に関しては以下のように必ずしも論理的な根拠を背景としているものではないものとも考えられるが)、本件判断の示した当該取得費として5%ルールにより算定していることは、必ずしも否定されるべきものではない。このように考えるならば、本件判断は妥当であろうが、あくまでも差し支えないとした通達を根拠としたものであり、必ずしもキャピタルゲインに対して適切に課税を行うことを企図した制度としての譲渡所得課税の本質と取得費の関係が示されておらず、立証のプロセスが課題ともいえよう。

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継続保有とみなし規定の存在から、相続税評価額を取得費とすることは、取得の意義を非常に広範囲に捉えているものといえ、上記規定の成立過程から鑑みれば、またキャピタルゲインを課税対象とする譲渡所得課税からは、整合性が取れないことは明白なものと考えるが、近年、非常に大きな課題とされた所得税と相続税の二重課税の調整の課題においては、課税対象は異なるものの、その課税物件は基本的に共通しており、二重課税として捉える評価が成立する余地もあり得よう。すなわちこの二重課税との関係において、立法論として取得費の調整との視点は、今後の課題として理解されるものであり、かかる検討は我が国における相続税の基本的な課税根拠と譲渡所得課税の本質との対比・理解において重要な検討課題であるように捉えられる。

第三十一条の四 個人が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第三十八条及び第六十一条の規定にかかわらず、当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第三十八条第二項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額
2 第三十条第二項の規定は、前項の規定を適用する場合について準用する。この場合において、同条第二項本文中「山林」とあるのは「第三十一条の四第一項に規定する土地等又は建物等(以下この項において「土地建物等」という。)」と、同項ただし書中「山林」とあるのは「土地建物等」と読み替えるものとする。

以上のように、本件は、上記租税特別措置法の5%ルールの適用範囲を拡張した下記通達の合理性を認め最終的に課税庁の判断を肯定している。

31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。

「措置法第31条の4第1項は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び同法第61条の規定にかかわらず、概算取得費とする旨、ただし、概算取得費が実額取得費に満たないことが証明された場合には、実額取得費とする旨それぞれ規定している。 このように、措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地に適用されるものであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地の取得に要した金額が不明である場合、同項の規定が適用されないために取得費が零円となるとするのは不合理であり、また、この場合に同項の規定に準じて取得費を計算しても納税者の利益に反することもない。そのため、措置法通達31の4-1は、昭和28年1月1日以後に取得した土地の取得に要した金額が不明である場合においても、措置法第31条の4第1項の規定に準じて計算して差し支えないものとする旨定めているところ、このような措置法通達31の4-1の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。」

しかしながら、この実務上の便宜等による5%ルールの適用範囲の拡大は、納税者にとって不利益はないとの指摘から法令規定を拡張しているものである。裁決である以上、当然のことかもしれないが、この不利益はない旨等の根拠を支える事実関係が必ずしも明白ではなく、当該措置の合理性を支えるものとして評価し難い。実務上は問題とならないものであるのかもしれないが、便宜的な処置として法令の適用範囲を拡張的に解することは租税法研究者として違和感を覚える点は否めない。本当に不利益は生じない、不利益を救済する措置は確保されているものであるのであろうか。そもそも法がその適用範囲を区切った趣旨を考慮した上で、執行や実務上の便宜性との均衡において評価されるべきものではないだろうか。譲渡所得課税におけるその所得金額を算定する場合において、取得費がその投下資本を表し、具体的な所得金額を計算する上で、重要なものであることは否定し難いものであり、このような便宜的な取扱を肯定することは杞憂であるのかもしれないが慎重にあるべきではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

濱田 洋