2018年4月28日土曜日

判例裁決紹介(平成29年8月23日裁決、医業収入の計上漏れと重加算税の不成立)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。
今回は平成29年8月23日裁決で医業収入の通帳提示が行われなかったことによる計上漏れが、重加算税の仮装隠蔽の対象として認められなかった事例です。

具体的には、本件は、医師としての業務を営む(産業医としても)請求人が当該収入の一部を申告せず、かかる対応が重加算税の対象となる仮装隠蔽に該当するものであるのか否かという点が問題になっているものである。かかる収入の計上漏れは請求人が通帳の提示を税理士への依頼による確定申告書作成への依頼時、また調査時において、提示を求められるまで、行わったことによって発生したものであり、このような収入の計上漏れが租税法規に定める附帯税の対象となりうることは、多様かつ大量の事例が存在しており、本件も上記請求人の行為が、仮装隠蔽に該当するものであるのか否かという点を基本的な争点としており、同類型の事例であるといえよう。但し、本件は課税庁が主張する仮装隠蔽の成立が、裁決段階ではあるものの、否定された事例であり、レアなケースでもあろうし、特に典型的な収入の計上漏れという事実関係において、如何なる点が根拠となって重加算税の成立要件たる仮装隠蔽の認定が否定されたものであるのかという点は、判断プロセス、具体的な事実関係の双方において、参考となるものと考えられる。
いずれにしても、重加算税の成立、仮装隠蔽の認定に関しては当該制度趣旨、法令解釈が基礎となっているものであり、本件はその参考としても有益であるものと評価されよう。
第68条  国税通則法
  1. 第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(同条第五項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
  2. 第66条第1項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書又は同条第5項若しくは第6項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
以上のように、本件の中心的な争点は請求人の行為が仮装隠蔽と評価しうるものであるのか否かという点にある。すなわち本件の意義としては具体的な事実関係として重加算税の成立要件に合致しているものと評価しうるかという点が中心的な争点であり、事実関係への評価が特徴的であるが、本件の起点となっているものは重加算税の要件、すなわち上記、国税通則法68条に定める仮装隠蔽が如何なるものと解されるのかという点が起点となっているものと考えられる。もちろん他に成立要件として、隠ぺい対象となる計算の基礎が如何なるものを対象としているのかという点なども検討課題ではあろうが、本件の用に収入金額が所得を計算する上で重要であるのは特に異論がないものであろう。

本件においても以下のようにリーディングケースである判例を基礎として、以下のように用いている。
具体的には、
「通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。」
として、重加算税の基本的な趣旨を不正行為に対する悪質な行為の防止ともって公平な租税環境を形成することにあるとしている。
さらに、重加算税の基本的な要件として以下のように解している。

「したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解される(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁)。 」

として基本的に解している。故に基本的な解釈として特段特徴的なものではないが(条文構造において行為と申告の両方を要求しているとも、限定されるものではないとも考えられようが)、本件における判断の前提として、「 当初から所得を過少に申告することを意図 」として当初段階での意図・意思の存在をという点に起点が置かれている。この点に関する事実関係の判断において仮装隠蔽の意図が当初段階から成立し得ないとの判断(上記判示によればこの点が客観的に確認し得ることも重要となっているものであるが)、重加算税の成立を退ける結果となっている。この当初段階での意図の存在は如何なる所以をもつものであろうか。この当初段階は、不正の発生のタイミングを左右するものでもあり、重加算税の起点となるものであると考えられる。法条文においてはこのような当初という段階を明示的に示す文言は存在していない。しかるに如何なる所以をもってこの当初段階での意図・意思の存在が要件となるものであろうか。

最終的に排斥されているが、課税庁の主張段階では、この仮装隠蔽の起点と判断していた未提示の通帳の存在に対して、確定申告書の作成(税理士への依頼)段階での未提示と課税庁における調査段階での未提示(最終的に課税庁からの求めにより提示)の2つの段階において、その意図の存在を主張している。しかるにこの2つの場合において、「当初段階」とは如何なる段階であるのか、という点が必ずしも明示的に表現されていない(いずれも法に定める申告行為であろう)。すなわちこの当初段階を如何なる意義を有するものとして解するべきであるのかという点が判別し難い。このように考えるならば、重加算税の要件は他の附帯税と比して必ずしも明示的でもないものと評価し得よう。

そもそも仮装隠蔽の行為自身が様々な態様を含むものであり、明示的なタイミングを明らかにすることは困難であるものであろうが(しかるにこの具体的な行為を如何にかするべきであるのか、本件のように通帳の未提示であっても仮装隠蔽とは評価し得ないような状況もあり得ることであり、この峻別が非常に難しく、事実上、この当初からの意図の存在を客観的に確認できることが仮装隠蔽の具体的な意義になるものと考えられるのではないだろうか。、行為の当初段階から強くその逋脱等の不正に該当するような意図を行為者において要求していることは重加算税の特徴と考えられよう。そもそも租税法規において重加算税は他の附帯税とは異なり、逋脱等の不正行為に属するような重大な行為に対する負担として設けられているものであり、行為の前提として意思の存在を想定することは一定の合理性があると考えられる。しかしながら行為自身が多様であり、租税負担の回避等をどのタイミングで行ったものであるのか、起点となるべき時点を明らかにすることが必ずしも一義的に定まるものであろうか。本件では最終的に二時点共にその意図の存在を否定されているものであるが、重加算税の趣旨目的は他の附帯税とは異なり、積極的な不正行為を対象としている以上、その適用対象を厳格に捉えるべく、日々多様な行為が行われる状況において具体的な意図を伴う行為を抽出するべく、解されているものと捉えられよう。すなわち、他の附帯税とは異なり、期限後、過少申告などの申告行為を対象とするものではなく、重加算税はその前提となる行為自身の不正に対する負担を企図しているものであることから、必然的に当初段階から租税負担の回避を意図していることを要求して重加算税の適用対象を限定しているものと理解するべきであろう。突き詰めれば刑事罰との峻別が困難な領域でもあり、かかる点は重加算税の特徴として留意されるべきであろう。


以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年4月13日金曜日

判例裁決紹介(名古屋地判平成29年6月29日、スワップと混蔵寄託の複合取引と譲渡所得の発生)

さてまた興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は名古屋地判平成29年6月29日で、金地金のスワップ取引と混蔵寄託の複合的な取引における譲渡所得の発生が問題となっているものです。

具体的には、原告が保有する金地金を貴金属製造販売会社に対して購入保管に関する契約を行う際に、行った保有している金地金と市場取引による金地金のスワップを組み込んでいる契約形態において、当該スワップ(交換)の時点で譲渡所得が発生したとして課税庁が更正処分を行ってことに対して、当該交換は寄託に便宜のための付随行為であり、経済的には価値がなく、同種同僚の交換であって資産の譲渡には該当しないとしてその取消を求めたものである。金地金の取引においてその取引対象物の性格上、盗難等の対応のため自宅等での保管ではなく、寄託等をもって保管契約を行うものであるが、本件は所有主が保管物に対して所有権を留保した上で預ける混蔵寄託を採用しており、実質的には所有権の変動も伴っていない状況であるが、かかるようなスワップと寄託の複合的な取引に対する租税法規における評価が課題となっている事例である。中心的な争点は、下記のように所得税法33条に定める譲渡所得の発生があったのか、という点である。特殊な金地金における取引慣行を反映した事例であり、当該原告がなした契約の事実関係が以下に評価しうるものであるのかという点が中心となっているが、その中で、スワップ契約を挟んでいるものであるが、このような金融商品として高度な(印象)取引を組み込んでいるものであるが、基本的に民事法に定める寄託(今後はこの性格も民法改正で如何になるのかという点は租税法規においても本件とは直接的な関連はないものの派生的な検討を行う上で重要であろうが)と交換を組み合わせた複合的な取引の存在を本件はその起点としており、かかる契約における内容が本質的な争点であり、その所得税法上の評価、譲渡所得との対応が問題と考えられる。

金融取引はその性質上、契約内容により多様な法的形式・契約構成により、目的とする経済的成果を達成することが可能であり、売買の繰り返しによる資金の貸付と同様の形式を生み出すような状況(レポ取引やイスラム金融等が対象)等、金融取引としての運用の一形態として実務的な慣行が発生しており、もちろん金融取引以外においてもこのような複合的な取引は形成されるものであるが(交換による売買等)、契約自由の原則が基礎となる民事法の取引評価のみならず、租税法規において如何にしてこのような取引に対して法規の適用を行っていくべきであるのか点が背景にあるものとして理解されるべきであろう。本件は上記のようにこのような金融取引特に金地金の取引における特殊な複合的な取引における譲渡所得の発生を問うものであるが、複合的な取引において如何にして分解し、譲渡所得の発生を認めるのかという点において課税庁の主張を認めた本件判示は参考になるものといえよう(譲渡の意義をより具体的に表すという意味でも)。


所得税法
(譲渡所得)
第三三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得

以上のように本件の中心的な争点は対象となった契約による所得税法33条における譲渡所得の要件たる資産の譲渡に該当するような取引が行われているのか否かという点である。判示ではまず、以下のように、従前の最判を引用し、譲渡所得の本質的な性格をキャピタル・ゲイン、保有期間における値上がり益として捉え、資産における支配の移転があったタイミングをもってさらには、かかるような資産の移転にかかる一切の行為をその対象として解している。すなわち譲渡等の所有権の移転にかかわらず、キャピタルゲインを課税対象としていることから移転のタイミングを包括的に課税することとしている。私見としてもこの点は異論がないところでもあり(かかる解釈から財産分与もまた所得課税の対象となることになるが)、包括的に課税対象を構成する我が国の現行所得税法とも整合的であって肯定されるべきものと考えられる。

判示では、下記のように最判を基本的に引用し、譲渡所得の基本的な性格を捉えた上で、従前と整合性をとっており、資産の譲渡は上記のように広範囲における取引契約を対象としている(例えば財産分与等)ものと解されるべきである。すなわち資産の譲渡の概念は所得税法において固有概念として捉えられることになるが、ここで問題となるのが、資産の移転(支配の)とは如何なるものと捉えられるのかという点である。本件でもスワップにより金地金の対象物は変更されているが(同種同量であるが)所有権は維持されており、如何なる意義をもって資産の移転が捉えられるべきであるのかという点はより検討が必要となろう。キャピタルゲインとしての考え方によれば、支配の移転をもって資産の移転と捉えられるものとも言えようが、そもそも対象となる資産が多様であり、支配という概念も必ずしも明示的ではないものといえる。下記判示の後半部分では、現実的な執行にも配慮して未実現の利得は課税対象から排除して、実現した時を課税のタイミングとしており、しかるに抽象的な利得段階では対象としていないことを鑑みるに、実現した段階をもって資産・支配の移転があったものとも解し得よう。但しこの部分では実現という用語が使用されているが、かかる部分が会計学における実現概念との混同を生じるとの懸念もある(同一であるのか具体的な差異も明らかとなっていない)。そもそも会計学における実現概念自身もその具体的な意義を明らかとしているものであるのか定かではないが、この実現という用語自身の具体的な意義も示されておらず、法的概念としても、また指針としても、甚だ心許ない。最終的な判示引用からも対価の受入れをもって具体化されるとの判断を行っていることからも、支配の移転は抽象的な利得段階からキャピタルゲインとして具体化されていることを意味するものと考えるべきではないだろうか。かかる点により一定程度執行の便宜も考慮した今日の資産の譲渡の意義として整合的ではないかと考えられる。対価の流入が一つのメルクマールとして具体化を表すものであることは下記最判においても明示的であり、対価の認定、対価の流入を伴わない他の場合における価値の具体化を如何にして認識するべきであるのかという点が今後の課題となろう。換言すれば、資産の譲渡とは、資産の移転及び価値の具体化の二要件が譲渡をしての要件となり、譲渡所得の発生を判断するものと考えられ、本件におけるスワップによる価値の具体化がありうるものであると評価しうるのかという点が本件の事実関係、契約関係において、評価が行われることになる。

譲渡所得の本質は、資産の値上がりにより当該資産の所有者に帰属する増加益(いわゆるキャピタル・ゲイン)であり、譲渡所得に対する課税は、上記増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要せず、所得税法33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解すべきである〔最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、昭和50年判決参照〕。そして、資産の値上がり益である増加益は、それが抽象的に発生しているにとどまる限りは、それを捕捉し評価して課税することが困難であることから、未実現の経済的利得として所得税の課税対象とされていないのであり、原則として、当該資産の譲渡により増加益が所得として実現したときに所得税の課税対象となり〔最高裁平成15年(行ヒ)第217号同18年4月20日第一小法廷判決・裁判集民事220号141頁参照〕、売買、交換等による資産の移転が対価の受入れを伴うものであるときは、その増加益は当該対価のうちに具体化されるものであると解するのが相当である〔最高裁昭和41年(行ツ)第8号同43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797頁参照〕。」


かかる判断により、判示では、当該契約を分解し、スワップ(交換)と寄託を組み合わせたものとして評価しており、譲渡所得の認定を行っている。一般的にこのような取引において、事実関係を捉え分解して租税法規を適用することになるのかという点は必ずしも依拠すべき基準が見出されず、もって納税者の予測可能性に反するような状況も想定されることになる。事実認定は裁判所の判断に属すべきものであるが、このように分解して租税法規を適用する以上、租税法規の基本的要請として納税者の取引に対する安定性を重視する立場からは、その分解の基準が必要とも考えられる。所得や対象となる取引は一般的な基準は困難でもあろうが少なくとも本件のように譲渡が介在する取引においては、上記のように抽象的な段階を超えて、価値の具体化等の状況が明示的な状況であることが必要であり、かかる点において各個別法規の具体的な解釈に依拠することになるのではないだろうか。

なお、原告が主張するように、単なるこの取引は便宜的なものであり、経済的成果を得ていないとのことで資産の譲渡には該当しないという主張もあり得よう。具体的な利得に対する支配の移転が行われておらず継続的であるがゆえに、その課税対象とすることは否定されるべきものであると考えに基づくものである。判示では有償無償を問わないこと(対価が明確ではない)と利得に対する支配の有無は必ずしも同一ではないものであり、混同があるようにも捉えられるが、たしかに課税対象となる利得に対して納税者が支配を及ぼしていないのであれば、それは租税を負担する能力がなく(実際には納税資金も)、課税対象とすることに違和感があることは理解される。しかしながら、このように利得の支配を判断の基準に置くとするならば、繰延べが行われる可能性もあり、交換や適格組織再編等において明文をもって規定されている以外にも、このように課税の繰延べを認める解釈となりかねず、かえって包括的に課税対象を構成し、また租税負担の公平性を担保することが困難となるのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが参考までに。

2018年4月7日土曜日

判例裁決紹介(平成28年7月15日裁決、公示地価から離脱した不動産鑑定評価の合理性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年7月15日裁決で、不動産鑑定評価による公示地価からの離脱した評価額の相続税評価額としての合理性が問題となった事例です。

具体的に本件は、請求人が相続により取得した相続財産の評価につき、不動産鑑定による評価を適用して相続税申告を行ったところ、その適用が否認され、財産評価基本通達における評価方法によるべきであるとして、更正処分を行ったことに対してその取消を求めたものである。不動産鑑定評価における鑑定方法の合理性が問題となったものであり、公示地価からの離脱を主としつつも、原価法の適用、比準対象、事情補正等多様な点を争点としているものであり、実務的にも参考となるような事例ではないだろうか。主たる争点である公示地価からの離脱も含め種々の争点に対してはいずれもその合理性を否定しており、裁決としては特段珍しいものではないのかもしれないが、不動産鑑定評価による価額を相続税法の価額として適格性を有するものであるのか否かという点は、従前より多様な争点・事例が存在する分野であり、本件もその類型に属するものであろう。しかしながら、より具体的に、如何なる点をもってその不動産鑑定評価における合理性を否定しているのかという点は、多様な鑑定評価について丁寧に検討しており、その判断は実務上も本件の特徴として参考となるべき事例であるといえよう。

しかしながら、その合理性を判断するにあたっては、比準対象となる財産評価基本通達による評価等がより合理的であるのか否かという点が課題となる。如何なる点で鑑定評価における評価方法が財産評価基本通達による評価と比して合理性を劣位であると判断されるのかという点は、詳細に検討されていない。基本的には従前の最判が示しているように財産評価基本通達における評価の一般的な合理性がまずは大前提としてと捉えられ、不動産鑑定評価における評価方法が当該評価における評価額として時価を超えるものであるのか否かという点に対する推定を覆すものであるのかどうか、という判断枠組みの中で検討が行われている。一般的な推定として財産評価基本通達による評価を位置づけている点は従前の判断、裁判例とも整合的であり、この判断枠組みは留意されるべきものであろう。鑑定対象の評価額の差異が非常に注目を受ける(世の中でも某国有地の件で揉めているようですが、そもそも不動産鑑定は、必ずしも合理性が保証されているものではないとの理解は一般にはないのでしょうね・・・)ものであるが、本質的にその判断枠組みとしては、採用された評価方法が適切であるのか否か、という点が起点となる。従って如何なる点からその合理性、適切であるのかという点が判断されるべきであるのかという点が、判断の拠り所が必要となろう。この点については、法令解釈によるべきであり、以下のように評価の原則を定めた相続税法22条によることになろう。すなわち、財産科学としての取得における(タイミング)と時価の解釈によるべきものと考えられる。相続税法において時価として如何なるものを要請しているものであるのかという点が課題であり、この点がその評価方法の合理性にまで影響を及ぼすものとなろう。具体的な相続税法における評価の解釈としては従前と以下のように本件と変わるものではなく、かかる点において特徴的なものではないものであるが(裁決である以上、従前と大きな差異が生じることはあり得ないが)、争い方として公示地価からの離脱を否定する等、時価としての推定を覆す際に如何なる立証を行うべきであるのかという点を検討する上では参考となるものであると捉えられる。いずれにしても本件は広範囲に適用した不動産鑑定評価に於いて採用された評価方法の合理性が検討されており、鑑定評価の合理性を検討する上で参考となるものであると評価される。



第二二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

以上のように、本件では、相続税申告において適用された不動産鑑定評価の合理性が中心的な争点となっている。かかる点について本件判断では、以下のように、

「相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。しかしながら、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、評価通達を定め、各税務署長が、評価通達に定められた評価方法に従って統一的に相続財産の 評価を行ってきたところであり、このような評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、その結果、評価通達は、単に課税庁の内部における課税処分に係る行為準則であるというにとどまらず、一般の納税者にとっても、相続税等の納税申告における財産評価について準拠すべき指針として通用してきているところである。」

これは明示的ではないものの従前の評価が争われた事例と整合的であり、相続開始のタイミングにおいて客観性を伴った交換による価値が原則的なものであると解されており、タイミングは相続税法においては相続開始時であると自明であるが(それであっても、保証や時効、和解等の後発的な事情の反映は課題とされるが)、客観性をもった交換価値としての時価の要因が重要視されているものである。客観性を有していることをその基礎としていることから、主観的な要因や恣意の介在を防ぐことが租税法規、相続税法における時価の要因として重要な要因となっていることが考えられる。このように理解するならば続いて判断において、評価方法としての財産評価基本通達の位置づけが理解されることは、基本的に妥当性を有するものと理解されよう。

「そして、評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22条が規定する財産の時価すなわち客観的交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められていることなどからすれば、相続税に係る課税処分の審査請求において、原処分庁が、当該課税処分における課税価格又は納付すべき税額の算定が評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを、評価通達の定めに即して主張・立証した場合には、その課税処分における相続財産の価額は「時価」すなわち客観的交換価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。」

このように財産評価基本通達による評価は、画一的ではあるものの、一定の評価方法としての合理性と、全国一律に評価することで課税庁の恣意を排し一定の公平性を確保するという点で相続税法が求める客観性を確保する点でいわば二重の意味での合理性を有していることになる。従って、財産評価基本通達による評価は重要視され、その位置づけとして相続税法が求める時価として適合性を有していることとして、事実上の推認を受けるものとして理解され、その合理性が否定されるべき状況が下記のように限定されるべき状況に至ることは、

「したがって、このような場合には、評価通達の定めに従ってしたという原処分庁の財産評価の基礎となる事実関係に認定の誤りがあるなど、その評価の方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることにより、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による合理性を有する不動産鑑定評価等の証拠資料に基づいて、評価通達の定めに従った評価は、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的交換価値を上回るものであることが立証されるなどして上記推認を覆すことなどがない限り、当該課税処分は適法であると認められることになる。」

本件のみならず、相続税法、あるいは租税法規一般における財産評価において基礎として理解されるべきであろう。

そもそも、わが国の租税法規において基本的な要請として租税法律主義が採用されている以上、このような事実上の推定基準としての位置づけを解釈指針である評価通達が位置づけられることが問題であるとも言えようが、時価の算定がそもそも非常に多様であるということの反映としてやむを得ないとも考えられよう。しかしながら対比として地方税法において一定の委任を受けている固定資産税における評価基準の状況もまた、検討すべきであるかもしれない。

また本件における評価方法の合理性は、主として公示地価における評価が鑑定士が選んだ事例との対比において(そもそもこの選定が主観的な要因を含むような状況であり、適正な基準に基づいているのかどうかという点で本件の鑑定評価の合理性は厳しいものといえるが)、この公示地価は、以下のように法令でその性格が定められており、

第一条 この法律は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もつて適正な地価の形成に寄与することを目的とする。
第一条の二 都市及びその周辺の地域等において、土地の取引を行なう者は、取引の対象土地に類似する利用価値を有すると認められる標準地について公示された価格を指標として取引を行なうよう努めなければならない。

第八条 不動産鑑定士は、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格(第二条第二項に規定する正常な価格をいう。)を求めるときは、第六条の規定により公示された標準地の価格(以下「公示価格」という。)を規準としなければならない。

基本的にその離脱、すなわち当該公示を離れる場合には一定の合理性の担保が必要となる。本件では鑑定士は実勢の取引価格との対比をもって低額であることをその理由としてあげているが、かかる点は単なる事実関係の指摘に留まるものであり、鑑定の評価として公示地価の合理性が推定として覆す合理的な理由の提示が必要と考えられる。この点はこの性格が租税法規においても相続税法が要請する時価の解釈と整合的であり、上記財産評価基本通達における評価の合理性を事実上同様の位置づけにあるものとしてリk祭されるべきであるとも捉えられているともいえる。取引事例との対比においては比準対象となる取引の選定方法や適用に関しては上記時価の解釈において比して合理性があることを立証する必要があることは念頭に置かれるべきものといえよう。本件のように一般的財産評価通達における評価方法の合理性を提示するにとどまっており、本件の対象となる不動産等に対する個別具体的な評価としての合理性が検討されていないことは、バランスを欠いているとの指摘もありえようが、上記のように二重の意味での合理性を有している財産評価基本通達における離脱、公示地価からの離脱に関しては強い合理性の推定を覆す必要性があることは、すなわち鑑定評価の合理性は相続税法、あるいは租税法規において限定的な状況にあることは留意されるべきものであると考えられる。

以上です。毎度のごとく論文Stockとして作成しているものですので、完成度は低いですが参考までに。

2018年4月2日月曜日

判例裁決紹介(平成28年11月22日裁決、相続財産に関する不当利得返還・精算金の不動産所得における必要経費、損失該当性)

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は平成28年11月22日裁決で、相続財産に関する不当利得返還に伴う清算金支払を不動産所得に関する損失として確定申告したことが認められうるものであるのか否かという点が争われた事例です。

具体的には、請求人が相続人として取得した不動産を貸付用地として活用し不動産所得を得ていたところ、他の相続人による遺留分減殺請求権の行使により、当該不動産の一部を分割し、もって、相続時より当該不動産に係る収入のうち当該分割部分に相当する収入金を精算するため支払った金員(精算金)につき、不動産所得における損失であるとして申告したところ、当該精算金は損失には該当しないとして、更正処分を行ったことに対して不服を提起したものである。すなわち遺産分割協議における財産分割において遺留分相当として扱われた部分的な所有権移転を反映させ、反映が終了するまでの経過賃料に関する部分に対して不当利得に類するものとして精算した金額が不動産所得の計算上、必要経費としての損失に該当するのか否か争点となっているものである。

本件は相続財産の帰属争いに伴う、当該財産が生み出す付随的な収入(賃料債権の発生)が租税法規、所得税法において如何なるものとして捉えられるべきであるのかという点が課題になったものであり、かかる支出が損失として不動産所得の計算上必要経費に該当するのか否かという点が具体的に争われた特異な事実関係に基づくものとも評価し得ようが、本件のように最終的な判断として損失としての該当性を否認する判断は、その前提として所得税法における不動産所得の必要経費、損失の意義に左右されるものであり、かかる解釈が如何にして捉えられるべきであるのかという点が問題の起点となっているものである。かかる点においては不動産所得という所得類型において如何なるものを租税負担の減少要因として捉えるべきであるのかという点で検討すべきものと考えられる。また、より具体的な争点としては所得税法51条、施行令141条における損失の意義が中心となっているものであるが、事案としては私見としては本質的に更正の請求による過年度の所得調整を行い、救済措置を行うべきものであるとも捉えられるが、所得や収入、経費の精算は日常的に発生しうるものであり、かかる支払の必要経費としての該当性の検討という点で本件は特徴的であり、所得税法における位置付けを考える上で参考となるものといえよう。


第三七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

第五一条 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて、取りこわし、除却、滅失(当該資産の損壊による価値の減少を含む。)その他の事由により生じた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額及び資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものを除く。)は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。


必要経費に算入される損失の生ずる事由)所得税法施行令
第一四一条 法第五十一条第二項(資産損失の必要経費算入)に規定する政令で定める事由は、次に掲げる事由で不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の遂行上生じたものとする。
一 販売した商品の返戻又は値引き(これらに類する行為を含む。)により収入金額が減少することとなつたこと。
二 保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたこと。
三 不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ、又はその事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたこと

以上のように、本件の中心的な争点は上記施行令141条3項における 計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ、又はその事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたことに該当する損失として本件精算金が該当するのか否かという点であり、この具体的な意義が問題になっているものと考えられる。


「所得税法施行令第141条第3号は、不動産所得等の事業から生じる所得については、これらが毎年経常的、回帰的に発生する所得であることから、一旦納税義務が確定し、課税された後に、私法上の行為が無効であることが確認されるなどして、既に発生していた利得が失われた場合には、過去の年分の所得金額を訂正する更正の請求によるのではなく、利得の喪失(損失)の生じた日の属する年分の所得金額の計算にその損失を反映させ、その年分の所得金額の計算上必要経費として控除しようとしたものであると解するのが相当である。」

この点につき、判断では、上記のように、その規定の趣旨として不動産所得の連続性を基礎として私法上の無効等によって経済的成果が喪失した場合を損失として捉え、更正の請求による救済措置とは扱わないことを定めているものであると解している。私見としては私法上の無効等を遡求させて租税債権債務関係に反映させるのではなく、無効が確定した段階における損失として取り扱うことで、租税法律関係の安定性を図る趣旨のものであり、不動産所得の連続性があるゆえに許容されるべき性格のものであるように考えられる。
しかるに不動産所得の基礎となるような不動産所有関係の変更はそもそも対象となりうるものであるのかという点は疑問に覚える。特に後述するように、遺留分減殺請求のような形成権に対して、法律上の無効等を伴うものではなく、あくまでも民事上の精算等の関係性に伴うものであり、租税負担の減少、租税法律関係の安定を関与させるべき性格のものであるのであろうか。

「このように、所得税法施行令第141条第3号は、過去の年分において既に所得税の課税対象とされていた所得に関する取扱いを定めた規定であると解されるのであり、「不動産所得の金額」の「計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われ」たことという同号の文言に照らしても、同号にいう「経済的成果」とは、所得税の課税対象とされ、一旦納税義務が発生した所得を意味すものと解するのが相当である。」

また判断においては、解釈として経済的成果を限定的に所得の発生を意味するものにとどまるとしており、収入を発生させる賃貸借契約を前提として捉えている。すなわち、財産関係の帰属と所得の発生原因たる賃貸借契約を分離して捉え、かかる契約、帰属関係に関しては下記最判を引用した上で、

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである(最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決・民集59巻7号1931頁)。ハ 遺留分権利者が行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一旦その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする(最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁)。」

特に遺留分減殺請求権の行使時点以後の法律関係を変動させるものであり、従前の関係性の否定をおこわないものとして捉え、本件における損失としての該当性を否定している。すなわち遺留分減殺請求の行使により、遡って財産関係の帰属、賃貸借契約による収入の帰属が変化するものではないものという理解であろう。限定的に対象を捉えているように考えられるが、法が計算の基礎となった事実に含まれている無効原因を対象とする以上、必ずしも、不動産の所有関係の変動が一般的に損失としての該当性を否定する判断となりうるものであるのかという点は、計算の基礎という文言の解釈によるものであるが、不動産所得という所得類型による以上、所有権を必ずしも一般的に対象外として捉える趣旨のものとして考えることは困難でもあろう。確かに本件は遺留分減殺請求によるものであり、かかる民事法の性格を反映させれば上記のように無効等の法律上の原因を伴うものではなく、本件判断は上記141条の損失の範囲を検討する上で、適用対象を本件事実関係において限定的に解しているものと考えるべきであろう。損失という租税負担の減少を伴うものであり、みだりにその適用対象を拡張すべきものではなく、厳格に解すべきものであるという租税法規の基本的な要請にも合致するものと評価される。直感的には過年度の収入発生原因が変更されるものであるが、かかる点に対して類推的に対象を拡張的に解するのではなく、民事法の性格を反映させている点が本件の特徴でもある。但し、適用対象を巡って類推的な解釈を否定するならば、上記141条の趣旨に基づいて判断されるべきであり、過年度の修正を一定程度否定的に捉えている制度の趣旨をより対比させて検討する余地があるのかもしれない。

また、本件とは直接的に関連するものではないが、必要経費としての損失を如何なる範囲として捉えるのかという点も課題である。損失が必要経費として租税負担の減少を伴うものである以上、その対象範囲を確定させることは租税法規における基本的な要請として、特に予測可能性という点でも重要視されるべきものである。従前より必要経費として事業上の経費がその対象のしてなりうるのか否かという点については、直接性や関連性等の点からその対象範囲を巡る争いが生じている。同様に損失に関しても事業との関連において、如何にしてその対象を確定させるべきであるのか、法規の文言においても事業の遂行上という点を規定しているが、必ずしもその意義は定かではない。そもそも損失は収入との因果関係が原価や経費とは異なり、明示的なものではなく、事業との遂行という明示的とはいい難い基準によって律されている。この点はより損失の範囲、特に近年は個人事業主と小規模法人との課税上のバランスが課題となっている現況にある以上、より検討が必要な項目になって来るのではないだろうか。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。