2018年3月26日月曜日

判例裁決紹介(平成28年11月1日裁決、

さて、また興が乗ったので判例裁決紹介を作成しました。今回は、平成28年11月1日裁決で運送業における給与所得と請負契約による人的役務の提供に対する対価の支払(並行して)に関して、仕入税額控除の適用対象となるのか否かそして、それが否認された場合において給与所得に該当する支払であるとして、源泉徴収義務を負うものであるのかという点が課題となったものです。


具体的には、運送業を営む請求人が運転手に対して支払った金員につき、運転手に対して毎月2回に分けて支払、一方を給与として取扱、もう一方を請負契約によるものであるとして取り扱っていたものであるが、当該支払は労務への対価であるとして仕入税額控除の適用を否定した更正処分に対して不服を申立た事例である。本件では当該支払が如何なるものとして租税法規において評価されるべきであるのかという点が課題となっているものである。争点としては当該支払が人的役務の提供に関する給与であるのか、あるいは請負契約(傭車契約)に基づくものであるのかという点であろう。基本的に事実関係から如何なるものと評価しうるものであるのかという点が中心的な争点となるものであり、かかる点において特段特徴的な法令解釈が提示されているものではないが、この適用、事実認定により、消費税法上の仕入税額控除の対象となりうるものであるのかあるいは、給与に該当するとして請求人が源泉徴収義務を負うべきものであるのかという点は左右されることとなる。本件では基本的に同一の業務につき、上記のように一部を給与、一部請負契約によるものとして支払うような形式をとっており、かかる点をいかに捉えるべきであるのかという点が特徴的な点であろう。受領者側からは、事業所得と給与所得が混在するような稼得状態となっているものであるが、人的役務の提供に対する給与所得としての取扱は、仕入税額控除の対象とならないという現行制度上は、支払側として、このような人的役務の提供に関して請負契約による支払(いわゆる外注費)として扱う誘因が顕現しており、かかる点が本件の背景にあるものと考えられよう。最終的な判断としては本件は、各運転手の事業の許可や指揮命令系統、契約の不備等から給与としての判断を行っているが、比準対象となるような取引が同一の運転者に対して存在しているような、併存しているような契約形態において如何にして判断プロセスをへることで給与としての該当性が判断されているのかという点は参考となるべきものと考えられる。このような契約が併存しているような稼得形態は従前より多様な業務において想定されうるところであり、ICTの発展等により今後は働き方もこのような雇用的自営の存在が拡大してくる現況においては、本件のような稼得状況が複合的、あるいは給与所得と事業所得の境界上にあるような事例は増加することが想定され、特にこの今日は従前より問題視されてきた点でもある。本件もこの類型に属するものであるが、現代の働き方が変化しつつあるような状況において、本件のような境界は定かではないような(本件は明らかに租税負担の回避を企図したものであり、逆に境界の曖昧さを利用しているような事例ではあるが・・。本質的には同族会社の行為計算否認のような対象となるものであるが、消費税の負担の軽減は対象とならない)事例の増加が想定されるところでもあり、先例として、あるいは実務的にもこの区分を検討するうえで参考となるものといえよう。



第二八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

所得税法28条1項に規定する給与所得、すなわち「俸給、給料、
賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与にかかる所得」とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものであり、給与所得に該当するか否かの判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかが重視されるべきであると解される(前掲最高裁判所昭和56年4月24日第二小法延判決)

以上のように本件の中心的な課題は上記のように請求人が支払った金員が人的役務の提供に関して、給与として該当するのか否か、すなわち事業所得と給与所得の区分が課題となっているものである。基本的に外注費と給与を混在させているような状況であり、特殊な状況にあるようなものとも評価し得ようが、このような人的役務の提供に関する所得区分に関しては従前より課題となっているものであり、そのリーディングケースである上記最判での区分が、基礎となっているものである。本件も以下のように

 「人的役務の提供から生じる所得は、給与所得にも事業所得にも該当する要素があり、個別の役務提供の具体的態様に応じてそのいずれに該当するかを判断しなくてはならないが、その場合の判断の一応の基準として、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生じる所得をいい、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、給与所得に該当するかどうかの判断に当たっては、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視しなければならないと解する」

最判の基準に則り(消費税法上の対価の支払が課題となっている事例でもあり、明示はしていないが)、基本的に判断を行っている。かかる点ではクラッシクな事例でもあるが、上記のように具体的な基準として、従属性と独立性を基礎としており、ティーチングケースとしての位置付けにあるような事例でもある。近年は裁判例においても上記のような従属性をあまり重視しないような事例が出てきており、ICTや働き方の変化による対応として独立性を重視するような事例が豊富になってきた中で、このような事例の存在もまた、無視されるべきではないのかもしれない。最終的な判断としても請求人が主張する独立的な要因(対価の支払の変動等)に対しては排斥しており、実質的には指揮命令系統や従属性を基礎とした判断を行っており、境界における従属性の役割が強調されている点が留意される。具体的に何をもって従属的であるのか否かという点を判断するのかという点が、より課題であるわけであるが、多様な取引において一般的な基準は想定しがたいものの(この点を明らかにすることが課題でもあるが基礎としては指揮命令等を判断していくことになるものともいえる)、本件のように比準対象となるような取引が存在するような事例において、事業所得部分を単に金額の変動のみに、独立的な要因として基礎付けることは、対比として相違点には必ずしも該当し得ない可能性が考えられよう。いずれにしても、従属性を劣位におく判決の変遷とは異なり、このような消費税負担の回避を意図した取引に対する対応として従属性を、特に比準となるような給与が存在するような状況においては、未だ重要な判断要因であることは認識されるべきであろう。

以上です。毎度のごとく論文stockとして作成しているものですので完成度は低いですが、参考までに。

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